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2.河原の戦い 其の壱

「は、早く先輩出してくださいよぉ……うわぁあん、私、排泄物になっちゃうんですか! ヒロインなのに!」

「そうだ、今日からお前はクソ野郎だ」

「いやぁあああああ!」

 この世の終わりのように叫ぶユーカ。そりゃ叫びたくなる気持ちも分かるが、こうなったのもあいつが勝手に行動したせいだ。つまり自業自得の因果応報。どうなろうが俺の知ったことではない。

 しかし、ユーカがリアルクソ野郎になってしまったら……今晩の夕食に悪影響が出るはずだ。というかリアルクソ……つまりそんなユーカとは並んで歩きたくない。

「分かったユーカ。何回目になるかわからんがお前に恩を売っておこう」

「さっすが先輩ありがたやー!」

 これでこいつが俺に借りた恩の額は1億達成だな。つまり俺はこいつから1億もらうことが約束されたことになる。

「さぁ一億のために行くぞ!」

「い、一億……何の話ですか……」

 俺は無視して辺りを見回す。草原の遠く向こうに川が見えた。

「よし、とりあえずあの川を辿っていこう」

「川をたどる? 川をたどってどうするんですか?」

「人を探すんだよ。とりあえずな」

「人を探す? どうして人を探すのに川をたどるんですか?」

「全くお前は(さと)くないな。人というのは利便性を考えてたいてい水の近くに住んでいるもんなんだよ。この川の水を水車とかにしてる家とかあるかもしれねえぞ」

「おー。そうですか」

「というわけだ。とにかく川を下っていこう」

 俺たちは川に近づき、その川を沿って下流に向かって歩いていく。

 正直なところ、あまり自信がない。というか確率が低い。

 そもそも、現実世界においてもどこかよくわからないところで人を探すというのは困難だ。ましてや異世界、異次元世界……この世界をなんと称しようか。とりあえず“アナザー”と適当に称しておこう。この“アナザー”の世界にそもそも人がいるかどうか確証がない。もしかしたらこの“アナザー”の世界の覇者は“人間”ではなくほかの生物、恐竜だとかナメクジだとかイカだとか……はたまた魔族(笑)が覇者かもしれない。すべてが分からないことだらけなんだ。

 つまるところ、今俺たちが川沿いに人を求めて歩いているのは、淡い期待を胸に歩いているだけなんだ。しかし、今の俺たちにやれることと言えば辺りを散策することくらいだろう。あとワームホールとブラックホールについての考察と、この“アナザー”世界についての可能性(現在100の可能性を考え中)あと夕食の献立とか……。

「あ、先輩! 第一村人発見です!」

「え?」

 透明スライムの中から指差すユーカ。ちなみにこのスライムは一応俺が微妙な距離を取って誘導している。

 指差す先を見ると、そこに釣竿の糸をを川に垂らしている、白髪の仙人っぽいおじいさんが。

「おじーさーん!」

 手をふるユーカ。俺はユーカという名のスライムを先導し、そのおじいさんの元へ。

「どうもこんにちは。おじいさん。この辺は釣れますか?」

「おお、この辺に人とは珍しい。釣果はあまり芳しくないぞ。ほっほっほ」

「あはは」

 と社交辞令をした。

 その間に入ってくるのは、常識はずれのスライムにとらわれた少女ユーカ。

「おはよっすおじーさん! 鯛を釣りタイかい!」

「はっはっは、今度は元気な女の子が……………………魔物め、食らえ!」

「へ?」ユーカは目を止めた。

 おじいさんは懐からすばやくナイフを取出し、それをすぱーんと縦に振り下ろす。

 切り裂く対象は、ユーカの入ったスライム。おじいさんはスライムを、中にいるユーカごとばっさりと斬ったのだ。目にも留まらぬ電光石火で。

 というわけで、目の前にあったスライム……とその中にいたユーカは真っ二つに……。

「ひやああああああああ!」

 ユーカはおじいさんが振り下ろしたナイフを真剣白羽取りしていた。ナイフはスライムの頭部を切り裂いた後、ユーカの頭のてっぺんに向かったが、振り下ろされるナイフをユーカは両手でパチンと手のひらを合わせて捕え、ナイフは静止した。

 がたがたと揺れるナイフ。がたがたと揺れるユーカ。そして睨むおじいさん。

 その脇で、空気を読むように頭部をナイフで切られ消滅する透明スライム。どうやらナイフ系のもので切られたらあっさり倒されたようだ。竹刀じゃだめだったみたいだ。

「こ、この魔物めっ! 子供の姿になってワシをだまそうとしやがって!」

「え……」目がキョトンとしているユーカ。

 どうやらおじいさん、スライムから生まれたユーカを魔物と勘違いしているようだ。ふむふむ、この世界ではモンスターは魔物と称されていて、忌み嫌われていると……。

 と、そうじゃなくて。今はこの謎の状況をなんとかしないと。

「あの、おじいさん。そこのですね、スライムから現れたヤツ、一応人間なんですよ。だからそのナイフをしまって」

「だまされちゃいけませんよ! これはどう見ても魔物です! これは私のカンです!」

「は、はぁ……」

 だめだ。完全に魔物と勘違いしている。

「というわけだユーカ。お前は今日から魔物として生きるんだ」

「なんで私魔物として生きなくちゃならないんですか!」

「黙れ魔物! お前は人類の敵だ!」

「そうじゃ! 人類の敵じゃあ!」

「ぎゃああ! みんな勘違いしないでぇ! 私は人間! アイアムヒョーモン! アイアムヒョーモン!」

 なるほど、お前の正体はあの毒々しいヒョウモンダコ(注:唾液に猛毒のテトロドトキシンを含む危険なタコ)だったのか。

「さぁおじいさん、あのヒョウモンダコをやっつけてください」

「おう、まかしとれ!」

 おじいさんはユーカの手が緩んだすきにナイフを振り下ろす。

 さらばユーカよ。永遠に。

 しかしあいつはこんなあっさり死なない。

「な、何処かに消えおったぞ!」

 ナイフを振り下ろされた先には、ユーカの姿はなかった。まるで瞬間移動したかのように、どこかに行った。

 一体どこに消えたのやら。と思っていたら、

「いざ天チョウ!」

 その声に振り向いたおじいさん。しかし振り向いた直後、現れたユーカの直突きでぶっ飛ばされぴょーんと宙を舞って流れる浅い川の中へドボンと落ちた。

「はっはっは! まいったかおじいさん! 私を倒すには100おくまんこうねん早い!」

 高らかに笑う我が後輩のユーカ。こいつが人類の敵になった日にゃ世も末だ。

 おじいさんは川から立ち上がる。体と服がずぶぬれになっている。そんなことも構わず、おじいさんはバカみたいに笑い続けているユーカのもとにかける。

 そして、ユーカの前でひざまつく。

「参りましたぁー。魔物様ぁ~」とおじいさんはあっさり降参した。

「はっはっは、これでよろしい」さらに笑い続けるユーカ。

 天狗になる前にここいらで止めておかないと。バカがつけあがるところなんか見たくねぇ。

「おいユーカ、あんまりつけあがるんじゃねぇ」だがユーカは訊く耳を持たず。

「さぁ魔物様たる私たちをおうちにご招待しなさい! そしてお茶とお菓子を用意すること! おっけーね!」

「ははぁ~」

 おじいさんはすっかり魔物様ことユーカの信者に成り下がっていた。

 もしかしたらユーカ、俺以上に人を使うのがうまいんじゃないのか。

「いやこいつはただのバカだ……」

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