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12.図書館の魔女 其の弐

 地下には小さな書棚の詰まった部屋があった。

 本棚の中に収納された本を階段から瞬時に眺めるとそれは風化したような、古臭いものになっている。今にも朽ち果てそうなほど、古い色に染まって、ホコリをかぶっている。

 その忘れられた場所へと降り立とうとしたが、俺は一瞬逡巡する。

 あの、魔女の少女は一体どこにいったのかと。

 地下の部屋はこの書棚が6列並んであるところだけで、ほかに部屋もなく、そして部屋の形も立方体でどこにも隠れる場所がない。本棚も入り口側から見て縦に並んでいるので、本棚の端の後ろに隠れない限り隠れることはできないと思うのだが……そんなところに隠れてなにをしようというのだ。

「ふむ……」

 俺は床を見る。床はホコリに覆われ、木の床がちょっと灰色っぽく見えている。すっかりホコリにコーティングされているようだ。雑巾かモップとかで今すぐきれいにしたいところだが、このホコリはある重大なことをほのめかしていた。

 推理小説で雪の上の足跡とかが証拠になったりするが。

 その要領で、ホコリの上を通った跡が、あの魔女風少女の歩む道の証拠となった。

 俺の手前の床には、誰かの――というかおそらくあの魔女少女の、足跡がホコリによってくっきり残っていた。足跡は二足が互い違いに進んでいる。俺はその足跡を踏まないよう、つま先立ちで歩いて足跡をたどっていく。足跡は縦に並ぶ本棚の端まで進み、そこから2歩進んだところで分岐していた。

 一方は右側に続き。

 一方はなぜかまっすぐ向かいに壁に沿って立てられている本棚へと続いている。そっちの足跡の行き着く先はなんと本棚の下じきになっていた。これは一体どういうことか。まるで、本棚を無視して、本棚に、というか向こうの壁に突っ込んでいったという感じだ。

 まさか。本棚は幻覚で実はホログラムみたいにすり抜けられて通れるとか……。

 俺は思いつきでその本棚へと向かい、直進するが……もちろん、それはただの本棚で、通り抜けることはできなかった。しかし本棚の下じきになって確かに足跡がある。この足跡は本棚をどかさない限りつけられないと思うのだが……。こんな大きな本棚を、あの子一人の手で、しかもあまり足跡も付けずに移動させることができるものなのだろうか。

 俺はそう思いながら、足跡をさかのぼって分岐点へと戻る。そしてもう一方の足跡の進路の、右側の足跡をたどっていく。

 そっちの足跡も、壁を背にして掛けられた本棚で終わっていた。しかしこちらの足跡は本棚の下敷きとはなっておらず、ただ手前に停止してあるだけだ。

 つまり推測するに、あの子はここで一時停止した。本棚の手前で停止した。ということは、本棚の手前で停止して、本を取った……りとかしていたのかな。

 あの子は何か本を取ったんだろうか。俺は本棚を上から順に、左から順に眺めていく。それらの本も、長年触られていないからか、ホコリがかぶせられていた。そう、全てにほこりがかかってある。そのホコリのかかった本を順にチェックしていく。A,B,C……J,K,L……と確認していくと、その6段ある本棚の全段のいくつかの本に、手のあとがついてホコリがぬぐわれているものがあった。それらを、あの子が取ったのか。本の題名を見ていくが……一貫性があるようにも見えない。なぜあの子は本を見ようとしたのか。

 いや、見たのじゃないのかもしれない。あの子はついさっきここに降りてきたばかりで、本を読む時間はさほどなかったはずだ。もしかして、よく映画とかである、本棚の本を引いて隠し部屋を開けるとかいう……そんな仕掛けがあるんだろうか。

 しかしそんな仕掛けがあったところで、俺はその仕掛けを解放する解法を知らないんだ。

 途方に暮れるしか……

「ん?」

 本棚の一番下を見ていたら、一枚のメモ用紙を見つけた。

 そのメモ用紙にはアラビア数字で数字が書かれていた。

「これはあの子のなのか……」

 今更だが、この世界ではどうやら数字は元の世界でメジャーであった1,2,3……のアラビア数字を使っているようだ。算術に不便なローマ数字の方は時計に刻印されたものしか見受けられなかった。

 そのアラビア数字で、メモ帳には『544 144 256 192 513 16』と羅列されてあった。

 これはもしや、この本棚の仕掛けを解くヒントなのか。数字を眺めてみるが、数字ごとにはなんの規則性はない。いろいろと頭で考えつつ、本棚のほうにも目を通してみる。

 正面の本棚を見て分かったことは、本棚のどの棚にも、ちょうど10冊の本が並んでいることだ。これはなにか意図があるのか?

 10冊の本と、ランダムな数字……

「あ!」

 俺はひらめいた。メモに書かれている数字を一つづつ二進数に直し、10桁の二進数にすると……

『1000100000 0010010000 0100000000 0011000000 1000000001 0000010000』

「なるほどな」

 ためしに一番上の段の本棚へと目を向ける。その本棚の10冊の本を最初の10桁の二進数(1000100000)と当てはめ、1にあたる部分の本を手に取ってみる。

 本の背中をつまんで引っ張ると、カチリという音がした。

 本はひものようなものに引っかかって、音が鳴った状態から先へ引っ張り出すことができなくなっている。とにかく、スイッチ的なものが作動したようだ。

 おそらくこの要領でスイッチを押していけば仕掛けが作動するんだろう。どれどれ……2進数にした1と0の数字を段の本に置き換えて、1の部分だけ引張っていく。カチリ、カチリ、カチリ……と上の段から下の段へ順番に本を引っ張っていった。

 すると、ゴゴゴゴゴゴ……と、重いものが移動する音がする。それはちょうど向こうの、先ほど向かっていた方の本棚の方から聞こえる。見てみると先ほど見ていた本棚は、何かの機械の制御によってか、床へと沈んでいる。本棚はゆっくりと床へと落ちていき、最終的に本棚のてっぺんが床と同じ位置まで沈んだ。

 本棚のあった場所が空けると、その背後にあった部分が解放される。そこは壁がくりぬかれて、一つの通路のような空間となっていた。その暗い通路は奥まで続いていた。

「なんだこれは。こりゃ謎解きゲームかよ」

 俺はとりあえず現れた暗い通路の入り口に足を運んだ。暗い通路の中は明かりの一つもなかった。しばらくすると、その通路の先に、灯りのともる部屋が見えた。なんだ。いよいよ秘密の部屋にようこそというわけか。

 とにかく俺はその光差す部屋の中へと入っていく。

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