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29.魔王復活の儀 其の壱

 ついに到着した、『魔王の祭壇』というところは酷く殺風景なところだった。

 魔王の祭壇とは名ばかりの、ただの物一つないフラットな部屋。

「さーて、どこだどこだサバトはどこだぁ!」

 ユーカと俺は我が物顔で部屋中を歩いていく。

 すると――部屋の右肩隅に、一つの鉄の台座を発見した。

 そしてその台座には一本の剣が切っ先を下にして突き刺さっていた。

「剣……この剣は一体……」

 台座には一つの文が刻まれていた。

 “私はこの身を懸けて魔王を倒す。愚者の剣(フールソード)はここに封印する”

 と。

「なんなんだ愚者の剣(フールソード)って……」

「ぐしゃのけん……。ううぬ、なんだかマスターソードみたいに突き刺さっていますねえ」

 ユーカの言うように、愚者の剣とやらは鉄の台座にきっちりと突き刺さっている。マスターソードというか、石に突き刺さったエクスカリバーというか、どこかおとぎ話の題材のように見える。

 “私はこの身を懸けて魔王を倒す。”って……

 まさかこの剣は、あの100年前の魔王を倒した勇者、ウルスラ・アームストロングのものだったりするんだろうか。

「それより先輩、『ぐしゃ』ってどういう意味なんですか? “ぐしゃっ”て敵を斬る! ってことですか!」

「えーと」

 どうやらユーカは『愚者』の意味を分かっていないようだ。

 愚者、愚か者。つまりアホ。つまりユーカのことなんだが。

「つまりユーカのことだ」

「つまり“さいきょう”ってことですね! 私はぐしゃだぁ!」

 と愚者愚者と叫び続ける、バカの真骨頂のユーカ。国語の勉強をしないとこんな恥をさらすことになるのかとユーカのアホ面を眺めていた。

「先輩、この愚者の剣、ちょっと引き抜いてみましょうか! これさえあればサバトなんか真っ二つにできそうな感じですけど」

「ああ、これはもしかしたら勇者が持ってた剣かもしれないからな。なんとなくすごそうな剣だけど」

 愚者の剣は通常の剣とは造形が異なっていた。剣の刃の部分が腕ぐらいの太さの六角錐となっていて頂点は錐の形にとがっている。えんぴつのような形をした剣だ。剣については疎いが、こんな剣、元の世界でもゲームとか以外では見たことない。

「とにかくためしに剣を引き抜いてみましょーか!」

 ユーカは剣の柄を握ってそれを垂直に持ち上げようとする。「ぐぬぬっ……」と声をこぼしながら体から雨をかぶったような汗を流し出す。顔は真っ赤になっていて必死さが見るだけで伝わってくる。

 しかし一向に剣は抜けない。石に刺さった聖剣エクスカリバーを引き抜くおとぎ話があるだろうが、現実はそんなふうに劇的なことは起きないみたいだ。

「ぐふ……抜けない。なんかこれ抜けないですよ先輩!」

「お前のバカ力でも抜けないのか? まさか、なにか魔法的なもので封印されているとかかな」

「魔法なんて、私の力でぶっ壊してやりますよ! ぐぉおおおおおおお!」

 剣はびくとも動かない。引き抜けない。

「げふー……。ダメですよ先輩~。びくともしませんよ」

「そうか。力任せで抜けないのなら、何らかの手を打たないといけないが」

 俺が剣を抜く方法を考えているとき――

 一条の細い光が瞬く暇もなく、思考する間もなく、無慈悲にユーカの手のちょうど真横を通り過ぎていった。

 光の終着点たる床に、じゅうっと焼け焦げる音が。床が黒く焦げる。

「これは……」

 まるで光線銃を撃たれたような、瞬く間もない攻撃。一体この現象はどのようにして起こったのか。

「フッハハハハハハハハハハハハ! よく来たな下等生物ども! 私の盛大なる壮大なる儀式にようこそウェルカァアアアム!」

 耳をつんざく、ウザい言葉。高らかな声。

 俺たちに向かって真っすぐ指差して部屋の中央に現れる魔女。

 大きな黒い三角帽、髪は短く黒づくめ。目は万華鏡のごとく、クローバの文様が円を描いて描かれている。

 勝気な感じの、自身に満ち溢れた笑みを浮かべ、こちらを眺めている。

「あんたが、サバト会の会長か」

「い・か・に・も。私こそが、最強の魔女、頂点の魔女、サバト・アステロイド様だぁ!」

 床と言うより、世界を踏みしめるように、サバトは足を下ろして己を顕示する。

「あなたが……魔王復活なんていう、ふざけたことをたくらんでいるんですか!」ユーカが声を荒げて言う。

「ふざけたこと? フフフ、これだから下等生物は困る。魔女にとって、力こそが全て! 魔こそがすべて! 数十年かそこらで死んでしまうお前たちには到底理解できないことだろうけどなぁ。私は最強の上を目指し、この世の(ことわり)さえも越えてやる!」

