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23.氷寒(アイス)の魔女との戦い 其の弐

 スマホのフォルダ内にユーカの奇面奇ポーズ写真を100枚撮り終えたあと。

「さてと」

 いまになって俺は途方に暮れる。

 戦力であるユーカが氷漬けとなってしまった。ここを通るためには目の前にいる氷寒アイスの魔女ウラノを倒さなければならないのだが、不用意にウラノに近づけばユーカの二の舞となる。

 ユーカのように滑稽なポーズの氷像になるわけにはいかない。

「一つ念のために尋ねるが、ウラノ、ユーカは凍っているけど、生きているのか?」

「んー。瞬間冷凍したから、解凍したら生き返ると思うよー。私もそこまでせっしょーじゃないしー」

 解凍したら生き返るのか。瞬間冷凍された冷凍食品みたいだな。電子レンジでチンすればおいしいユーカのできあがり、ってなことなんだろうか。

 でもあのユーカ入り巨大氷を溶かすのは容易じゃない。たき火で溶かすにしてもかなり時間がかかるかもしれない。

 うーん、なにかすごい火力があればいいのだが……。

「あ」

 そうだ。すごい火力ならあったじゃないか。


 というわけで俺は氷漬けのユーカを放っておいて先ほどの33階へと降りていった。

 その部屋の中央でぐったりと地面に倒れながら、手のひらを足に向けてやわらかい光を放出している――火焔フランメの魔女、マルス。

 俺たちによってやられた怪我を治療しているんだろうか。

「くそー、魔力量が尽きそうだからじわじわしか治療魔法が使えない! 治れ、むしろ気合で治れ私の足!」

 と怒りにまかせて独り言を叫んでいらっしゃる。

「やーマルス久しぶり」と俺は気さくに声をかける。

「き、ききききき貴様は! 私をクロコゲにした犯人!」

 俺に向けてピシッと指をさすマルス。

「ちょっとマルス。のっぴきならない事態になったんでお前に手を貸してほしいんだ」

「なにぃ! 手を貸すだと! 貴様は私がサバト会の会員であることを知っててそんなふざけたことを言っているのか!」

「まぁ、ふざけた話だろうけど」

 でも背に腹は代えられないので、俺ははマルスをおんぶすることに。

「な、この変態男! なぜ私を負ぶっているんだ!」

 俺は後ろでわめくマルスを無視し走る。ちょっと重い。

 階段を駆け上がり、先ほどの34階の冷たい部屋に到着。

 ユーカとウラノの前に立って、背中のマルスをゆっくり下ろす。まだ身体の怪我は治らずうずくまっている。

「お、お前はウラノじゃないか!」

「あーマルスさん、ちわーす」

 ウラノとマルスが顔を合わせた途端、示し合わせたように炎と氷の会話が行われる。

「マルス! かえんほうしゃだ!」俺はマルスに叫ぶ。

「な、何が火炎放射だ! 貴様に指図される覚えはない!」

「相手はこおりタイプのポケ……いや、魔女だ。だからお前の炎が弱点なんだ。リザードン」

「リザードンってなんなんだよ!」

 そう、氷寒アイス火炎フランメに弱いんだ。

 だから炎の力さえあれば、この極寒地獄も、ユーカの囚われた氷も、氷の魔女ウラノも燃やし尽くすことができる。

 でも、その火炎フランメの魔法の力を持つマルスはサバト会の会員で敵である。

 どうにかして、将棋の駒みたいに敵を取って仲間にできないものかな。

 あ、そうだ。

「まぁ、マルス、お前に今は見てもらいたいものがあるんだ」

「なんだ? 私に何を見せるというんだ」

「ほらあそこに」

 と俺は氷漬けのユーカに指さす。

「あ、あれは!」

 マルスがちょうどクルルに対して指を差して口を動かしている――のを見計らって。

《焔蜥蜴【サラマンダー】――!』》

 スマホの録音アプリで録音していたマルスの『魔法のことば』を再生。するとマルスの手から炎の柱が噴出された。

 魔法は対象を指で指示し、魔法のことばを唱えれば放たれる。死屍モルスの魔女プルーにおこなったものと同じ策だ。

 炎の柱がユーカの氷に当たり、じゅぅうううっと解けていく。あたりが水浸しになったころ、水をかぶったユーカが現れる。

 しばらくするとぱっと目を開けるユーカ。

「はにゃ!」奇天烈な声を上げて困惑中のユーカ。

「ユーカ、ようやく解凍したか」

「かいとう? わ、わたしはいったいどうしていたんでしょーか」

 ユーカが現状がわからず混乱している。

「こ、この! また私をコケにしやがって! 貴様たちは、貴様たちだけは許さないぞ!」

「なんか先輩、さっきのまる……マルマルがおかんむりのようですけど。というかなにがどうなってるんですか」

「ああ、ちょっとマルマルに手伝ってもらったんだよ」

「私はマルマルじゃない! マルスだ!」

「まーどーでもいいじゃん、マルマルさん」

「ウラノもつられて言うんじゃない!」

 マルマルは険悪ムード。でも、怪我のせいもあってか、怒りを行動には移そうとはしていない。

 微妙な膠着状態がつづく部屋の中。ここはそろそろ一石を投じないとらちが開かないかもしれない。

「マルマル、お前は自分の立場が分かっているのか?」

「私の立場だと! はん、私はサバト会の会員のマルスだ!」

「そうだ、お前はサバト会の会員の魔女……だったんだよ」

「だった……って、なんで過去形になっているんだ!」マルスは声を荒げる。

「だってお前は、俺たちに負けて、俺たちの進行を止められなかったんだろう。つまり任務失敗。魔王復活という超壮大な儀式のときにそんなヘマをやるような奴がいたら――これだよな」

 俺は手刀で首を切る動作をする。『打ち首』を表す。

「な……そんな」

「それとも魔女っぽく、カエルとかにされるのか?」

「ぐぬぬぬぬっ!」

 俺のおおげさな推測を真に受けて不安に押しつぶされうずくまるマルマルマルス。

「たしかにー、サバトさん、おこるとちょー怖いしー。ヘマやらかしたのばれたら、魔王の力分けてもらえないどころかー、その魔王の力で試し斬りされちゃうんじゃないのー」

「わわわわわわー! 私はどうすればいいんだー!」

 手を天に掲げて、神に助けを求めるように泣きわめくマルマル。気分がどん底に落ちているときこそ、相手の心に付け入るチャンスだ。

「じゃあマルマル、俺たちと一緒にサバトの魔王復活をとめればいいじゃないか」

「えっ……」

「どうせサバトに打ち首にされるんなら、いっそのこと、俺たちの仲間になっちゃうってのはどうだ? それなら身の安全は保障されるし」

「な、何を! 私は十人十色の魔女の一人なんだぞ! そんな私がこんな非力なニンゲンごときの仲間になるというのか!」

「その非力な人間にお前は負けたんだろう?」

「くっ……」奥歯をかみしめるマルス。

「マルマル、ここはもう潔く、俺たちの仲間になったほうがお前のためにもいいと思うんだ。さぁ――俺たちと共にサバトの魔王復活を阻止しようじゃないか」

 俺はマルスに手を差し伸べる。それは仲間となるための儀式だ。

「うぉおおおおお! こうなったらやけだ! 私は貴様たちの仲間になってやる! ただし一時的にだけだぞ! 勘違いするなよ!」

「そうっこなくっちゃな」

 こうしてマルマルことマルスが仲間になった。(一時的に)

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