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24.竜殺し(ドラゴンキラー) 其の伍

 ドボンと地底湖に落ちる。湖の水面よりいくらか沈んだあと、浮力により浮き上がる。

「ぷはぁ」

 俺とユーカは水面から顔を出し立ち泳ぎをする。あたりを見回し、湖の淵にある、ごつごつした岩の岸に目を向ける。

 そこは上からの光があまり届かず、見えにくい。しかし、おぼろげに白い物体があるのを確認できた。それに向かって俺たちは泳いでいく。

 それは一人の少女だった。少女は裸で寝そべっていた。

 体に水をかぶり、髪は水を吸い、目をつむって倒れていた。命からがら岸へと泳いできた、って感じだった。

「どうやらファナさんの変身は解けたようだな」

「え、ファナさん……って」

「そういえばお前には言っていなかったな、ドラゴンの正体が変身したファナさんだってことを」

「ななななんですってぇ!」

「とにかくファナさんの元へと向かおう」

 俺はファナさんのいる岸へとたどり着く。ファナさんは本当にはだかんぼうになっていた。ふむ。婦女子をこんな状態にするのはよろしくない。俺はファナさんの身体に服をかけてやろうと思ったところ。

「きゃー先輩見ちゃダメ!」

 と後ろから手で目隠しされた。もともと薄暗かったあたりが真っ暗になる。

「何をするユーカ」

「先輩はまだ18歳未満のお子ちゃまですからレディのハダカは刺激が強すぎますよ!」

「そういうユーカは10歳未満のお子ちゃまじゃないか」

「女の子同士はいいんです! ていうか10歳未満じゃない! 私は16なの!」

 まぁ仕方ない。ここはユーカの言うことに従っておこう。


 俺の目隠しが取られたとき、ファナさんの身体にはユーカのマントが掛けてあった。ファナさんはいまだ目を閉じて停止している。

「で、先輩。ファナさんがドラゴンでドラゴンがファナさんであることは分かりましたけどー。そのドラゴンというかファナさんはもうドラゴンに変身したりしないんですかね」

「それは分からんが、とりあえず今のところはドラゴンの力を無力化したから大丈夫だと思うぞ」

「それで先輩、さっきの話の続きをしてほしいんですけど、私が突き落としたドラゴンことファナさんはどういういきさつで変身が解かれたんですか?」

「それはだな、さっきも言った通り、この辺りは寒冷な地域で、この洞窟も冬には氷の洞窟となる。そして湖が氷を張るようになって冷たい湖となる。その冷たい湖の状態はおよそ夏になるまで続くようで、とにかく、そこの湖はすごく冷たい水になっていたんだ」

 実際、この湖はすごく冷たく初め氷が張っていた。その氷はドラゴンの墜落によりぱーんと割れて跡形もなくなってしまったが。

「つめたい? でも先輩、私たちが湖に飛び込んだとき、そこまで冷たい感じはしなかったと思うんですけど」

「それはな、ドラゴンの熱とまじりあっていくらか温度が上昇したからなんだよ」

「あ、なるほど! じゃあ先輩! あの高温ドラゴンを冷やすためにこの湖に落としてやったというわけなんですね! さっすが先輩!」

「まぁ熱を冷やすためもあるが、一番の理由はドラゴンの体内に形成されていた炉の破壊だったんだ。ドラゴンの炉はカルシウムなどの金属で形成されていて、まぁつまり車のエンジンみたいなものなんだよ。炉だからもちろんそれは高温状態となっているのだが……」

 俺は湖の水に触れる。それは程よいつめたさを保っていた。

「ユーカ、高温で温めたガラスのコップに冷たい水をかけるとどうなると思う?」

「え? えーと、確か割れちゃうんじゃないですか? 私たしか子供のころそれやっておじさんに怒られたことありましたねぇ」

「そうだ。高温の物体を急激に冷却すると体積収縮が起こる。これにより物体に応力が起こり、物体が破壊されるというわけだ。これでおそらく、ファナさんの体内にあった炉の機関は破壊されたんだろう。そして、このようにファナさんは無力化されたというわけだ。あと、炉にたまっていた可燃性の油も水を飲んで吐き出されたようだ。これでもう、ドラゴンの脅威はなくなったということだ」