「そんなことして――なんになるっていうんだよ」俺は問うた。

「何に? それは愚問だ! なぜなら、それこそが私の生きる使命なのだから!」

 まったく、訳が分からない。サバトと言うやつは。

 そんなにも世の中の真理とやらは、高尚なのか。どこかあの梵慨邪ボンガイヤの口ぶりのように聞こえて耳障りだ。

「よくそんな傍若無人な性格で、テラスさんが絶交しないものだな」

「テラス? ああ、お前はテラスに会ったのか」

「テラスさんはあんたのことを心配していたよ」

「はん、まぁ、テラスのことはどうでもいい。だって、あいつには私を止められないからなぁ」

「それは……友達だからなのか」

「違う――私が絶対的に強いからだ!」

 言うと、サバトは俺たちに向かって指さし、口を開く。

 ヤバい――これは魔法を放つ合図だ。

「閃光線【フラッシュレイ】」

 光の線が瞬間的に現れる。俺とユーカの間をすり抜ける。

 あまりにも早い。何が起こったか理解するのに数秒経過してしまう。

「どうだ、こんな素早い光の線を避けれるかな?」

「な、なんですかこれは……光が糸みたいになってましたけど……」

 とユーカさえも呆然としていた。

「光を増幅させて、それを放出――おそらく、レーザー光線みたいなものなんだろうな」

「れーざーこうせん?」ユーカが首をかしげる。

「光の速度は秒速約30万キロ、地球7周半だ。それを避けようなんてのは不可能に近い話だ」

「そうだ、不可能だ! 素直に降参するがいい!」サバトが言う。

「でも、それでも私は――あのサバトを倒さないといけません!」

 ユーカが木刀を取出しおじけず勇みよく言った。

「魔王復活なんて阻止してやる! この世界の平和は私が護るんだ! もう、私は強くなったんだ! 私が世界を護ってやるんだぁらぁああああ!」

「品の悪いやつだ。ガアガアあひるのように叫びおって」

 俺はサバトの言葉を無視し、クルルに合図を送る。

「ユーカ」

「なんですか先輩」

「俺は世界の平和のためになんか戦わない。だけど俺は、あの目の前のいけすかねぇやつには灸をすえてやらないといけないんだ。ユーカ、お前が戦うと言うのなら、俺は戦わずしてあのサバトを倒してやる」

