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21.オークとの戦い 其の壱

 勇ましきユーカの背に乗って、大地を駆け廻る。

 広がる大平原には目立った建物も自然物もなく、ただ大地と低い草だけが広がっている。空はまばらな雲がたなびく、晴れの空。

 しかしほんとうに何もない。日本という国は、どこか田舎に行っても大抵建物があったりするものだが(人口密度が高いからだろう)、人口はおそらく多くて何万人単位であろう、この世界では人の住む場所はそこまで広くなく、大きくない。

 そのぶん、自然が多いと言えば聞こえがいいと思うが。しかし資本主義者たる俺に言わせれば自然なんてどうでもいいと思う。エコなんて言葉は金儲けにしか使えない。というかエコなんかしたって地球は救えない。時の流れのように、地球の衰退も、人類の衰退もどうしようもなく止められないんだから。

 だから開発だ。こんな何もないところにはショッピングモールでも建てればいいんだ。土地とか安そうだし。

 ええと、ここにショッピングモールを建てればどれだけ儲かるんだろうか。建築費に維持費に人件費に税金に……

「ぎやぁあああああ!」

「ぐわぁあああああ!」

 俺の載るユーカー(ユーカ+カー<車>)が急停止した。キキキと大地に摩擦を起こしながら静かに止まる。

「何だユーカ。この世界には信号機も遮断機もないと思うがどうして止まったんだ」

「先輩! 前を注目ですよ!」

「ん?」

 目の前には、一体の巨大な巨体のモンスターが。

 体は緑。身体は人型で裸(下は布を巻いている)。汚らしい肥えたおっさんのような顔で、手にはさびれた感じの斧を携えていた。

「あれは……」

 俺は脳内に保存された『この世界』についての情報をサーチする。

 これは、図書館の魔物図鑑で見た。

 このモンスターは“オーク”だ。

「オークだ」俺はユーカの肩から降りて言う。

「オーク? やふおーく?」ユーカがはてなマークを頭に浮かべる。

『グルァアアアアア』

 どぎたない声を荒げるオーク。

「なんかこっちを見ていますね」

「そうだな」

「こっちへ向かってきましたよ!」

 オークは俺たちの前へと斧を携え向かってくる。

「よし、まずはユーカ戦え」

「おう先輩! 仰せの通り戦ってやりますよ!」

 ユーカはさっきからずっとつけていたマントをたなびかせ、背中に指していた木刀を引き抜き、剣先をオークへと向ける。

「ユーカ。お前が戦っている間、俺は策を練っておく。だから無理だと思ったら俺と変わるんだ」

「先輩の手なんて煩わせませんよ。私の力を見よ! てやぁあああああ!」

 ユーカは木刀を振り上げ、オークへと向かう。

 オークは向かってくるユーカに気づき、斧をゆらりと振り上げる。オークの大きさはユーカ2.5人分ほど。力士と子供が戦っているようなものだ。

 しかし、ユーカはどんな相手にも向かっていく。

 だってあいつは霊長類最強女子高生だから。

 カキィィィィン。

 木刀と斧が交差するとき、なぜかそんな金属的な音が響いた。

 いや、木刀と斧なんだけど。

 どうしてユーカは木刀で振り下ろされた斧を防いでいるんだ。しかも相手は巨大でかつ見た感じパワフルである。ふつうなら木刀なんか斧の一振りでぼきっと折れそうな気がするんだが。

 どういうことだ。

「グ……なかなかやりますよこのオークさん」

『グルァアアアアアア!』

 考察してみるに。おそらく、オークの斧の振り下ろす力を、攻撃される一点だけでなく、木刀の全身、そしてユーカの体の全身に分散させているんだろう。力が一点だけにかかったら木刀は折れてしまうだろうが、うまいこと分散させれば、破断は免れるだろう。

 そしてもう一つ。オークの斧を見てみると、その刃は黒く錆びていた。手入れがされていないからなのか、斧はボロい。だから切れ味は悪そうだ。あれで人を切り裂いてもきれいに傷はつかないだろう。

 ボロイ斧で切れ味が悪ければ斬れなくて、力が分散されていて斬れなくて。

 斧と木刀を交差させたまま、二人は停止していた。

「くくく、先輩、コイツ私を本気にさせましたよ」

 ユーカはがばっと後方へと飛びオークと大きく間合いを取る。

「てやぁあああ!」

 ユーカは木刀を振りかぶり、またオークへと突撃する。

 オークはまた機械的に、向かってくるユーカに斧を振り下ろす。

「遅い!」

 ユーカは地面を蹴り横っ飛び。飛ぶ前の場所には斧が振り下ろされ地面が抉られる。

 ユーカはオークの足元へと向かい、そして斧が振り下ろされておろそかになっている、足のスネに、ユーカは木刀を乱れ打つ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃー!」

『グワァアアアア!』

 オークはスネの痛さに耐え兼ね、降ろした斧を持ち上げて後方へと下がる。すねは弁慶の泣き所と言われ、皮膚の脂肪が少ないところに神経が通っているため攻撃されると痛いところだ。

 後方へと下がったオークは汚い顔をゆがませてユーカを睨んだ。小物と思っていたユーカが調子に乗ったのに怒っているのだろうか。

『グワァアアアア!』

「いくぞー!」

 ユーカとオークは人知を超えたバトルを繰り広げた。


「さてと」

 俺は策を思いついたので決行する。

「今回は逃げるか」

 そう、今回の俺の策は“ユーカとオークが熱戦を繰り広げている間に俺だけ逃走する”だ。

 逃げるが勝ち。これぞ不戦勝だ。

「じゃあな。ユーカ。がんばれよ」

「とりゃああー!」

『グギャアアアア!』

 俺は背後の爆音のような戦闘を一瞥することもなく、北の荒城へと歩いていく。

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