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24.コープスパーティ 其の弐

「よっしゃー! ゾンビを倒しましたよ先輩!」

 ユーカが歓喜を表現するように、マイケル・ジャクソンさながらの華麗なダンスを踊る。運動神経とリズム感だけはけた外れだから、こいつのダンスの腕はプロ級だったりする。

「ユーカ、あまり油断していると痛い目を見るぞ。勝って兜の緒を締めるという言葉があってだな……」

 ゾンビを一体倒した後、俺たちは再び墓地で散策を始めた。

 またゾンビが襲ってくるかもしれないので、用心しながら探索を始めていた。

 すると突然。

「うわぁあああああああ!」

 墓地の墓石のない開けたところに居たら、四方八方の地面からゾンビがごぼごぼと現れた。

 計8体、いやもう8体増えて16体。

 それらがじりじりとこちらにやってくる。周りに囲まれているので退路がない。360度ゾンビという悲しい状況。

 ゾンビは一歩一歩近づいてくる。

「ぎゃああ! どうしましょう先輩!」

「こりゃ文字通り八方ふさがりだな。打つ手なしということか」

「なに観念しちゃってるんですか先輩! 何とかしましょうよ! さっきのほのお魔法みたいに!」

「そうだな」

 と思って俺は先ほどと同じようにマッチを擦って空中に投げる。

 しかし、それは空気中に漂うリンとかガスに引火せず、ただ地面に落ちた。

「あれ……先輩、マッチが爆発しないんですけどどういうことですかこれは」

「たぶんな。空気が換気されたんだ。風とかで。この辺りには死体のガスが満ちていないみたいだ」

「ええ! なんでぇ! 死体なら私たちの周りにいっぱいあるじゃないですか!」

「たぶん長年の末にガスが全部出切ったんだろう。燃やすもんがないとさっきの爆発は起きないな。こりゃ詰んだな」

「そんなー!」

 ゾンビは俺たちに構わず近づいてくる。ユーカは額に汗を浮かべつつ、それを恐怖を振り払いつつ睨んだ。

「手をこまねいている暇はない! 私がやらねば誰がやる! とりゃああああ!」

 ユーカは己の身体をジャイロコンパスのように回転させ、ゾンビに向かって木刀を水平に薙いで倒していく。

「とりゃ、てい、とう!」

 ユーカの回転が止まり、なんとか全部のゾンビを倒した……と思ったのもつかの間、最初に倒した一体から順に、どかどかとゾンビが立ち上がっていく。

「ぎやあああああ!」

 ユーカは木刀を再度振り回す。ゾンビはすぐさま倒れるが、また再びすぐに立ち上がりこちらへと向かってくる。きりがない。いたちごっこだ。

 というより、こっちが押されている感じ。だって相手は不死身のゾンビなのだから。倒れても倒れても向かってくる。

 対するユーカは。

「はぁ、はぁ、足がガクガク……」

 ユーカは一応人間? なので体力は消耗する。息を荒げて疲れ切った顔を浮かべている。

「ユーカ、まだ戦えるか?」

「もう無理ー! カラータイマーがピコンピコン鳴ってますよ!」お前はウルトラマンか。

 ユーカはフラフラ状態で中腰になる。木刀を杖代わりに突いている。

 ゾンビはもう目と鼻の先に来ている。

「わわわ、先輩ゾンビが寄って来てますよ! どうしましょう!」

「どうしようかな」

「わ、本当に来ちゃってる!」

「ユーカ、俺を護れ」

「え?」

 俺はユーカを楯にした。襟首を持ってゾンビの前に突き出す。

「ぎゃあ何をする先輩! 私ゾンビに食べられちゃう!」

「俺が食われるよりましだろう」

「そんな先輩殺生な! ぎゃ、ゾンビが私の間近くに! 体を触るな! やめろ! 私はおいしくなーい! うわぁああああああああああ!」

 断末魔のあと、ユーカはゾンビに右の肩をかまれた。

「おい、大丈夫かユーカ」

「…………」

 ユーカは沈黙している。まさか、こいつ死んだのか。

