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17.異世界ダイナモ

 今日、例の魔女『イージス』に電撃攻撃を食らって思ったのだが、そろそろ現代人たる俺たちが電気なしで暮らしていくのは無理があると思う。

 電気は文明の利器だ。それさえあれば灯りの問題も解消されるし、電池切れのスマホも使えるようになる。

 問題は電気を得るための電源が必要なことだ。まぁそれはあまり問題ない。電気のコンセントなんかもちろんないが、電気は人工的に作れるものだ。なんとかなる。

 少々労力と資金が必要だが。


「せんぱいただいまー!」

 ユーカが帰ってきた。

「おかえり」

 俺はユーカに顔を見せず、作業を続ける。

「ん? 先輩、なにをなさっているんですか? テーブルの上になにやら鉄くずがありますが」

「俺は今発電機を作っているんだ」

「えーと、発電機?」

 ユーカがこちらへと近づいてきて、後ろから俺の作業を眺める。

 テーブルの上には鉄心に銅線を巻いたコイルと、湾曲した磁石二個と、そのほかガラクタが並んでいた。

「磁力の中に導体を近づけると電流が生じる、いわゆる電磁誘導を断続的に行って電気を取り出すのが発電機だ。お前も中学の時に手回し発電ラジオを作ったと思うが、覚えているか?」

「ラジオ? あー、あれ、はんだをはんだごてで全部とかしちゃって、どえらいことになって、結局潰れちゃったんですよー!」

「……お前は技術家庭においてもアホなのか」

「か、家庭科ならできるもん! 筆記試験を除いてだけど!」

「まぁ、とにかく。あのときの手回し発電ラジオの再現みたいなものだ。まずこの湾曲した磁石を、N極とS極が向かい合うようにしてこの箱の上部と下部に取り付ける。そしてその磁石の間に回転子として銅線を巻いたコイルを取り付ける。コイルには軸を付けておいて、軸の両端をコイルが回転するように、箱の両方の壁面の中心に刺す。コイルの片方には回転させるためのハンドルをコイルの先の軸に取り付ける。コイルのもう一方は整流子となって、そこから銅線を通す。ハンドルを回すと、整流子側の導線から電気が流れる……という具合だ」

「え、ええ! 電気が流れるんですか! こんなケッタイな装置でですか!」

「物体の原子には電子があって、電気と言うのはその電子の流れだから……つまりは電気の元はあたりにありふれているというわけだ。化学電池で取り出すという手もあるが、発電機のほうがいろいろと便利だから作ったんだ」

「先輩! 難しい話はいいですからはやく電気を流してくださいよ!」

「まぁ、まずは見てもらった方が早いか」

 整流子のほうの導線の両端に細い竹の線を取り付ける。

「ユーカ、出番だ。この作った箱についているハンドルを思いっきり回してくれ」

「えーと、この箱を抱えてハンドルをグルグルと回せばいいんですか」

「そうだ。思いっきり回せよ」

 ユーカはハンドルをグルグルと力いっぱい回した。力は回転子を回し、回転子たるコイルは磁力に反応して電流を発生させる。電流は整流子の方へと向かい、その先の竹へと電気が流れる。

