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19.火炎(フランメ)の魔女との戦い 其の参

 考えろ。考え尽くせ。

 あのユーカだって、窮地に立たされればいつもは見せない頭のキレを見せるはずだ。

「ユーカ、飛べぇ!」

 俺が叫んだ途端、ユーカのマントががばっとたなびき、空へと飛ぶ。

「バカめ! これで詰みだ!」

「あ――」

 そうだ。跳躍では高速移動のときのような素早い移動はできないのだ。それに跳躍した後の落下移動は身動きの取れない無防備状態だ。

 そこを狙われれば御仕舞――。

「焔蜥蜴【サラマンダー】――!』」

 直情的なマルスは俺が考えたようなことは考えていないにしても、ゆっくりと落下していくものに対してチャンスと思って攻撃を行ったようだ。

「くそぉ! これでユーカは燃え尽きてしまうのか!」

「はっはっは! 存分にわめけばいいさ!」

「くそう! 俺のユーカを燃やしていいのは俺だけだぞ!」

「はっはっはふざけたことをいいおって――……って」

「てやぁ!」

 マルスの意識の外にいたユーカが木刀振りかぶりマルスに襲いかかる。マルスはとっさに腕でその攻撃を防ごうとするが、その腕に対してユーカは痛そうな打撃をさく裂させる。

「くっ――――」

 マルスは腕を押さえて下がる。

「足ががら空きですよ!」

 ユーカはマルスの足に対して素早く足払いを行いマルスを蹴落とそうとする。マルスは反射的にその足を避けようとするが半分ほどユーカの足がぶつかり、マルスはふらつく。

 マルスはふらつく足で後ろへ飛ぶ。拳を構えてユーカと対峙する。

「貴様、なかなかやるなぁ!」

「へへーん。私は剣だけじゃないんですよー。おじさんにに拳法も仕込まれましたからねー」

 ユーカは木刀を構え八重歯を出してシニカルに笑う。

「貴様、さっき私の炎に当てられて消し炭になったのではないのか!」

「いやー、さっきのは私のマントを飛ばしてあたかも私が飛んだかのように見せかけただけなんですよー」

「な、なんだと! じゃあ私が炎を放ったのは、貴様のマントということか!」

「あのマントお気に入りだったんですからねー! この恨み、戦って返させてもらいますよ!」

 ユーカの背にはマントはない。マントは消し炭になって風に飛ばされて消えた。

 まぁ、マント一枚で命が救われたなら、安い犠牲だろう。

「とりゃ!」

 あとは手にしたチャンスを生かせるかどうかだ。マルスもユーカも体力を使い果たしている状態。つまり、どちらも均等に弱っている状態だ。

 これなら勝敗は五分五分。

 最悪相打ちとなるわけだ。

「おりゃぁああああ!」

「とりゃあああああ!」

 目の前で繰り広げられるマルスとユーカの熱血肉弾戦。とても中に入れそうにない状態だ。もはやサイヤ人同士の戦闘じゃないか。俺は観客に、ヤムチャに徹しなければならないのかな。