 しばらくすると、ユーカは首を180度回転させて俺の方を向いた。え、首を180度……。

 ユーカの顔色は灰色になっていた。まるで死人のように。

「どうしたユーカ。腹でも壊したのか……」

『グギャアアアアアアア!』

 ユーカはゾンビになっていた。

 そうだ。映画でよくあるようにゾンビは増殖するんだ。肩にかみついて、噛みつかれたものはゾンビとなって、そうやって全人類がゾンビ化していくとかいう……。

 しかし、ユーカがゾンビとなっては俺は終わり、いや世界が終わりだ。

 こんな奴が人類の敵に回ったら……おしまいだな。

『グギギギギギ!』

「や、やめろユーカ。俺なんか食ったってお前の知能は上がらないぞ。だからやめろ」

『グギィイイイイイ!』

 死人に口なしということか。ゾンビたるユーカにはなにも伝わらない。というかもう人間ではなくなっている。

 こればっかりはどうしようもないか。

『グギグゴグゲゲゲゲ!』

「おいユーカ。冗談はやめろ。正気を取り戻せ。おいおい……」

『グゲゲゲゲゲゲゲゲ!』

 ユーカは俺の身体をがっしりと掴む。そしてよだれを垂らしながら俺を見据える。というか食べようとしているようだ。俺を。

「だからユーカ俺を食うのは……」

『ググゴガグー(訳:お前を食う)』

 ユーカゾンビは俺にかみついてきた。

 かぷっと。俺の右肩に口を当てて、牙を剥いてかぶりついた……

『ぐぎやぁああああああ!』ユーカゾンビが途端にのけぞり、暗い天を仰いだ。

 ふぅ。予防線を張っておいてよかった。

 ユーカゾンビが噛みついてくるのを見越して、俺は肩に唐辛子を塗っておいたのだ。

 普通のゾンビなら、神経がなくなっているかもしれないが、ゾンビなり立てのユーカゾンビはまだ味覚が残っていたようで、肩の唐辛子パウダーを舐めて、唇と顔を真っ赤にして暴れている。

「ぐえほ、ぐえほ、ぐえほ……」

 ユーカゾンビの声に濁りがなくなっている。おお、これはもしやゾンビ化が解けたのか。

「おいユーカ」

「ぐふ……せ、先輩……なんてものを食わせてくれたんですか!」

「お前が噛みついてきたのが悪いんだ。正当防衛だ。そんなことより、お前ゾンビ化は解けたのか?」

「え、ゾンビ化って?」

 日本語を話しているところを見ると、ゾンビ化が収まったみたいだ。どういう理屈か分からんが、ユーカはちょっと人間とは外れたところがあるので、少々ゾンビ化しても気合でなんとか治るみたいだ。

 まぁ、なんにせよ。よかったよかった。

「ぎやぁああああ悪夢再びゾンビがぁあああ!」

 いや、まだ根本的な問題が解決していない。

 ゾンビは続々とこちらに向かってくる。

「先輩囲まれましたよ!」

「もう状況的に詰んだな」

「どうするんですか先輩! 絶体絶命ですよ!」

「ユーカ、こんなときこそ冷静になるんだ」

「冷静になってもどうにもなりませんよ!」

 さてと。どうしようか。

 本当に手がない。

「ぎやああああああ!」

 ユーカが崩壊した顔で叫んだ時。


「待ちなさい!」

 そこに、高い声が割り込んできた。

 レースの付いたフードをかぶった、紺の服を着ている。修道女のような女性が声のする方に立っていた。

 俺たちはそっちを向く。ゾンビたちも一斉に目を向けた。

 そしてゾンビたちはその修道女の目の前に突きだすものを見て膠着した。

 石のように固まった。

 ゾンビたちは、死蝋となったように、全身を硬化させ、灰色の肌が白く染まった。おそらく、その体はもう動かなくなったのだろう。

「ゾンビには十字架……だね」

 修道女の手には、黄銅色に輝く十字架があった。普通の十字架と違って、その十字架は縦と横の長さが一緒の正十字で、なおかつ中心に亀の甲羅があった。


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