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鬼と巫女と人間



全部まとめてから後悔。





私は花畑に腰を下ろし花を手でもてあそびながら言葉を続けた。

「私達は人間とは異なる種族。人間を忌み嫌い完全に人間の世界と隔離した場所…それがこの里なの。」

ざぁ…と風が吹き花びらが空を舞う。かつては人間と共存を選んだはずなのに。いつのまにか入ってしまった悲しい亀裂。

「…ファンタジーだな」

悠も目を細めただけでそこまで驚いていないようだ。そのまま話しを続ける。

「私達の世界に人間は必要ないの。里の中では人間の存在事態がタブーなのよ。私は新参者だから人間に対しての警戒心と偏見は持ち合わせていないけれど。」

「そんな悪いことしたのか?人間って」

目で質問は無しだと伝え、話し続ける。

「だからあなたにはこの里では人間だったと言うことを黙っていて欲しいの」

「だった?」

意味がわからないと混乱した様子で見つめられたので説明を開始した。

「あの時…私の血を飲んだ時点で悠は人間としての生を捨てたことになったの。

私の血は同胞には治癒と力を。そして人間には同胞に変化させ治癒が速くなる力を与えるわ。

けれど長寿のようにいいことだけじゃない。与えられた血…悠にとって主人である私がいなくては生きて行けない体にさせるリスクがある。」

「……血…?」

「言い訳がましいけど悠の傷を治す為には私の血を飲ませるしかなかった。私が甘かったのよ。ごめんなさい。…ちゃんとした情報と身の安全は保障するわ?

それに私だけじゃ対処しきれないから仲間も協力させるし安心して」

「…なるほど…な。道理で体が軽いわけだ。傷も跡形もないし。あの発作みたいなのも魅月の血に対しての拒絶反応か。もう完全に体に馴染んでるんだろうな…」

寂しそうに笑った悠にはどうしてもなにを言っても慰めにはならないと思った。弱々しく自分の手を開けたり閉じたりしている姿は自分自身も戸惑っているのだろうと見て取れる。私は敢えて悠の様子を無視し必要なことだけを伝える。

「しばらく私の屋敷に住んでもらうことになるわ。悠。後で家族を紹介するから」

「……ん?あ…あぁ」

生返事だったがしょうがないだろう。ことがことだ。

「それと父様たちにここに来た理由と外の様子を聞かれると思う。理由は戦火から逃げるため。外についてはありのままを伝えて?どうせ偽りの平和なんだから。父様たちはきっとあなたを気に入ってるわ。私よりも…ね」

私達の父親たちはいつだって私だけに優しい。まるで他人のように。よその娘を可愛がるのと同じだ。そして同時にに大事に飼ってやるから篭の鳥のように自由には生きられないと言われているようだった。変わりはいると…言われているようだった。

血の繋がった娘なのに。私は結局過去の遺物なのだ。象徴として道具として大切にする代わりに愛や友情、絆は必要ないと判断される。そう。仕来たり通り私は…

「わかった。おい魅月…?大丈夫か?」

はっと悠の声で我に返る。

「え…えぇ。そろそろ帰りましょう?父様達の来る時間になるから。」

私は素早く踵を返し屋敷へ向かい足を運んだ。悠を見ていると自分に違和感を覚える。それが堪らなく怖かった。


私は生まれた時から隔離され血縁しか関係を持つことを許されなかった。しかし幸か不幸か初めての他人が血縁よりも濃い関係を持ったのだ。

血によって私と悠は誰よりも絆の濃い関係を持っている。ただそれだけで私は畏怖している。幾代も敗れた宿命に。

「……たくない」

私は誰にも聞かせられない言葉を呟き走り出した。



俺はなぜか魅月の父親と名乗る四人の男達を目の前にしている。男たちは俺を睨みながら威圧感を醸し出しているが誰も魅月に似ていない。全員違う色の着物を着ていて金の龍が刺繍が施してある。やくざかよ…あんたら。

そして最大の疑問。娘一人なのに四人というところを気にするのはやめた。気にしたら負けだと思う。


烏魏父「おぬしが…魅月に助けられた軍人か?」

魎父「若いし酷く薄いのぅ」

恐持てのオッサンに睨まれるのは慣れてるんだよなぁ。残念ながら。薄いったってそりゃ人間だったもん。21だし。俺は怯まずに答える。

俺「はい。自分自身、魅月様に言われなければ知りもしませんでした。殆ど鬼の力はありません。」

魑架父「では魅月に見つけられたのは偶然か?」

まぁ…そうだよなぁ。今となっちゃ良かったのか悪かったのか。

俺「はい。」

魄父「運の良い奴よのう…」

運は強いはずだよ。良い意味でも悪い意味でもな。

烏魏父「まぁよい。歓迎しようぞ?」

俺「ありがとうございます」

軽い!!気にっているといってたし簡単に済んだ。まぁ良かったんだよな。

魄父「さて…現在の外の現状を教えて欲しいのだが」

来た。大丈夫。事実だけ言えばいい。

俺「はい。現在アメリカ・日本・中国で戦争を行っています。戦場は日本。私はその折り負傷したところを魅月様に助けられました。日本は劣勢。終戦にはまだ時間がかかると思います。」

魎父「…ふむ。やはり劣勢か…」

魑架父「不甲斐ない人間共が…任せておけばのうのうと。」

怖い!!目が据わってる!!

烏魏父「日本が負けては困るのだ」

同じくそう思うけど…何もしてないあんたらが言うな。

魄父「では速球に準備を始める。異論はないな」

何のだよ…!?怖いんだが!?ちょ…

父s「あぁ」

何か嫌な予感がする。とりあえず終わったのか?

魎父「では悠。おぬしに魅月の護衛と屋敷に住むことを命じる。」

俺「はい。」

………ん?護衛…?屋敷ってここ?なんかとんとん拍子に事が進み過ぎて怖いな。

魑架父「ではここからはただの家族紹介だ。力を抜いていいぞ。」

家族って…?

パンパンと手を叩き出てきたのは魅月ではなかった。

閖菜(ゆりな)と呼ばれた超絶美人が出てきて俺は言葉を失った。着物を着崩し妖艶に微笑む姿には見惚れてしまうが作りめいた雰囲気に背筋に冷たいものが走る。

「わっちは閖菜というもんでありんす。以後お見知りおきを…」

「Σ(・o・)ポカーン…。…よ…よよよろしくお願いします!!」

まるで舞を踊るように優雅にお辞儀をされ俺は反応する事ができずしばらくあたふたとしていた。

「ではわっちの娘達を紹介しんす。」

出てきたのは四人の可愛らし美少女s。まだ14・5・6歳くらいに見える。

初めに名乗ったのは無表情な少女だった。髪は縛ることなく降ろされているがそれほど長くない。そしてかけている眼鏡の縁がピンクなのが表情と全く合っていないことがなんだか残念な気分にさせる。少女は俺を視界に捕らえ言った。

「つくし。」

それだけか…!!!

