16.往来の剣閃
漫画本を数冊分借りて、俺は図書館を出た。
図書館を出た先に、見計らったかのように、二人の人間が高速で目の前を横切った。
ユーカと……その師匠となった、アルビーさんだ。
二人は往来の真ん中で臨戦態勢のまま、向かい合っていた。そして数秒後二人がぶつかり合う。
「てやぁあああああああああああああああああ!」
「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
カンカンカンカン。ユーカの振る木刀と、クラウスさんの木のオタマが交差し合う。二人の力は互角に見える。
「こうなったら私のとっておきダァ! 秘技! 『3ケン分立』!」
ユーカは抜刀の構えを取る。体の重心を下げている。足が大きく開かれている。セーラー服でその恰好をするのは、なんか新鮮な感じがする。
「ウリヤァアアアアアアアアアアアアアアア!」
クラウスさんはユーカの抜刀の構えをものともせず、オタマを携えイノシシのように立ち向かう。
「そこだぁ!」
ユーカはクラウスさんが目の前に来た瞬間、木刀を抜刀した。抜刀した木刀は刹那の速さで薙がれる。
しかしその木刀の軌跡をクラウスさんは後ろに飛びかわした。木刀の先はクラウスさんの顔の前を通っていった。
「まだまだ!」
木刀が回りきったあと、ユーカはなんと左手で横殴りのパンチを繰り出した。先ほどの抜刀に倣うような軌跡で、クラウスさん目がけて拳が旋回する。
拳がクラウスさんの横腹にあたる寸前で、クラウスさんは体をブリッジさせてユーカの拳をかわした。
「まだまだまだ!」
ユーカは次に左足で回し蹴りを行う。抜刀から、拳、拳から蹴りへと流れるように隙を見せることなく行われている。
回し蹴りはクラウスさんの足を狙った。しかしクラウスさんはブリッジの状態から、地面を蹴って、バック転して、その場から緊急離脱してユーカの蹴りをかわした。
「なぁ――!」
ユーカの“剣”と“拳”と“健”脚の三連撃があっさりとかわされてしまった。
「なかなかやりますじゃないですか師匠!」
「…………ぁぁ!」
「でも、師匠もそろそろお疲れのようですね。それじゃあ、私が、師匠を安らかに眠らせてやりますよ! いざかくごぉ!」
ユーカは突っ込んでいった。
そしてクラウスさんの瞬間的な攻撃により、ユーカは吹っ飛ばされた。
「ぐはっ……」
「ユーカ、大丈夫か」俺は目の前の地面に倒れるユーカに声をかける。
「あ、先輩……。来ていたんですね……」
「全くお前は。往来の真ん中で暴れまわりやがって。また捕まることになったらどうするつもりだったんだ」
「そんなことは師匠に行ってくださいよ。師匠が逃げ回ったりするからこうなったんですよ!」
俺は後ろの師匠――ことクラウスさんを見る。クラウスさんはちょっと元気が出たような感じだ。ぼさぼさの髪で表情がよくわからないが。
「どうだユーカ。お前の剣の力は上がったか?」俺は尋ねる。
「うーん、それがよくわかんないんですよ」
「わかんない?」
「ええ。だって今日はずっとただ師匠とチャンチャンバラバラしていただけですからねぇ。これで剣の腕は上がったんでしょうか」
「俺は剣士じゃないからわかんないけど、でもお前以上の相手とやりあってたんなら、力はそれなりにつくだろうな」
「おお、たしかに師匠は私以上に強くてびっくりですからね。その師匠を超えれれば私が最強というわけですか」
「最強とか痛いこと言うんじゃない。とにかくクラウスさんを倒してやれ。それがお前の修行だ」
「わかりましたー。それじゃあとりあえず今日は日が沈むまで頑張って見まーす」
「おう。がんばれ」
ユーカはそう言ってクラウスさんのもとへと駆けだす。
「いやああああああああ!」
「テヤアアアアアアアア!」
こんなふざけたやり取りを見ていると、魔王とか魔女とかの話が何とかなるんじゃないかと思えてくる。物事はそんなにうまくいかないとは思うのだけれど。




