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7.囚われた幼馴染

 あの時俺はどうしてユーカに対して「やめろ」と叫んだのか。

 それは一つの理由としては、何の権力もない、ついでに市民権もない俺があの教団、もしくは兵士たちに突っかかってもどうしようもないから。

 そしてもう一つの理由は――ただ、昔の自分の過ちとかぶって、イラついてしまったから……だ。

 とにもかくにもユーカは捕まった。

「出して! 出して! 出してよぉおおおお!」

 ガンガンガン。鉄の格子を揺さぶり叫ぶ囚われの身のユーカ。なんだかほんとうにいたたまれない気持ちに……なんかなれないなぁ。

 ちょっと吹き出しそうになってこらえるのに必死。

「騒ぐなユーカ。お前は手の付けられない猛獣か。俺はここに忍び入ってきたんだから静かにしろ。そうでないと今度は俺もこの鉄格子の向こう側行きになっちまう」

「こうなったら先輩も道づれだぁ! ぎゃあああ!」

「まぁ落ち着けよユーカ」

「落ち着いてられますか! 一体誰のせいでこんなことになったと思ってるんですか!」

「いいかユーカ。この世界は宗教が絶対的な権威なんだ。だから罰当たりなことしたら捕まるのも無理ないんだ。この世界ではタートルネック教とか言うタートルネック、日本語で言うところのとっくりセータを着た宗教団体が幅を利かせていてその宗教では亀を神の化身として崇めてるんだよ。というわけで亀を邪険に扱うとこっぴどい目に合うというわけなんだ」

「うぅ……。そんなこともっと早く言ってくださいよー」

「ああ、それを言う前にお前が突然捕まったからよぉ。まぁ、災難だったな」

「災難で片づけないでくださいよ! もうシャレにならないんですからー! まったく先輩は……私が捕まろうとしていたときも私を一向に弁護せずあろうことか“他人”のふりしてやり過ごそうとかしたんですから! 先輩にはがっかりですよ! もうどうにでもなれぇー!」

 ユーカが一層暴れて格子を揺らしていた。

「待て待てユーカ。落ち着け」

「非道な先輩なんかもう知りません! 先輩は私のことなんか忘れてこの世界の王にでも皇帝にでもなっててくださいよ……。私なんか……」

「そんなやけくそになるなユーカ」

「だって私……処刑されちゃうんですよ!」

「え?」

「なんかとっくりセータを着たおじいさんが“火あぶりの刑”って言ってたんですよ!」

「火あぶりの刑って……」

 ユーカは魔女裁判にでも掛けられたのだろうか。しかし火あぶりとはまた極端な。

「ユーカ、面白いことを教えてやろうか」

「何ですか先輩……」

「火あぶりというのはかなり苦痛の伴う処刑方法でな、全身の皮膚がただれてもなお意識が明瞭なまま体を火に(むしば)まれるという生き地獄というか無間(むげん)地獄というか」

