22.氷寒(アイス)の魔女との戦い 其の壱
階段を上って次の階を目指す。さきほどのバックドラフト現象で33階は焼け野原と化していたが、その被害は上の階や下の階には及んでない模様。ひとまず34階を目指して進んでいく。
次の階もおそらく『十人十色の魔女』がいるようだが、今度はどんな属性の魔女が現れるのか。
「さーてと、次は一体誰でしょうか!」
「なんだか魔王の城を攻略しているみたいだな。四天王みたいな感じで敵が立ちふさがっているし」
「たしかにそうですねー。まぁ四天王が現れようとも、倒してやるまでですけどねー」
次の部屋にもさっきと同じくらい、もしくはさらに強い魔女がいるかもしれない。さきほどのマルスはユーカ並みにアホであったためうまくいったものだが、十人十色の魔女が全員そんな生易しいものではないはずだ。
俺たちには魔法もなく、特別な力もない。普通の人間だ。
でも俺たちには武器がある。
ユーカの底なしの体力(さっきの戦闘でいくらか疲弊してしまったが)と。
俺の考える力。
魔女が来ようが魔獣が来ようが魔王が来ようが関係ない。俺たちはただ、精一杯戦うだけだ。
34階の部屋の中に入ったとたん――肌がひりっとした。
まるで冷凍庫に足を踏みいれたみたいな、南極大陸のような寒気が俺たちを襲った。
さ、寒い……。息が白い色になっている。
「なんですかここは! ヘクチっ!」
あたりは氷の世界になっていた。
床も氷、壁も氷、天井も氷。氷のつららが部屋中に生えている。
「それにしても寒いな」
「そーですねぇ、吐く息がまっしろになってますよ」
俺たちがはぁはぁーっと白い息を吐いていると、部屋の奥から見計らったかのように魔女が現れる。
暖かめの、毛皮のコートのような服を着ている。頭に三角帽がありそれは服装と同じ生地のモノであった。肌は色白く、髪は水色のものが三角帽のフチからトゲトゲとした感じで短く見える。
なぜかその魔女は、ふてくされたような顔を浮かべていた。
「あーなんかやって来たみたいだわねー。あなたたち」
と覇気の無い声を出す魔女。
「私は十人十色の魔女の一人……まぁ、何の魔女かはこの部屋を見たら一目瞭然だろうけど、私は氷寒の魔女よ。ウラノ・バーズアイよ。以後ヨロー」
と芯のない、だらけた口調で話しているウラノ。
「なんかすごーくやる気のなさそうな感じですけど……うらのさんと申しましたか、あなたサバト会の会員なんですか」ユーカがぼんやりと尋ねる。
「うん、一応会員よー」
「なんで会員になったんですか」
「んー。なんか、魔王の力とか手に入ったら便利そうじゃねーって思って、サバトさんが勧めてたのもあって入ったとこなんだけどー」
「へー……」
氷のように冷めたような感じの子だ。まさに氷の魔女と言ったところかな。
「なぁ、お前……ウラノとか言ったか」
「なにー、おにーさん」
なぜか俺のことを『お兄さん』と呼称している。
「俺たちはこの城の最上階の『魔王の祭壇』に用があるんだが」
「ふーんそーなの」
「それで、ここを通ってもいいか」
「通る? 素通りするの?」
「ああそうだが」
「まー別に通ってもいいけどー」
「おお、ありがとう」
とあっさり通行許可が出た。
「ユーカ、これで平和的に突破できるぞ」
「えっと、なんだか本当に簡単にことが済んでしまって、途方に暮れてるんですが……」
「とにかくこんな寒いところ、早く出てっちゃおうぜ」
「そですね」
俺たちはつるつると滑りそうな氷の床を歩いていき、意気揚々とと部屋を出ようとする。
すると――
「冷凍室【フリーザー】」
あたりにリアル氷河期が訪れた。
「ユーカ危な」
俺は後方へと飛び下がり、隣のユーカに叫ぶ。
だがユーカはすでに突然現れた吹雪に当てられていた。白い氷の粉を体に受けて、なぜか体が動かなくなっていた。
「ぎゃ先輩! なんだかからだがかちこちゴワワワワワワワワ――……」
カチンコチンゴチン。ユーカの足元から順に氷が形成されていく。ユーカが氷に蝕まれていく。氷がユーカの身体にまとわりついた。
ユーカが、目の前の氷の中にいた。いびつなクリスタルのような氷の中、呆けた顔のユーカが停止したままであった。
「ユーカ……」
ユーカが……スターウォーズの船長さんみたいな感じに、生きたまま瞬間冷凍されてしまった。
「んー。たしかに私は通ってもいいっていったけど、私もいちおーサバト会の会員だからねー。通ってもいいとは言ったけど、攻撃しないとは言ってないわ」
それは詭弁じゃないかと言いたいが、俺たちが不注意だったのが悪いのかもしれないから何とも言えない。
「なんてことだ……」
目の前の氷漬けにされたユーカに触れる。冷たい。心まで凍りそうだ。
しかしなんだろう。この目の前のユーカの必死になっているのか笑いを取ろうとしているのかよくわからないポーズは、結構ツボにはまる。
顔が涙目で、眼が白目、髪が逆立っていて舌がカメレオン、足が千鳥足で酔っぱらいのよう。ユーカはふしぎなおどりでも踊っているんだろうか。
「ぷっ……ふふふふふ……」
俺は思わず忍び笑いを漏らしてしまう。
「うわーお兄さん、自分の仲間凍らされて、笑ってるんですかー。敵の私が言うのもなんだけど、血も涙もないんですねー」
血も涙も凍りついてしまったユーカを笑うのは確かに不謹慎であるが、不謹慎であるがゆえに笑ってしまいそうになる。
「ちょっと待ってくれ。ひとまずこれを写真に撮って、スマホの待ち受けにさしてくれないか」
「べつにおにーさんが何しようが勝手だけどー。この部屋から上の階を目指さなかったら別に何してもかまわないわー」
「そうか、じゃあ遠慮なく取らしてもらうぞ」
撮影許可が下りたので、俺はユーカの奇面で奇ポーズな容姿を撮影していくことにした。




