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26.死の舞踏会(メメントモリ) 其の弐

 北の荒城。そこはかつて魔王がいて、現在は魔女の根城となっているところだ。

 というふうに聞いていたのだが、その荒城内に入った俺たちは仰天して声を失った。

 荒城の中にはたくさんの魔女が。

 骨の姿になっていた。

「え?」

「ひょ?」

「これは……」

 白い花畑を眺めるような情景。あたりには骨の姿の人間が蠢き犇めいていた。

 X線で世界を見ているようだ。

 荒城内はホールのような開けたところになっていた。ダンスホールのような広い床が平坦に広がり、脇の二階に細い回廊があり、月の光さえも遮るカーテンが並んでいた。ホールの奥には二階の回廊をつなぐように、手すりに囲まれたステージがあった。

 その“荒城”というだけあって、ちょっと虫食いのように荒れていたりするホールの上に……骨の紳士淑女がいた。

 ホールで踊る男女? ペアでワルツを踊っている骸骨。

 向こうには楽器的なものを演奏している人ならぬ骸骨。

 お盆を片手に給仕をする骸骨。カチューシャをしゃれこうべに着けたメイド骸骨。子連れ骸骨貴族骸骨執事骸骨エトセトラ……。

 とにかくホールは骸骨で満ちていた。そしてその骸骨たちは各々自動で動いていた。

「な、何でしょうかこれは……」コロがあたりをきょろきょろ見回している。

「何なんだよこりゃ」まるで映画の世界だ。

「なんなんでしょーか」ユーカもぽかんと口を開けていた。

「ここは確か現在は魔女が棲んでいると言っていたが、骸骨が棲んでいるってどういうことなんだ……。俺たちは魔女に幻覚を見せられているのか」

 幻覚でもとにかく、今見えるのは骸骨ばかりだ。

 骸骨が人間のように歩き、人間のように踊り、人間のように話をしてる。話し声は聞こえないけど、カタカタカタと歯を打つ音が聞こえる。

「わ、わー。だんすぱーてぃーだー」

 呆然とした状況を打破したかったのか、ユーカが道化になってホールの真ん中へと進む。

 そして一人の骸骨紳士に声をかける。骸骨紳士は首元に赤い蝶ネクタイをして、頭に黒いシルクハットしただけで、服を着ていない。なお皮膚もない。

「お、おうイカシタナイスガイコツさん、ごきげんよぉ」

『ガタガタガタ』

「お、おう……」

 ユーカは後ずさる。そのときちょうど給仕の骸骨とぶつかる。

「おっと、給仕の骸骨さん! アイムソーリ!」

『ガタガタガタ』

「……は、はい」

 ユーカはまた後ずさる。そして今度はメイドの骸骨とぶつかる。

「おっと冥土に召されたようなメイドさん、すいません」

『ガタガタガタ』

「……これが新ジャンルの萌え?」

 ユーカは再度後ずさって、こちらに戻ってくる。

「ただいまユーカ。楽しかったか」

「……やはり死線を越えてきたひとたちとは分かり合えないんでしょうか……」

「わわわ……」コロは夢でも見ているかのように上の空状態だった。

 しばらく俺たち3人は骸骨たちを眺めながら、木のように棒立ちになっていた。

 そんな微妙な空気の中、突然カタンと向かいの2階へと続く階段の上の扉が開く。そこから、黒い布に包まれた何かが現れる。

「また骸骨ですか」

「いやよく見ろユーカ。あれ、人間……いや、あれは」

「あの帽子って」

 階段から正面のステージに舞い降りるのは、烏の羽のごとく漆黒の三角帽をかぶった、黒い服を来た、黒い波打つ髪をなびかせる、どこからどうみても魔女な感じの魔女。

 魔女だ。やっぱりここには魔女がいたのか。

「レディース、アンド、ジェントルマン、ボーンズ!」

 黒づくめの魔女は両手を広げ、ホールじゅうに叫ぶ。

「さぁ! プルー様のナイトパーティの始まりだぁ! レッツダンス!」

 なんだ。いったい。

 と思ったら辺りから、

『カタカタカタ』『カタカタカタ』『カタカタカタ』

 と歯を打つ音が鳴子のような渇いた音色を奏でる。

「ぬわぁ、先輩ガイコツさんたちがいっせいにガタガタ言い出しましたよ!」

「な、なんなんですかこれはー!」

 恐怖におびえるユーカとマルシェさんと対照的に、正面の黒づくめ魔女は元気に満ち溢れていた。

「さぁ、私の歌を聞けぇ!」

 魔女はおもむろに背中からギターを取出し、そして演奏と歌を始めた。

 ギターの音と骸骨たちの骨の音と魔女の歌が奇妙過ぎるハーモニーを生み出している。

 というかこの世界にギターとかあったのか。まぁギター自体は紀元前からあったと言われていたからなぁ。アンプも付けずにギターの音色は結構激しく聞こえるものだ。しかし、あの魔女が歌っていたロック的な音楽はなんなんだ。

