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15.図書館の魔女 其の伍

 魔女。それはこの世界に太古の昔から存在していた種族である。

 魔女は人間と共存していたそうな。人々から一目置かれる存在という感じだったそうな。

 でも、そんな魔女の地位が地に堕ちたのは――魔王が倒されてからだ。

 魔王が倒され、世界は平和な世の中となった。魔物も少なくなって、人々は苦しみから解放された。

 そんな人々は、平和と対を成す“魔”のものに嫌悪感を抱くようになっていた。散々魔王に苦しめられていたので、魔の者を毛嫌いするようになった。

 そして、“魔物”“魔王”と関係のなかった魔女も、なぜか嫌悪されることとなった。

 もともと、人々は魔女に対して少なからず恐れを持っていた。その恐れが魔王のいざこざによって湧き上がって、嫌悪されるようになったそうな。

 このようにいわれのない嫌悪を抱かれることになった魔女たち。彼女たちは怒り、抗議を始める……こともなく。

 魔女たちは自然とその地位を衰退させていった。その原因は、魔王のいざこざで男版の魔女たる『魔法使い』が極端に減ったこと。

 そして、魔女の『長寿』もその原因となった。

 長寿……何百年何千年と生きる魔女は長寿ゆえ、人間の生活スタイルとかけ離れている。魔女の生活は、こういうのもなんだが、内向的なものである。

 つまりはまぁ、あれだ。現代日本でも問題視されている、結婚率の減少だ。男が少なくて、女の方も結婚する気がないなら減る一方だ。いや、長寿だから減る数は少ないのだが。

 しかし、魔女の方の人間が……“人間側”に成り代わっている現象があるみたいだ。封建的な魔女の暮らしを捨てて、人間になる……というのが、魔王を倒された時にはやったそうで。

 まぁそんなこんなで、魔女の数は魔王が倒れてから少数となったのだ。

 数の少なくなった魔女たちは、魔王が倒されてもぬけの殻となった北の荒城を拠点とし(もともとはその荒城も魔女が住んでいたとこだったそうだが)魔女たちは隔離されたように、そこに住むようになったようだ。

 その流れは何年か時を経過させて徐々に行われ、まるで川の道筋のように、自然とそういうふうになったみたいだ。現在のこの世界の魔女は、数少ない彼女らが寄り添うようにして、北の荒城で、人々と隔離して暮らしている。


 その魔女の少女が目の前にいる。名前はイージスというそうだ。

 いや、少女と俺はさんざんイージスのことを呼称していたが、魔女だから見た目以上に年を取っているのかもしれない。魔女は長寿ゆえ、俺たちの成長よりもゆっくりとした時間で体が成長するそうだ。極端な話、イージスが100歳以上のお年だという可能性もあるわけだ。女性に年を聞くのは失礼なので訊けないものだが。しかしユーカ並みの童女スタイルで100歳以上って……この世界を作ったやつはどんな趣味をしてやがるんだ。

 目の前の魔女少女ことイージスはただ熱心に本を読んでいた。一体何の本を読んでいるのか。そういうことは訊いてもいいんだろうか。

「何を必死に読んでいるんだ?」

「…………」

 返答はなかった。

「……教えない」

 と思ったら遅れて返答する。恥ずかしがり屋なのか、天然なのか、それとも耳が遠いのかよくわからん。

「ここの隠し部屋は、どういう目的の部屋なんだろうな。この周りの本は一体何についての本が並んでいるんだ?」

「…………」

 またも黙り込むイージス。

「私は、勇者を探している」

「え?」

 突然話される。勇者って。魔王を倒したと言われる勇者ウルスラのことか。魔王との対決の際、魔王と対消滅したと言われる。

「私は、勇者を探す使命がある」

「勇者を探す使命? でも勇者は倒されたんだろう?」

「でも、いるかもしれない。もしかしたら」

「勇者ねぇ……」

 俺はため息交じりにつぶやく。イージスはなぜか勇者を探しているようだ。

 って、その話が俺のさっき問いかけた部屋の話とどうつながるんだ? 会話のキャッチボールが破たんしていないか。

「もしかして……ここの部屋の本は、勇者のことについて書かれた本とかなのか? 勇者を探す手がかりとしてここを調べているとか?」

「…………」

 イージスは黙っている。しかし、勇者のことについて調べているんなら、俺の推測はあながち間違っていないはずだ。イージスが嘘をついてない限り。

「しかし、どうして勇者なんか探しているんだ? そんな、いるかいないか分からない奴なんかを。今の世の中には魔王もいないんだろう? だったらなぜ、勇者を探すんだ」

「…………」やはり答えない。

 イージスは本をちょうど読み終えたのか、本をぱたりと閉じて立ち上がる。

 その本と、また別の本を計6冊、それを積み上げて担いで、そして頭の帽子の中へと放り込んだ。どうやら帽子はドラえもんのポケットよろしく4次元空間になってるみたいだ。さすが魔女。

 本を収めたイージスは体を俺の方へと回して、そのまま進んでいく。俺のそばまで来ると、

「あなたも、一緒に出る」

「え?」

 腕を掴まれてともにその部屋を出ることになった。

 なんだ。おなかが空いたからおうちに帰ろうというわけか。

「な、なぁ……。さっきの質問なんだけど、どうしてあんたは勇者を探しているんだ?」

「……………………よぼうせん」

「え?」

 イージスはその後、何も言わなかった。ただ俺を引いて、先ほどの地下の図書館へと、そして地上の図書館へと進行していくだけだった。

「あそこには、もういっちゃダメ」地上の図書館に戻ると、イージスは手を離して言った。

「あそこって、さっきの秘密の部屋か?」

「あそこのことを黙っているなら、あなたを抹殺しない」

「抹殺って……」見かけによらず恐ろしいことを言うやつだ。さっきも勇者を殺すとかよくわからないことを言っていたし。

「…………さようなら」

 そう告げて、イージスという名の魔女は図書館を出ていった。

「ほんとうに、何だったんだ、あの魔女は……」

 物語的に考えると、ああいうのはのちのちの物語に大きくかかわってくるんだろうな。ネタバレみたいだな。

 俺はイージスが去ってから、ちょっと先ほどの秘密の部屋に戻ってみようかなと思ったが、やっぱりいかないことにした。イージスが行っちゃダメと言うもんで。お手付きだ。

 なので俺は仕方なく、近くにある漫画コーナーの本に手を伸ばす。窓から夕日がさしている。もう夕方だ。ユーカ用に漫画本でも借りて帰ろうか。

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