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25.竜殺し(ドラゴンキラー) 其の陸

 そしてユーカのぽこぽこが何度か行われた後。

 洞窟の奥から、がさりがさりと音がした。何かが近づいてくる足音。その足音はいくつか数があった。何人かの集団がこちらへ向かってきているようだ。

 薄暗い湖の向かいにある洞窟の道より、一人の騎士と数人の兵士が見えた。

 先頭にいる騎士はカインであった。カインは俺の顔を見て安堵の顔を浮かべた。

「おお! トマリギトマル! 無事であったか!」

 と調子のいい声を上げるカイン。この人のキャラがいまいちよくわからない。真面目なのか調子のいいやつなのか。それらが混ざったややこしいやつなのか。

「ん? そこにいるのはまさか……あの青いドラゴンの娘こと、ファナさんではないのか!」

 どんどんとこちらへと、湖の方へと近づいていくカインと兵士たち。俺の横を通り、未だ悶えているファナさんの前に立つ。

「ファナさん……」

 そう言って、渋い顔してファナさんを見下ろすカイン。

「こうなってしまった以上、私は大臣の部下としてあなたをとらえなければなりません。ファナさん、あなたをとらえて異端審問にかけます。そしておそらく、あなたは処刑されることとなるでしょう。あなたの正体がドラゴンであろうがなかろうが、あなたの犯した罪は深いものですから、あなたが処刑されるのは必至でしょうが……」

 そう言ってカインはファナさんの手を取ろうとした。

「止めろ――。カインさん」

 俺はファナさんの前に立ち、カインに立ちふさがる。

「ん? トマリギトマル何の真似だ。まさかお前、ファナさんを(かば)うつもりか」

「そうだ」

「トマリギトマルよ。いくらお前の頼みでもそれはできないぞ。そこのファナさんは数々の人々を殺め、そして街の一部を破壊した。そしてお前とお前の仲間の命をも狙おうとしたんだ。もう、ファナさんは裁きを受けるしかないんだぞ」

「カインさんよ。あんたはシリウスの豚が失脚してもなお傀儡(くぐつ)のようにふるまうのか。己で考えず、ただただ偉いものに従うだけ。まったく、どの時代にも頭の悪い役人はいるもんだ」

「な、吾輩を愚弄するのかトマリギトマル!」

「いいかカインさん。世の中には法律なんかよりも守らなければならないものがあるんだよ。お前と、俺の世界にいた役人どもはいつしかそんな大事なことも忘れて、法律やら憲法やらを絶対的なものとして行動してやがる。いいか、人間には一番従わねばならないものがある。それは何だと思う?」

「な、なんのことを言っているんだ? まさか神の教えの話しか?」

「信ずるべきは、己の意思だ。自分がどうしたいかだ。逃げろ――ファナさん!」

「てい――やぁ!」

 ユーカはファナさんをくるんでいたマントをとっつかみ、それを上空へとめいいっぱい放り投げる。(この作戦はカインに隠れて筆談で行っていた)

 放り投げたそれは空いた穴を通り抜け、山へと飛んで行った。

「な……いつのまにファナさんを!」

 カインはあたりを探すが、俺との会話に気を取られていてファナさんを見失っていた。さがせどもファナさんはいない。途方に暮れてカインは上を見上げる。

 すかさず俺は言う。

「ファナさんはご覧のとおり上の山の草原へと降り立った。今頃はドラゴンに変身して逃避行でもしているんでしょうかねぇ」

「な、何を! ファナさんはあんなにも疲労していたではないか! あんな状態でどうやって逃げおおせるというんだ!」

「人間、というか魔物ですけど、死ぬ気になれば何とかなるんですよ。それよりも今はまずはファナさんを追いかけるのが良いかと思いますけど」

「くっ……、兵士の者たちよ、洞窟を出てファナさんを追いかけろ! なんとしてでも追いかけるんだ!」

 ぞろぞろと洞窟の奥へと歩いていく兵士たち。兵士の群れが次第に見えなくなってくる中、カインは俺を怖い顔で睨んでいる。

「トマリギトマル、よくもファナさんを……」

「なんだカインさんよ。俺を反逆罪で捕まえるつもりか?」

「……お前たちは、あのファナさんの暴虐を一応は収めたから、今回ばかりは目をつむっておいてやろう。いいか! 今回ばかりだけだぞ!」

「そうか。寛大な処置痛み入る」

「さらばだトマリギトマル。いろいろ、世話になったな」

 と言って洞窟を後にするカイン。なんだかよくわからない、煮え切らないやつだ。

「えーと、これでいいんですか先輩」

「ああ。ドッキリ大成功だ」

「まさかファナさんが外に出たとみなさんすっかり勘違いしちゃうなんて、アホな奴らですねー」

「人間焦っていると騙されやすいからな。とにかく」

 俺は向こうの岩陰に近づく。

「ファナさん、もう大丈夫ですよ」

 そう声をかけると岩陰からファナさんが顔を出した。巻かれていたマントはすでに地上に飛んで行っている。

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