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23.コープスパーティ 其の壱

「あ、あれじゃないですか!」

 ユーカがピシッと指差す先には黒い影のかかった、真っ黒な建物。

「あれが北の荒城……思っていたより小さいな」

 城と言うより館に見えるほど小さいものだった。しかし荒城というだけあって、古い趣がある。まるで、ヴァンパイアが棲んでいそうな感じの、恐怖の城。

 その城の前に到着。到着すると辺りは途端に真っ暗になり、黒い荒城が月明かりに照らされる。なにか、幽霊とか出てきそうな雰囲気だ。

 ここには隔離された“魔女”が棲んでいるという。

 そして、ここに100年前は魔王が居て、その魔王と勇者ウルスラが戦って、双方が消滅したという、その決戦の場所でもある。

 この因縁の渦巻いた城に、なにかこの世界の秘密でもあるんだろうか。

「とにかく先輩! 中に入ってみましょうよ」

「おいユーカ。ここは魔女が棲んでいる城なんだぞ。だから用心して入らないと」

「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 ユーカは電撃に包まれて体がビリビリしていた。ユーカの手の先には、白の扉の取っ手が。おそらく、何の用心もしないで扉に触れたからだろう。

「大丈夫かユーカ」

 マンガみたいにクロコゲ状態になっているユーカの姿がそこにあった。

「ぐぎゃあ……なんでこんなことにー」

「用心が足りないからだ。どれ」

 俺は近くの小石を扉に向けて投げる。小石はすぐさま電撃を帯びて、黒く焦げる。

「だめだなこりゃ。取っ手に触れられないならどうしようもないぞ。これはいわゆる魔法ってやつで封じられているのか」

 魔法――。そういえばあのイージスという魔女も魔法で防衛をしていたな。

「どうするんですか先輩。魔法なんてどうやって解除すればいいんですか」

「ううむ」


 途方に暮れた俺たちは、荒城の近くにあった墓地へと訪れた。

 月夜に光る荒城といい、その近くの墓地といい、なんだろう、ホラー的な雰囲気に包まれているような。

 墓地は忘れ去られた場所だった。手入れの整っていない、築何年なのかよくわからない墓石がまばらだったり、固まったりしながら並んでいる。その墓石はどれも風化してボロく、欠けていたり、地に埋まっていたり、破壊されていたりしている。

