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25.死の舞踏会(メメントモリ) 其の壱

「君は……」

 俺は正面に見える小さな修道女のほうへ向かった。

 その修道女はかなり小さかった。ユーカぐらい、いや下手すればユーカより小さいかもしれない。

「あ、はじめましてー。ボクはコロといいますですー」

「コロ?」

 そう言うと少し頭を下げ、こちらににこやかな笑顔を浮かべた。

 俺とユーカはとりあえずその『コロ』に近づいた。

「えーと、なんなんですかこのちびっ子? お嬢ちゃんー、お父さんお母さんと離れちゃったのかなー」

「お父さんとお母さんは幼いころに亡くなりましたです」

「なんとそこは突っ込んじゃいけないところだったのー! まぁかくいう私もおじさんと暮らしていますけどー」

 そんなふうにどこかなごやかな感じでコロという少女とユーカは話している。傍から見ると同年代、いやコロという子の方が年上に見えてしまう。IQ的に。

 どうもコロという子は小学生6年生ぐらいに見えるが……

 小学6年生……か。思い出したくないモノを思い起こされそうだ。

 しかし、この目の前の子はどうも普通の子と違う感じがする。どこか、不思議な感じがする……

「とにかくなにはともあれ助けていただいてありがとうコロちゃん! 私はユーカと申します!」

「ユーカさんですか、よろしくお願いします」

「オッス! よろしくっす!」

 二人は仲よく握手した。

「俺は兎毬木トマルだ。ちょっと野暮用で北の荒城に向かっていたんだが……危ないところを助けていただいてありがとうな」

「兎毬木……くんですか。よろしくです」

「よろしく……」

 握手をした。目の前の小さな修道女コロを見るが、なにか違和感を感じる。

「コロ、君はどうしてこんなところにいるんだ? ここが、君の家なのか?」

 俺は単刀直入に問うた。

「ボクは、この荒城の隣の墓地の、墓守なんです」

「墓守?」

「はい。ここは大体は身寄りの居ない人の墓地ですから、ボクが管理をしているんです」

「身寄りがいないって、こんなにたくさん……」

 墓場はかなり広い位置まで広がっている。荒城を囲うようにして、北にある小さな丘まで簡素な造りの墓石が並んでいた。

「みんな、魔王がいた時代に殺された人たちのお墓なんです」

「あの荒城に魔王がいて、世界を支配していたとき……殺された人たちの墓なのか」

「はい。たくさんの人たちが、魔物によって殺されました」

 並ぶ墓の数を見る限り、本当にたくさんの人がなくなったことが見て分かった。その墓の下に、亡骸があることを考えるといたたまれないものだ。

「その魔王に殺された人たちの怨念のせいなのか……たまにゾンビになって、亡骸が土から出てくることがあるんです。さっきのゾンビのように」

「……ああいうのは、よくあることなんのか」

「はい。この十字架を使って毎回押さえているんですよ」

「ゾンビには十字架が効くのか?」

「はい。どういう原理かはわかりませんが、十字架を見せると静まるようです」

 十字架でゾンビを鎮めるとは、どうもパワフルな修道女さんだ。

 しかし、こんな年端もいかない子が墓守とはどういうことだ? もしかして、この子は見た目よりも結構年を取っていたりするんだろうか?

「コロちゃん! こんなところに小さな子が一人で居ちゃあ危険ですよ!」

「小さい子が何をいうか」

「なっ!? 先輩私はもう立派なレディなんですよ!」

「ユーカ、人間というのは見た目だけじゃないんだぞ。コロ、どうやら君は見た目に寄らず聡明な頭脳をお持ちのようだな」

「そ、聡明だなんて、どうしたんですか兎毬木くん?」コロが尋ねてくる。

「一つ君の頭脳のスペックを量ってみようか。

 7人の老婆いて、一人一人が7頭のラバを引き連れ、ラバは7つの袋を背負っていて、袋には7斤のパンが入っている。そのパン一個には7つのレーズンが入っている……とすると、老婆とラバ、袋とパン、そしてレーズンの数の合計はいくらだ?」

