最終章 再見! 北京
1
明けて翌朝はどんよりとした曇り空……、三人は九時にホテルで軽めの朝食を済ませた。
「飛行機の時間までには、まだ間があるな」
施川は時計を見ながら言った。
「出発は何時だっけ?」
「午後三時。つうことは一時ごろ、空港へ着けばいいだろう。ここから北京空港まで一時間ぐらいだから、……わしらは十二時に出発すればいいや。峪口は?」
「俺は二時半発だ」
「そうか。峪口は国内便だからナ。じゃあ、同じころに空港へ行けばいいんじゃない」
「最初から、あんたらの便に合わせたの。放し飼いにできねぇからナ。王莉さんも日本の恥って、言っていただろう」
「日本の恥、そんなことゆってねぇよ」
「ゆってたべよぉ、エロハゲって」
「おまえだろうが、ゆったのは。置いてくぞ」
「まだ、三時間ぐらいあるな。さて、どうするか?」
「天安門広場へ、もう一度行ってみたいな」
「あんれ、マッサージじゃねぇのかぁ」
「やっぱり置いていく」
峪口は施川の希望を受け入れることにして、フロントでチェックアウトを済ませた。
「二人とも忘れ物はないな?」
「わしはこれだけ、これだけだもの」
と言って、施川は鞄を差し上げた。
「俺ぁも……」
同じように邑中も鞄を掲げた。
峪口たちは天安門広場まで向かう途中で脇道に逸れ、北京市民の生活臭のする住宅街を探索しながら、北京との別れを惜しむように、ゆっくりと二時間ほどかけて広場へ到着した。
相変わらず広場は観光客で溢れかえっている。
三人は一時間ほど広場で過ごし、屋台で昼食替わりにホッカホカの肉マンと野菜マンを購入した。
「さて、そろそろ空港へ向かうか」
時刻は十二時、ちょうどいい時間だ。
その日の北京の空には、今にも泣き出しそうな黒雲が立ちこめていた。
「北京もわしらとの別れが辛いンだろうなぁ」
施川がポツリともらすと、
「うんだ」
と邑中が応じた。
「再見! 北京。謝謝! 北京」
完