 辺りの木々は枯れ木。カラスの音がかあかあと。月は暗い夜空に浮かぶ。

「なんでしょーかこれ。まるでハロウィーンというか。マイケル・ジャクソンの『スリラー』のPVみたいですね……。なんかゾンビとか出そうで怖いですよ!」

「怖いってお前に怖いものとかあるのか? お前は自分自身以外何も怖くないんじゃないのか」

「私は女の子なんですよ! ホラー映画は怖くて見れないんですよ!」

 おびえるユーカを腰に携えながら、俺は墓地を歩いていく。

 そのとき、がばっと音がした。

「ぎやぁ!」

「何を驚いているユーカ」

「だって物音が! 化け物が!」

「ただのコウモリじゃないか」

「え?」

 目の前を横切ったコウモリは左の向こうの枯れ木に停まった。

「まったく。いつも豪快に魔物を倒しているお前がどうしてこんなにおびえているんだ」

 本当に謎だ。

「わ、わわわ……」

「なんだユーカ。また大げさにおどろきやがって。幽霊と間違えて枯れ尾花でも見たのか」

「ホンモノのゾンビが現れたんですよ!」

「え?」

 ふと前を見ると、そこには……ぼろ雑巾のように、ぼろぼろに崩れた裸の身体のゾンビがいた。

「ぎやぁあああああああ! ゾンビだぁ!」

 顔は崩れ、髪は汚く生えていて、そして肌の色は灰色。まるでゾンビ映画から飛び出してきたような、そんなゾンビは、ゆっくりと俺たちのところへ向かってきている。

「ど、どうしましょう先輩! ゾンビですよゾンビ!」

「とにかくやっつけろユーカ。さっきのオークの名誉挽回しろ」

「よーし汚名挽回してやるぅ! かかってこいゾンビ!」

 こいつのテンションの変わりようはなんなんだ。さっきまで怖がっていたのがうそみたいに、演技みたいに、ゾンビに向かって木刀を振る。

「コテメンドウメンドウメンメンドウ!」

 連撃の末、ゾンビは地面に倒れる。

「やったー! 勝ちましたよ先輩!」

 と思ったのもつかの間だった。

 倒れたはずのゾンビが、のっそりと、ゆらゆらと地面から起き上がってきた。

『グォー』

 手首を曲げて、それを正面にゆるく突き出した格好で、のっそりとユーカのもとへと向かう。

「なにを! また倒してやるだけですよ!」

 パン。ユーカの大きな面打ちが炸裂。ゾンビは倒れた。

 だがすぐさま起き上がる。だるまのように。

「わわわ、あのゾンビ倒しても倒しても復活しますよ! 不死身ですよ!」

「そりゃゾンビだからな」

「なにのん気なこと言ってるんですか! どーすんですか先輩!」

「なに。ゾンビなんてもん、ただの死体じゃないか。お前はもう、死んでいるってやつだ。ある意味存在が“不戦勝”ならぬ“不戦敗”みたいなもんじゃないか」

「とにかくどうするんですか先輩」

「いいかユーカ。ゾンビの弱点なんていろんな物語でいろいろ出尽くしているじゃないか。たしか、太陽と炎に弱いとか聞いたことがあるが……」

「ああ! そうか太陽のパワーを使えば成仏できるんですね!」

「ああ。だが今はあいにくの月夜で太陽なんかないんだが」

「てやぁああああ!」

 ユーカは構わずゾンビへと向かう。

 そしてゾンビの手前で足を広げ拳を構える。

「ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒーーート! 私の太陽の波紋パワーを食らえぇ!」

 ユーカはゾンビの脳天に直突きを食らわせる。ゾンビはしばらく倒れていたが、またすぐに起きた。

「な、私の波紋パワーが聞かないだとぉ!」

「くだらないことをやってないで真面目にやれ」

「で、でも先輩! どうやってゾンビを倒せと言うんですか!」

「あのゾンビを倒すにはこのマッチ棒一本だけで十分だ」俺はおもむろにマッチ棒を取り出す。

「なんですと! マッチ一本だけで!」

「マッチ一本火事のもとというだろう。そう、この一本さえあれば、どんな炎も起こせるさ。見よ、俺の炎の魔術を!」

「おお! 魔術だと!」

 俺はゾンビに近づき、そしてマッチ棒を擦る。引火の危険性を考慮した安全マッチとは違う、昔の危険性の高いマッチなので、火力は結構ある。炎がランプのように明るくともる。

「爆ぜろ!」

 マッチ棒を投げ、俺は後方へと下がる。

 マッチ棒の炎が、あたりを爆発させた。爆風と爆炎がゾンビを包む。

「せ先輩! なんですかあの爆風は! いつのまに爆弾なんか作ったんですか!?」

「爆弾じゃない。あれは辺りのリンが爆発したんだ」

「リン?」

「人体の中には“リン”が含まれていてな。人間の死体からそれが放出されたりするんだ。で、ここは墓地だから死体なら地中にたくさんある。だからリンがあたりに漂っていたりするんだ。リンというのはさっきのマッチ棒の火薬に使われるものだから、引火すれば爆発を起こすんだよ。というわけでな、さっきのは死体から発生されたリンを火で爆発させてゾンビを爆発に巻き込ませてやったんだ」

「ほー。なんだかよくわからないけどゾンビを倒せたんですね!」

 ゾンビは炎をまとい、死のダンスを舞っている。

 ゾンビは火葬され、消し炭となった。

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