「なにはともあれコングラッチュレーションですね」

「ああ……。そうだな」

「じゃ、じゃあ先輩……そ、そのー、あのですねー。ごほうびのことなんですけどー」

「ん? ごほうびって」

 なんだったけ。

 そう言おうとしたとき、俺の目の前に長く巨大な物体が飛び込んできた。それは青く無機質に光る暴力的な物体だった。

 ドラゴンの手。掌握され、身動きが取れなくなる。

 手をたどっていくと、その胴体が現れる。それはユーカのマントを乱暴にまとった、半裸状態のファナさんの姿であった。

「イタチの最後っ屁ってやつですか。ファナさん、体の調子はどうですか? 俺はドラゴンの生態については図鑑を斜め読みした知識しかないのでよくわかんないんですけど」

「死んで――しまえ!」

 万力のように俺の身体を絞めつけていく。逃れることはわずかもできない。

「こ、こらぁ! 先輩を離せぇ!」

 ユーカはドラゴンの腕に木刀をぽかぽかと叩きつける。しかし、そのぽかぽかはお日様のぽかぽかさみたいなのどかなものだった。

 さすがのユーカも、あんなに激しい戦いを強いられて疲れてしまったのか。ユーカは踵を返してファナさん本体の方へと向く。

 ファナさんの本体の方は人間の身体となっている。弱点を見つけ、ユーカはファナさんの身体のちょうどドラゴンの腕の付け根あたりの、人間の肌となっている腕に対して剣を振り降ろす。

 しかし、そんなユーカに対してファナさんも容赦なく攻撃を行う。俺を掴んでいるドラゴン化した腕を振り回してユーカにぶつける。ユーカはなすすべなくふっとばされて、湖へと落ちた。

「ぎゃ――!」

 ユーカが視界から消え、俺はただ握られたままであった。

「ファナさん、もうあなたはあらかた意識が戻ったんでしょう。それならもうこんなことする必要はないでしょう。それとも――自暴自棄になって、なにもかも破壊しようと思っているんですか?」

「わた……しは、生きるん、ですよ……。あの豚の大臣も葬って、すべてすべて葬って、すべてすべてなかったことにしてやる――ッ!」

「なかったことになんかできませんよ。起きた過ちは、背負われた罪は消えることはないんですよ。そうなった場合、せめてできることは、正しく生きることぐらいでしょうかね。そんな罪を帳消ししてしまうぐらい、正しく生きるぐらいしかないんですよ」

「私には……もう、どうしようもないんですよ! もう、私の向かう先は地獄しかないんですよ!」

「そんなことはありませんよ」

「ありますよ! トマルさん、あなたを殺して、あなたのご両親に会わせてあげますよ。あなたもこれで終わりです、トマルさん」

「いえ、俺は負けません。というかすでにあなたは負けているんですよ」

 俺は余裕の笑顔をファナさんに向ける。

「あなたが湖から上がっているのを発見したとき、ユーカが俺の目を隠している間に、ユーカはどうやらファナさんの身体の調子を見ていたんですよ。心臓も動いていて、そして息もしていた。つまり完全に生きていた。その時俺は思ったんです。あなたが、たぬき寝入りをしているんじゃないかと。というわけで、俺はずっとあなたが反撃をしてくるんじゃないかと構えていたんですよ。備えあれば憂いなし。そう、お前はもう、負けている――!」

 ファナさんの身体が震えた。俺の言葉に打たれてか――いや、そうではなくて。

「あ、ああああああああ!」

 ファナさんは身もだえし、地にうずくまる。すっかりドラゴン化した手が緩み、手の中の俺はごわごわの岩肌に降ろされる。

 ドラゴン化した手は青から白い肌に変わって、長さと大きさが収縮していく。手は収められ、ファナさんはその手とは反対の手で腕をさすり一層もだえる。

「決闘の時に使っていた漆がいくらか残っていましてね。それをあらかじめ服に塗っておいたんですよ」

「そん……な……」

「ファナさん、もう無駄な抵抗は止めてください。暴れても、もうどうしようもないですよ」

「私は……母のように、処刑されるんでしょうか」

「さぁ、それは神のみぞ知ることですよ。ファナさん」

 洞窟の中には水のしたたる音がするだけであった。その中には壮絶な戦いを終えた者たちが休戦し、休憩していた。

「ぷはぁ!」

 ユーカが自ら水から上がってきた。河童のように。

「せ、先輩を離せぇええええ!」もつれた足で駆けてくるユーカ。

「俺はもう無事だぞ」

「なんですってぇえええええええ!」

 ユーカがこちらへやってきて、なぜか俺を叱咤するようにぽかぽか殴ってくる。

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