つくしは名前だけ名乗ると瞳を少し隣へ移した。次へ行けという合図だろう。それを悟った隣の少女が口を開く。

「あたしは冬斗。よろしな軍人!!今度勝負しようぜ!!」

つくしとそっくりな顔。双子だ。しかしつくしと間違えることはないだろう。今度はショートカットの真逆の性格らしい元気の良い少女だった。男物の着物を着て晒しを巻いているが出てるとこは出てるので性別を間違えることはないだろう。しかも勝負とかめんどくせ。

「次はわ・た・し♪」

パチンと音が出そうなウィンクをしてきたのは母親に一番似ている大人びた少女だった。泣き黒子が母親とは反対の左側にありこいつが娘だと一番わかりやすい。

「わたしは愛優っていうの。よ・ろ・し・くネ♪」

チュッ♪っと投げキスというオマケ付きで自己紹介終了。俺は半苦笑い+赤面という変な組み合わせを顔に浮かべた。

ラストのコは半泣きで顔を真っ赤。正座している着物を震える手で握り締めていた。

「わ…たし…はっ…!!」

緊張しすぎじゃないか…?落ち着いてくれと言おうとしたがつくしが何か言ったらしい。まだ涙目だったが覚悟を決めたらしい顔で少女は言放った。

「わたしは夜胡…ですっ!!!」

夜胡はやっと終わったと言わんばかりに溜め息を吐き出すとすっと見る間に落ち着き他の兄弟のように黙った。そして俺の少し離れた場所で縦一例に並び座った。俺は夜胡の緊張っぷりに短いのに何をそんなに…と思いながら苦笑いをする。

言うだけ言って少女達は全く言葉を発しなくなった。

烏魏父「うむ。では我が息子たちを紹介しよう」

唐突に父親sの一人が発言を開始し、また四人の人影が現れた。つうか既に8人!!魅月合わせて9人!!意味がわからない。しかもどうして閖菜さんの子供達と父親sの子供達が違うのだろう。

「……。親父面しるな。虫ずが走る。」

「やっと出演だねぇ。待ちかねたよ」

「はぁ…烏魏兄荒れてんな」

「あわわ…」

現れたのはもの凄く不機嫌そうな黒髪黒ブチ眼鏡の青年。栗色髪の薄く笑顔を顔に浮かべた青年。金髪の呆れ顔の青年。茶髪のねこっ毛ふわふわした背の小さな少年だった。

「ど…どうも」

なぜかつい挨拶をしてしまった。あれだ。親近感か何かだ、きっと。

「へぇ?君があの軍人君?」

「はい。そうですけど…」

ニッコリ微笑む栗色の青年は目が笑っていない。ただ射るように俺を見つめ自己紹介を始めるように隣の黒髪の青年に振る。

「早く始めようよ兄さん。後ろに沢山いるんだから。」

「わかっている。俺は白神 烏魏。長男だ。」

沢山っておい。まだいんの!?しかも兄弟か?さっきの四人との違いと意味がわからない。困惑顔のまま次へ視線を移す。

「五十嵐 魄。次男だよ。よろしくね。軍人さん」

その視線を柔らかく受け取り笑顔で返す魄は凄いと評価したが…

「弱いね。コイツ」

一番厄介だと思った。

「…魄。落ち着け。俺は武田 魎。魎って読んでくれ。三男だ。」

金髪少年……。あんたが一番まともなんだな。俺はため息を吐いた魎と一緒に苦笑いをした。

「僕は苑遙寺 魑架とっいいますっ。よろしくっお願いします^^」

元気にちょこちょこと挨拶する姿は正に小動物だなぁと和みながら考える。ていうか美男、美女。美少女、美少年多くないか?むしろ不細工な奴いなくね?なんか理不尽さを感じてしまったのだ。つうかなんでひとりひとり苗字が違うのに兄弟なんだ?

魄父「では閖菜は退室願う」

「了解でありんす」

わかっていたとでもいうように閖菜さんと娘sは優美にまた退室する。

「わっちはまた…詳しくお話したいでありんすが…また今度にしんす…」

出ていく直前そう言い残し出ていった閖菜さんにおれは反応できずまたあたふたしただけだった。

「カッコ悪いねぇ?」

「ったく魄!!!」

「次だ。早くしろ幹部。貴様等に裂いてやる時間は無いんだ。早く終わらせる。」

「せ…せめてお父さんって呼ぼうよ…、烏魏お兄ちゃん」

なんで俺は魄ってやつに嫌われたんだ?でも他の兄弟はまともなのもいるようだ。

多分。

「ちょっと魄、機嫌直してよ。烏魏もあからさますぎ。ごめんね悠。ちょっと個性的でね…」

いきなりすたすたと現れたのは魅月だった。俺はうれしくて早速話しかけようと声を出そうとしたとき

「魅月お姉ちゃん!!!」

「魑架…ちょ…こけ」

「………ほい。お前らなぁ…」

ガバッと抱き着いた魑架によろめく魅月。それを支える魎に目を奪われた。

だって

「あれ?魅月。まだ呼んでないよ?待ちきれなかったの?」

「うるさいわよ…魄」

ニヤニヤ顔になった魄は完全に機嫌が直り

「魅月。今日は覚悟しとけ。お前のせいで面倒事に巻き込まれたんだ。」

といいながら烏魏が魅月の頭を撫でているのだから劇的な変化と言えよう。あの閖菜さん達のようにお互いがあんなに冷たくなく本物の暖かい兄弟だとそう思った。

それを見るのがうっとうしいというように父親sのひとりが言葉を発した。

魎父「魅月。軍人をお前の守護者とする。お前が管理しろ。」

「え?」

一番に声を出したのは俺だった。他はただ無言でイライラした様子で父親sを睨みつけるだけ。

魑架父「どうした?魅月」

「…いえ。拍子抜けと…お母様の無念さを感じただけです。」

魅月の声音は今までで一番冷たく感じた。批判と軽蔑。そして

「閖菜さんに変えられてしまったことを痛感しただけですから。」

泣いているようにも見えた。

烏魏父「っくくっ…そうか。では失礼する」

皮肉にさえ反応はせずフッ…と全員消えてしまった。魅月が言うには本体は別の屋敷であれは意識体だとか。

魑架父「どうした?魅月」

「…いえ。処遇の結果が拍子抜けなのと…お母様の無念さを感じただけです。」

魅月の声音は今までで一番冷たく感じた。言葉の中に含まれているのは批判と軽蔑だった。俺は少しうろたえてしまう。

彼女があんなふうな対応するのには、それ相応の理由があるはずだ。だがその理由を今知ることなど出来るはずがない。

無言で経過を待つしかできずただ耳を傾ける。

「お父様方が閖菜さんに変えられてしまったことを痛感しただけですから。」

父親達への憤りの行き場がわからずいらついて悔しくてその感情が全て自分で処理できずに困っている。そんな情緒不安定な姿がまるで泣いているようにも見えた。

事実泣いてはいないが酷く悲しげな表情に見える。

烏魏父「っくくっ…そうか。では失礼する」

父親達は魅月の皮肉にさえ反応せずフッ…と全員消えてしまった。魅月が言うには本体は別の屋敷で、あれは意識体だとか。

もはや人間の常識なんてあったものじゃない。まぁ人間じゃないのでなんでもありなんだとわかっているんだけれど。つうか面倒臭がり過ぎでしょうと思った俺だった。



悠との会合の後、閖菜は屋敷内で誰かの部屋にいた。その中で彼女は妖艶に笑う。

「現状を打破をしてくれるんでありんすね?」

「あぁ。」

短く返事したのは男の声だ。たがそれ以上は話さない。

「では…わっちは早急に動くでありんす。魅月を暗殺する計画を実行する刺客はこちで用意するのでよろしいですありんすか?」

「だが暗殺を躊躇するような刺客は送るなよ。強いぞ。あいつらは」

「御意」

静かに忍び寄る不気味な影。魅月は一体どうなってしまうのか。魅月の運命は如何に!!まだ続きます。




「ということで」

お披露目の間を後にし、俺達は部屋を移動し書物室という本が沢山ある場所に行くことになった。

書物室に着くと皆は各机に座る。

そしてカーテンや窓、ドアなど全て鍵を閉め少し薄暗くなった部屋で烏魏が俺に向けて何か話し出した。

「悠には色々ここの生活など知ってもらわなきゃならない事が沢山ある。魅月の守護者に任命されたこともあるし、厄介なことも山積みだ。その解決には共同に情報を持つことが必要不可欠だ。だからこれから事情説明と意向を決める。」

