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12.かませ犬の魔女 其の弐

 俺は目の前に並ぶ魔女たちを見据える。俺たちを亡き者にしようとする彼女らに対し、俺も攻撃的なまなざしを送る。

「人間を嘗めるなよ!」

 俺は背中に背負っていた大きな荷物を目の前に落とす。中身をぶちまけてあたりに飛散させる。

 あたりに白い粉が浮遊する――

「な、なんなのよこ――げほ、ゲホン! ゲホン!」

「ぐぉほ、ゴホ!」「げへ、ゴホゥ!」「グフン、グェーッホン!」

 と魔女たちの咳の大合唱。

「グヘン! ぐぇ、先輩これはいった――ゴホンゴホンゴホン!」

「ユーカ、お前は口を覆っていなかったのか」

「そんなこと聞いてませんよ! いったい何をしたんですか先輩!」

「なにって、俺は魔女の呪文を封じてやったんだよ」

「呪文を封じたぁ!」

「魔女の唱える魔法は口で唱えないと発動しない。だから、魔法を防ぐにはその口で魔法を唱えられないようにしたらいいんだ」

「あー、たしかにみなさんセキをするのに夢中で魔法を唱えられないでいますね!」

 俺のまいた粉は、ただの小麦粉だ。1キロぶんの小麦粉をお菓子作りが趣味であるテラスさんからロハで貰い受けたものだ。

 小麦粉を吸い込むことによって相手はせき込み、魔法を唱えることができなくなるというわけだ。

「魔女と言ってもやはり大したことはないな。ただのウドの大木じゃないか」

 と俺は挑発するように魔女たちに言う。

「おのれ、魔の力を持たない人間の分際で! グェホン!」

「悔しかったら炎の魔法で僕らをクロコゲにでもしてみろよ。まぁ、今のお前たちじゃマッチ棒の火ぐらいしか起こせないだろうけどなぁ」

「このこのー! 魔法は唱えられれば問題ないのよ! ゲホン! ふぁ、ふぁいー、ゲホン! 火急火球【ファースターファイヤー】!」

 金髪の魔女が掌を突き出し、せき込みながらなんとか叫ぶ。

「ユーカ、テラスさん伏せて!」

 俺たちは三人束になって地面に伏せる。

 俺たちが頭を深く下げると、前方から空気を震わす衝撃が広がる。部屋中が地震でも起きたみたいに震えた。

 ゆっくりと顔をあげるとそこには先ほどよりかは薄くなった小麦粉の霧。

 そして前方にはクロコゲになって伸びている魔女たちの姿が。

「ぼふ……。一体何が起きたっていうのよ……」

 あたりに散り散りに炎が燃えている。爆発が起きた後の風景だ。

 ユーカは突然俺の背を叩く。

「ねーねー先輩、いったいぜんたい何が起きたというんですか? まさか先輩は魔法がつかえちゃったりしたんですか!」

「魔法じゃないさ。これは俺の攻撃じゃなくて、ただの事故なんだよ」

「じこ?」

「粉塵爆発だ。小麦粉みたいな微細な粉塵を燃焼させたら、さっきみたいな爆発的な燃焼が起こるんだ。まー簡単に言ったら、あたりに充満していた小麦粉の粉に、あの魔女が炎の魔法を発現させたために、それが小麦粉に引火、あたりは小麦粉で満たされているから小麦粉が次々と連続的に引火して、最終的に大きな爆発になったんだ」

「あー、たしか先輩が私を助ける際もあーゆうのやってましたね」

 みなさんも小麦粉を扱う時は火のもとに注意しましょう。

「魔女たちが伸びている間にはやく進まないといけないな」

「先輩早くいきましょう!」

「ユーカ、お前が先頭に立ったら罠にかかりっぱなしになると思うんだが」

「とにかく行きましょぉ」

 俺たちは床にへばっている魔女たちの横を素通りする。「待て人間め!」「サバト様の元には……」「なんてみじめなんだ……」うめき声がするようだけど、敵に情けはかけられない。

 部屋を抜けて、寂れた石造りの階段に差し掛かったとき、突然後ろから走っていたテラスさんの歩みが止まった。

「テラスさん、どうしたんですか?」

「うーんと、ふたりともぉ、ちょっとわるいんだけどぉ、わたし、お花を摘みに行かなくちゃならないのぉ」とおもむろにつぶやいた。

 お花を摘みにって、ここが荒城の内部であり、どこにもお花なんか咲いてないことを考えると……つまり『トイレに行く』ことをお上品に言った意味であろう。

「だからぁ、二人とも、先に行っといてくれないかなぁ」

「先にって、案内人がいないと進めないなぁ……」

「ああ、ここから先はたぶん、普通に階を登っていけばぁ、サバトちゃんのところにたどり着けると思うのぉ」

 とのこと。すごく簡単に言っちゃってるけど、本当に大丈夫なのか。

「あぁだめ、そろそろ限界だから先に行っててねぇ」

「あ、テラスさん!」

 俺たちが叫ぶ前にテラスさんは階段を下りて走って行った。

「テラスさん、そんなに急いでお花を摘みに行ったんですか……。まさかヤバいお花を摘みに行って臭い嗅いでるとかじゃないですよね……」

 ユーカはまるで『お花を摘みに』という表現を理解しておらず頭を抱えている。俺も何が何だかわからない。いったいどうしてテラスさんがいちもくさんに階段を下りて行ったのか。

 本当にトイレに行きたかったのか。それとも何か別の用事なんだろうか。

「まー先輩、私たちはいそがにゃならんと思うんで急ぎましょうよ! テラスさんもそのうち来ますって」

「ああ。たしかに立ち止まっている暇はないからなぁ」

 テラスさんを抜いた、俺たち二人は階段を駆け上っていく。


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