「頑張れユーカ。かっとばせよー」

 ユーカは剣もとい拳を振り回してマルスを攻めていく。若干ユーカの方が押しているように見えるが、対するマルスも攻撃をかわしつつ、強烈なパンチを繰り出してくる。

 どうやらマルスは、魔法も、肉弾戦もあるんだよ――な、ハイブリットな魔女のようだ。

「こなくそぉ! 食らえ、炎帝拳【ファイヤグローヴ】!」

 魔力切れかと思われたマルスが魔法を唱え、それを己の拳に発現させる。

 マルスの拳がぼうぼうと燃え上がる。マルスはそれをユーカに向かって突き出す。

「わっ――!」

 ユーカはバック転してその拳と炎を間一髪でかわす。

「へへーん。いくら魔法のパンチだからって、ぶつからなかったら意味ないですよーだ!」

 ユーカはバック転の着地点から、足をバネにしてマルスの元へ弾丸のように飛ぶ。

「その首、ちょんぱにしてやるです!」

 ユーカは木刀を床と水平にまっすぐ構えて、突きを行おうとした。

「――まだだ!」

 マルスは向かってくるユーカに対して掌を突きだす。

 掌って、まさか。

「ユーカ下がるんだ!」

 僕はユーカの元へと駆ける。こんなことになることを危惧してユーカの近くにいたのだが、魔法が唱えられるまでにユーカのもとに来れるかどうか。

「燃え尽きよ! 焔蜥蜴【サラマンダー】――!」

 炎の柱が発現する。こちらへ一直線に――と思ったが、炎は途中で勢いを失い、まるでガス欠にでもなったかのように消えた。

「な、なぜだ! なぜ魔法が発現しな―ぁ……」

「どうやら……ころあい……だ」

 苦しい。人間にとっては苦しすぎる状況だ。

「え、先輩、なんか、急に、息が苦しく……」

「そうだユーカ、ここらあたりの酸素がなくなったんだ……。あの目の前のマルスが見境なしに炎を発現させたせいで……な……炎というのは酸素との燃焼によって発生するものだ。だから、あんなに炎をぼうぼう燃やしていたら、酸素が尽きてしまう。酸素が尽きれば、炎も燃えなくなるということだ……。そして、酸素を糧に生きている俺たち人間は苦しくなるということさ」

 屋外ならいざ知らず、こんな石造りの部屋の中で炎をぼうぼう燃やすこと自体が自殺行為だったんだ。そこらへんのところはどうもユーカ並みの、筋金入りのアホのマルスは知らなかったみたいだ。

「うぐっ……」

「ぐへっ……」

「ぐぇほ……」

 俺とユーカとマルス、3人仲よく煙たい部屋の中でせき込みながら倒れている。

「先輩……これで、マルスの方は抑えられたと思いますが……。これじゃあ、わたしたちのほうも……おしまいじゃないですか……」

「ユーカ、最後まで、希望を捨てるんじゃない。こんなこともあろうかと、これを用意していたんだ」

 俺は手元から一つの浮き袋を取り出した。

「こっちの世界に来る前に持っていた浮き袋……に酸素を詰め込んでおいたものだ。これで酸素が供給できる」

「せ、先輩なんでそんなものを持っていたんですか! 水泳部でもないのになんで肌身離さず浮き袋を! ちょっとそれはご都合主義すぎないですか!」

「なにを言うか。もし地球に有毒の彗星とか降ってきたとき、生き延びるために準備しておかなきゃならないだろう。備えあれば憂いなしだ。げんに今、浮き袋があったおかげでこうして生きのびることができるんだ」

 俺は浮き袋の中の酸素を吸いこみ、肺に満たす。少し苦しさが紛れた。

「って先輩! 私にもその浮き袋くださいよ! 窒息死しちゃいますよ!」

「ほらよ」

 ユーカに浮き袋を渡すも、なぜかユーカは浮き袋の穴を眺めてぼんやりしている。

「こ、これって先輩と間接キッスになるんじゃあ……」

「そんな細かいこと気にしている場合か。はやく酸素を取り込んで、そこのマルスを倒してしまえ」

「わっかりました先輩!」

 ユーカは浮き輪の中の酸素を取り込む。口と肺を風船のように膨らまし、そして――正面に倒れるマルスへと向かう。

 もはやマルスは虫の音である。ユーカにトドメを刺されれば、おしまいだ。

「てやぁ――!」

 ユーカの木刀が一直線に振り下ろされる。

 だが――

「こんのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 炎帝拳【ファイヤグローヴ】!」

 ユーカのアゴめがけて、マルスの拳が破城鎚のごとく放たれた。

「ぎゃぁああああああああああああー!」

 ユーカが吹っ飛ばされた。身体全身に炎を纏って、放物線を描いて落ちていく。

「ユーカ!」

 あのユーカが、あっさりと倒されてしまった。

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