21.火炎(フランメ)の魔女との戦い 其の伍
轟音のあと、もくもくと煙がこちらへと流れてくる。
どうやら、上の階は焼け野原となったみたいだ。
「ふぅ……。なんとかなったか」
「てててててててっ! 先輩!」
正面を見るとユーカの顔がある。その顔はゆでだこのように真っ赤に染まっている。
「あーユーカ、すまない。突然のことでこうなってしまった」
「せ、先輩に寝技を決められちゃった……」
「寝技じゃないぞ。いいから起き上がれ」
俺たちは起き上がる。そこにはエキドナとキメラのマカロンちゃんがいる。
「お、お前たち……。さっき上で爆発が起きていたが、いったいなにがあったんだ?」
エキドナとマカロンちゃんが首をかしげている。
「そ、そーですよ先輩! どうして私たちが部屋を出たあと、あんな爆発が起きたんですか」
ついでにユーカも首をかしげている。
「バックドラフトだよ」
「ば、ばっくどらふと?」
「密閉された空間で、火災が起きて不完全燃焼となったとき、一酸化炭素が空間に充満して……つまりさっきの上の階の状況のとき、熱された一酸化炭素、COが酸素Oと結びつき急激に二酸化炭素へ化学反応して爆発が起きる――これがバックドラフトだ。そのバックドラフトを起こさせるため、俺は入口と出口をふさいでいたんだよ」
「先輩は最初っからこうなることを計算していたんですか」
「まぁな。あくまでお前が倒されてしまったときの保険だったが、なんとかなったようだな」
ユーカはどこか納得したのかうなづいている。ほんとうに分かっているのかよくわからないが。
「な、なんだかよくわからないが……。お前たちはあの十人十色の魔女のマルスを倒してしまったのか」
「まぁ、おそらくもう虫の音だろうな」
「そ、そんな! 十人十色の魔女を倒すなんて! お前たちは一体何者なんだ!」
「俺たちは……ただの高校生だ。ただちょっと、金のために魔王復活を阻止しに来たまでだ」
「は、はぁ?」
エキドナはマカロンちゃんとともに呆けた顔を浮かべている。
「ユーカ、とにかく上の階に戻ろうぜ。爆発は一瞬で済んだだろうから、もうマルスはクロコゲとなっているだろう」
「いきましょー先輩!」
ユーカと共に33階へと戻っていく。
33階に戻るとそこにはマルスがいた。
しかしそのマルスは、漫画の爆発オチみたいに、身体と服がクロコゲのやつれた姿となっていた。
「おうマルス。俺の仕掛けた爆発は応えたか」
「お、お前は魔法を使ったのか……」
「魔法なんか使ってないさ。俺が使ったのは現代科学……というか、単なる自然現象だ。魔法でもなんでもないものだ」
「そんなものに私は負けてしまったのか……」
マルスは床に顔を伏せて打ちひしがれているようだ。
「十人十色の魔女だかなんだか知らないが、俺たちは何としてでも魔王復活を止めなきゃならないからな。じゃあな、魔女さんよ。俺たちは先を急ぐから」
「ばいばいきーん!」
「ま、待てぇ! お前たちぃ!」
地面に這いつくばり手を伸ばすマルス。俺たちはそのマルスの脇を、ユーカは背中を踏んづけて進んでいく。なんにせよ33階突破だ。
次は34階だ。




