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4.立ちふさがる絶壁 其の壱

 森の中にそびえたつ巨大な石を組んで作られた荒城。それは城というより塔のような形をしていた。

 大きな灰色の円筒状の塔を三つ、ロケットのように並べた感じの建物だった。

「先輩! あれが北の荒城ですか」

「ああ。ようやく到着だな」

 城の周りには高い壁が設けられており、巨人でさえも越えられないほどの高さの壁であった。

 どうやら城に入るには入口の門から入らないといけないらしい。ユーカに乗られて道なりに進んでいくと、そこに巨大な鉄門があった。

「この鉄門をあけないといけないようだが」

「先輩私に任せてくださいです!」

 そう言ってユーカは自分の身長の10倍以上もある鉄門を押していこうとする。物理的に考えて、常識的に考えてあんな大きな鉄門を押し開くことは不可能に近そうだが……虚数解のようなユーカはそんな常識を打ち破るようにして鉄門を押していく。

「おぉおおおおりゃああああああああ!」

 ぎぎぎぎぎぎ……と鉄門がゆっくりと象が歩くくらいの速さで開いていく。鉄門は90度回転し、十分通れるほどの隙間ができた。

「ありがとうなユーカ。お前のバカ力は万能包丁だな」

「いやーこれくらい朝飯前ですよ! とにかく先輩はやく荒城に向かいましょう!」

 そう言って俺たちは威勢よく扉の向こうへと駆けていく。

 しかし、どういうことなんだろうか。あの鉄門には鍵も、魔法的な封印も施されていなかった。意外と魔女の住処というのはセキュリティが甘いんだろうか。

 そう楽観していた俺だったが、目の前にそびえ立つものを見て考えを改めた。

「あれは……」

 一人の、無表情で立ちつくす魔女の姿がそこにあった。

 正面に見える、高い壁に囲まれた荒城の敷地内は、草もこけも生えていない土だけの荒野の庭だった。そんな殺風景なところにその魔女がいた。ちょうど中央にある荒城の塔と入口の鉄門の線分の中点の位置に魔女がいた。

「えーと、あの子は……どこかで見たことがあるよーな」

「あいつは……」

  魔女らしく黒い三角帽をかぶり、黒いマントを羽織っている。しかしその魔女の身体は、ユーカ並みに小さい。髪は透けるような水色で、長い髪が帽子からクラゲの足のように波打つように垂れている。いわゆるウェービーヘアーというやつか。

「…………」

 その魔女はしゃべらない。口を一文字にしている。顔立ちは西洋人形のごとくの丹精でどことなく無機質な感じである。目は瑠璃色でビー玉のような瞳をもつ。

 俺はこの小さな魔女と遭遇している。俺がウルスラグナの街の図書館の地下の秘密の部屋で出会った魔女の子だ。

「お前は、イージスか」

「…………あなたは、トマリギトマル」

 イージスが抑揚のない声で言った。

「い、イージスって! えーとたしか先輩がクマの人形を上げた私の鯉のライバルだったりする人のことですか!」

「お前の恋のライバルかどうかは知らんが、とにかくイージスは魔女だ」

「ま、魔女!? たしかに見るからに魔女って感じがしますけどー」

「そして、状況から鑑みるに、この魔女はこの北の荒城の門番みたいだぞ」

「門番ですか!」

 あの鉄門にはなんの錠も魔法もかかっていなかった。しかし、その代わりに魔女は門番を付けたのだ。

 俺はその“門番”であるイージスに向かって歩いていく。

「イージス、俺たちは荒城に用があるんだ。ここを通っても構わないか?」

「あなたは、荒城に向かってなにをするの」

「魔王復活を阻止……いや、べつに魔王復活についてはどうでもいいんだが、とにかく俺たちは調べたいことがあってだな」

「ここを通すことは許さない」

 そう言うと、イージスは正面に両手を突き出した。なにか魔法を発動させるのか、と身構えたが一向に魔法が放たれない。

 いったいどういうことだ。この子は本当に門番なんだろうか。

「そこのイージス艦! 私たちは魔王復活を阻止するためにやってきた勇者ご一行なんですよ! そこを通さないと言うのなら勝手に通らせてもらうまでですよ! 私を止められるもんなら止めてみろですよーだ!」

 ユーカはそう威勢よく言って走り出す。俺の脇を疾風のごとく通り抜け、イージスへと――直進させていた体を瞬時に方向転換してイージスの隣の空いた空間へと直進する。

 そのままふつうに直進していったのなら、ユーカは誰にも捕まることなく荒城へとタッチダウンできただろう。

 だが――

「ふぎゃああああああああああ!」

 カンッ! と衝撃音。イージスのちょうど真横を通り過ぎようとしていたユーカは突如バナナの皮を踏んだみたいにその場にころんと転げて倒れた。

 ユーカがなにもないところで転んだ。それは霊長類最強の反射神経を持つユーカにとってありえないことだ。

「ユーカ、いったいどうしたんだ。お前が転ぶなんて、いよいよ世界が闇に転げ落ちる予兆なのか」

「ち、違いますよ先輩! 私! なにかにぶつかったみたいなんですよ! まるでスーパーマリオブラザーズの視えないブロックに頭をぶつけたみたいに!」

「視えないブロック……?」

 俺はふと正面を見る。そこにはイージスがいて手を突きだしていた。それ以外にはなにもない……ように見えるが。

「これは……」

 俺は一瞬、イージスの隣の空間が、液晶のようにテカテカと光ったのを見た。まるでシャボン液の壁でも形成されたみたいだった。

「『東西分離の壁【ベルリーン】』、私の壁はやぶれない」

「かべ……だって」

 俺は少し後ずさり、殺風景な庭の全体を見渡す。目を凝らしてじぃーっ見つめるとしだいに見えていく。

「ユーカ、壁があるぞ」

「え? 壁ですか?」

「よーく見てみるんだ」

 ユーカも俺に並んで、頭を押さえながらじぃっと正面を眺めた。

「ぬわっ、な、なんか透明の壁が見えましたよ先輩! あれは一体何なんですか」

「おそらくあのイージスの魔法なんだろうな」

 俺たちはその透明の壁へと近づく。そしてそれに手を触れる。傍から見ればパントマイムしているように見えるが、そこにはちゃんと壁が存在しているんだ。

「ほ、本当に壁がありますよ!」

 ユーカは視えない壁に向かって拳を突出し抉るように力強く叩く。だが、壁は表面に波紋を描いただけで微動だにしなかった。

「だ、駄目です! この壁壊せません! 一体何なんですかこの壁は!」

 ユーカは壁に向かって激しく叫ぶ。それに対し、壁の向こうのイージスは静かにこちらをじっと見つめる。

「ここは通せない。『東西分離の壁【ベルリーン】』よりこちら、魔女協会都市【ウィザードコミューン】には、魔女で非ざる者は何人たりとも通さない」

「通さないってなんでなんですか!」

「私は魔女のイージス。そして魔女協会都市の現領主、サバト様の従順なるしもべ。私は、サバト様の命により、あなたたちの進行を阻止する」

 イージスは手を前に突き出す。すると視えない壁はあたりに大きく波紋を描いた。

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