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2.オオカミとの戦い 其の壱

 ユーカの背に乗って俺たちは墓地より向こうの、ホンモノの北の荒城に続く森の中を進んでいく。

 森の中には針葉樹が生えていた。森の中には道が通っていて、俺たちはその土の道を進んでいった。

 鳥がちゅんちゅんとさえずり、時たま木の影から小動物が顔を出すのどかなところだった。森林浴というのはいいものだ。

「ユーカ、とりあえず直進あるのみだ」

「がってんしょうち!」

 ユーカの背に乗っているが、なかなかの乗り心地だ。こいつは江戸時代に生まれていたのなら飛脚か駕籠者として生計立てられただろう。


 しばらく森を突き進んだ後、日が真上に登り昼となる。

「ユーカ、そろそろ昼食にしようか」

「はーい」

 ききーっ、と地面を滑りながら停止する。ルイージのように。ユーカは何気に軽量だから滑りやすかったりする。

 森の大樹を背にして俺たちは昼食を頂くことにする。

「で、先輩、お昼はなんなんですかー」

「ウルスラグナの街で、旅用に食料を買っておいたんだ。とりあえず今日はそれを頂くことにしようか」

 俺は革袋からビスケット状の小さなパンを取り出す。

「ええと、先輩これは……」

「堅パン、いわゆる乾パンってやつだ。水分が少なくて保存が効くから長旅の携帯食としてもってこいの食料だ」

「そ、そんなカンパンなんて! まるで学校にゾンビが襲撃してきて立てこもったみたいな状況じゃないですか!」

「贅沢をいうな。旅というのはこういうものだ。質素にやらないとやってけないんだよ」

 俺は乾パンを一口食べる。たしかにどこか味気ない味だ。しかし腹はいくらかふくれる。

「ぎゃーもぉ! そんなちまちましたもので食べ盛りの私の体力が持つわけないじゃないですか!」

「そうは言っても食べるものはいまのところこれしかないぞ」

「食べるものがないなら調達してくればいいじゃないですか! おあつらえむきに、この森にはたくさんの小動物たちがいましたから、それを捌いてやれば……」

「お前はこの森の小動物をそんな肉食動物の目で見ていたのかよ」

 こいつはやっぱり人間じゃないのかもしれない。

「じゃあ先輩! 私は食料を調達してきますから、そこで待っていてください!」

「ユーカ、べつに行っても構わんが、あまり遠くに行くなよ」

「わかってますよ先輩! すぐにもどっていきますからー!」

 そうユーカは威勢よく言って森の中へと入っていった。まるで森へと帰っていくみたいに。

 しかし食料を調達とはいったいどういうことだろうか。あいつのことだ、とんでもなく巨大なモンスターを狩ってきたりするかもしれない。そんなマンガみたいな展開はごめんだ。俺はもっとお上品なものが食べたいんだ。俺のいま食べている乾パンもあまり上品なものとは言えないけど。

「さて……」

 ユーカが森へ消えてしまったがどうしようか。遠くの北の荒城を眺めてみるも、そこにはなんの異常も見当たらない。

 あのイージスいわく、魔王復活などという物騒なことが行われると言っていたが。

 魔王……か。魔王ってもしかして、あの『梵慨邪』のことを言っているんじゃないだろうな。

 あの梵慨邪は俺たちが救出されたあと跡形もなく消えていた。それ以来、梵慨邪が現れたという情報はなにもなかった……と思われる。

「くっ……」

 ふと俺の膝が小さな痛みを感じた。虫にでも噛まれたんだろうか。

 俺はじっと膝を眺めていた。

「ぎゃああああああああああああああああ!」

 遠くからユーカの絶叫が聞こえてきた。

「いったいなんなんだ……」

 あのユーカのことだから、ほっといても何とかなるだろうが、とりあえずユーカの方へ向かってみようか。


「おーい、ユーカ」

 俺は森の中を突き進んでユーカを探す。

「助けてくださいです先輩! トンデモナイ怪物に襲われましたぁー!」

「なんだって」

 あの“トンデモナイ怪物”と形容しても問題ないユーカが絶叫する“トンデモナイ怪物”とはいったい何者なのか。俺はとにかくユーカの元へと駆けていった。

「ユーカ、大丈夫か」

「先輩たすけてくださーい!」

 目の前にはユーカが草地で寝そべっていた。身体をじたばたとさせ、自分の顔の上に載っている例の“カイブツ”に恐怖しているのだが。

 そのユーカが畏れるカイブツは、魔物でもなんでもない、ただの子リスだった。

 ユーカは小さいときのトラウマからか、ハムスターのような小さな生物が苦手なのだ。

「霊長類最強のお前が、なに子リスごときでビビっているんだよ」

「だ、だってぇー! こーゆーちっちゃい生物のほうがなんか怖いじゃないですか! 私のこぶしぐらいしかない生物がちょこまかと動いているんですよ!」

「たしかにまぁ、お前の言うことも分からんでもないが、そんなに暴れまわるな。スカートめくれてるぞ」

「きゃあ先輩見ないで下さいですよー!」

 俺はユーカの頭の子リスをつまんでユーカより向こうへと置いた。子リスはこちらを振り返ることなく足早に去っていった。

「ふぅ……。あ、あんな小さな生物に霊長類最強の私が負かされるなんて……一生の不覚です!」

「まぁお前は、あれ以外の生物なら容易に渡り合えるんだろう。人には一つぐらい弱点があるってことさ。まぁそれよりユーカ、お前、食料は調達できたのか?」

「いやーその、ウサギを追ってたんですけど、ちょっと逃がしちゃいまして」

 そう言って頭を掻くユーカの背後に……影が忍び寄る。

「ガルルルルルルルルルル!」

「ユーカ避けろ」

「はにゃ!」

 ユーカの背後から、ケモノが現れた。


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