「うーす」

「はーい」

「了解だよ」

「わかりました」

魎、魑架、魄、悠の順に悠以外適当な返事をした。烏魏はいつも通りなのか気にした様子もない。

「ごめんね烏魏」

そんな中、魅月が申し訳なさそうに少し控え目な謝罪を返事に用いた。

「大丈夫だ。俺は…いや俺達はお前の兄弟なんだからな」

それを聞いた烏魏は小さな妹の頭を撫でながら慈しむの満ちた瞳で見つめる。父親達への態度を見た俺には信じがたい違いだ。それなりの理由があるのだろうと憶測するが、俺には関係無いことだろう。

「んな沈んだ顔してんなよ魅月。烏魏兄がそう言ってんだし気にすることはないじゃねぇの?」

飽きれ声の魎は少し魅月を馬鹿にした声音だったが頑張って元気付けようしていると手に取るようにわかる。それがわかるのか魅月は少し小さく頷いた。

「魅月お姉ちゃんは気にしすぎだよ。そんなに心配そうな顔しないであげて?僕らは大丈夫だよ」

満面の天使のような笑顔で魅月を和ませたのは末っ子の魑架だ。魅月は軽く微笑んだのだが、魄に目線を移すとすぐ下を見てしまった。

理由は魄が浮かべていた笑顔だ。魑架とは正反対の黒い笑みを浮かべた魄が目に入ったからだろう。

「僕らがそんなに頼りなく見えるなら今まで過ごした僕らの時間がとても心配になるね。魅月の一番の味方は僕等なんだから信じてほしいな」

刺々しさが若干目立つ物言いだが最後の一言で魅月は小さく頷きそのまま顔を赤くしてしまった。

「ありがとう…」

そのまま凄く嬉しそうに、何かを噛み締めるようにありがとうと口に出した。俯いていて魅月の顔を俺達は見ることは出来ないがその答えだけで全員満足したようだ。

「でだ。まずこの里について詳しく説明しよう。」

そう烏魏が言うとバッといきなり目の前が光りに包まれた。余りに眩しくて思わず目をつぶってしまう。チカチカとする独特な痛みが引いたのでもう一度瞼を開けるとそこは俺が空を飛びどこかの場所を真上から見たような風景が広がっていた。周りには全員が平然とこの事実を受け止めているので狼狽えるべきタイミングがわからずどうなっているのか聞けずにいた。

「これは幻だ悠。実物がある方がわかりやすいだろう?」

やっぱり平然と言い放つ烏魏に俺は頭を抱えながら苦笑いをした。

「いや、まぁそうなんですけどね。こんな技術は今の日本にはありませんから驚いたもので。」

「技術…?なに言ってんだ?悠。これはホログラフィーじゃないぞ。これは鬼の力だ。人間にとっては超能力とか魔術とか…そう言われてる。」

まるで当たりだというように魎は飽きれながら俺に衝撃の事実を突き付けた。超能力?魔術?なに言ってんだ?そんなSF設定が今更この現実にのさばっているなんて嘘だよな?

「本当よ。」

まるで俺の心を読んだような言動に俺はあからさまにうろたえたようだ。まさか心を読んだのかと。

「悪いけど読心術なんて使ってないからね?悠がわかりやすいだけ。あと魔術についてはまた後ほど」

「お?おう。」

「まず高位鬼族というのを説明するわ?高位鬼族は4つに分けられているの。」

するとみなさん面倒臭そうに

「俺の本名は白神(しらかみ)烏魏。だから白神家。」

「僕は五十嵐(いがらし)魄。だから五十嵐家。」

「俺は武田(たけだ)魎。武田家。」

「僕は苑遙寺(えんようじ)魑架だよ。苑遙寺家」

「この四つが高位鬼族なの。この里は家ごとに四つに分けられそれぞれの当主が納めているっていう仕組みよ。」

「本当に綺麗に別れているんだな」

魅月が指指す先には綺麗な正方形が四つに別れた里があった。

中心に馬鹿デカイお屋敷が一つ。多分俺達がいる屋敷であろう。

その周りに四つのそれなりにデカイ屋敷があり、その先には民間と思われる家が沢山並んでいた。4つの中の一つが彼らの実家であり治めるべき区域なのだろう。

「…そこまで大きい里じゃないんだな」

俺の呟きに目を細めながら魎が答えた。

「基本的に鬼は数が少ないんだよなァ。ここにいる里で純血の鬼は中心の屋敷にいる俺達と父親達の9人だ。この里の鬼はほとんどが人間と混血。過去に一度だけしか混ざってない奴もいるけどな。それでもわかってしまうんだ…俺達純血の鬼は、人間の臭いが。」

つまりそれは…俺ヤバくない?混血どころか、人間だよ!!本物だからね!?

「俺からは臭いがしないのか?元人間の俺は??」

焦りながら聞いた俺の質問に魅月以外にはぁ?みたいな顔をされた。

「えっと…悠さん??あなたは純血の中でも最も力を持つ魅月お姉ちゃんと禁忌の契約をしたんですよ??」

「……おう?」

「まったくもって馬鹿な頭だな、悠。魑架が言いたいのはこうだ。力の強い鬼の血を飲んだんだ。人間から鬼にほとんど変化するに決まっているだろう?確かに薄いがこの里にはお前より薄い奴は多いだろう。」

「………。」

なにさ。なにさ。そんな馬鹿にしちゃってさー。知らないもんは知らないんだよ。すがるように魅月を横目で見るとコチラを向かれるとは思っていなかったのか、目が合った瞬間顔を逸らされてしまった。

「わぁお。随分と嫌われてるね」

魄の嬉しそうな声に俺は魄を睨みつける。そんなことを気にすることなく、魄はニコニコと上機嫌に笑みを浮かべていた。魅月は魄の言葉に背伸びをわざわざしながら魄の頭を軽く叩くとため息混ざりに"馬鹿じゃないの??罪悪感よ"と言った。

「私が浅はかな考えで助けようなんてしたから、今悠を苦しめてる。皆にも…大きな重荷を背負わせてるんだよ?」

「それなのに、自分を責めずにはいられない…てか?ばか姉貴」

魅月の言葉を続けたのは魎だった。それを聞いた魅月の顔ががいきなり歪み、ぽろぽろと泣きはじめてしまう。それはまぁ…唐突でこの場にいる全員がうろたえてしまった。先程も気にしているそぶりが見えていたが、解決したと思っていたのだ。

「だってっ…父様達っ…もう昔とは違うから…っ皆が罰されちゃう…!!なにより…っ悠がっ…殺されちゃう…!!」

泣くじゃくりながら、震える自分の腕を抱きしめる姿を見ながら魅月は怖いのだと悟る。

この子は俺より年下で俺の知らない沢山の大切なものがある。どれだけ大人のように振る舞っても心底では子供。まだ成長途中の女の子なんだ。

「魅月?俺は魅月を怨んでないし、むしろ感謝してる。だから泣かないくれよ。そりゃ、いきなり人間から鬼なったって言われちゃびっくりする。でも…あの地獄のような場所から助けてくれたこと凄く感謝してるんだ」

