11.かませ犬の魔女 其の壱
なんやかんや紆余曲折あって20階まで到達した。
「ふぅー。なんだかすんごくクタクタになってしまいましたよー」
「そりゃああんなにトラップに引っ掻かっていればボロボロになるよなぁ」
ユーカはさきほど同様、まるで学習能力がなく、ここに来るまですべてのトラップを体で受けていた。ユーカの怪我を毎度毎度テラスさんが回復していくという面倒極まりない進行だった。
「まーでももう半分は越えましたから、最上階まではもうすぐですね! こりゃ楽勝ですねぇ!」
「二人とも、気を付けてくださぁい」
テラスさんが真面目な顔して俺とユーカに声を掛けた。俺たちも真面目モードになって感覚を研ぎ澄ます。
感覚を研ぎ澄ますまでもなく、目の前から堂々と曲者たちがやってきたのが分かった。
黒づくめの魔女の集団が10人ほど。
金髪銀髪アルビノ、目は宝石のようなブルーや緑、はては怪しい紋様の付いた紅い瞳……などなどの容姿の魔女たち。とても普通の日本での高校生活を送っていたら巡り会えないだろう西洋風の女たちだ。しかもその女たちが魔女のコスプレをしているんだ(コスプレじゃなくて本物の魔女なんだろうけど)。
「われらサバト会会員! ここから先は何人たりとも通しはせぬ!」
目の前の金髪の魔女の子が響く声で言った。
「何を言うか! サバトだかズバットだか知らないが私たちを邪魔するやつは許しませんよぉ!」
「な、なんだんだ貴様は!」
ユーカを睨み付けるサバト会の魔女たち。
「なんだかんだと訊かれたらー答えてあげるが世のなさけー! 我が名は『しっぷうじんらいの剣士――御剣ユーカ』だ!」
「なんだよその異名は。案の定『疾風迅雷』と漢字で書けてないじゃないか」
部屋の中央で剣を構えてユーカは高笑いしている。そんなユーカの元に魔女たちがぞろぞろと集まってくる。ユーカのアホさを観賞しにやってきたんだろうか。
「なんだこいつただの人間じゃん」
「尻の青いチビじゃん」
「いいイブクロしてるみたいだからホルマリン漬けにしようかしら」
「あ、頭は私がもらうわ」
「じゃー私は残ったやつでキメラにするわー」
ユーカを解体する相談をしているようだ。
「わ、ははは……。みなさん、ブラックジョークがお好きなんですねぇ! わ、私なんか食べたっておいしくないよぉー!」
そう言うと魔女たちはユーカに向かって掌を突き出す。
「やっぱりあいつウザいから消し炭にしようか」
「そーしよう」
魔女たちはみんな殺気立っているようだ。本気でユーカを斬ったり焼いたり煮たりおいしくいただいたりしようとしているんだろうか。
「うわぁああああああん! 先輩助けてください! 私消し炭にされちゃいますよぉ!」
「いいじゃないかユーカ。消し炭となって灰となってお前は枯れ木に花を咲かす魔法の粉となるんだ。めでたしめでたしというわけさ」
「いやですよそんなの! どう見たってバッドエンドじゃないですか!」
たしかに花咲か爺さんって犬目線ではバッドエンドだよなぁ。となぜか場違いなことを俺は考えている。
とにかく、俺たちは目の前にいる十人の魔女と戦わなければならない。こっちは3人、テラスさんがどれほどの戦力になるか分からないが、俺たちだけでとにかく戦わなければならない。
俺たちは魔法なんか使えない。だけど俺たちに打つ手がないと言うわけではないんだ。
俺たちには二つの力がある。
ユーカの戦う力と。
俺の戦わない力だ。
考えろ。考えるんだ兎毬木トマル――。




