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30.魔王復活の儀 其の弐

「あきらめるのはまだ早いぞ!」

 後ろから、力強い励ましの声が聞こえた。

 床から立ち上がり振り向くと――そこには『火炎フランメ』と『氷寒アイス』の魔女が。

「お前たちは……マルス、ウラノ」

「お兄さん、そんなところでぼけーってしてる場合じゃないしー。やばいっしょ」

 俺とユーカはサバトを警戒しつつ、後ろへとすばやく移動。二人の魔女と合流する。

「二人とも、どうしてここに」

「私たちは貴様たちに力を貸しに来たんだ!」

 とぽんと胸を張ってマルスは言った。

「なんでサバト会のお前たちが俺たちに力を貸すんだ? どういう風の吹き回しだ」

「そりゃ、だって。さっきも貴様が言っていたようにさ…………このままじゃサバト様に私たち殺されちまうからだよ!」

「あー」

 サバト会たる二人の魔女が俺たちに負けて任務失敗となったため、サバトに『おしおきだべぇ』と半殺し、いや全殺しされるかもしれない――と俺はマルスに煽っていたんだ。

 実のところ、任務失敗した魔女がどんな処罰を受けるかはサバトの人情次第なんだが。

「お前たちは――マルス、ウラノ! どうしてそんなところにいる!」サバトが叱るように言った。

「うぐっ!」途端に顔色を悪くするマルス。

「まさか、というかおそらくお前たち、そこの下等生物にあっさり負かされたんだろう!」

「そそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそのようなことは!」

「そーろんぐ」ウラノは肝が据わっているのか冷静沈着。

「下等生物に負けて、のこのこ顔を出しおって! お前たちは罰として100年間カエルの刑だ!」

「「そんなの死ぬより災難だぁ!」」

 さすがのウラノも声を出して、マルスと声を合わせて叫んだ。

「それじゃあやっぱり私たちはこの“カトウセイブツ”とやらと共闘する!」

「私たちはカトウセイブツじゃないですよ!」ユーカが抗議する。

「さぁ皆の集! 力を合わせてサバトの悪行を止めようではないか!」

 すがすがしいほどの手のひら返しだ。人間追い詰められたらこうなるものなんだろうか。

「えいえいおー!」

 と声を上げるマルスとウラノ。それにつられてかユーカも声を上げるが、俺はそう簡単にそこの二人を許容する気にはなれない。

「で、お兄さん、これからどうすんのー」

「どうするんだカトウセイブツ!」

「先輩どうするんですか!」

「みんな俺に丸投げなのかよ」

 霊長類最強に魔女二人、戦力はあれど頭はあまりよろしくないようである。なので俺が指揮を執るしかないようだ。こんな奇天烈な野郎をまとめるなんて、いくら金を積まれてもやりたくないものだが、背に腹は代えられない。

「よしお前たち、我らが敵、サバトに立ち向かえ」

 バサッと俺たちはサバトの方へ体を向ける。サバトと対峙する。

「はん、たとえ負け犬の十人十色の魔女が加わったところで、下等生物は下等生物だ! みんなまとめて消し炭となるがいい!」

 サバトは俺たちに対し掌を突きだす。

「ウラノ」

「お兄さんなんですかー」

 俺は一枚の紙に書いた図形をウラノに見せた。

「この絵の形の氷を作って、図の位置の空中に浮かせてくれないか」

「んー。これくらい楽勝だわー」

「できれば堅いめにしておいてくれ」

「りょーかいー」

 そう言ってウラノは掌を空中に向けて突出し、呪文を唱える。

「氷像【アイスドール】――思念顕現【クリエイティング】――アン、極氷結【フリーズ】」

 目の前に浮かぶのは積み木を彷彿させる三角柱型の氷像。底面が二等辺直角三角形となった幾何学的な形状だ。

 かなり大きく、部屋を覆い尽くすほどの大きさ。氷の冷たさがあたりに伝わってくる。

「ふふふ、そんな氷の障壁を作り上げてなんになるというんだ! 氷は光を反射しないんだぞ! そんな氷砕いてやる!」

 サバトは僕らの方に手を向けたまま呪文を唱え始める。

「『聖光砲【カノンキャノン】』!」

 さきほどの強大な光の柱が放出される。

 それはウラノが作り上げた氷の三角柱にぶち当たる。

「硬化【ハード】――硬化――硬化――こうかまほう、ムズイ」

 ウラノのかけた硬化魔法によって氷は極堅になっている。それに光がぶつかる。

 氷は透明。その透明のボディに光が通っていく。

 光は三角柱型の氷の斜辺側の側面に直撃する。光ははじめの側面を素通りするが、その次の光の進行方向に対して斜めに設けられた側面に当たると“全反射”を行った。全反射した光は約90度方向転換し直進。次の側面にぶつかるとまたも全反射で90度方向転換し――合計で180度回転、つまり光が進行方向と逆の方向を向いたというわけだ。そのまま光は最初通過した斜辺側の側面を通り抜け、サバトのいる方向へと一直線に突き進む。

「全反射によって光の進行を変えてやった! 氷のプリズムだぁ!」

 サバトの光の柱は力をさほど落とさず、氷のプリズムを通り抜けてサバトの方へと着実に進行している。光の速さで進んでいるので、その動作は言葉をはさむ間もない一瞬の出来事だったけど。

 しかし光はサバトの方向へ進んでいるが、三角柱の氷像を通り抜けた際の距離ぶん、サバトよりずれた位置に直進している。このままでは光はサバトの横を通っていくだけだ。

 なので――

「氷像【アイスドール】――」

「なっ!」

 サバトの真横に、先ほどと同じような氷の氷像が現れる。

 同じ底面が直角二等辺三角形のもので、今度は初めに斜辺でない一辺に光が入る。しかし面は光と垂直となる位置にあったため、最初の側面は素通り、しかしその次の斜辺は斜めとなっているため“全反射”で90度方向転換。次の側面は垂直の面で通り抜けていく。

 サバトの横を通り過ぎようとしていた光は、氷のプリズムによって90度方向転換させられ、サバトの脇を狙うように直進していく。

 サバトの身体に、光の柱が衝突する――

 ごがああんと、建物が崩壊するような大きな振動が起こる。

「これでおしまいだ。サバト」

「やったですよ!」

 安堵の声をあげる俺たち。向こうの煙立つところには、おそらく傷だらけのサバトの姿があるだろうと――勝手に思っていた。

 でも、そこにいたのは、久しぶりに出会った、あの少女。

 一期一会と思われた、あの子との再会。

「英雄の盾【アキレウス】――私は、サバト様を、おまもりする」

 たどたどしい口調で、しかしはっきりと決裂するように告げる。

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