そう自分でもびっくりするくらいスラスラと言葉をつづると魅月は何故か俺に抱き着いて来た。

「助けて…よかったの?」

きっと兄弟である彼らに聞かせたくないのだろう。俺は腰を屈めて、魅月の背中をポンポンと軽く叩く。

「うん、助けてくれてありがとう」

魅月には見えないだろうが目を閉じながら、俺は笑みを浮かべた。自分でも驚くように穏やかな笑み。

「たとえ、人を辞めても…こんな風に生活を保障されて、魅月みたいな美人がいるなら俺凄い幸せだよ。」

「現金なヤツ…」

少し強がったような子供らしい発言にホッと安堵の息をつく。

「クスクス。魅月…俺はある意味このきっかけで第二の人生を歩みはじめてると考えてるんだ。まだまだ始まったばっかりで、この先なにがあるかわからないのにまだ後悔は無いなんて言いきれない。でも、これだけは言えるよ。俺を助けてくれてありがとう。」

ただ…穏やかに魅月のか弱い背中を撫でる。しゃくりを上げ泣きじゃくる魅月はまるで小さな子供のようだった。

ずっと…苦しかっただろう。大切な兄弟の命。見知らぬ男の命。それを自分の手で危険に晒すことになってしまったのだから。その危険に晒すことへの責任感に耐えていた強さを俺は素直に凄いと思った。

そしてそれを恐れる弱さ。完璧でないその子供らしさ、それゆえに守りたいと思うのは俺に限ったわけではないだろう。

このか弱い少女を…笑顔を守りたいと思った。はじめて沸き上がる感情が心地好い。これがもしかしたら魅月の血が起こす感情かもしれない。それでもいい。今は魅月を笑顔に出来ればそれでいい。俺はそっと心に誓った。


少しずつ魅月の泣き声は納まり、俺から体を離す頃には涙を拭き終えていた。

「楽になったよ…ありがとう…悠」

笑いかけてきた魅月の目元はまだ赤く熱を帯びているようだったが、笑顔に陰りはなく純粋な笑みに安堵した。

「よかった。魅月」

しかし俺はすぐに自分の状況を思い出し、不機嫌を通り越して殺気を放つ奴までいる兄弟へ視線を移した。そこにはコチラを見下ろし黒いオーラを放つ4人がいた。

「悠?お前…ふざけんなよ?」

ちょ…魎目が据わってるよ!?

「僕の大切な魅月お姉ちゃんを取らないで下さいっ」

魑架ちゃん!?その手にある椅子は明らかに現実世界の物だよね!?お願いだから置いて!!振り上げちゃダメええ!!

「「殺す」」

いやああああああ!!こっちはもう次元が違うよ!?ガチの殺気だよ!!戦場でもこんなに鋭いの滅多に浴びないからね!?

「魅月!!助けて!!」

SOSを出した俺に魅月はクスクス笑い、まず魄と烏魏の頬にキスを落とした。

「「!?」」

続いて魑架ちゃんと魎にも頬にキスを落とす。

「「!?」」

フリーズしている4人を見て更にクスクスと魅月は面白そうに笑う。

「やきもちは関心しないけど…ありがとう。皆がいてくれて本当に幸せ!!」

少し赤い頬。自然に下がる目尻。唇も優しく弧を描き俺達も自然に笑顔にさせてくれる笑顔を4人に向けて浮かべる姿に何故かときめく自分がいた。何これかわいい!!

「…ゆるしてやる悠。」

「魅月に免じて許してあげる」

「っ//////」

「う////」

こっちも何これかわいい!!全員めちゃくちゃ顔赤いわぁ!!少ししか一緒に過ごしてないけどこんな顔見られるとか絶対レアだわ!!

「複雑な気分だけどありがと」

俺は苦笑いしながら魅月とお互いに視線を交わす。

「あ。悠しゃがんで?」

急に何か思い出したように、魅月は俺にしゃがめと進言してきた。ものすごく嫌な予感がする。

「ほっぺにちゅーはいらないからな?」

先に断っておこう。手遅れはゴメンだと思ったからの行動である。別にいらない訳じゃない。

だけど今はあの4人の機嫌のほうが大事だ。惜しいけど命には返られません。

「え?いらないの?せっかく皆にしたからやってあげようって思ったのに」

無意識なのが余計辛い。コチラを見る視線も辛い。あはは。俺崖っぷちダゼ☆つうかこんなキャラだっけ?

「悠。たとえ守護者に配属されたとはいえ馴れ馴れしすぎだぞ!!」

先に声を若干荒げたのは烏魏で、なんで俺こんなことになったのが不思議でならなかった。つうか怒られるのはやっぱり俺か。魅月が悪いとは言わないがちょっと甘やかしすぎだぞ。なんて言えやしないけど。

そういえば俺守護者だから、教育もあり?なんて考えている自分がなんだか可笑しくて笑いが込み上げて来た。

俺は昨日まで戦場にいて、生きるか死ぬかの瀬戸際にいた。

そして死ぬ予定だった。魅月に助けられるまでは。

それが覆され、今平和で暖かい生活に馴染んでいる自分の慣れの速さに驚いた。

けれど悪くない。こんな生活をずっと…送りたかったのだから。


「そろそろ鬼の"力"を説明しなきゃじゃない??」

珍しく進言したのは魄だった。魅月は少し不服そうにしていたが、諦めたようだ。

「そうね。説明するわ?」

するとまた風景がガラリと変わる。

しかし今度は幻影というより別空間と言ったほうが正しいようだ。

「立ってるな。」

タイル床の上に立っているのを確認するように歩き回ってみる。

「うん。今度は幻影じゃなくて僕が作った別空間。」

広さはそれ程大きくないが、無駄に丈夫そうな部屋だ。そんな空間を魄が作ったっていうのだから驚きだ。なんかもう、人間としての感覚なんか全部捨てたほうが良さそう。

「どおりでさっきと違うわけだ」

なんていうか、さっきはもやもやとしていて現実味が薄かったが、今回は現実味どころか体の感覚がはっきりしている。変な気分である。

「気が付けるんだったら見込みはあるなァ?」

魎が欠伸を噛み殺しながら人事のように呟く。

「まぁ…魅月お姉ちゃんの血契約者ですから、強い力を持ってないと守護者にならないです。」

苦笑い気味の魑架は俺へ視線を運ぶ。父親達はそれを瞬時に見抜いたってことか?

……。恐るべし父親s。

「その前に普通に流してたけど守護者ってなんだよ」

つうか根本的な事知らずになんで普通に守護者っていう役職を受け入れてんだ俺。

「あー…。」

そういえばみたいなノリで魎が説明をはじめた。あんたら俺を何だと思ってんだよ。

「守護者っていうのは俺らみたいに位が高い鬼に付く小姓みたいなもんだ。俺達もいるが、この本邸では連れ歩かない契約になってる。だから今はいないっつうわけ」

「へー。それは自分で選ぶのか?」

「基本的には元服したとき親が決めた貴族階級の鬼を守護者にすんだよ。元服は男が14歳。女は16歳だ。ちなみに巫女、鬼族、貴族、市民が身分順だ。俺らは鬼族。あのお前が目をハートにした女、閖菜が貴族身分。」

「…お前らが…鬼族…?貴族より高いってヤバくない?」

「おう。ちなみに巫女が魅月。」

「………え?」

ちょぉっと待て。

「一番偉いのが魅月?」

「おう。そうだっていってんだろ」

「ちょ…ちょちょっ!!??なんで俺そんなすげぇ巫女様に助けられてさらに守護者になってんの!?」

「そんだけ父親達は悠を屋敷内に匿りたいんだろ」

「お…俺?なんで?」

「何でってお前は人間界に居たんだぜ?たとえ死んでいるということになっていても、いくらでも人間界に戻って使えるじゃないか。人間についてもよく知ってる。生活にも文化や政治など詳しい。これ程使える駒はいないってね。」

