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17.火炎(フランメ)の魔女との戦い 其の壱

 階段を登り切り、33階へと到達する。

「おそらく、この部屋に問題の十人十色の魔女がいるようだが」

「まーどんな相手が来ようとも、私がケチョンケチョンのギッタンギッタンにしてやりますけどねー」

 八重歯を見せつつ不敵の笑みを見せるユーカ。ユーカはいまだ底なしの元気のようだ。

 俺たちは部屋を歩いていく。部屋の中は殺風景な石造りのフラットなもの。これは中ボス戦のためのリングなのか。

 俺たちは何の考えなしに歩いていく。しばらく歩いていくと――

 ぼぉおおおお――っと、部屋の中央に人間一人分ぐらいの大きさの火の球が落ちてきた。

「火の球! 一体なんなでしょーか!」

「まさかマジックショーが始まるというわけではないだろうなぁ」

 火の玉は勢いを徐々にゆるめていき、次第に中のモノ、というか中にいた人間の姿があらわになる。

 炎のように、溶岩のように、血潮のように紅い髪の毛。その髪の毛は白いバンダナを額に巻かれて炎のように、スーパーサイヤ人のように跳ねあがっている。

 服装は、空手の胴着のような服。腰に赤い帯がある簡素なものだ。下はスカートというか合気道の袴のようなヒダのついたものになっている。

 一言でいえば格闘家みたいな人。とても魔女っぽくは見えない、この魔女の住む荒城には不似合いな感じの人だ。

「燃えよ燃えよ燃えよ! 私が燃えている! 心に宿る炎は完全燃焼! 勝負は完全勝利! 完全無欠! 完璧超人マルス・ブラッドベリー様だぁ!」

 と大声で叫んでいる。ユーカ並みに元気のあるやつだ。まるで炎のようなやつだ。

「えーと」

 僕はそいつ――マルスに力負けして言葉を失う。何を言おうとしたっけな。

「先輩、とにかく立ちはだかるヤツはなぎ倒しましょうよ!」

「いやユーカ、そんな短絡的なことは慎め。まずは話し合わないといけないぜ」

「まーた先輩は日和見ですか!」

 俺はそのマルスとかいうやつに近づく。

「えーとお前は、サバト会の会員なのかな」

「そうだ! 私はサバト会に属し、魔王の力を得るため防衛の任を受けている!」

「なるほど。それじゃあ俺とお前は敵同士になるのか……」

「敵同士? まさかお兄さん、私の実力を知っていてそんなことを軽々と言っているのかい?」

 なぜか俺はお兄さんと呼ばれている。そこの魔女は背格好通りの小さな子なのか。

「私は十人十色の魔女デカラフルウィッチの一人、『火炎フランメ』の魔女なのさ! 私の炎はすべてを燃やしつくすのさ! さぁさぁ、お兄さん、逃げるなら今のうちだぞぉ!」

「なるほど、お前はいわゆる熱血タイプというやつか」

「ん? なんだ熱血って?」

 マルスがとぼけた声を出した瞬間、俺はそのマルスのお留守となった袴に手を伸ばす。

「えい」

 と俺は袴をめくりあげさせた。

 するとそこには、勝気な感じの熱血魔女のマルスとは似つかない、いやむしろ似合うような、子供向けのカボチャパンツがあらわになる。とりあえず言わせてもらいたいのだが、俺はべつにマルスのパンツを見たかったとか言う、そんな変態的な思考のためにこんなことをしているのではない。これはただの作戦であって――

「せ、先輩! なに女の子の袴をめくりあげているんですか! せ、先輩がいろいろよっきゅう不満とあらば、わ、わたしがそのー、ちょ、ちょっとだけなら、お手伝いさせてもらってもよかったのに!」

 何故かユーカが顔を真っ赤にして叫んでいる。まぁ勘違いされるのも無理はない。

「まぁ聞けよユーカ、これはあくまで作戦だ。こうやってそこの熱血魔女の頭に血をのぼらせてやって……」

「こ、こここここここ!」マルスは鶏の鳴き声をまねているのか。

「このドヘンタイがぁ!」

 マルスの蹴りあげを顎に受けて俺は宙に舞う。これは人によってはごほうびみたいなものだから、ノーダメージ。痛くない、むしろ気持ちい……

「いや、やっぱり普通に痛い……」

「せ、先輩は一体何をしてらっしゃるんですか!」ユーカがいつも以上におかんむりになっている。

「でもユーカ、これでマルスの心に火が付いたと思うぜ」

「え? 火が付いたってどういうことですか?」

「彼女の闘志に火が付いたんだ」

 実際のところ、目の前のマルスは怒りを炎のように燃やしている。拳を潰れんばかりに握って、歯を食いしばって、俺を殺すような眼で見つめてきて。いやー。そんなに見つめられちゃあはずかしーじゃないか。と言っている間もなく、こちらに手を突きだしてきた。

「許さない! お前みたいな腑抜けた男は! 私の炎に焼かれて消し炭になるがいい!」

 予想通りと言うか、マルスは直情的に燃え上っている。

「先輩、相手がマジになっていますが大丈夫なんですか!」

「大丈夫、問題ない。これも計算のうちだ。今回の魔女は、ユーカみたいにアホな奴だから、怖くないんだよ」

「アホってなんですか! 私は賢いんですよ!」

 国語の時間に『一日千秋いちにちせんしゅうの思い』を『一日千秋いちにちちあきの思い』と読んだユーカを賢いとは断じて言えまい。

「とにかくユーカ、相手は理性を失っているというか、もともと理性のカケラもないやつだ。だから今回は似た者同士の対決というわけで、ユーカ、お前が戦え」

「私だけですかー? でも、相手は魔女で、どんな手を使ってくるかわからないじゃないですか」

「そこらへんは臨機応変に俺が助言をする。とりあえずユーカ、あの熱血魔女と熱血バトルを繰り広げておいてくれ」

「おお! ひっさしぶりの難しいこと考えない熱血バトル展開が来ましたか! わっかりましたよ先輩! 霊長類最強の私が、あの魔女の息の根を止めてやりますよ!」

「なにをぉおおおお! 息の根が止まるのはお前のほうだ!」

「停まるのはそっちだぁ! ボコボコにしてやる!」

「こっちはボウボウに燃やしてやる!」

「ベコベコにしてやるんだからぁ!」

「もうぶぉおおおおおーって感じで、もわぁああああんって感じにクロコゲにしてやるんだからー!」

 なんだか知能指数の低い雑言が聞こえるが、とにかくユーカと火焔の魔女マルスとの戦いの火ぶたが切って落とされた。

 俺は……とりあえずユーカのコーチのようになって見守っておこう。

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