「ぎゃああああああ! なんだそのぐにゃぐにゃの問題は! 私の頭がフットーしそうですよー!」

 ユーカは頭を抱えて悶えている。こいつの脳のスペックは言わずもがなだ。

「7の5乗で、16807個ですね」すかさずコロがあどけない表情で言った。

「ななななんと! 私が1ミリも分からなかった問題をこんなにあっさりとけただと! こ、この子はもしかして……先輩みたいな天才っ子なんですか?」

「そのようだな。たしかに天才であるが、しかしユーカ、この場所を加味すると、コロの正体というのが一つ導き出せるぞ」

「え? どういうことなんですか?」

「ここは北の荒城、現在は魔女の住処だ。魔女は人間よりも長い時間生きる。だから人間と成長スピードが違って、100歳を越えても小さな子供ぐらいの容姿だというんだ」

 ちょうど俺の出会ったイージスも小さな容姿であったが。

「つまりはまぁ、この子、コロはロリババアというわけなんだ」

「ロリババアって! つまりこの子は魔女っ子で私たちの何倍もの年を取っている子なんですか!」

「そうだ。そうでしかこの子の聡明さは証明できないさ。この子は、そこの北の荒城の魔女というわけだ」

「え、ええと……」

 コロはなにか観念したのか、頭を掻いていた。

「あっははー。バレちゃいましたかー。修道女の格好をしていたらバレないかと思ったんですけど……」

「そうだったか。やはり君は魔女だったか」

「はい。でも墓守ってことは嘘じゃないんです。ボクはこの北の荒城の墓守で、ずっと墓のほうにいたんですよ」

「そうか……」

 墓場の魔女か。いったいなんのために墓場にいたのか。まさか、魔女が行うような怪しい儀式でも行っていたんだろうか。とてもこの小さな子がそんなことしそうには視えないけど。