「…執念深いっていうか…なんていうか…。元人間として助けられてなんだけど扱いが酷い…」

「鬼が人間に対して情を与えるのは真実を知る俺達くらいだぜ?」

「は?真実?」

俺が投げかけた質問を受け取ることなく魎は説明を続ける。

「いずれわかるから大丈夫だ。んで巫女っていっても魅月は普通の鬼だし。確かに純血だけど、俺達みたいに四大鬼族に属してない。生まれた時からずっとこの屋敷で過ごしてきた。屋敷外のことについては知らないし、鬼族以外と会うのはお披露目の時くらいだよな?」

「……。なんか俺凄い鬼に助けられたんだね…。」

「所詮、巫女様とか名前だけだもの。いくら市民や貴族に崇められていて、地位が高くても、ただの象徴。権力の道具。政治を円滑に進めるためだけに生かしているに過ぎないわ」

そういう象徴的存在なら日本にも天皇がいたな。第二次世界対戦。太平洋戦争でも使われてたと学校で習った気がする。

そしてまた第三次世界対戦で使われいる。種族が違えど、考えてることは同じということか。

「んで、守護者の仕事は身の回りの雑用処理と主人の護衛。」

以外と普通の役職だった!!

「身の回りの雑用処理とか…男の俺にやれと?しかも護衛とかビックリ万人ショー並の超能力使う奴らから守れないから!!」

「大丈夫大丈夫。段々と馴れるし、魅月を狙う不届き者は早々しないから。まぁある程度はないと困るから俺達が指導してやんよ」

あれ??嫌な予感しかしねぇよ。なんでたろうね。魄と烏魏とか絶対容赦なくスパルタなんだろうな。軍人だったから根性はそれなりにあるつもりだよ!!でも、耐えられる自信ないわ…。

今後の指導の辛さについて考えているとあることに気がついた。

「………。つうか魎様とか、魅月様とか呼ばなきゃならないの?」

やっぱり魎はそういえばみたいな顔をすると、めんどくさそうに少し考えた末、ぶっきらぼうに答えた。

「人前なら様付けのほうがいい。お前の育ちの悪さがばれる。あとはいいや。だろ?」

魎が周りを見渡しつつ同意を求めるど皆縦に首を振った。つうか育ちが悪い言うな。庶民だったんだからなしょうがないだろ。

しかし魄はニコニコしながら"悠に様付けで呼ばれるのならこの無駄な地位も捨てたものじゃないね"などとぼやいていた。全く末恐ろしい奴である。

「んじゃ力について話すぜ?まずお前のタイプを知りたいんだよなぁ」

「タイプ?」

「そうだ。この力には大きく4つに分けられる。」

すると魑架が俺の前に歩み出たと思うといきなり精神統一するように、目を閉じた。いくらも時間が経たないうちに、魑架の手元に光が集まり初め、何かを形作り始めていた。

「まずは攻撃系だな。魑架がそうだ。魑架は怪力系得意とするアタックタイプで、武器はハンマー。武器はイメージで変えられるが、強さは鬼の血の濃さで変わる。」

魎の説明が終わる頃には魑架の手には大きなハンマーが握られていた。鉄で出来ているのだろう。メタルだ。潰されたらアウトだな。つうか性格と全く合ってないよ。

「また血かよ…。」

だからさ…俺で大丈夫なんだろうか。

「次が頭脳系だ。烏魏がそのマインドタイプだな。計算や策略を得意とする。武器などは使わないな。力を高めるために能力を具現化させる本や、幻影が得意だ。」

うわー。絶対敵に回したくないわー。

「この力の場合、相手位置の表示とかがされるだけで策略自体は自分で考えなければならないから、力を持っていても活かせる奴少ないな。」

なんか次元が違うし、このタイプだったら最悪だ俺!!馬鹿だって自覚あるもん。

「次が魄の潜在系だ。相手の力のタイプや、感情の動きを読む力。更に選んだ相手を違う空間へ移動させたり、空間を作ることも可能だ。オールマイティなポテンシャルタイプだな。ちなみに魄は飛び抜けて凄いから、この里全員のタイプと力の形を大体把握してる。範囲は集中すればこの里くらい把握できるんじゃないか?」

こっちもなんか次元が違う!!

「ただ潜在系は数が少ない。俺が知る限り魄ぐらいだ。」

「んー。弱い力なら10人くらいいるよ?」

「……調べんの早いから。」

もう着いていけないっす。

「最後に防御タイプだ。これは俺の力だけど」

魎はいきなり手を自分自身の前に伸ばすと俺達の周りに薄い膜のような、薄いガラスのような透明の壁が球状に作り出した。魄、烏魏、魎、魅月、俺を守るように出来たシールド。何故か魑架は蚊帳の外だ。

「シールドとか結界とかも俺の力だ。触ると溶けるとか、力を抑制できる結界も作ることが出来るぜ。」

「………。」

もういやだわ。俺に出来る気がしない。

「強度は…」

いきなりクイと魎が魑架に向けて顎を引いた。物凄く嫌な予感。

予想通り、真顔の魑架が凄い速さで加速しながらコチラに迫って来る。ハンマーを手にしたままダッシュすご!!

そしてその力を全てジャンプに変えたのか高く飛び上がると、ハンマーを振りかざす。一枚たけだと危険だと見なしたのか魎のシールドが3枚増えるのが見えた。そして…

ドンッ…!!!!!!!

地面や空気が振動を吸収仕切れずに空間までも揺れ動く。その激しい揺れに耐え切れず俺は倒れ込んでしまった。他は全く動じてないのか腹立つわぁ。

収まった辺りで起き上がると、魎がシールド張った以外の場所は床はへこみボロボロである。

さらにシールド4枚のうち3枚は割れていて、最後の1枚にもヒビが入っていた。

未だにハンマーを食い込ませている魑架はニコニコしながらハンマーに容赦なく蹴りを入れると最後の一枚を難無く割ってしまった。

「やっぱり4枚は辛いです。」

「おいおい。殺す気かよ。」

心底楽しそうに笑う魎と魑架に俺は着いていける気がしない。つうか何か好敵手とか永遠のライバルみたいなポジションですね!!

「全くだ。魎も俺が出した指示に従えばこんな五分五分の賭けに出る必要は無かった。」

いつの間に指示出したんだよ!!作品上表現しなきゃいけないのにー!!って作者が…。

「魎も魑架も全力出さないでくれるかな?この空間が壊れちゃうよ。」

魄の口調には珍しく焦りが含まれていたのでどうやら本当らしい。

しかしすぐに魄によって壊れた床、壁などかみるみる修復されていった。

魎も魑架も反省した様子で、ふぅと一呼吸するとシールドやハンマーが風に流されるように消滅する。本当に不思議な光景である。

「これが基本的な力だ。これを応用すると色んなことが出来るけど、とにかく悠のタイプを知りたい。んじゃまず力を抜いて目をつぶれ。そうすれば目の前に光の粒で何か形作り始めるだろう?それはなんだ?」

「………。」

目を閉じて暗闇の中に体から零れる光の粒を集めようと意識する。光の粒は圧縮されたように変なものを形成していった。

出来れば慣れたのがいいなーとか。頭脳系と潜在系は絶対イヤだわ。とかあまり集中しているとは言えないがそんなことを考えながら、待つこと数分。

「拳銃…?」

わー在り来り。まぁ扱えるのそれくらいだけどさ。

朧げだった拳銃の形が段々とはっきりと明確に変化していく。掴める!!と思った瞬間。ずっしりと冷たく重い感覚。忘れもしない人殺しの武器。

「二丁拳銃か。」

「拳銃ってちょっと複雑な気分。おれアタックタイプってことだよな?」

「あぁ。拳銃っていう攻撃型の物が出たしな。」

「んじゃ試しに撃とうかな」

「それなら、魄よろしく」

「はいはい。全く人使いが荒いね。」

ため息をつきながらも魄は人の形をした、目標物を空間内に作ってくれた。なんかもう魄にだったらこの空間自由自在だから個人的な部屋とか作れるんじゃね?

