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13.キメラとの戦い 其の壱

 あのかませ犬のような魔女たちを颯爽と倒した俺たちは意気揚々と階段を上っていく。俺たちの進む道はまるでシャッター街のような寂れたものとなっていて、さして障害もなく俺たちは階を登って行った。

 しかし、こんなあっさりとこの城の頂上にたどり着けるものでもない。

 階段を登り切る。そばにある入口の上に『32』とローマ数字で書かれている。ここは32階なのか。ずいぶん進んだものだ。

「もう32階まで来ちゃいましたよ! よゆーのよっちゃんですね先輩」

「安心するなよユーカ。まだまだ魔女は残っているだろうし、いつその魔女どもと戦うことになるかわからん。だから気を引き締めておけよ」

 ユーカにそう告げたあと、入口へと入っていったのだが。

 そこに申し合わせたように魔女がいた。

「ケケケケケケケケケケ! よくぞやってきたなぁ、人間どもよぉ」

 どこか老婆じみた声の、白髪の魔女が正面にいる。身長は意外と小さく、服装は紫のローブと三角帽なんだが、それよりもなによりも特筆すべきところがある。

 その老婆の魔女の隣に、巨大なライオンが立っていた。

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

 ライオンは咆哮をあげる。

「メェエエエエエエエエエエエ!」

 ライオンは咆哮を……ってあれ、これはヤギの声なんじゃ……

「シャァアアアアー!」

 と今度はヘビの威嚇するような音、そんなちぐはぐな鳴き声のあと、ライオンの背中からヤギとアナコンダのような巨大なヘビが顔を出した。いったいあれはなんなんだ。

「せ、先輩! ライオンとヤギとヘビが一緒になってますよ! あれがいわゆるシェアハウスというやつですか!」

 断じてシェアハウスではないのだが。

 どうも、正面に見えるライオン――の身体をベースにして、まるでイボが生えたみたいにヤギが背中から生えている。そして下半身はまるっきしヘビの身体となっていて艶やかなウロコとなっていた。

「あれはどうも、キメラというやつだぞ」

「き、キメラですか!」

「ほうほう、そこの人間、キメラを知っておるとは意外と造詣があるようだな。私は、サバト会の会員のエキドナだ。お前たちの進行を止めるため馳せ参じたのだよ」

「やはりお前もサバト会の魔女か」

「どうやら下の階の魔女を倒したようだが、あんな若輩魔女、ふつうの人間に負けてしまうほど取るに足らない存在だ。しかし、私はそんな若輩たちとはちがう、200年を生きた魔女だ」

「200年って……」

 俺たちには想像もつかない長い時間だ。

「私は、200年のすべてを“キメラ”の研究に費やしてきたのだ。何度も試行錯誤し、さまざまな動物、幻獣、ときには人間を掛け合わせて作り上げた私の最高峰のキメラちゃん! 名付けて『マカロン』ちゃんなのだぁ!」

「は……」

 目の前のあのおぞましいキメラは、なんと『マカロンちゃん』というファンシーなお名前だそうだ。

 名前と容姿がまったく一致しない。まるでユーカが名付けたような、知性のかけらもないネーミングだ。

「ま、マカロンちゃん…………なんか、一周回って逆に怖そうな名前ですねぇ……」

「たしかにあのキメラにマカロンちゃんなんて名付けるのは、いろいろと怖いなあ」

「お、お前たち! 私のかわいいマカロンちゃんに何か文句があるのかぁ!」

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

「メェエエエエエエエエエエエ!」

「シャァアアアアー!」

 キメラが不気味な三重奏を奏でている。キメラことマカロンちゃんもご立腹のようだ。どこからどこが腹なのかよくわからないけど。

「よくも私のかわいいマカロンちゃんを愚弄したなぁ! こうなったらマカロンちゃん! そこの二人を燃やし尽くしてやりなさい」

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

「メェエエエエエエエエエエエ!」

「シャァアアアアー!」

「ぎゃああああああ! だからそんなに叫ばれたらうるさいですよぉ!」

 ユーカが耳を押さえて抗議する。そんなユーカに目もくれず、魔女のエキドナはキメラをムツゴロウさんよろしくなでなですりすりしていた。

「きゃーよしよしよしマカロンちゃん、頑張ったらちゃんとおやつのマカロンあげるから、頑張ってねぇ」

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

「よーし、マカロンちゃん、あの二人を灰にしてやりなさい!」

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

 マカロンちゃんのライオンの頭が咆哮を上げると、こちらへとゆっくりと近づいてくる。どうも後ろ脚が蛇の頭になっているため本場のライオンのような素早い動きはできないみたいだ。

