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12.決闘裁判 其の弐

 それから10分ほど後、第二戦目が始まる。

 ステージに上がるとそこにはなぜか3人の女剣士がいた。

「どういうことだ……」

 なんだ。俺が勝手に相手は一人ずつやってくるものだと思っていたが、なぜか今回は3人組で現れてきた。

「はっはっは! よく来たな新参者よ!」

 3人のうちの一人、背とガタイと胸の大きい剣士風の女が言った。髪型はポニーテイルだ。

「私たちにかかればあんたなんかイチコロ、つまり一撃でころっと殺しちゃうんだからね!」

 3人のうちの一人、先ほどの女よりいくらか細い体格で、ただし胸だけ平らな女の人が言った。髪型がなぜかツインテールだ。

「や、やっつけちゃうんだからぁー!」

 3人のうちの一人、3人の中で一番背が低く、体格だけ見ればユーカみたいなやつが(もちろん胸が平らだった)言った。髪型は三つ編み。

「何だこいつらは」

 それが俺の率直な感想だった。

「我が名は“マイン”。シリウス様の家来のひとり!」

「私の名前は“ダイン”。シリウス様の家来のひとり、つまりあなたの対戦相手なんだからね!」

「わ、わたしはその……ザイン”だよー! しりうすさまのけらいなんだよー!」

 3人の女がしゃべったらうるさいもんだ。(かしま)しいということか。なんだかめんどくさそうなやつと出会ってしまったな。

 とにもかくにも戦わないと。

「それでは――初め!」

 と審判の掛け声とともに戦いが始まる。

「やぁ!」

「やっつけるんだからね!」

「やぁー」

 威勢のいい声を上げながら3人の女は俺に向かってくる。3人は剣を抜きつつ駆けている。

そんな彼女らの進行は突然止まる。止まると同時に突如視界から消え失せた。

「な! 何事だこれは!」

「これは一体! まるで天変地異、つまり世界がひっくりかえるみたいなんだからね!」

「なんなんでしょーこれはー!」

 3人は仲よく穴に落ちた。

 ステージに突然穿(うが)たれた穴。その穴はついさっきまでは平らな石の床になっていたが、3人がその上に乗ると、落とし穴のように崩れて、3人が穴へと堕ちていったのだ。

 落とし穴。そう、彼女らは俺の作り上げた落とし穴に落ちたのだ。

「ぐ……なんて深い落とし穴なんだこれはぁ!」

「まるで洞窟、つまり洞窟にいるみたいなんだからね!」

「たーすーけーてー」

 3人の剣士たちは手を天に伸ばして助けを乞うている。

「おーい、審判、ジャッジをお願いします」

「え……ジャッジって……」

「どう見ても俺の勝ちだろう」

「で、でもこれは……」

「勝ちに決まってるだろうこれは。あんな深い穴に落ちたんじゃ戦うことはできない。戦闘不能だ。だから俺の勝ちだ。早くジャッジを下してください」

「は、はぁ……わかりました」


 こうして勝利。これで計4人抜きだ。

 あとは3人。

「先輩! またまたやってくれましたね!」

 とまた手を叩いて喜んでいるユーカ。

 そんなユーカと俺をいぶかしげに眺めるのは、対戦相手である大臣のシリウス。

 ご自慢の脂肪をぶるぶるふるわせてブルドックのようになって立ち上がる。

「い、インチキだ! トマリギトマル! さっきのクラインの棄権といい、今の落とし穴といい、明らかにインチキではないか!」

 ピシッと指を差して俺を非難する。そのやり取りを見て観客はざわめく。ファナさんは心配そうな眼を浮かべる。ユーカはシリウスを睨み付ける。

「インチキ? そんなものがどこにあったというんだ? クラインの腹痛による棄権も、さっきの落とし穴もただの事故だ。だから俺には何の関係もない」

「なーにーを白々しいことを! どう見たってお前が仕掛けた小細工だろう!」

 確かに全部俺が演出したものだ。でも俺はシラを切る。

「俺がやったという証拠はどこにあるんだ? いくら自分の家来が4人やられたからって、いちゃもんをつけられちゃー困りますよ」

「いちゃもんも何も! まず、クラインのことについてだが! 私はクラインからちゃんと話を聞いたんだぞ! お前からもらったパンのせいで腹を壊したと言っていたぞ!」

「だから証拠がないと意味がないじゃないですか。そのもらったパンというやつはどこにあるんですか? 俺はそんなもの渡してませんよー」と言ってやった。

「このやろぉ……」シリウスは言い返せない。なにせ証拠のパンはクラインの腹の中に収められているのだから。

 証拠がないならどんな事実も証明できない。

「それでは……そのステージに空いた穴のことだがな! どう見てもあれは人為的に作られたものじゃないか!」

「そうですね。見た感じ、人為的に作られたっぽいですけど」

「そうだろう! 人為的に作られたということは、お前が作ったものということだろう!」

「いやいや。どうしてそう短絡的なんですか。頭のニューロンでも狂ってるんですか?」

 と言ってやると焼けた石のように頭に熱を起こすシリウス大臣。

「とにかく、俺が作ったという証拠がないじゃないですか。それに、俺がそのステージに落とし穴なんか掘ってたら、兵士に気付かれるのがオチだと思います」

「くっ……たしかに、ここは兵士に四六時中見張らせておいたんだ。なのにどうして落とし穴なんか……」

「それは天変地異とやらが起きたからでしょうね」

「天変地異! なにをほざいているんだ貴様は!」

「天は俺に味方したって言うことですよ。運も実力のうちってやつです。だから俺には何の負い目もないんですよ。解りましたかシリウス大臣。それともまだ負け惜しみでもおっしゃるんですか?」

 シリウスは頭を抱えて震えている。めちゃくちゃな事態になって、何かを言おうと思考を巡らせているんだろう。でも何も言い出せず、ただ黙るしかない。

 クラインの腹痛も。

 落とし穴も。

 全部証拠がない。なので責めることができない。

「く、くぅ……。いい気になりやがって……。まぁいい、こっちにはまだ家来がいるんだ! こんどこそお前を負かしてやるんだからな!」

「結構結構。ジャンジャンかかってこい」

 俺はシリウスに不敵な笑みを送ってから背を向ける。

 そんな俺に対し声をかける者が二人。

「トマル先輩!」

「トマルさん!」

 檻越しからユーカの声。向こうから駆けてくるファナさんの声。

「トマル先輩! 天変地異を起こしてやるなんてなかなかやりますね!」

「はっはっは」

 本当は天変地異なんかじゃないんだけどな。

 あの落とし穴は、実は地面の下から掘った落とし穴だ。地面の上からだと、闘技場を通って、ステージの上へ来て掘らなければならないため、兵士に見つかるおそれがある。

 でも、地面の下から掘ってやれば見つからずに済む。

 闘技場の外から穴を掘り、穴を掘り進めて、ちょうど闘技場の真ん中のステージの上まで掘り進め、ステージの石を、ステージの下から慎重に削り、一部分だけ、人が乗ったら崩れるぐらい、薄く脆いものにしておく。

 これで落とし穴完成。あとは掘ってきた穴を引き返していくだけ。闘技場の外から穴を掘ったことを知られぬように、落とし穴となっているところ以外の穴を埋めておくのを忘れずにしておく。

 これらの作業はずいぶん骨を折ったが、このようにまとめて3人倒すことができたんだ。苦労した甲斐はあったようだ。

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