俺は手にした拳銃で狙いを定めて静かに数発引き金を引く。全て心臓に命中。我ながら相変わらずの技術である。

「お前、拳銃得意だったんだな。これなら多少強い力に過信した鬼でも倒せそうだ。」

「これでも軍隊成績は首席だったし、部隊じゃ副隊長やってました。隊長にはちと年齢と経験が足りなかったんだとさ。」

「意外にも凄かったんだなお前。」

「まあね。でもここではあまり使わなそうで安心した。もう人殺しはゴメンだからね。」

気を抜くのはまだ早いと烏魏に睨まれてしまったが、最後に忠告された。

「鬼の治癒力は人間とは比にならない。一発で急所を撃て。多少の傷はすぐに回復してしまう。急所は人間と変わらない」

「急所を的確にとか…あまりいい響きじやないね」

俺が肩を竦めながら呟くと、魄がぞっとするような冷たい笑みを浮かべながら言った。

「敵を殺すことにそのうち違和感を感じなくなるよ。僕ら鬼に慈悲や情けを乞うても意味はない。あるのは残酷な裁きだけ。要するに敵であれば容赦しないってこと。たとえ血が繋がろうとも…ね。そして君もそのうち呑まれちゃうさ。悲しい鬼の性に。」

魄の発言に対し誰も何も言わなかった。きっとそれは事実で、当たり前のこと。ただ魄がそれを口に出しただけなんだ。

「怖いね、鬼って。まぁ…敵にならないように気をつけるよ」

俺がため息と共に言うと魅月が服の裾を引っ張ってくる。耳を傾けようとしゃがむと耳に口を寄せながら囁いて来た。

「気にしないで。大丈夫。鬼の血が濃ければ濃いほど、残酷になる。他者を簡単に切り捨てる。でも悠なら鬼を変えられるかもね。この悲しい鎖から…」

そう寂しそうに微笑み体を離す魅月を抱きしめたい衝動に刈られたが、抱きしめたら命が無くなる。俺の扱い酷いわぁ。

俺は魅月の頭をクシャと撫でながら、笑いかけた。

「まぁ適度に努力するよ。つうかそろそろ腹減ったんだけど?」

んー…と伸びをしながら言うと、空気に亀裂が走る。大きくため息を烏魏につかれ、魄に大爆笑され、魅月に苦笑いされ、魎に背中を叩かれ、魑架に"空気読めない人に認定してあげます!!"と言われた。

なんか間違えた?俺。まぁいいや。美味しい飯に素晴らしい環境、楽しい仲間!!

第二の人生順風満帆じゃないか!!


そして数分後、俺達は無事(?)魄の作った空間から出ることができた。チカチカするような眩しい光の後、気がつくとまた書物室に皆で立っていた。やけに魄がげっそりしているのは、やはり空間を作るのは結構負荷がかかるらしい。ちょっと悪いことしたなぁ。

「大丈夫?魄…やっぱりあんなに空間歪めて無茶しすぎよ。しばらく横になる?ひざ枕なら貸してあげる。」

やっぱり前言撤回。魅月にひざ枕とか、狙ってたとしか考えらんないね!!

"夕餉の支度が整いいたしました"という侍女の声がするまで魄はずっと俺達をニヤニヤと見ながら魅月のひざ枕を堪能していた。あいつらの悔しそうな顔を見るのもそれはそれで面白かったのは内緒である。


書物室から歩き去るときふと目に入った魅月。

そう…俺は何故かこのとき、偶然目に入った首に魅入ってしまった。沸き上がる衝動。トクン…と小さく心臓が跳ねた。…不思議な衝動。曖昧なのに、鮮明。矛盾する感覚に困惑しながら、考えを追い出すように軽く頭を振ると一緒に歩き出す。

今日の飯は何かなー、などと呟くと"言葉遣い!!"と烏魏に殴られたのは言うまでもない。






「魅月ぃーー!!抜け出す前にこれにサインしろよこらあああ!!」

俺がこの里に来て一ヶ月がたった。

最初は慣れなかった生活にも段々と慣れ始めている。

今じゃ板につきすぎて、魅月に対しての接客の取り締まり、稽古の組み立て、身の回りの整理などなど上げたらキリがないが、何故か俺に全部押し付けられている。

しかも厄介なくらい自由な魅月はすぐに屋敷を抜け出して森や花畑に行ってしまうもんだから、俺の毎日は休む暇もないくらい大忙しだった。

更に魄達がやっぱり凄い奴らなんだと城下町へ買い物に連れてかれたときに思い知ったのも、ある意味強烈なエピソードである。城下町!?とか、着物!?とか、時代劇!?みたいな驚きがあったものの、皆様優しくて昔の日本はこうだったのか…としみじみ思ったのもこの時だ。

魅月は屋敷待機で、俺以外はちゃんと変装していたのに、柄の悪い奴らに絡まれていた女の子を助けたらすぐばれて…人だかりがわんさかと。そのおかげで俺も有名人になりました。全く嬉しくない。

