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プロローグ:胡蝶の夢

 なぜ俺はこんなところにいるのか。

 今、俺は放課後の教室にいる。俺のクラスの教室じゃない。

 俺の幼馴染であり後輩のユーカに呼ばれて1年のユーカの教室に来たのだが、肝心の呼びだしっぺのユーカはなぜか黙りこくって目の前に棒立ちしている。なぜか赤い顔をしながら。

 一体どうしたというんだ。用事なら早くしてくれ。

 時は金なりだ。ユーカが黙ったままはや6分も過ぎてる。サラリーマンの平均時給は2000円。俺がサラリーマンと仮定すると、つまりこいつは俺の時間200円分無駄にしたってことだ。200円返せこの野郎。

「と、トマル先輩」

「何だ早くしろ5秒以内に答えろ54321」

「あぁあああ! なんでそんな唐突にまだ心の準備がぁ!」

「時間だ。俺は帰るぞ。今日の株価が気になるんでな」

「待ってください先輩!」

「だめだこれ以上話したら課金制にするぞ」

「課金制! なんで会話するだけでお金獲るの! 水商売じゃないんだから!」

「1文字につき10円だ。分かったな」そう言って俺はユーカに背を向ける。

「先輩――」

 ユーカの衝撃波のような声で俺はふと振り向く。

「好きです、先輩」

 俺は学園ドラマでも見てるんだろうか。目の前にはゆであがったようなほくほく姿のユーカが。

「冗談を言うなユーカ。あと喋った料金110円払えよ」

「じょ、冗談じゃないんですよ!」プラス140円。

 ユーカは懇願するかのようなまなざしで俺を見つめる。

「私、先輩のことずっと……」

 その言葉を引き金にしてユーカは長い言い訳のような言葉を話す。

 なにやらユーカは愛の言葉をエンエンと話している。長くてまどろっこしい。要約するか箇条書きにしろ。

 よし、スキップ機能を使おう。こんなウザいセリフはあくびが出る。頭の中でコントロールキーをぽちっと。

「というわけで付き合えゴラァ先輩!」

 スキップしたらなんか怒ってる。どういうことだ。

「つまりなんだ、結論を言うとお前は俺が好きで彼氏彼女の関係になりたいと?」

 ブンッと頭を振り下ろしてうなづくユーカ。

「だめだ」俺は即答する。

「な、何で駄目なんですか先輩!」ユーカは頭に角を生やして怒り出す。

「いいか、男と女の付き合いなんてもんは成功者を目指す俺には必要ないんだ。必要最低限の娯楽、必要最低限の快楽が俺の理念だ。そんな俺に恋愛なんて論外だ」

「そ、そんな……」

「俺と寄り添っていいのは、金づるな社長令嬢か、金づるな死に掛けの大地主さんの親族(遺産目当て)だけだ!」

「なんで先輩はこうもネンキンな人なんですかぁ!」

「ネンキンじゃなくて現金だ。とにかく俺は利害のあるやつぐらいとしか恋愛なんてビジネスは……」

 言いかけると、突然あたりの空気が変わった。

 辺りにただよう殺気を察知して正面を見ると、そこに竹刀の『愛刀・タチウオ』を振りかぶるユーカの姿が。

「死ねぇええええ! 先輩! テンチョウだぁー!」

 振りかぶり状態のユーカが迫る。襲いかかろうとしている。

 こいつはバカだ。直情的で体育会系で。こんなバカのせいで日本はだめになっているというのに……。

「恋は当たって砕けろダァー!」

「じゃぁいってこい」

「なっ!」

 俺はすかさず右にスライド移動して直進してきたユーカを避けた。

 ユーカは俺の脇を通り過ぎて、そのまま直進し、俺の後ろにあった空いた窓へと直撃。

「うわぁああ! 止まらない!」

 暴走機関車のごとく進むユーカは空いた窓を潜り抜け窓の外へ。都合のいいことに3階のこのクラスにはベランダがない。つまりそこから先は空中だ。そう、暴走機関車ユーカは銀河鉄道のごとく空をかける。