「ははははは! そんなちんたらした動きじゃ、いくら強くても私に勝てませんよ! マカロンちゃん、情け無用ですよぉおおお!」

 ユーカは木刀を構えて突撃する。マカロンちゃんのライオンの頭めがけて突撃する――が。

「いけぇ! マカロンちゃん!」

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

 マカロンちゃんは咆哮を上げながら、なんと口から炎を吐いた。

「って、ぎぇええええええええええええ!」

 その一直線に放たれた炎によってユーカの姿は見えなくなったが。あいつはこんがりとおいしく焼かれてしまったんだろうか。

「わ、わわわわわわ!」

 いや、ユーカは焼かれていなかった。

 ユーカはちょうどあのマカロンちゃんの放った炎の柱の下にいたのだ。ユーカの背の低さが九死に一生を得たようだった。

 ユーカはすぐさまその場を転がり体勢を整える。

「はっはっは! かろうじて避けたようだが、マカロンちゃんの放つ炎は金属をも溶かす火力があるんだぞ! 当たれば骨まで溶けて、亡骸もなく“なくなる”のさ!」

「そ、そんな死に方いやですよぉ!」

 ユーカはマカロンちゃんから逃げるように移動する。ぐるりとマカロンちゃんを中心に周り、そしてマカロンちゃんの動きが鈍くなった隙に――ユーカはマカロンちゃんの背中に突撃する。

「後ろがお留守番サービスですよ!」

 ユーカが木刀を振り降ろそうとするとき、そのユーカと……ヤギと蛇の目が合った。

「メェエエエエエエエエエエエ!」

「シャァアアアアー!」

「あああああ! 背中にヤギとヘビがいるのをすっかり忘れてたぁ!」

 キメラの下半身のヘビがスパッ――とユーカの元へ首、というか胴を伸ばして、ユーカに食らいつこうとした。ぎろりと牙を剥きだし、ユーカを引き裂かんばかりに噛みつく。

「ぎゃっ!」

 ユーカは紙一重でそれを交わす。蛇がぎろりとユーカを睨む。

「マカロンちゃんの下半身のヘビは毒蛇で、噛まれたら即死なんだなぁ! マカロンちゃんの背中を取ろうなどと、安直なことを考えるのは止めるんだなぁ!」

「ぐぬぬぬぬぬーー!」

 あのマカロンというキメラは、名前はアレだけど、なかなか強い魔物だ。あの魔女が200年もの歳月を費やして作られたキメラだ。10数年しか生きていない俺たちとは格が違うのかもしれない。

「くそぉ! こうなったら猪突猛進だぁ!」

「やめろユーカ」俺は叫ぶ。

「な、なんですか先輩こんなときに!」

「考えなしに突っ込んでもお前が丸焦げに……いや、骨まで焼けて昇天しちまうだけだ。とりあえずユーカ、ここは引き下がるぞ」

「ええ! 引き下がるって、でも魔王復活を止めないといけないんですよ」

「安心しろ、一時的な撤退だ。まずは策を練らなきゃならない。だからはやくこっちに来い」

「先輩がそういうなら、従いますけどー」

 少し不服そうにユーカが言っていたが。

「今のうちにやってしまえマカロンちゃん!」

「ガォオオオオオオオオオオオ!」

 そんなユーカのもとに炎の柱が伸びていく。

「ぎょぇえええええええええ!」

 ユーカはいつもの人間離れした小回りの利く動きで炎を避けていく。マカロンちゃんの放つ炎によって部屋の壁や床がごっそり焼かれて抉られていた。

「せ、先輩!」

「よし、ユーカ、勇退だ!」

 俺たちは一時撤退する。この撤退は敗走ではない。ただ、俺たちは勝つための準備をするだけである。

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