ちなみに守護者としての修行は未だに継続中で、毎日扱かれてる。でも段々魑架に追いつく感じがたまらなく心地好いのはライバル心みたいなもんだと思っている。

和やかにただあっという間に過ぎる日々に俺は翻弄されて、癒されて、目が回り…とにかく必死に過ごしていた。



そんなある日の朝餉の後。魅月の部屋に行ったら既にもぬけの殻。置き手紙に、"すぐ帰ってきます"とあったが、それどころではない。

「あーもう。なんでこんな時に限っていないんだよ。サインしないと今日の宴に参加出来ないって言っておいたのに忘れて!!」

"全く"と腰に手を当てつつ呆れ返り、宴用の綺麗な着物を出すと畳んで置いておく。

なんだか魅月の親になった気分だ。確かに懐かれているが、なめられてる気もしなくもない。あとでみっちり説教するか。

しかし俺も魅月が帰ってくるまで待てるほど暇ではない。自分も出席しなければならないので用意に屋敷を行ったり来たりを繰り返していると、急に烏魏に呼び止められた。

「今日も忙しそうだな。というより、おかんか何かかお前。」

気遣ってくれているのか、けなされているのかわからないんだけど。

「やぁ苦労の絶えない烏魏じゃないか。魅月がまた抜け出してさ、宴用の書類にサインしてないんだよね。烏魏のサインでも大丈夫かな?」

「まったく魅月は…。あぁ俺でも大丈夫だ。ちゃんと父親に通そう。」

「助かった!!宴は夕方からだからその頃には全部着替えさせて魅月を封印の間に連れていけばいいんだよな??」

「あぁ。今日の宴は貴族も参加するから、お前も口調に気をつけろよ。悠も魅月の守護者として初披露だし、魅月の裳着(もぎ)の祝賀の宴だからな。」

「も…裳着?」

「16歳を迎えて、一人前の鬼として認められるってことだ。それを祝う大事な宴なんだが、魅月は喜ばないだろうな。」

「え?」

俺が聞き返そうと言葉を発する前に烏魏は何かを思い出したように早急に歩き去ろうとする。

「おっと。長話になった。俺はそろそろ行く。悠もその格好で来るなよ?あと魅月は着飾るのに1時間はかかるから早く呼び戻した方がいいぞ。」

話を変えられたのか、ただ単に急いでいただけなのかどちらにせよ魅月が裳着を喜ばない理由を聞き出すことは出来なかった。

烏魏はそのまま早足で廊下を歩き去っていまう。

「俺もこうしちゃいられない。魅月探さなきゃ」

しょうがないので手に持っていた荷物を魅月の部屋に置き、あとは侍女に任せるとにした。そして俺は急いで花畑に向けて走り出す。

自分も十分魅月に甘いなぁなどと思いながら、足を動かしたのだった。




「これでもう逃げられない…か」

私は花畑の真ん中にぽつんとある大きな石に腰掛けながら呟く。

ここは子供の頃からあまり人の寄り付かない割に、自然が綺麗な不思議な場所だ。

幼い頃からよく兄弟達とここで遊んでいた。今は忙しくて私しか来れなくなってしまったが、私が安心出来る数少ない場所である。

「宴なんてただの名目。本当は新しい巫女を里に据え、政治を安定させるための策略。」

まぁ、策略だけではないことも確かであるため説明しよう。今回のメインイベントは私の巫女就任儀式である。この日のために私は生かされ、教育を受けて来たと言っても過言ではない。

「巫女とか…柄じゃないよね」

苦笑いを零しながら、思考を続ける。

先代巫女様が亡くなったのが14年前。それからずっと巫女不在で父親達は政治を進めていたようだ。

巫女の存在が政治に深く関わるわけではないが里の住民にとっては不安感が広がっているのを見ると里にとって巫女はそれ程大きな存在たどわかる。


何故巫女の地位を持つ私が巫女にならなかったというと、巫女になるには2つの決まりがあるためである。

まず巫女は裳着を済ませていること。

次に純血の鬼であること。

この二つを満たさぬ者は巫女の資格を得ないようだ。

そのため私は巫女の地位ついているが、鬼の"力"は持っていない。なぜなら巫女になる女鬼は生まれたらすぐにこの屋敷の封印の間にある祠に"力"を翡翠に預けるという仕来たりがあるからである。もちろん私も例外ではない。

翡翠は神格化されたご神体で、鬼の始祖であるといわれる鈴鹿御前が持っていた首飾りだ。

そして巫女は代々これを守り、力を捧げ、鈴鹿御前からずっと貯められ続けた力を背負うのが巫女だ、と耳にタコになるほど聞かされて来ている。

すなわち、今日に至るまでに巫女の名を背負った先祖様たちの積み重なった力を受け取る儀式がこの"翡受の儀式"だ。


「私が得る力は3つ。」

水を使い未来予知をする力。

服従させる力を持つ言霊を操る力。

最後に…

「意識体を持つ"大通蓮"を操る力。」

"大通蓮"とは鈴鹿御前が使っていた太刀である。翡翠と共に祠に納められているが、巫女が刀を抜くことはない。あくまでもご神体である。操るとはいっても、相性がよい巫女でないと使えないし、刀身を抜いて戦った巫女は今までいなかったようだ。


操るの意味も重要でこの大通蓮の内にら意識体が存在しているが、基本的に翡受の儀式のみでしか起きないようだ。初代巫女様は仲が良かったらしいが…記述上でのことである。本当かどうかはわからない。


「見習いから本業になるのやだな。毎日堅苦しそうだし、父様たちに今後もっと利用されるはずだし。きっと…」

今日で私の世界はガラリと変わる。

裳着を済ませた私は近いうちに結婚し、子を生み今後の鬼の糧となる。巫女の運命に逆らうこともできず生きるだけ。

別に名を残したいとか、父様たちから政権を奪うとかそんな奢った考えはない。

ただ…未来予知は巫女しか知らない秘術。記述に残されていない。悪用する馬鹿がいるからだと聞いた。

私は先代巫女様に教えて貰ったのだが、父様たちが知っている可能性がある。

理由なんて知らない。ただ何かをしようとしていることは確かで、私は色んな覚悟に迫られていた。

「もし…私が…資格を得ても何も変わらないなら、今後父様達と争う覚悟を決めなくちゃ」

私はこの言葉を吐きながらあることを思い出していた。

それはまだ14のとき。巫女について学ぶとかでこの里で一番の長老に巫女について話を聞いたときのことがある。その長老の話では歴代の巫女様はみな、翡受の儀式を終えると雰囲気がガラリと変わってしまうのだという。

どんなに儀式前明るい巫女でも儀式後は何かを悟ったような、重荷を背負ったような儚さを匂わせるようになると。

私はたんぽぽの綿毛に息を吹きかけながら目をつぶりまるで誓い立てのように呟く。

「望まない結婚も」

柔らかい風に撫でられ、小さくため息を零す。

「私と同じ運命の子孫を残すことも」

再び目を開いたとき、大好きな香りが鼻を掠めた。私は髪を押さえながら空を見上げる。

「……家族を殺すことも」

動いた唇と裏腹に空は果てしなく青く、広かった。泣きたくなるくらい清々しい空。

さようなら


「今までの私」


そう呟く切り離した昔の私を遠くへ飛ばすように強い風がザァッと吹き抜けた。

「っわ」

舞い上がる花びらは彼方へと飛んでいってしまった。私はそれを見つめながら再びため息をつく。


「魅月。」

私はいきなり背後から聞こえた声に体を硬直させた。

「悠!?」

「うす。呼び戻しに来た。」

声の主は普通に迎えに来たなどと言いだした。わかってたけど…。

「わかってる帰るわよ」

すぐに目を逸らし、ぷいとそっぽ向きながら唇を噛んだ。ちゃんと帰るけどね。

「なぁ魅月」

二人で歩きはじめてから悠は私と同じようにたんぽぽの綿毛を飛ばしながら話しかけて来た。

「ん?」

「これからもよろしくな。」

笑顔の悠。トクンと心臓が高鳴ったのは気のせいだとごまかせないくらい早くなっていく。でも気づかれたくない。自分も気づきたくない。

「なに?突然。変な悠」

感じた気持ちに蓋をして何もなかったように笑いかけながら私は悠の数歩先を歩き出す。

「きっと…守ってみせるから」

ふと耳を掠めた悠の声を拾うことは出来ず聞き返すが、悠はたんぽぽの茎を投げながら苦笑いしたたげだった。

「何か言った?悠」

「いんや。んじゃ走ろうか。負けたら烏魏の部屋の前に爆竹仕掛ける係りに任命!!」

いきなりの突拍子もない提案に私は驚愕に染まったがきっと緊張とか重荷を除こうと馬鹿騒ぎしてるのを知っていた。

「馬鹿じゃないの!?殺されるじゃない!!」


でもその気遣いは気づかないふりしたっていいよね?甘えてもいいよね?

「負ける気はないからな?んじゃ早速よ―いどん!!」

悠の合図に私はワンテンポ遅れて勢いよく走り出した。私はまるで何も知らない童のようで、鬱な気分が風に飛ばされゆくような感じがする。

「ちょっと汚いわよ!!」

力を持たない私なのに悠は悪びれもなく魑架に教わった駿足を使い普通に置いていこうとするのだ。

「知らねぇっすお嬢様―」

こんなときだけお嬢様呼ばわりとかずるい。いつもはいわないくせに。しかも馬鹿にするために使ってるし。守護者のくせに私を馬鹿するとはいい度胸じゃないの。

それでも私だって…!!巫女になればそれなりの力を得られるの!!