 しかし翼をなくした人間は重力に抗えず落下する運命にある。

「ぎゃぁあああ! おちるぅー!」

 普通、3階から落っこちたら重傷、下手したら死亡する恐れがあるが、体育会系で運動バカのこいつには杞憂だ。あらゆる格闘系の『道』、剣道、柔道、空手道……をマスターしたこいつならたとえ3階から落っこちてもうまいこと受け身とってケロッと復活するだろう。そう、問題ない。

「先輩も道ずれです!」

「え?」

 いや問題が起きた。

 ユーカは落ちる瞬間、俺の襟首を掴んだ。ユーカの落下に俺も巻き添えを食うことに。

 俺はズズズーッと落ちていくユーカに引っ張られる。首はもう窓の外まで引っ張られてる。

「さぁトマル先輩、私と一緒にお空を飛びましょう!」

「ふざけるなユーカ! 心中なんて封建的で自己犠牲で不利益でしかないモン巻き添え食らってたまるかぁー!」

 俺のキャラが崩れる。もうこのさいキャラとか言ってられないもんだが。

「さぁ行きましょう先輩! 新たなる世界へ! 私と一緒に!」

 俺は空へと投げ出された。

 俺とユーカは空の中。

 そして、突然その空が白く光る。

 光は世界を覆い、視界を白で塗り尽くした。


 視界がフェードインして空の景色が広がる。

「ぬわぁああああああああああああー!」

「ぎやぁああああああああああああー!」

 俺たちは空を落ちていた。鳥のように。いや、鳥は飛べるけど俺たちは飛べないんだ。ただ己の重さで落下していく。

 某アニメ映画のように不思議な石の力でふんわりと落ちていく、なんてことはなく。ただ俺たちは加速していく。俺は万一のことを考え、手を握るユーカの身体を俺の下に来るように誘導した。俺は手を持ち替えてユーカの背中に両手を伸せ、ユーカの背にボディボードのように乗り込んだ。ユーカをボードにして風を感じながら俺は落ちていく。

「うわぁぁあああぁあぁあ!」

 下のユーカはぎゃあぎゃあ叫んでいる。空の旅は結構長い時間続いた。

 やがてボード(ユーカ)に乗る俺は地上へと差し掛かる。地面は着々と拡大されていく。地面の大きさがいつも見るぐらいの大きさになった時、ドスンと衝撃を受け、俺とその下のユーカは地面に豪快に着地した。

 ユーカを下にして落ちたのである程度の衝撃は抑えられた。とりあえず俺は無事だった。

 まぁ俺が無事なら何でもいいだろう。

「…………」ユーカから一切の声と気配がしない。

 下敷きにしていたユーカが、まぁあいつならなんやかんやで何とかなってそうだが、もし仮に死んでいたら、困ったことになる。あいつが最悪死んでも俺には関係ないが、殺人罪で俺の名誉が傷ついたりでもしたら問題だ。

「おい起きろユーカ。起きねぇと殺すぞ。というか生きろ」

「…………ぁ」

 ユーカは小さな声を発した。どうやら生きていた。3階から落ちたのに生きているとかスタントマンもびっくりだ。

「せ、先輩……私一体……」

「ああ、お前の飛び降り自殺に俺は巻き込まれちまったんだよ」

「トビオリ? 私なんでトビオリを? スカイダイビング?」

 こいつショックで記憶飛んだのか。ぽかーんと口を開けている。

「うわぁ、体と首がまがってるー。直さないと」

 ガコギ、ゴキ、ユーカは自分の手で体の軸を治している。お前の身体は一体どうなっているんだ。

「ところで先輩、ここは一体どこなんですか?」

「どこってお前、記憶がホントに飛んだのか? だから俺たちは学校で……」

 ふとあたりを見まわす――と、その学校がなくなっている。どういうことだ。学校がなくなったというより、俺たち自身がどこかに飛ばされた感じ。

 あたりは清々しいぐらいの大平原。

 見渡す限りの草原。遠くに見える森、山、川……人工物はどこだ。街は何処だ。

 とにもかくにもここは何処だと。

「俺たちは北海道のどこかに飛ばされたのか……?」

「チーがいますよ先輩! これはたぶん『異世界』というやつに飛ばされたんですよ!」

「い、いせかい……?」

「ヤッホーファンタジーの世界だぁ!」

 俺たちはどうやら異世界というところに飛ばされたみたいな。

 って、ふざけるなよ。

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