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3.河原の戦い 其の弐

「ふー、なかなか美味なお茶とクッキーですなぁ」

「はは、お茶のおかわりはたくさんありますので、どうぞ……」

「ほほう! 苦しゅうない苦しゅうない!」

 ユーカは図に乗ってやがる。

 俺たちは先ほどの川辺より少し歩いたところにある、川の近くの丘に建てられたおじいさんの家に来ていた。

 そこで魔物様ことユーカのご所望どおり、おやつをいただいた。

 おもいっきり中世のヨーロッパ風の小屋。木製の小屋の家具はほとんど木でできている。居間にある木製のテーブルと木製の椅子に着き、俺たちはティータイム。

 何だこの状況は。

「さぁ! 魔物様の私を崇めなさい! ユーカ様とお呼び!」

「ユーカ様ぁ!」

 ユーカが馬鹿なことやっている間に俺は考えておこう。いろいろと。

 まず、俺はすっかり忘れていたのだが……。

 どうやらこの世界の人間は(まず人間がいたことを考えなければいけないが)、俺たちと同じ言葉をしゃべっている。

 俺たちと会話できるんだ。すごく都合よく。

 これは一体どういうことか。俺たちが対話していたおじいさんは実は日本人なのか。風体はおもいっきし中世のヨーロッパ人ぽかったけど。

 そして魔物様と言っている。そしてこのヨーロッパ風の家。

 すべてが『中世ファンタジー』風のモノとしてセッティングされているのだ。

 つまりだ。俺が推測するにこの“アナザー”の世界は『作られた世界』なんだ。

 そうだ作られた世界だ。作られた世界、その根拠となる説を挙げるとすると……

 まず一つ目は『夢』だという説。これは夢というオチ。

 案外これが有力かもしれない。しかし夢というのは未知なところが多いものだ。この可能性はあとで考えるとして……。

 二つ目は……『ゲームの世界』だという説。

 『なんやかんやあってゲームの世界に来ちゃった』って話は最近ではフィクションではよくある話になっている。ゲームじゃなくとも『仮想世界』という世界も考えられる。というか現実世界でさえも仮想世界と考えることもできるから……いや、そんなこと考えたらきりがない。しかしこの可能性もあんがい有力かもしれない。『ゲームの世界』もしくは『仮想世界』に入る話は現実でも研究されていたりする。バーチャルリアリティやオーグメンティッドリアリティの話は聞いたことあるし。マトリックスのような頭に電極さして仮想世界へダイブなんてことは今の(俺たちのいた)世界では可能なんだろうか。いや、待てよ。そう言えばスーパーコンピュータを使えばいろいろなシュミレートができると聞いたことがある。天気予報や、果ては宇宙の誕生なんかも……。つまりものすごいスーパーコンピューターを使えば『世界』を構築できるんじゃ……

