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夏到来、プールはじめました

作者: 水守中也

「うしっ」

 裏山の麓で目的の窪地を見つけると、俺はまだ見ぬビキニ美女に向けてガッツポーズをした。

「いでよカワサキ!」

 俺の叫びに応じて契約精霊のカワサキが出現した。体長30センチほどのディフォルメされた水竜である。

「ほいほい。水出しますよー」

 水竜は気の抜けたお気楽な声を出し、口から水を吐き出した。中途半端な勢いでどぼどぼと窪地に水が溜まってゆく。


「何してるの。蚊の養殖でも始めるつもり?」

 声がして振り向くと、メラ子がいた。同じ召喚科に通っている同級生だ。契約精霊が火なので、内心メラ子と呼んでやっている。

「何でお前がここにいるんだ」

「別に、あんたの姿を見かけたからつけてきたのよ」

 メラ子はぷいっと顔をそむけた。暇な奴だ。探偵にでもなるつもりか。

「で、何してるか聞いたんだけど」

「ふ。聞いて驚くなよ。俺の壮大な計画を」

 高校に入って初めての夏休みまでに俺が召喚契約できたのは、水属性の精霊カワサキのみだった。水属性。響きはいいがこいつは水をだらだらと出すだけの能力しか持っていない。これでは学園名物の「夏休み学内召喚精霊バトル」に参加できるはずもなかった。悶々と夏休みを過ごていた俺は考えた。この地味な能力を生かして何かできないかと。

「で、プールを作ることを思いついたのさ。使用料を取りつつビキニ美女とキャッキャウフフ。最高じゃないか!」

 メラ子は窪地を見て、ため息をついた。

「で、ここに誰が来るわけ?」

「……」

 台風のとき、裏山の窪地に水が溜まって池になったことを覚えていて、ここを選んだが、出来上がってゆくのは、プールというより沼地だった。周りに広がるのは雑木林。ビキニ美女のビの字も見えない。キニ女ってなんだ?

「でも、子供が遊びに来るかもしれないだろ。幼女さんとか」

「あんたって、ロリコン?」

 違う。ただ可愛いものが好きなだけだ。

「仮に来たとしても、もし溺れたらどうするのよ」

 俺ははっと気づいた。

「もしかして人工呼吸し放題?」

「違うでしょ」

 髪の毛が焦げた。いつの間にかメラ子の肩には火の精霊ヒヨシが乗っていた。

 メラ子はなぜか視線を逸らしながら言う。

「ね、ねぇ、お金欲しいなら、うちの畑の水まきしない? 雨降んなくて困ってるの。バイト料と西瓜を奮発するわよ」

 メラ子の家は農家である。

「西瓜食べ放題。しかも毎日可愛い女の子と一緒。最高じゃない?」

「腹壊しそうだな」

「へー、あんたって、焼き西瓜が好みなんだ」

 服が焦げた。なぜにっ?

「だったらプールより温泉にしたら? 私とあんたの能力と合わせればお湯になるでしょ。その、共同作業ってやつよ」

「いや、熱いだろ」

「やだっ。アツアツだなんて」

「お前の方が能力無駄に高いし」

「……カワサキくんがいれば、多少火傷したって冷やしてくれるわよね」

「いや、ちょっと待てって」

「ばかーっ」

 メラ子は言葉通り俺に多少の火傷を負わせると、肩をいからせて去って行った。

 他の奴には人当たり良いのに、なぜ俺だけいつもこんな扱いなのか。訳分からん。


  ☆☆☆


「何でいないのよっ。ばか」

 翌日。例の池に来てやったのに、目当ての彼の姿はなかった。水溜りが出来ているだけで誰もいない。蝉の鳴声だけが喧しい。

「って馬鹿は、わざわざ服の下に水着を着てきた私もだけど」

 私はやけっぱちで服を脱ぐと、池に足を踏み入れた。

 うわっ。底がぬるってして気持ち悪っ。しかも冷たっ。

 水を温めさせるためヒヨシを呼び出す。それまでは池から出ようと一歩足を踏み出したときだった。

「あっ――」

 底の枝に足を引っかけバランスを崩してしまった。私の肩からヒヨシが池へ落ちた。

 だめーっ。

 水に怯えたヒヨシが我を忘れて炎をまき散らした。私は炎を避け、抵抗するヒヨシを強引に元の世界に送り返した。けど乾いた木々に燃え移った炎はそのまま残る。雨が降らずに乾燥している森。このままだと山火事になってしまう。

「カワサキ!」

 そのとき彼の声が響いた。

「ほいほい。夏休み大放出、いきますよぉん」

 不細工な竜が、授業では見たことない勢いで水をまき散らす。水蒸気が一帯に発生し、しばらくして炎は完全に消えた。

 なによ。やればできるじゃない。

 私は池から飛び出すと、水竜の隣に立つ彼に抱きついた。そして自分が水着姿だったことを思い出し、彼の胸の前で赤面する。

 彼は私の肩をつかんで軽く押し戻した。

「お前もしかして」

 どきっとする。

「露出狂だったのか」

 めらめら。

「あんたがプール作ったから来てやったんでしょ!」

「いや、ビキニ美女か幼女さんのためで、お前関係ないし」

 めらめらめら。

「ふぅん。あんたって消し炭のコスプレが趣味なんだ。変わってるのね」

「いやだから、訳分かんねーって!」

「ばかーっ!」


 余談だけど、このぼや騒ぎによってここは近隣の住民に知られることとなり、彼の希望通り子供たちの遊び場となったが、彼は全身火傷(山火事消火の際の名誉の負傷とされている)で入院中だった。


 ばーか。

もうすぐ夏ですね。

一年前に書いた作品をようやく投稿できる季節になりましたw

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― 新着の感想 ―
[一言] 何と言いますか、お気楽な作品でした。 まぁツンデレを好む私としては、心地良かったと申し上げておきます(笑) 楽しませていただきました。 それではまた
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