 まぁとにかくだ。

「君は魔女でここの傍にいるんなら、この北の荒城についてなにか知ってないか?」

「兎毬木くんたちは、そちらへ向かうんですか?」

「そーだよ! 私たちが魔王復活をたくらむ魔女を倒してやるんです!」ユーカが威勢よく言った。

「でも、どうやら入口扉に触れたら感電する魔法が仕掛けてあって右往左往していたんだ」

「なるほど。それでこの墓地に迷い込んできたんですね」

 コロは俺たちの前へと移動した。しばらく進んでくるりと振り返る。

「お二人とも、ボクなら荒城の扉を開けれると思うので、ついてきてくださいです」

「おお! 重ね重ね助けていただき感謝感激です!」

「あはは、ユーカさんって、なんだか熱い人ですねぇ」コロがほほ笑みながらつぶやいた。

「いやー、それほどでもぉ」

 周りにいる人間にとっちゃ、暑苦しい存在だがな。

「さぁ、それでは荒城へと向かいましょうか」

 俺たちはコロに付いて歩いていく。


「ここが問題の扉なんだが」

 ユーカが電撃を食らった扉へと舞い戻って来た。木製の観音扉がそびえたっていた。

「ああー。この扉ですね。大丈夫ですよ。これなら……」

「こ、コロちゃん! それを触ったら十万ボルトがぁ!」

 コロに電流は走らなかった。

「よく見てください。扉の取っ手に鎖の錠があるでしょう」

「あ、ほんとですね」

 暗くて見落としていたが、左右の取っ手の穴をくぐるようにして、鎖の錠が通っていた。コロはその鎖の端の錠前を持っていた。

「どうやらダイヤル式のようです」

 コロの手にある錠は4つの回転する円板を縦に並べたダイヤル錠だった。回転する円盤の側面にはアルファベットが書かれていた。

「このダイヤル錠を開錠すれば……扉が開いて、魔法も解除されるのか」

「おそらくそうかもしれませんね。魔法を解く方法がないと、出入りができないでしょうし」

「じゃあコロ、魔女のお前がそれを解いてくれないか?」

 俺はそうコロに頼んでみるも、コロはどこかバツの悪そうな顔を浮かべた。

「あ、あのー。すいません、ボク、魔女ではあるんですけど、その、そこの中の人とは仲良くなくてですね、ここの魔法の解除方法がわからないんですよ」

「え、ええー! じゃあどうやっても開かないじゃないですか! こうなったら錠前いっそのこと壊しちゃいましょうよ! 私の手にかかればそんな鎖引きちぎれますよ!」

 ユーカの叫び声を受けて、コロはクスクスと笑っている。こいつの常人離れした発想は聞きなれない人間にとってはギャグでしかないんだろうな。

「ユーカ、そんなことしてまた電撃を受けたいのか?」

「うっ……。もうビリビリは嫌ですよー。でもそのダイヤル錠、どうやって開けろって言うんですか!」

「たしかにどうやって開けようか」

 ダイヤルの一つの円板にはなんと26文字のアルファベットが続いていた。アルファベットは26文字。ダイヤルは4つだから、26通り×26通り×26通り×26通りで……

「456,976通りですね」

 俺が言うコンマ一秒前にコロが言った。隣でユーカが頭を抱えていた。

 やはりこの子はただ者じゃない魔女だ。

「40万通りもやったら、何日かかっても開きませんよー」

「じゃあ私の火事場のクソ力で!」

「ここはちょっと、セコイやり方で開けさせてもらいましょうです!」

 コロはこちらを振り向き。

「ちょっと皆さん、静かにしといてくださいですね」そう告げた。

「ユーカ、しばらく黙っていろ。コロが開錠してくれるそうだ」

「ええ! どうやって開けるんですか!」

「とにかく静かにしていろ」俺はユーカの口を手で塞いだ。「ホガホガホガ!」

 コロはダイヤル錠に耳を当て、ダイヤルの左端の円板をゆっくり一文字ずつ回していた。

 心臓の音を聞くように、ダイヤルに耳を当て、静かに精神を研ぎ澄ます。

 カチリ。

「ここですね」

 そういう具合で4つのダイヤルを同じように回転し、位置を合わせた。

「あっ……」

 最後のダイヤルがそろったとき、ダイヤル錠に刺さっていたピンが抜け落ちた。鎖と共にがしゃんと扉にもたれかかった。

「どうやら開いたようだな」

 ダイヤル錠を見ると『DEAD』とアルファベットが並んでいた。DEAD【死者】とは、どうも趣味が悪い配列だ。

「す、すごいですねコロちゃん! 錠前をあけちゃうなんてもしかして本業はアヤシイお仕事なんですか!」

「これくらいどうってことないですよ。精度の低い錠前なら、ピンとダイヤルがかみ合った音、つまり正しい位置に来たときの“カチリ”という音を聞いて位置を合わせていけば簡単に開錠できるんですよ」

「おお! なんか先輩みたいな長い解説ですけどありがとうございまーす!」

 と素知らぬ顔で言うコロ。

 コロはなかなかすごいやつだ。俺をも凌駕する知能を披露し、困難を乗り越える。さすが魔女と言ったところか。

 それゆえに、なにかが引っかかるところがある……

「それでは行きましょうです、兎毬木くん」

「ああ……」

 そしてこの“兎毬木”くんという呼び方。この世界では少々異質な名前であるのにすんなりと呼称している。そしてなぜか名字で呼ばれている……。

 しかし、見た限り悪いヤツではなさそうだけどなぁ。まぁついこの間、ドラゴンメイドのシスターさんに痛い目に遭ったこともあったが。

「先輩早くいきましょうよ!」

「待てユーカ、その扉の魔法が解かれているかまず確認を……」

 そう告げる前にユーカはすでに扉に手をつけていた。

 しかし、ユーカには電撃は流れなかった。どうやら魔法も解かれていたようだ。

「さー先輩ぼけっとしてないで行きますよ!」

 ユーカとコロはずかずかと中に入っていく。

「やれやれ」

 とにかく俺も中へと入っていった。

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