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4.街の人形劇 上

 酒場にて人身売買を行う男たちを懲らしめ、その男たちを自警団へと突き出した後。

 俺たちは再び街の広場に向かっていた。

「先輩! またお買い物ですか!」

「そうだな。まだいろいろと物を買っとかないといけないしな」

 街の中央の石畳が円形に広がる広場。広場には先ほどと変わらず店が並んでいる。

 広場を歩いていると、小さな子供たちがぽつぽつと、広場の中央へと向かっているのが見えた。子供たちは「もうすぐ劇が始まるぞ!」とたがいに叫び合って走っている。

 ふと、街の中央へと目を向けた。中央には子供たちの人だかりができていた。

「ん? 先輩、劇に興味がおありなんですか?」

「ああ。この世界の劇なら、なにか貴重な情報とか手に入るかもしれんからな」

「じゃー劇を見に行きましょうか! レッツゴー!」

 子供たちの流れに付いていくようにして、俺たちは広場の中央へと向かった。


 広場の中央の子供たちのたかりの中心に、小さなステージがあった。

 それはおそらく人間用のステージではない。それよりも小さなもののためのステージだろう。黒い幕で覆われた箱型のステージのバックには、『ブレイブマン・テイル』と一枚の紙の上にかかれていた。

「えと、ぶらべたれ? なんだかおかしな名前の劇ですね……」

「ブレイブマンテイル、勇者の物語だ」

「ほー勇者の物語ですか! なんかいかにもファンタジーって感じですね」

「ああ。どうやらこの世界には勇者という存在と、魔王と言う存在がいたようだ」

「勇者と魔王ですか!」

 魔王……そういえば、カールの街を出る前の日にあの黒づくめのやつが“魔王の復活”がどうとか言っていた。

 その魔王と、それを倒したであろう勇者について知るためにも、俺はこの勇者ゆかりの地、ウルスラグナの街に来たのである。

 子供たちは「にんぎょうげきがはじまるぞぉ!」と叫んでいる。どうやらここで行われる劇は“人形劇”のようだ。

「まぁユーカ、子供たちの話によると、ここで人形劇が行われるみたいだ」

「人形劇ですか! 人形劇なんて生で見るの初めてですよ!」

 かくいう俺もテレビ以外で見るのは初めてである。一体どんな劇が展開されるのか、童心に戻った気分で(まだ年齢的にはギリギリ子供だろうが)期待に胸を膨らませる。

 おもむろにオルガンの音が鳴った。どことなく懐かしい雰囲気の音楽に乗って、一体の人形が小さなステージを歩いてきた。もちろん、人形が自ら歩いてきたのではなく、遠くからでは視認できないくらい細い糸で、黒い頭巾をかぶった黒子に操られてきたのである。

 その一体の人形は黄色い髪……というか毛糸が生えていた。漫画のように極端なきりっとした顔立ちをしている。服は白い簡素な布服を纏ったものの上に、マントを付けたものを取り付けている。材質はフェルトっぽい。そして背には剣を携えており、おそらくそれが『勇者【ブレイブマン】』の人形なのだろう。

 勇者の人形がお辞儀をすると、ステージに黒幕が下がり、ステージ内が隠される。子供たちが固唾を飲んで次の展開を待つ。

すると、のどかな音楽とともに、黒幕がゆっくりと上がっていった。ステージの背景には“森の中の小屋の中”の絵が描かれていた。その絵の手前には小屋の中の家具(もちろん人形に合ったサイズのもの)が並ぶ。そして中央のベッドの上には、黄色い毛糸を生やす人形が眠っていた。

「むかーし、むかーし、王都より西の辺境の村に一人の男の子が住んでいました」

 優しい口調の語り部の声がした。ベッドの上の“一人の男の子”は眠ったままだった。

「ぐぎゃー!」

 突然、獣のような声が聞こえたかと思うと、ステージの両サイドから、オオカミの顔をしたモンスターの人形が現れる。たしかあの容姿の魔物は『ワーウルフ』という名の魔物だ。

 ワーウルフの人形の襲来により慌てて起きだす男の子。男の子にかぶりつこうとするワーウルフ。そこに、お父さんお母さんらしき人形が現れて、男の子の盾となる。「おとうさん!」「ウルスラ! お前は逃げるんだ!」「でも!」「いいから早く!」結局逃げ出す男の子。

 そこから場面が変わって、背景も変わって、荒廃した村の情景が現れる。

「ワーウルフの襲来により、男の子の村と、村に住む人たち、そして家族を失って、男の子は一人ぼっちになってしまいました」

 突然のシリアスな展開に子供たちは静かになった。

「一人になった男の子は途方に暮れて、森を歩いていきました。食べるものもなく、着る服もぼろぼろに、体もぼろぼろになって、地面に倒れ込んでしまいました」

 男の子の人形がステージの床に水平に倒れる。悲しい音楽がバックグランドで流れる。

「そこに一人の老いた剣士、リュー・ブレイドが現れました」

 白髭のしわの付いた顔の男の人形がステージ端から現れた。それはゆっくりと進行し、男の子の前に着くとかがみこんで男の子を介抱する。

 そこで場面が変わる。

「リューは男の子を小屋で寝かせました。男の子はリューにお礼を言い、そして自分の村のことについて話しました」

「リューは、そのワーウルフは“魔王オルフィリウス”が送って来たもので、このトータルグランド(注:今俺たちがいる大陸)全域が、魔王オルフィリウスの手によって支配され、人々が苦しんでいることを教えました」

「そう。100年も昔の世界は、魔王オルフィリウスによって征服されていたのです」

 だだだーん、とオルガンが恐怖のメロディーを奏でた。その百年の昔の世界を再現するように、おぞましい背景を前に、様々な魔物の人形が人々を虐げるシーンが展開された。子供たちの大半が、その情景に感嘆して声を上げていた。

「ぎやああああ! 魔王によって世界が制服されちゃいますよ!」

「お前は子供か」隣のユーカも子供と一緒になって叫んでいる。

「男の子はそんな世界を憂えて、村と家族の仇を討つため、魔王オルフィリウスを倒すことを決意しました」

「リュー・ブレイドに剣の手ほどきを受けてもらい、男の子は剣の腕を高めていきました。小さな男の子は日に日に強くなっていき、その剣の腕は師匠のリュー・ブレイドを越えるほどになりました」

「男の子は自分の幼い名前を捨て、“ウルスラ”という名を名乗りました。そして、師匠のリュー・ブレイドのもとを離れて、勇者となって、魔王オルフィリウスを倒す旅へと向かいました」

 『ウルスラ』と言う名の黄色の髪、いや、金髪なのか? の勇者は草木の生い茂る森を、荒廃した砂漠を、湖畔の草原を、険しい山々を、火を噴く火山道を、歩いていく。手書きの背景がスライドしていく。

「途中で、魔女と出会い、仲間となり、強大な敵と戦い、困難に立ち向かい、苦難し、時に仲間と笑いあい、あ、あとこのウルスラグナの街に立ち寄り、ちょっとしたエピソードがあって……」

 ここからの話はなんかグダグダとしているので中略ということで。


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