 俺が戦うのはただ金のためだけだ。

 そしてもう一つの理由としては……目の前の魔女が、あの梵慨邪と重なって見えたからだ。世界の真理を知るために犠牲をいとわない暴虐野郎。

 そいつを倒して、せめてコロビのはなむけに……なんてことは考えていないが、しかし、俺は何としてでも勝たなければならない。

 俺の戦わない闘いに、黒星は赦されない。

「先輩……そうっこなくっちゃですね!」

 僕とユーカはアイコンタクトを取る。長い間の腐れ縁だからか、ツーカーの仲だ。

「ユーカ、確かに光線は避けれないほど速いものだ。狙われたら、撃たれたも同然と思った方がいい。でも、それはあくまでも狙われたらだ。だからユーカ――走れ!」

「がってんしょうち!」

 ユーカは言われて素早く移動する。縦横無尽に、つかみどころのないぐらいに。

「逃げても無駄だぁ! 閃光線【フラッシュレイ】!」

 サバトが狙いを定めてユーカを撃とうとする。だけど、光線はユーカの横を通り過ぎる。

「こ、この! 狙いが定まらないじゃないか!」

 いくら光速の銃だからって、対象を狙えなければ意味がない。それに、光速で放出される光線の魔法だろうが、唱えるための時間が必要だ。

 “フラッシュレイ!”と叫んでいる間に走り抜けてしまえば問題ないんだ。

「こうなったららちがあかない! かくなるうえは! お前の方だ!」

 サバトは俺の方に向かって指をさした。

 俺はそのサバトの動きに合わせて、右手のモノを動かした。

 一瞬、刹那――

 光線がこちらに行って、跳ね返って戻っていった。

 目の前には、手を押さえて悶えるサバトの姿が。

「な、お前何を、何の魔法を使った!」

「魔法じゃなくて、科学だ」

 俺は右手の手鏡を見る。それは光線を受けて粉々になっていたが、たしかに光を反射していた。

 サバトの放った光線をこの手鏡で反射して、サバトの手へと光線が戻っていった。

 サバトの手は自ら放った光線によって穴が穿たれていた。

「くそ、こんなもの――治癒【エイド】」

 治癒魔法の光を手に放つと穴がおさまり、何事もなかったかのように手が元通りになった。

 さすが魔女、こんな傷では致命傷にならないか。

 でも、一矢は報いた。

「ユーカ、このまま一気にサバトのところへ向かうぞ」

「はぁい!」

「ユーカは光線を走って避けてサバトの懐を目指してくれ。俺は手持ちの鏡で反射しつつ後を追う」

「分かりましたです!」

「行くぞ!」

「ははははは! な、何が来ようと私に敵うわけがない!」

 俺とユーカはともに走る。俺は直進、ユーカはいびつな曲線を描き。

 サバトはユーカに向かって光線を放ち続ける。間髪入れず放たれるそれをユーカはすれすれでかわす。

 それに追随するように俺も走る。ユーカはまさに電光石火のごとくの速さでサバトの前にたどり着き、素早く流れるような動きで足を踏みしめ腰をおろし木刀を収め抜刀の構え――

「てやぁ!」

 どこぞのるろうにのように。

 木刀が刹那――半円の軌跡を描き、サバトに斬りかかる。

「ちいっ――皮革【レザー】!」

 サバトは目の前に障壁を展開。魔法を唱えたようには見えなかったが、ほんのわずかだけサバトの口が動いたのが見えた。ああいう短い言葉だけでも魔法は発現されるそうだ。

 現れた黄色に発光する障壁に対し、クルルは剣を押し付ける。

「てぃやああああああああ!」

 そのど根性は、魔法さえも打ち破った。

 障壁がガラスのようにパリンと割れて、その衝撃によってサバトは後ずさる。

 サバトの後ずさったあと、サバトがいたところにユーカの剣が薙がれる。

「くそー、当たらない!」

 ユーカが攻撃後、無防備になっている――ところを狙って、サバトが指を突出しユーカに狙いをつける。

「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ」

 俺はユーカの前に出て、手に持った二枚目の鏡を手にする。

 身だしなみのため鏡を3枚持っていたのが幸いした。光を使う敵には鏡で跳ね返すのがバトル漫画での常識だ。これでなんとかなる。

 と思ったのは、俺の考えが浅はかだったからか。

「手は、まだあるんだぞ!」

 突然、サバトが人差し指を突きだすのをやめて、手の指を折り畳み握る。と思ったらすぐさま開いて、手をパーにしてこちらに突き出した。

「これでお前たちは消し炭だぁ! 無属性魔法『聖光砲【カノンキャノン】』!」

「避けろユーカ!」

 第六感が告げる生命の危機、それは俺に言われるまでもなく、ユーカ自身も感じ取ったようだ。

 俺とユーカはただ地面に伏して、現れるその脅威から退避する。

 ぐぉおおおん、と衝撃音。白い光があたりを包み込み、建物じゅうを震わす巨大な衝撃が来る。

 ちらりと、その白い光をかがんだ状態から眺めた。

 神々しいほどに白い、強大な力を持つ、巨木のような太さを持つ光の柱。それは部屋を突きぬけて、後ろの壁をぶち破って、さらには空を、宇宙空間までにも届く、長大で強大なモノであった。

「ようやくひれ伏したようだな、下等生物」

 比喩でなく、本当に見下されている俺たち。

「私はサバト・アステロイド。十人十色の魔女をまとめる零人目の魔女! 十の属性より外れた、『無色ニヒツ』の属性を司る魔女だ!」

 だぁんと、地面を踏みしめ誇示するサバト。

「十人十色の魔女をまとめる……むのぞくせい……」

 めちゃくちゃだ。めちゃくちゃで、めちゃくちゃ強いじゃないか。

 どうすればいいんだ。人は圧倒的な強さに対して、途方に暮れるしか、絶望するしかないのか……。

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