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8.教会

 はたして、神は人を救うのか。

 法は善人を救うのか。

 ユーカを訪ねた翌日、俺はにっくきタートルネック教の教会へと着いた。白を基調とした石造りの内装。壁には鮮やかな紋様が描かれたステンドガラスが並んでいる。教会の中はキリスト教の教会のものと大体同じな感じのつくりであった。唯一違うのはそこに奉られているのが『神』ならぬ『亀』であるところか。

 朝を過ぎて昼前。俺は誰もいない教会の真ん中の長いすに座り考え事をしていた。

 いろんなことを。この世界のこととか、囚われたユーカのこととか。

「あの……」

 と突然後ろから声がした。振り向くとそこに紺の修道服を着たシスターさんが立っていた。

「これはどうも、こんにちは」

「こんにちは。何かお悩みごとでもありますか」

 と優しく透き通るような声でシスターさんは言った。皮肉にも、今は俺はあなたの信仰するタートルネック教のせいで悩んでいるんだけど――と心の中で思う。

「あ、あなたはもしかして……。昨日の、メガリスタートルの騒動の時にいた……あのメガリスタートルを倒した武闘家さんの、お連れ様では……」

 どうやらこの人、昨日の一件の一部始終を見ていたらしい。そしてユーカと俺との関係性までも見知っているようだ。

「そうです」と俺は静かに答えた。

「俺の――いや私の連れは、この街のため奮闘し、亀を退治したのですが、それがここのタートルネック教の禁忌(きんき)に触れてしまい、処刑されることとなってしまったんですよ」

「ああ……」

 シスターさんは手を口元に当て感嘆していた。

「す、すいません……」

「あなたが謝ることはない。それに禁忌に触れたものが処罰されるのは仕方のないことです。しかし、あいつも、よこしまな思いで禁忌に触れたわけじゃないんです。この街のために戦って、それで捕まってしまった。そんな理不尽がまかり通っていいものでしょうかねぇ」

「そ、そうですね……。私は、タートルネック教の信者ですから、こういうことを言うのもなんですが、本来、タートルネック教は慈愛の精神を教えるためのものだったんです。それが時がたつにつれ、形式化したり、曲解されたりして……。『亀に危害を加えたものは罰する』という戒律も、つい最近できたものでして、今までは、何かしらの罰はあったにしても、処刑するまではなかったんですよ」

 なるほどな。宗教が形骸化するのはどんな世界においてもあるものなんだろうな。

「あなたも、今のタートルネック教のやり口にご不満をお持ちなんですか」

「あ、いえその……。あの、今いったことは忘れてもらえませんでしょうか……。立場上、こういうこと言っちゃいけないものですから」

 と慌てつつ笑顔でそう言うシスターさん。厳粛な感じのシスターさんかと思ったが結構愛嬌のある人かもしれない。

「ファナさん、私は自分の連れを無罪放免で娑婆に出したいと思っています。そのためならどんな手を使っても構わない。ただし、誰にも後ろ指を指されない、合法的な方法でですけどね」

 と俺も笑顔でシスターの――ファナさんに言った。

「え、あの……。ファナって私の名前をなぜ」

「ファナ・カール。あなたはこの街を統べる大臣シリウス・カールの養女なんでしょう。調べは付いていますよ」

「どうしてそれを知っていたんですか……」

「ただ酒場で情報をもらっただけですよ。たくさんお金は要りましたけどね」

 俺は元いた世界の紙幣と硬化を骨とう品屋に高値で売り、そのお金で酒場のオーナーから「カール大臣には養女がいる」という噂を聞きだしていたのだ。

 教会に来たのも、目の前のファナ・カールに会うためである。

「それと、あなたの発した言葉から、酒場で得た情報が本当であることも分かりましたよ」

「え、私の言葉って……」

「あなた、さっき昨日の一件のことを言った後、私に『すいません』と言ったでしょう。それはこの街の刑法を司る大臣のシリウス・カールの養女として、そう言ったんじゃないですか? 『ウチの義父がご迷惑をおかけしました』って具合に言ったんでしょう?」

「…………」

 ファナさんはしばらく黙っていた。その後、俺の顔を見た後ゆっくりと口を開いた。

「おっしゃる通り、私は大臣からあなたのお連れ様のことを聞いていました。私は、タートルネック教の信者の一人ですが、でも、あの勇敢な女の人が処刑されるのはいたたまれなくて……」

「そうですか。あなたはやはり大臣から話を聞いていたんですか」

 俺は立ち上がり、うなだれるファナさんを見据える。

「一つ、あなたにお願いしたいことがあります」

「は、はい……」

「私、兎毬木(トマリギ)トマルをあなたの義父の大臣の元へ案内してくれませんか?」

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