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33.魔王復活の儀 其の伍

 俺の正面に光が押し寄せる。

 俺にはそれを押さえるすべがない。だけど――俺はあきらめない。

「英雄の盾【アキレウス】」

 俺の正面に輝くのは希望の光。光さえも押さえつける鉄壁にして絶壁の完璧なる盾。迫りくる光を完全にシャットアウトしていた。

「やはり……な」

 俺は正面にいる魔女、イージスの小さくて誇り高き背中を見た。

「お前は、勇者ウルスラの仲間の魔女だったんだな」

「どうしてそれがわかったの」

 抑揚のない声でイージスが言った。そのイージスの口ぶりは無愛想ながらも、ウルスラグナの街で出会ったときのような無垢なものだった。

「……ほとんど勘、なんだけどな。お前の防御魔法はかなりの力のあるもので、もしかしたら名の知れた魔女かと思ってな。サバトがお前に洗脳をかけた理由を考えてみたところ、お前はサバトの魔王復活に反対する魔女だと思った。でもこの魔女の居住区には積極的に魔王復活に反対する人間はいない。いるとするなら――元魔王討伐に向かった勇者ご一行の魔女かな――って思ってな。ほとんどあてずっぽうで叫んだんだけど」

「でも、あなたのおかげで、私は“サバト”の傀儡の呪【マリオネットダンス】から解放された。ありがとう」

 と感情がこもっているのかよくわからない棒読み口調でイージスは言った。


「な、なななななな! どういうことだ! イージス! お前は私の盾だろう! 私の言うことを聞かないのかぁ!」

 サバトは頭をかきむしり、目をひん剥いて反逆者たるイージスを睨み付けた。対するイージスは相も変わらない冷めた表情を浮かべる。

「あなたは、私の記憶を封印して、そしてあなたは私を操った。私を、利用しようとした。私に……魔王復活の仕事の手伝いをさせたなんて、ゆるさない」

「こ、このぉ! なぜだ! なぜ記憶の封印が解かれたんだ! どうしてなんだ!」

「この人が、といてくれた」

 俺を指さすイージス。俺はただ、イージスの記憶の齟齬を突いただけだ。最終的に記憶を取り戻したのはイージス自身の力のおかげだ。

「だから、私はこの人を守る」

「えーと」

 なぜかコロンと俺に身をゆだねて倒れ込むイージス。あれ、どういう状況なんだろうこれ。

「そんな馬鹿な! どうしてだ! 魔女でないお前がどうしてイージスの洗脳魔法を解いたんだぁ!」

「どうやら説明が必要のようだな。実のところ――俺はイージスの洗脳魔法を解いちゃいないんだよ」

「な、何を言っているんだ!」

 サバトと、そしてイージスが驚きの目で俺を見る。

「これは賭け――だったんだがな。イージスの賭けられた洗脳魔法は、もしかしたらリモコンの無線通信のように“電波”で行っているのかもと思ってな。なにせ、脳で“思考”したデータってのは微弱な『電気信号』だからな。その波形を電波に乗せて送ってイージスを操っているのかと俺は仮定したんだ。その仮定が本当なら、その“電波”を遮断してやれば、洗脳魔法を受けずに済む。だから俺は、その仮定に乗っ取り、イージスに送られる“電波”を遮断してやったんだ」

「で、電波を遮断だと……」

「そうだ。俺はお前の聖光砲【キャノンカノン】が放たれる際、鋼鉄ヘルムをイージスの頭めがけて投げたんだ。イージスは都合よく、頭の三角帽をどこかに飛ばしていて、頭が空いていたんだ。そこに鋼鉄ヘルムがすっぽり入ると、電波が遮断されるんだ。アルミホイルで携帯電話を包むと電波が遮断されるのと同じ話だ。俺のかぶせた鋼鉄ヘルムが電磁シールドとなり、お前の洗脳魔法の電波が遮断されたんだよ」

 イージスの掛けられた洗脳魔法、それを解除する術はあいにく持ち合わせちゃいない。

 だけど、魔法を一時しのぎながら防ぐことはできるんだ。その魔法を防がれたことによって、イージスは自分の“意思”というものを取り戻したようだ。

 魔王復活を行おうというサバト、そのサバトに対抗するイージスは、サバトにやられようとしている俺を助けないわけがない。これもただの賭けだったのだが、功を奏したようだ。

「ありがとうなイージス。お前のおかげで、俺は命を救われた」

「私はただ、勇者ウルスラの元従者として、正義のためにあなたを守っただけ」

 淡々とした口調でイージスは言った。なんにせよ俺は何とか生き延びることができたんだ。イージスは命の恩人だ。

「改めて自己紹介しよう。俺は兎毬木トマルだ。魔王復活を阻止するためにここにやってきた」

「私はイージス。勇者ウルスラの元従者。嫌いなものは魔王と魔物と悪い人間。だから、私は魔王復活を阻止しようとするあなたたちを守る。私はあなたの従者になる」

「え、従者って……」従者。従う者。つまりイージスは俺の言うことを何でも聞いちゃうということなのかな。

「マスター、なんなりとごめいれいを」

「マスターだと……」

 俺は喫茶店や酒場の店主でもないのに。マスターだなんて。

「先輩、私をのけ者にしてなにイージスとイチャイチャしているんですか!」

 突然会話に入ってきたのは我らが初代ヒロインユーカ。

「せ、せっかく私身を挺して先輩をお守りしようとしていたのに、最終的にそこのイージスとやらに持ち場持っていかれちゃったじゃないですか! 私の立場はどうなるんですか」

「よしよし。ユーカ。お手」

「私は犬じゃない! がうがう!」

「まーユーカ、お前が無事で何よりだ」

 俺はユーカの頭を撫でてやる。

「わ、わわ先輩! おもむろに何をするんですか」

「俺を守ろうとするのはいいが、今度はあんな無茶をするなよ。俺はお前を失うわけにはいかないからな」

「せ、せせせせせせ先輩! それってつまりつまりどういう意味なんですか!」

「お前が死んだら、俺に対するお前の借金が返されなくなるだろう。だから生きろ」

「やっぱりまたお金の話なんですかぁ――!」

 そんな感じでユーカとイージスと、三人が団欒するように向かい合っていた。

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