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 ピピピピッと電子音が鳴り、胸元で通信機が点滅する。

「グリーンだよ」

 窓の外を眺めながらグリーンがのんびり応えると、すぐに男の声が返した。

「声紋を確認した。無事で安心したよ、グリーン」

 それはシノハラの声だった。もちろん本物の彼ではない。メインコンピュータが彼の声を使っているだけなのだが、それでもグリーンにとっては大好きな声だ。

「うん」

 グリーンは頷くと、地上を見る。先程手を繋いで出て行った二人は、もうジャングルの中に消えてしまって見えなかった。

「残念ながら、二人は見つからなかったよ。仕方ないから、すぐに次の『イヴ』を培養ケースから出してくれるかな」

「そうか。それは残念だったな」

 シノハラはそう言うと、グリーンの指示を了解する。

「それで、次の管理者はどうするね?」

 シノハラの問いに、グリーンは、う~ん、と少し考えてから言った。

「次の年長者はグレイだったね。すぐに眠らせて再教育しといてよ」

「グレイか。確か、君のお気に入りだったな」

 シノハラはそう言うと、思い出したように言う。

「そう言えば、昨夜はなかなか戻らない君を心配してずっと外で待っていたようだよ。何か伝言があれば伝えておくが」

「へえ?」

 シノハラの言葉に、グリーンは意外そうに眉を上げる。しかし、すぐに薄く笑った。

「どうせ再教育したら今までの記憶は全部無くなっちゃうんだ。必要無いよ」

 そしてそう言うと、無造作に通信を切る。再び窓外に視線を向けると、広大なジャングルに向かって呟いた。

「頑張れよ、ダーク」

 夜になれば肉食獣が襲って来る。自分一人ならいざ知らず、何も出来ないイヴを守り抜くのは至難の業だろう。もしイヴを失えば、ダークはその場でこのバカげた逃避行の目的を失うことになる。その時ダークはどうするのだろうと考えて、グリーンは柔らかく目を細めた。

「その時はすぐにハウスに戻っておいで、ダーク。君がいつでも戻れるように、僕がちゃんと君の居場所を確保しておいてあげるからね」

 生前のシノハラからホストコンピュータのアクセスコードを引き継いでいたグリーンは、管理者に昇格すると同時に全権を手中に収めていた。今や、ハウス内の全ての決定権はグリーンにある。グリーンはそう言うと、明るい窓に背を向ける。そして、歩き出そうとして、ああ、と呟いた。

「でもその時は、もう勝手は許さないからね……ダーク」

 ジャングルを振り返り、うっそりと笑いながら小さく呟く。そして、再び明るい世界に背を向けると、グリーンは自分の『王国』に戻るべく、ゆっくりと窓辺を離れた。


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