「ぎやぁああああああああああ!」

 ユーカはムンクの叫びのごとく叫んでいた。

「いいからちょっと黙ってくれ。ユーカ。さっきも言ったように俺はお忍びでここにきているんだぞ」

「うぅ……。先輩、私が処刑されるというのに随分冷静なんですね。もう南極大陸並の冷たさですよ」

「だって他人事だし。対岸の火事だし」

「ま、また他人って! 先輩の中では私は他人なんですか! 小学校からの付き合いなのに」

「案外人との付き合いというのはこうあっさりしているのかもしれないぞ。金のもつれあいで友情が破断するなんてことはよくあることだしな」

「うぅ……。先輩との仲はそんな冷ややっこみたいなあっさりした関係だったんですか!」

「いや、そんなことはないじゃないか」

「へ?」

「現に俺はこうしてお前の前に現れてるんだ。危険を犯してここにやってきたんだぞ」

「あ……。ということは先輩! 口ではくだらないこと言いつつ私のことを心配して!」

「そうだ、俺はお前を心配してやってきたんだ」

「先輩ぃいいいいいいい!」

「お前の抱える俺への借金がまだ払われてないからお前には生きてもらおうと思ってだな」と付け加えるが、はしゃぐユーカは訊く耳を持たず。

「もう先輩ったらツンデレなんだから! もうこのこのー!」

 と死刑囚のくせしてノリノリである。

「ユーカ、お前の処刑の日はいつなんだ?」

「え? ああ、たしか1週間後でしたね」

「1週間後か。長いようで短いような時間だな」

「な、なんとか1週間後までに私の処刑がなしになるってことはありませんかね」

「そんなうまい話あるわけねぇだろ。お前の処刑はもう決定事項だからなぁ」

「そんなぁ、それじゃあどうすれば……」

 ユーカはしょぼんと項垂れる。と思ったらすぐに激しくわめく。

「先輩! このさい力技でプリズンブレイクしちゃったりますよ! ほらこの縄も力技でぶちっと」

「だからやめろと言っただろう」

 と俺はユーカに静かに告げる。ユーカはぶちぎった縄を手に持ち停止していた。

「な、なんでだめなんですか! 私の手にかかればここの兵士なんか一網打尽ですよ」

「ユーカ。俺は不正を行うやつが大嫌いなんだ。脱走するなんてならず者、反吐が出る」

「また先輩のキレイごとが始まった……」

「いいか、正攻法で切り抜けないと後ろ指を指されるんだ。犯罪者となった人間は永遠に罪を背負わなきゃならなくなるんだ。ルパンは永遠にとっつぁんに追っかけまわされるということだ」

「たしかにとっつぁんに追っかけまわされる人生はごめんですけど、でも、それじゃあどうすればいいんですか!」

「いろいろ方法は考えているんだが、まだ模索中だ。政治的か、もしくは宗教的なアプローチをしてなんとかお前を無罪放免にする方法とか考えているんだがな」

「ほうほう、確かに無罪放免ならいいですがねぇ」

「というわけでユーカ。俺はお前の救出方法をお前が処刑される1週間後までに考えて遂行する。そしてお前は晴れて娑婆の空気吸い放題だ」

「せ、先輩! なんとか私を救う方法考えてくださいね!」

「ああ。なんとか考えてやるよ」

「ありがとうございます先輩!」

「1000万だ」

「え?」

「恩としてお前は俺に1000万円払え。別に借金してもいいからそれだけは忘れるな」

「え……。お金払わないといけないの」

「そりゃそうだ。誰がお前のために無償で働かなきゃならんのだ」

「もぉ、先輩はつくづくケンキンな人だから……」

「とにかくユーカ、首を長くして待ってろよ。必ずお前を救ってやる」

「先輩……」

「まぁ無理ならお前がくん製焼きになるだけだから気楽に一週間頑張って来るぞ」

「ちょ、ちょっと先輩! 私の命がかかってるんだからもっと必死になってくださいよ!」

「俺が必死になるのは自分のためか金のためだけだ。今回はちょっとした余興だ。じゃあな」

「先輩! 行かないでぇ!」

 俺は牢屋を後にする。

 刑務所の入り口には眠りこける看守が一人。机に顔を俯けている。

 酒に薬を入れたものが効いたみたいだ。看守の人の飲む葡萄酒に漢方薬をどっと入れたらこのようなことになった。酒も薬も肝臓で処理されるため、二つを一緒に飲むと二重に負荷がかかり、体に絶大な影響を与えるという。酒と薬の飲み合わせはよく眠れるようだ。

 ちなみに薬は俺の自前のものだ。なんで薬を持ってるかって? いや、風邪を引いたとき用に常備していただけなんだけどな。

「あんなにユーカが叫んでたのに起きなかったのか。まぁ好都合だ」

 俺は刑務所を出ていく。

 さて、ユーカを助け出す方法を真剣に考えないと。

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