 ユーカが歯を食いしばってハンドルを回していると、細い竹の線がオレンジ色の小さな光を放った。

「あ! 先輩! 花火みたいに光りましたよ!」

「電気は熱や光にもなるんだ。エネルギー変換だ。もっとちゃんとしたフィラメントを使ってガスの詰めたガラスの中に入れれば電球になるだろう」

「おお! これが発明ってやつですか!」

 電気も電球も俺たちが生まれるずっと前から発明されていた。それらのない世界に来て、一からそれらを作ってみると、なんだか感動を覚えるものだ。

 やはり科学技術の進歩はすばらしい。

「で、先輩! 私はいつまでこれを回し続ければいいんでしょうか!」

「できれば夜が明けるまで回し続けてくれたら、ロウソクの節約になるからありがたいんだが」

「先輩は私に寝ずに発電し続けろと言うんですか! 腕が腱鞘炎になっちゃいますよ!」

 発電機には、回転子を回すための運動エネルギーが必要だ。エネルギー問題はそう簡単に解決しないものだ。


「せんぱーい、そろそろ作業をやめて寝たらどうですかー」

「俺のことはいいから、先に寝といていいぞ」

 俺は発電機の改良に精を出していた。発電機を改良して、スマートフォンのバッテリーを充電できるように試行錯誤していた。

「それじゃあお先におやすみなさいです先輩ー!」

「おう、おやすみ」

 暗い部屋の中、ロウソクの頼りない光をもとに、作業に取り掛かる。


 そして明朝。

「せ、先輩起きてくださいですよ!」

「……ん?」

 今日は俺がユーカに起こされた。こういう日もあるんだな。

 目を開けると目の前はガラクタの載るテーブルだった。どうやら俺は作業を終えて寝落ちしてしまったらしい。

「先輩ったら、夜更かしは体に毒ですよー!」

「そうだな。今回ばかりはお前の言うとおりだ。ふわぁ~」

 あくびをしつつ、俺はテーブルの前にあるスマホを取る。

「ユーカ見て見ろ」

「えっ?」

 ユーカに向けて電源のついたスマートフォンを見せる。タップするとホーム画面がスライドする。

「なななななななな! スマートフォンが点きましたよ! まさかあの発電機で充電したんですか!」

「ああ。ついでにお前のスマホもひったくって充電しておいたぞ」

「なっ! いつのまに私のスマホを取ったなんて! 犯罪ですよプライベートの心外ですよ! と、そんなことより電源が点いたんですか!」

 ユーカはすぐさまテーブルのスマホを取る。そしてタップしていく。

「やほー! やっぱ現代人はスマホがないと息が詰まりますよ! 懐かしのスマホ! これでラインもゲームもし放題ですよ!」

「言っとくがユーカ」と言う前に、ユーカはスマホの画面を見て驚愕していた。

「な、ななななな! なんでネットがつながらないんだ! せっかくたまっていたドラマとアニメを(あまり健全でない方法で)視聴しようと思っていたのに!」

「お前、今自分がどこにいるか分かっているのか?」

「え…………あっ……」さすがのユーカも己の愚かさに気付いたようだ。

「ネットの情報を発信しているのは元の世界からだ。どこかわからないところからの電波なんてキャッチできるわけがない」

「そりゃそーですよね……。うぅ……。『熱血剣道乙女』の続きが気になっていたのに!」

「あきらめろユーカ。今は元の世界に帰れるかどうかも分からないんだ。そんなドラマごときでしょげてもどうしようもないぞ」

「うぅ……たしかにそうですけど」

「しかしまぁ、たしかに通信のできない携帯は不便だよな……。内蔵しているデータはちゃんと保存されていたが、クラウドにあるデータはもちろん向こうの世界にあるからなぁ」

「クラウド? エフエフのキャラクターですか?」

「クラウドコンピューティング、俺はスマホよりパソコンを頻繁に使っていたから、スマホには大してデータを入れないで、クラウドの方にデータを預けていたんだよ。だから、スマホには大したデータが残っていないんだ」

 電子書籍のアプリを起動するが、あらかじめダウンロードしていたものしか読めない。『ガリバー旅行記』、『十八時の音楽浴』、『ロウソクの科学』……こんなもの入れてたっけ、っていうものばかりが入っている。

 ほかにも勉強用の覚え書きやメモがあったが、全部頭の中に入っているものばかりなのであまり意味がない。あとは写真くらいか。

「おお! 通信しないでできるゲームならできますよ! ほら、この音ゲーできますよ!」

「ユーカ、くれぐれもこの世界でゲームをやるときは周りの目を気にしろよ。こんなオーバーテクノロジーを見せつけてしまったら面倒なことになるからな」

「はーい、じゃあ部屋の中だけでやりますよー! タタタタタタ!」

 ユーカは画面上に現れる無数の円形のチップ状のシンボルをタップしていく。アニメのオープニング曲が大音量で流れる。

「ユーカ、スマホをいじるのは一日一時間だけだ。分かったな」

「え、ええ! なんでですか! 先輩は私のホゴシャにでもなったつもりですか! 私を子ども扱いするなー!」

「そのスマホには代替えできるものはないんだ。バッテリーが駄目になったら面倒なことになる。つまり貴重品だから大切に扱えということだ」

「ま、まー。ゲームにはまってぐーたらするのもあれですしね。りょーかいです先輩!」

 ユーカは調子よく返事し、すぐさまスマホへと目を向きなおした。

 しばらくすると。

「ぎやぁああああああああ!」

「どうしたユーカ。爬虫類的な声を上げて」

「通信できないからランキングが見れない! ああ! 私ランキング上位だったのに! 抜かれていないか心配だぁ!」

 音ゲーマニアであるユーカは、音ゲー界でも噂されるほどの腕の実力者だ。“YUKA”というハンドルネームがランキングの上位に現れて、神格化されているとか。

 ユーカは何気にリズム感がすごい。持ち前の運動神経の良さがリズム感に結びついていると思われる。まぁ、リズムゲームや音ゲーに頭脳は要らないしなぁ……。

「ユーカ、もうちょっと音小さくしろよ」

「だってイヤホンないんですもん! 音ちっちゃくしたらリズム取りにくいし!」

 こんな状況でゲームに意地になっているとは、ユーカはのんきなものだ。俺も大概だろうけど。

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