13.図書館の魔女 其の参
そこにはまた本棚の並んだ部屋があった。
そしてその部屋の中央には、先ほどの魔女風少女と、その子を中心にして描かる半径一メートルほどの紋様の付いた円陣――いわゆる魔法陣があった。
「おっ」
中央の少女と魔法陣の異様な雰囲気にさすがの俺も飲まれそうになる。
その俺の驚きを察知したのか、少女はくるりと顔をこちらに回した。
その顔は、西洋人形のように端正なつくりだった。水色の長い髪が顔に連動して流れる。顔の表情は人形のように固まった、無表情のものだった。しかしなぜか愛らしい、まるで人形のように。
頭には魔女のトレードマークである黒い三角帽があった。服もそれに合わせたような黒いものがぶかぶか状態でかぶせられていた。
少女はこちらを見つめていた。俺も見つめる。辺りの空気が凍って時間が止まる。
って俺は何をしている。すっかり場の空気に呑まれている。魔女だけに魔性というやつか。目の前の少女がほんとうに魔女なのか分からないが(見た目は魔女と思うが)。ただのコスプレだという可能性も無きにしも非ずだ。
とにかく、いろいろとこの子とこの場所について知りたい。まずはそこの魔女少女に話を聞いてみるか。
「あの……」
俺は声をかけながら、部屋の中へと入っていく。
そこで俺は油断していた。すっかり注意力を失っていた。
「私に近づいてはいけない」
「え――」
その少女の淡々とした声に、俺は動作を停止させた。
しかし、停止するのが遅かった。
俺は足元を見ずに進んでいたため、気づかなかった。足元の魔法陣に。俺の足先が、魔法陣の外円にちょっとだけ触れてしまった。
そのとき、魔法陣がピカッと黄色く光り輝いた。魔法陣の円の線上から垂直に光が昇る。何が起こるんだよ一体。これはもしかしてヤバいんじゃないかと思う間もなく、光は輝く。
「あなたが悪い」
「え?」
「私の防壁を侵食した。その報い」
光の壁の向こうの少女が言葉を紡ぐ。
「自己防衛魔法陣――開放」
少女の無機質な声が終わると、光の色が変わった。
光は黄色となり、そしてそれはジグザグの線を描くプラズマとなった。これは電気だ。魔方陣の外円に沿って電気が走った。
一瞬で、それが雷レベルの出力の電気であることが見て取れた。しかし、それが視認できたのはほんの一瞬で、反射的に移動していたとしても、逃れられぬほどの速さで、全身に電流が走った。
ちょっと。どういうことなんだよこれ。
まさか――目の前の魔女風少女に俺は殺されるのか。ふざけるなよ。
俺はこんなところで終わらないんだ。どんな困難苦難も乗り越えて、どんな攻撃も、槍が降ろうと、アルマゲドンが来ようとも、俺は乗り越えるんだ。それこそが成功者だ。
なのに俺はこうもあっさりと殺されてしまうのか。
「かはっ……」
薄くなる意識の中、俺は床に背中から盛大に倒れ込んだ。




