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36.魔王復活の儀 其の捌

「……お前たち、どうやら勝った気でいるようだが、何か大切なことを忘れてないか」

「えーなにか忘れてたっけ」

「何でしたっけ?」

 ウラノとユーカは首をかしげて考え込んでいるが。

 俺と、おそらくはイージスはぴこーんととんでもないことを思いだした。

 なぜ俺たちはこの北の荒城こと魔女教会都市に来て、この最上階の『魔王の祭壇』までやって来たのかと言うと。

 『魔王復活』というサバトの悪行を止めるためであるが――それはサバトを倒せば成しうることができるというわけではない。

「ふっふっふ、これで時間稼ぎがたっぷりできたぞ! あとは3分間待つだけだ!」

「3分間だって」

 3分間――そんなわずかな時間に何をしろと言うんだろう。『バルス』とでも叫べばいいのか。念仏でも唱えろと言うのか。

「あと3分で、念願の『魔王復活』が成し遂げられる! そして私は最強の上の超最強の魔女となるのだ! そしてこの世界の真理を知り、この世界をわが手中に収める!」

 『この世界の真理』か。探究心というのはどうしてこうも恐ろしいものなのか。

 そんなやつの探求心で厄災をこうむるのは許せないものだ。なんとしてでも、魔王復活を阻止しないと。

 でも3分しかない。

「あっはっは! ついについに手に入るぞぉ!」

 サバトはしきりに天井を眺めて叫んでいる。俺はふと、サバトが向ける天井へと視線を向けた。

「あれは魔法陣……魔王を呼び寄せる魔法陣はそこにあったのか」

 石造りの平らな天井。茶色のその天井の上に巨大な魔方陣が描かれていた。巨大な真円の中にいくつもの線、いくつもの大きさの円、いくつもの文字などが描かれており、それらの文様を遠くから見ると、どことなく『鬼』の顔のように見えた。まさに『魔王』を呼び寄せるべくして作られた魔方陣だ。

 そんな悪魔の文様に見下ろされる俺たち。ほんとうに、まな板の上の鯉だ。

 なんとかして、あれを消すことはできないものか……。

「先輩、私がジャンプしてぶっ壊しましょうか!」と飛び跳ねながらユーカが言う。

「いや、あの高さはジャンプじゃ届かないだろう。マリオでない限り」

「わたしのこおりまほうはー、ふりーざー!」

 言いつつおもむろにウラノが吹雪の魔法を唱える。吹雪の流れが魔法陣にぶち当たり、天井の表面が氷結するが、魔方陣にはちっともダメージが与えられない。

「はっはっは。その魔法陣は、並の魔法ではぶち壊すことはできないのさ! 私が長年の末作り上げたその魔法陣は、防御対策も万全であり、最強の魔法をぶち込まない限りは壊れないのさ!」

 とのこと。

 時間は刻々と過ぎていく。もう2分ぐらい経っただろうか。未だ魔方陣を何とかするすべは思いつかず、あたりをうろつく俺たち。

「私は防御しかできない。じゃまもの……」

「い、イージス、お前はいままで頑張ってくれたからさ。落ち込むなよ」

 ひがんでいるイージスに声をかける。もう時間がない。どうしたらいい。魔方陣は最強の魔法をぶち込まない限り壊れないと言っていたが――こちらには、十人十色の魔女が二人と元勇者の従者の魔女がいるけれど。

 マルスの方は言わずもがなで。ウラノは先ほどの魔法攻撃は最強の魔法と成り得ず。そしてイージスは防御魔法しか使えず。ユーカはジャンプじゃ届かないし。八方ふさがりである。

 いや、待てよ。別に最強の魔法をぶち込むのはこちら側ではなくてもいいんだ。とにもかくにも、どんな手を使っても魔方陣を壊してやればいい。

「バカなやつだな」

 俺は挑発するようにサバトに言う。

「ば、バカだと! お前は何を言っているんだ!」

「そんな魔法陣ごときで、魔王を呼び寄せることができると思っているのか。まったく、頭がお花畑なやつだなぁ」

「な、なにをぉ!」

「魔王の転送テレポーテーションなんて、そんなものうまくいくはずがない。できたところで、魔王の頭だけ転送したりとか、そんなオチだろう」

「こ、この! 私の魔王復活の計画をバカにしおってぇ! この魔法陣はなぁ――」

 サバトは魔法陣に向かって掌を突きだして口をもごもご動かしている。

 その瞬間を見計らって俺は録音機の再生ボタンを押した。

《「聖光砲【カノンキャノン】!」》

 録音機より録音されたサバトの声が発せられる。戦いの際、もしものためにと思ってサバトの声を録音していたのだ。それを再生して、ウラノと戦ったときと同じ要領で魔法を発動させた。

 サバトの手から光の柱が直進していく。それは魔法陣の描かれた天井を貫き、天井に穴が開く。

 空いた天井からは満天の星空が映し出された。光の柱は天井の上の天上の星に向かって直進していく。さすがに、何億光年もの離れた位置にある星々までには届かないだろう。

 そして天井に描かれていた魔方陣はやがて線の色が薄くなっていった。数秒もしないうちに魔法陣の線は消え失せ、全てが無に帰った。

 魔王復活は阻止された。

 案外、あっけなく。

 振り返ってみれば、苦労の末、紆余曲折あってようやく勝利をつかみ取ったのだが。

「これで……終わったのか」

「終わったんですよ! これで魔王は復活されないんですよ! これで世界の平和が保たれるんです! やーりましたよ先輩!」

 ユーカは愚者の剣を天に突出し、勝利の笑顔を浮かべた。その姿はまるで勇者のごとくだ。最強で、そのくせ小さくてアホで、まったく、いろんな意味でさいきょうの剣士だ。

 そんなユーカを、イージスはいつもの無表情で眺める。

「……これで勇者様も安心する」とつぶやくイージス。そんなイージスに俺は頭を撫でてやる。いつものように。どこかネコの頭を撫でているようで、癒される。

「よく頑張ってくれたな、イージス」

「あなたは私を救ってくれた。ありがとう」

「いや、あれは半分自分のためでもあったから……。とにかく、今は勝利の余韻を味わおうじゃないか」

 イージスは俺の言葉を聞くと少し無表情を緩めて、笑顔? とは言いにくいけど、ちょっとだけ喜んでいるような顔を浮かべた。この子の笑顔は超レアものみたいだ。

「やったぜやったぜ! 魔王復活とかはもうどうでもいいけど、これでカエルの刑がまぬがれる!」

「やたー」

 いつものように調子よくウラノとマルスが抱擁しあっていた。

 俺たちは掴み取った平和を堪能していた。困難を成し遂げた達成感によって俺たちは気分を良くしていた。どうにも調子がいいやつばかりだ。

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