 なんか話が大きくなりそうなので、三つ目はの説はと……

「ぎゃっはっはー!」

 ユーカは未だ威張っている。

 ユーカを見て思い出した。そうだ。困ったときは行動すべしだ。

「おじいさん、ちょっと失礼します」

「お、トイレかい、キミ」どうやら俺の方は普通の対応みたい。

「いえ、家探しさせてもらいます」

 そう言って俺は立ち上がり、家をくまなく調べる。

 さぁて、どこに隠しカメラがあるかなぁ~。

 どこに電気プラグあるかなぁ~。

 どこに台本あるかなぁ~。

 俺は傍若無人に家の中のモノをひっくり返していった。

「ちょっとトマル先輩! 突然なにをやさがししているんですか! へそくりでも探してるんですか!」

「いやなに、ちょっと隠しカメラや電気プラグがないかなと思って」

「かくしかめらぁ~。ぷっぷっぷ、先輩~こんなファンタジーの世界でカメラも電気プラグもあるわけないじゃないですかぁ! 先輩オトボケちゃって!」

「オトボケナスはお前だ。いいかユーカ。もしかしたらこれは壮大なドッキリというオチかもしれないんだぞ」

「ど、ドッキリ! そ、そんな……私と先輩はゲヒンなテレビ局のいんぼうによってもてあそばれてたんですか! 私のマヌケな姿が地上波にながれちゃう!」

「そうだ。俺たちはあそばれてるんだ。いままでのは全部テレビ局のスタッフが演出したヤツなんだ」

「ほぇ~。それじゃあさっきのスライムもですか」

「ああ。あれはよくできたCGだ」

「じゃああのおじいさんは」

「あれもテレビ局の工作員だ」

「な、なんだって!」

 言われてユーカはおじいさんの方へ向かう。

「おじいさん! へこへこしときながらちゃっかり私のことをリポートしてたんですね!」

「え……あの、魔物様……。一体何を」

「こらぁ、この衣装もメイクも作りもんだろぉ! 化けの皮をはがせぇ!」

 ユーカはおじいさんの白い髪と髭を引っ張る。

「や、やめてください魔物様! こ、これは地毛なんですよ!」

「嘘をつくな! テレビはオオ嘘つきだぁ!」

 うむ、この一連の出来事をかんがみるに、『実はドッキリだった』ていうのはないみたいだな。


「うーんむしろドッキリとかだったらおもしろかったかもなー」

 ユーカはぼんやりといびつな形のマグカップの中のお茶を飲んでいた。

「あのぉ、魔物様、先ほどのはいったい……」おじいさんが引っ張られた髪と髭を整えながら訊く。

「ああ、あれは魔物様の儀式なんです」と俺は応える。

「ぎ、儀式ですと」

「まぁ定期的なモンなんで気にしないでください」

 なんて適当におじいさんをあしらう。

 しかし、ドッキリじゃないといったいどういう訳か。この世界は。

 やはり本当にワームホールを通り抜けてやってきた別の宇宙のとある惑星(ほし)か、それとも仮想世界なのか。

 そんなことを思っていると、突然――ドン、ドン、と戸を叩く音が。

 なんだ。誰かが戸を叩いているのか。

「こ、この気配はもしや……」

 そう言っておじいさんはいまだドンドンと鳴り続ける戸のもとまで歩んできた。そして戸の隙間から外の様子をうかがっている模様。外の様子を見たおじいさんは形相を変えて青い顔になっている。

「た、大変です! 魔物が現れました!」

「魔物って……」ふと魔物様と呼ばれているユーカの方を見る。

「なーんですかおじいさん、魔物様の私になんのごよーですか。なに、外に何かあるんですか。どれどれ……ぬわっ!」どうやらユーカも外の様子を見て驚いている。

 どうやら外で何かが起きたみたい。

 俺も続いて戸の隙間から外をうかがってみた。そこには……ブタの顔をした、ヒト型の黄ばんだ表皮の、棍棒を持った攻撃的な魔物。

「ゴブリンですよ! 魔物のゴブリンが襲ってきたんですよ!」

 そう言うとうわーっと叫びながら戸から逃げていくおじいさん。

「わわわ……スライムぐらいならなんとかなるがあんなにゴブリンが来られちゃたまらん……。ああどうしよう……」

 おじいさんはわなわな震えている。

「トマル先輩、どうしましょうか」

「どうするも何も、道は切り開かないとできないからな」

「つまり困難に立ち向かえ! 突き進め! ということですか」

「そうだ。そうやって人類は進化してきたんだ」

「それじゃああのゴブリンをやっつければいいんですね」

「まぁな。とりあえず倒せば面倒事はなくなる」

「じゃー頑張りましょう先輩」

「俺は戦わんがな」

 俺は戦わない。不戦勝の男だ。

「おじいさん!」

 ユーカはおじいさんの元に歩み寄る。

「ま、魔物様……」いつまでユーカは魔物様として崇められるんだろうか。

「おじいさん! 魔物様たる私があのゴブリーンを倒してきましょう!」

「え、倒してくれるんですか! 魔物様!」

「ええそうです! 高尚なる魔物様がヨワイモノイジメなカトウ魔物に制裁を加えてやります! 私は魔物の味方だけど、ルールのなってねぇ魔物は許さねぇ! というわけであのゴブリンに制裁を加えてやります!」

「おお! 魔物様! なんて慈悲深き高尚なお方!」

「さぁおじいさん、おいしい夕食を用意してのんびり待っててください! ゴブリンを一匹残らず駆逐してきますから! さぁ行きましょうトマル先輩!」

「ああ」俺は冷めた声で返事する。

「レッツゴー!」

 ユーカは勢いよく戸をあけて外に出る。

 0コンマ1秒後。バタンと戸を閉めて外から中に戻ってくる。

「あ、あのぉ、武器貸してもらえませんかぁ……」とユーカはおじいさんに頼んだ。

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