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2.街の朝

 俺たちが今いる街は『ウルスラグナの街』。

 カールの街より少し北に位置する街だ。タートルネック教に目を付けられた(と思われる)俺たちは、厄介事は嫌なのでとりあえず別の街へと拠点を変えたわけだ。

 この街に来たのは厄介事から逃げるためと、もう一つ理由があった。

 それは、この『ウルスラグナの街』が“勇者ゆかりの地”として謳われているからである。

 とにかく俺たちは、元の世界に帰るため、いろいろと調査をしなければならない。と言うわけで、いろいろとこの世界において“怪しい”ところを調べて行こう――その始まりとして、近くにあった“勇者ゆかりの地”に向かおうとしたわけである。


***


 朝。俺は定刻6時より一時間後の7時に起きる。

 ベッドで寝ているユーカを見やる。ユーカはくーくー寝息を立てながら爆睡していた。

 昨日はユーカの出所祝いとかなんとかで、どんちゃん騒ぎになったからなぁ。

 その形跡として、テーブルには昨日の食事の跡が。汚れた皿と飲み乾されたビンが並んでいる。あのビンまさか酒が入っていたのか……。まぁこの世界に未成年の飲酒を取り締まる法律はないようだから気にしないでおこう。

 さてと、今日はどうしようか。

 まずは俺はいろいろ調べたいことがある。この世界について。知識は俺にとっては武器みたいなものだから、ストックを確保しておきたいものだ。だから図書館でもいこうかな。なんて思ってからだを起こそうとすると。

「せんぱーい。いっちゃだめですよー……」

「…………」

 ユーカが寝言をつぶやいていた。

 ちなみに、ユーカは俺の寝ていたベッドの中に潜り込んでいる。なぜだかわからんが、酒がまわって間違って入ってきたのだろうか。よっぱらいのおっさんみたいだな。

 ユーカの顔を覗き込んでみる。ユーカは幸せそうな顔をしていた。

 その幸せそうな顔に大福のようにふっくらとしたほっぺた。俺はそれをふいにつついてみる。つんつん。

「ぎゃ何をする曲者(くせもの)!」

 とユーカは瞬発的に起き上った。こいつは忍者のごとく危険を本能的に察知できるのだろうか。

「せ、先輩私のほっぺがなにものかにつつかれた気がしたのですが、曲者はどこに!」

「いや……。曲者なんかいないぞ」

「じゃ、じゃあまさか……先輩がつついたんですか」

「ああ、なんか暇だったからな。特に意味はない」とぶっきらぼうに答える。

「先輩が私のほっぺをぷにぷにと……。って私はなぜか先輩と一緒のベッドにいる! これはどういうことなんだ!」

「それはこっちが訊きたいことだ。ここは俺のベッドだと昨晩決めていたじゃないか。もぐりこんできたのはお前だ」

「それじゃあ私は……先輩といっしょに寝ていたんですか!」

 そのときポンと蒸気船のように煙を上げたユーカ。なぜか顔も赤く染まっている。

「せ、先輩……その、えっちなことは、しなかったんですか……」

「俺がお前に対してそんなことするか」

「そ、そんなこといって……夜中にこっそり私の唇を奪おうとしていたりしたんでしょう!」

「お前は自意識過剰か。そもそも布団にもぐりこんできたのはお前なんだから俺がとやかく言われる筋合いはないんだぞ」

「た、たしかにそうですけど……」

 ユーカは顔を下げてじっとしていた。

 俺とユーカは黙っていた。宿屋の中には張りつめた糸のような静寂が支配している。ユーカがしゃべらなくなるとこうも静かになるもんかと思っていたら、張りつめた糸を切るように、窓の向こうから小さな破裂の音が聞こえた。

「あ、なにか音がしましたね! なんなんでしょーか」

 とユーカはもじもじとした態度を180度切り替えていつものやんちゃモードで窓の方へと歩いていく。俺もベッドから窓の外を眺める。窓の向こうの景色には街の広場が映っている。その広場にはいくつかのテントが並んでいた。

 パン。また破裂の音が。これは花火の音なんだろうか(この世界に火薬というものは存在したのか?)。

 街の状況をかんがみるに、おそらく、今日は街で祭り的ななにかが行われているんだろう。

「先輩! あれはたぶんお祭りですよ!」

「そうだな」

「行ってみましょうよ先輩! お祭りワッショイですよ!」

「そうだな。俺は今日は図書館に行きたいんだが」

「よぉーし行きましょう先輩!」

 俺の言葉に耳を貸さず、ユーカはばっとベッドから飛び上がり、そして俺の腕をつかんで、いつものように砂埃が舞うかのごとくの高速で部屋を出て宿屋を経由して宿屋を出て街へと飛び出る。迎える朝の太陽に目もくれずユーカはお祭りの場所へと駆けていく。

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