表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/102

14.決闘裁判 其の肆

「フフン、ほんとうにほんとうに。君は卑怯な手段が好きなようだねぇ」

 伯爵風の男がステージにいた。見た感じ30代ぐらいの男の人かな。

「でも、なんどもなんども君の罠にかかるとは思わないでくれよ。シリウス様の家来をなめてもらっちゃ困るよ」

と言って、白いコイルのように巻かれた口髭をいじる伯爵男。

「お前はすでに負けている。俺はすでに勝っているんだ」俺は怯えることなく言ってやる。

「ほう、その言葉、まるで自ら罠を仕掛けたことを宣言しているようじゃないか。今度の罠は一体なんだい? さっきのケインのように、剣に漆を塗ったとかかなぁ?」

「…………」俺は黙りこくる。

「おや、図星かい? はっはっは、君も万策尽きたってわけか。はっはっは。いくら剣に細工してあったって意味ないよ。だってねぇ、僕は手にこの手袋をはめているからねぇ!」

 伯爵風の男は手を前に出し言う。手は白い手袋で覆われていた。

「手袋をしていればたとえ柄に漆が塗ってあろうとも問題ない! 私は心おきなく戦えるぞ!」

 高らかに、偉そうに笑う伯爵風の男。

 さきほどの作戦会議で『漆対策』としてこういう手を考えたんだろうな。

「…………お前、鈍いんだな」俺は呆れた声で言う。

「え?」

「いや……お前はもうすぐで終わる。ジ・エンドだ」

「終わるのはお前の方だろう! さぁ負けるんだな!」

 俺たちが双方黙り込むと、審判員が近づいてくる。

「それでは、トマリギトマル対セイン・ショルダーとの決闘を始めます!」

 審判員がより近づいて、向かいのセインという伯爵男がこちらをまっすぐ見据えた。

「それでは――はじめ!」

 決闘が始まる。

 すると伯爵風の男は体を屈めた。

「ぐぁ……、な、なんか手が痛いなぁと思っていたらこれは一体……」

 今回は相手の剣の柄に漆を塗っていなかった。だけどその代り、白い手袋の内側に漆を塗っておいたのだ。

セインは手袋をめくって手をかきかきする。

「な! 漆を塗っていたのは手袋の方だったのか! か、かゆい!」

 というわけでまた勝った。


 さぁて、決闘も残すところあと一人だ。王手をかけられた大臣はぶるぶる震えている。

「だ、大丈夫だ……。最後の家来、カインならやってくれる! カインならやってくれるはず!」

 と。あたりを見回しお忙しい模様。

 ユーカの方を見る。ユーカは疲れたのか、自分の命の危機も素知らぬ顔で眠っている模様。「むにゃむにゃ~」と。

「あと一人なら何とかなるかな」

 と思っているとこちらにてくてくやってくるファナさん。

「トマルさん、くれぐれも注意してくださいね。カイン様はかなり強い相手ですから、気を付けてください」と懇切丁寧にご忠告。

「ほぉ、強い相手ですか。どんな相手でも倒すだけですけどね。戦わずしてだけど」

「で、でも……カイン様はかなり剣の腕がいいんです。おまけにカイン様は頭がいいんです。ですから……トマルさんの策もバレてしまうんじゃないでしょうか」

「策はバレないからこそ策なんですよ。だから、俺は負けませんよ」

 そう俺は答えたが、素直にその言葉を肯定できず顔をうつむかせる。

「でも、ファナさん。俺もただの人間ですから……負けることがあるかもしれません。戦場だからこそ、いつ何時負けるか分からない」

「そ、そんな負けるなんて」

「ファナさん、確かに俺はそれなりに強いかもしれませんけど、でも俺は策がなくなったらおしまいなんです。策がなくなったら……もうお手上げです。だからいつも俺は敗北と紙一重なんです」

「トマルさん……」

「でも俺は、最後の最後まで策を出してやりますよ。たとえこの身が滅んでも」

「え? この身が……なんですって」

「いや……何でもありませんよ。俺はただ、あいつのために頑張るだけです」

「トマルさん、あなたはそこまでしてユーカさんのことを……」

「あいつとは、腐れ縁ですからね。俺はあいつのためなら命を懸けられますよ」

「トマルさん――」

「それじゃあファナさん、戦ってきます。それじゃあ、さようなら」

 そう言って俺はステージへと向かった。


「うーん、むにゃむにゃ、もう食べられない~」

「まったくのんきな奴だ」

 俺はユーカの寝顔を檻越しからしばらく眺めてから踵を返す。

「センパイ――」

「ん?」

 後ろを振り向くと伸びをして「ふわぁ~」とあくびをこぼすユーカの姿が。どうやら俺に気付いて起きたらしい。

「先輩! 絶対負けないでくださいよ!」

「ああ、もちろん」

 俺は歩いていく。ステージまでの道をゆっくりと踏みしめるように。思い出をかみしめるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