「いえーい! 乗っているかぁみんな!」

『カタカタカタ』『カタカタカタ』

「どうしましょう先輩! いつのまにかここライブ会場みたいになってますよ。私たちも乗らないといけないんですか!」

「そうだな。こりゃ、流れに乗るのが賢明かもな」

「じゃあ流れに乗りましょう!」

 というわけで。俺たちも骸骨たちに倣うようにして歯をがたがたとさせた。

「がたがたがたがた……」

「んーー!」

 突然、音楽が止まった。何事かと思って正面を見ると、ホールの階段上の魔女が俺たちを見据えていた。

 訝しい顔をしている。

「お前達、やっぱり人間だな!」

「え?」

「人間さんはお断りだぁ! 死んだことない奴は出てけぇ!」

『カタカタカタ』『カタカタカタ』『カタカタカタ』

 魔女の言葉に肯定するかのようにまた歯を鳴らす骸骨たち。

「さぁ! 皆の者たち! あのならず者を排除してやろう! はみ出た奴は追放だ! 浮いてるやつは追放だ! 仲間になんか入れてやらない!」

『カタカタカタ』『カタカタカタ』

「さぁ、やっておやりなさい! 私の友達の骸骨さんたち!」

『カタカタカタ』『カタカタカタ』

 魔女の言葉のあと、骸骨たちはいっせいにこちらに頭を向けてきた。

 俺たちをぐるりと囲むようにして。

 俺たちは完全に骸骨に取り囲まれていた。

『カタカタカタカタ!』

「ひっ!」

「はにゃ!」

 骸骨はいっせいにこちらへと歩んできた。ゆっくり歩くような速さでこちらへと向かっている。相も変わらず『カタカタ』の効果音を鳴らしつつ、襲いかかってこようとしている。

「わわわわわっ! どうしましょう! ホネホネがこちらに来てますです! これではボクたち自身がホネホネになってしまうのではないのでしょうか!」

 コロは十字架を握りしめつつ360度回転していた。

「ゾンビの次はガイコツですか。ううむ、なんかさっきのゾンビでホラーは耐性つきましたね。骸骨なんか魚の骨と思えば怖くないですね」

「怖くないんならユーカ、さっさとこいつら倒してくれ。そうでないと俺たちに明日はないみたいだ」

「よーしおおせのとおり倒しちゃいますよ!」

 ユーカは木刀を振りかぶって、迫りくる骸骨に立ち向かう。

 骸骨たちの胴に頭に足に木刀を振っていく。骸骨たちの骨は木刀に当たるとその箇所が吹っ飛び、バランスを崩して骨格が崩壊し、床に散らばる。

 ユーカの素早い攻撃により、周りの骸骨はあらかた崩れ散った。あともう少しで骸骨が全滅――しそうになった時。

「骨格再起【ボーンリボーン】」

 先ほどの黒づくめの魔女が呪文らしきものを唱えた。

 その言葉のあと、骸骨たちに黒曜石のような黒光りが発せられた。骸骨たちはまるで生命力を与えられたかのように、自然に崩れた体を再生(リボーン)していく。

「なっ! 今回も復活するんですか!」

 復活する敵ならちょうどさっきゾンビ戦で経験しているが、しかしあの戦いはコロの正十字のペンダントがあったから偶然勝てたもので……。

 あ、そうだ。

「コロ、ペンダントを突き出してくれ」

「え、ああ。ペンダントですか」

 コロは掛けていたペンダントを手に取り、それを骸骨たちに回し見せる。

「こ、このペンダントが目に入らぬかぁ! あくりょーたいさん!」

 ほんとうにこの人この世界の住人なのか。と突っ込みたくなるようなことをコロが言っている。

 それよりも、注目すべきは、コロが突き出す十字架が、骸骨に対して一向に効力を発揮しないことである。骸骨たちは十字架を見てもちっともなにも変化しない。というか目がないから十字架とか見えないから意味ないのかな……。

「どうやら骨折り損だったみたいだな。骸骨だけに」

「うぅ……。そんな、これじゃあ私たち骨抜きにされちゃいますよ! むしろ肉抜きですか!」

「俺たちの命運はあとはユーカにかかっているわけだが……」

 そのユーカは絶えず骸骨に向かって木刀を振り回しているのだが。

 ゾンビの時と同様、何度も敵が復活するため手を休めることができず、連続で攻撃しているため疲労が蓄積されている。ユーカは息を荒げている。骸骨の数はホールを半分くらいはうめつくせそうなほどいるうえに、それらが復活してきているのである。きりがないしどうしようもない。

「うわーん! やっぱりカロンを倒すなんてむりなんですよ! どうしろっていうんですか!」

「ほんとどうしたらいいんだろうな」

「な、なにかいい策を考えてください先輩! こっちはもうだめですよ! ジリ貧ですよ!」

「そうだなぁ」

 不死身のヤツとの戦闘でネックになるのは相手が復活することだ。今回のは中央に立つ黒づくめ魔女によって"再起"されているようだが。

 崩れたカラダが復活する……か。

 ならば、

「そうか、その手があったか」

「え? 何か思いついたんですか先輩」

「ユーカ、ちょっとひとまず退散することにするから退路を開いてくれ」

「たいろを? とにかく入り口までの道を開けばいいんですね」

「そうだ。頑張ってくれ」

「とりゃー!」

 ユーカは入り口に向かって猪突猛進。体当たりと拳のぶん回しで自分の周囲の骸骨を散らしていく。

「コロ、ユーカに続くぞ」

「あ、ええと……」

「とにかく急いで」

 そう言って俺が手を引こうとすると、

「わ、きゃーっ!」

 骸骨に再び驚いたのか、コロは俺より先にユーカの切り開いた道を走っていく。

 俺もそれに続いて走っていく。

「こ、このぉ! 逃げるんじゃない! 骨格再起【ボーンリボーン】!」

 カラカラカラと骸骨たちが魔法によって立ち上がっていくが、俺たちはそれよりも先に入り口に到着した。

「早く出ましょー先輩」

「うぎゃー!」コロは我先にと扉を開けて飛び出る。

 俺たちはすたこらさっさと荒城を後にした。

「な、逃げやがったな人間3人め! いつか呪い殺してやる!」

 黒づくめの魔女の声がホールに響いて消えた。

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