長所でも短所でもある負けず嫌いが発動した私は負けじと大きく一歩を踏み出す。

「っ!?」

勢いよく意気込んだのはいいものの足元にあった石に突っ掛かって体制を崩してしまった。急速に近付く地面に私は悲鳴をあげた。ぎゅっと私は来るであろう衝撃に身を固める。しかしいつまで経ってもそれらしい痛みは来ない。するといきなり悠に腕を捕まれれ、引き寄せられる。

「…?」

ふわっと抱き上げられる感覚に目を開けると。

「転ぶとか鈍臭いお姫様ですな。んじゃそのまま帰りますか」

悠が笑いをこらえながら私を抱き上げていた。

だからなんで今度はお姫様なの!?統一しなさいよ!!(そういう問題ではない)それより顔が熱い!そうやってまた馬鹿にする!!

熱を持つ顔を冷やす為に視線を泳がせるが、どこを見てもが必ず視界に悠が入るためしょうがなく目を閉じたのだが、今度はピッタリと触れている体に集中してしまう。

悠をいちいち意識するのも馬鹿らしいと自分を切り捨てようとしているのだが、燃えるような熱が消えてくれない。胸の中で激しく暴れる心臓が嫌いだ。

こんな熱く激しい感覚を私は知らない。

知らない気持ちだから、知ってはいけない気がしてならない。でももっと知りたい気もするの。ただそれは許されない。

「下ろしなさいよ―っ!!」

ジタバタと我慢出来ずに暴れ始める私だが、悠は得に困ったそぶりも見せずに走り続ける。そんな悠に私は感服した。脳筋肉。体力バカになってしまったようだ。ありゃ嘘です嘘です。睨まないで。無意識に口に出してしまったようだ。

「サイン書き忘れた罰」

…え…。ああああああ!!サインするの後回し後回ししてたら結局忘れたああああ!!え?ヤバくない?もう提出期限過ぎて…

「あ……。」

ヤバいヤバい。大丈夫かな?私こんな大事な日に――!!なんだけで出さなきゃ巫女になれないんだよね。

私が顔を真っ青にしながらあたふたしていると悪い顔で悠が笑う。

「まぁ烏魏に書いて貰ったけど」

すでに解決済みのことだったようだ。ニタァって笑うな!!確信犯!!心臓に悪い!!

「…良かった。ならもう…後戻り出来ないね」

ほっと息をつき悠の胸に頭を預けながら呟く。そして気がついた。

悠に気がついて欲しくなかったこの不安感。悠にだけは隠していたかったのに、口を滑らせてしまった。今さら訂正するような言葉が見つからない。

だけど悠は気にした様子もなくただ走っている。あれ?なんだ聞いてなかったのかと胸をせっかく撫で下ろしたのに。

「なぁ、魅月。」

いきなり繋がれた悠の声。私は返事をせずに耳を傾けた。悠も気にしていないのかそのまま続ける。

「俺には今回の宴がどんなに重要な意味を持つかは知らない。だけど、魅月は魅月だ。俺は巫女じゃなくて魅月が望むことをしてあげたい。守護者として、支えたいんだ。」

珍しく真面目な声。私は大人しくお姫様抱っこされてながら上から聞こえた真剣な声音を聞いた。

私、自惚れてもいいのかな?だって悠は私に無理矢理鬼にされて嫌々この里にいるも同然だって思ってた。多分悠なら嫌でも楽しそうに笑うだろうし、私の守護者だって嫌だって言わないだろう。

でも違うの?私とこれからも居てくれるって…この世界を好きでいてくれるの?

みるみるうちにじわっと込み上げる涙を堪えるように悠の着物を握りしめる。


「だから…怖がるなよ。不安なら俺が支えるから。」

そう笑いかける悠を見つめながらある考えを提案することに決めた。もしもの予防策に考えていたことだ。

「…じゃぁ悠…私の願い事を聞いてくれる?」

「いいよ。」

快く頷く悠に胸を痛めながら私は言った。

「もし宴の後、私が今と全く変わってしまったら私の守護者から降りてくれる?もしかしたら、その時の私は変わるなと言うかもしれない。でも今の…私を尊重して。」

眉を寄せながら頷くことに躊躇う悠を見つめながら私は続ける。

「今日の宴は私が巫女の力を手に入れる日。そして私自身が消える日でもある。」

「なんだよそれ…聞いてない。俺は聞いてないぞ」

焦ったような信じられないというよに私を見つめる悠。

「…ごめん。」

何とか搾り出した声は掠れてしまった。悠は泣きそうな私に気がついたのか、そのあとは何も言わない。私はそんな悠が羨ましかった。なんでそんなに強いのかと思ってしまうのは私の弱さか。

「巫女はね、父様達が思うほど便利な存在じゃないの。鈴鹿御前や歴代の巫女様の意志を受け継ぐのだから変わらずにいられない。使命だってある。」

悠を見つめる視界が滲み、光が反射してぼやけてゆく。声は震えないように押さえているのに震えてしまう。

「これから私は子供じゃいられなくなる。今のままじゃダメなの。だから…!!悠を父様のように利用する前に…魄たちを私が裏切る前に…っ」

ぎゅっと目をつぶれば目尻に貯まっていた涙が一気に頬をこぼれ落ちた。

「私を捨てて…」

「っ!!!!???」

驚きに目を開く悠はゆっくりと息を吐き目を伏せた。自分を落ち着かせているのだろう。そして再び視線を交えた瞬間何か固い意志を感じた。目が離せずにいると悠が優しく地面に私を降ろした。

そして私の足元にひざまずくと私を見つめながら言った。

「魅月ごめん。それは誓えない。」

苦笑いし、悠は私の目を見つめながら揺らぎない意志をさらけ出した。眩しいくらい…私の意志を揺らがすような瞳で。

「裏切っていいよ魅月。だったら魅月望む裏切りの駒になってやる。」

そんなことを平然と言うのだ。

「俺はこれからも魅月が決めたことなら逆らわない。だけど…今の魅月が後悔するようなことをするなら俺が正しす。今だって本当は違うだろ?」

「っ…」

また涙が溢れ出た。今度は我慢なんかせずにボロボロと拭かずに泣きじゃくる。毎回毎回悠の前だと涙腺が緩むらしい。

「う゛ん゛っ」

私は弱く頷くと手を握りしめた。

私はただ嫌われたくないだけだった。見捨てられること、自分が変わり、みんなが離れていくのを見たくなかっただけ。

そして誰よりも悠にはいなくなって欲しくなかった。

「怖かったの…!!巫女になって変わることが。変わったときにみんながいなくなってしまうことが。何より…悠がいなくなってしまうのが怖かった…!!」

優しく微笑む悠は私の手をとり大きな手で包み込むように握って来る。"そんなこと思うわけない"と言うように優しい手つきだった。

「うん。魅月ってさ…本当に…」

はにかみながら悠は私を不思議な瞳で見つめた。

「…ふっ…」

そして突然

「馬鹿だなぁ魅月。」

と笑い飛ばしたのだった。私はいつもの悠に戻ったことにホッとしたし少し名残惜しかった。すこしまだ濡れた頬を軽く袖で拭きながら軽く睨む。

悠はただ笑っただけだった。

「そんなこと思わうわけないだろ?第一、それならこんな面倒な守護者なんかしないし、権力強そうなお父様辺りに媚び売ってるさ。せれに俺と魅月の関係は兄弟よりも濃くなったって自分で言ったじゃないか」

そう笑いながら言うと悠は急に真剣な表情になり私の手にキスを落とし頭を下げた。

「天命を持って貴方にお遣えする。御前を離れず、証明に背かず、忠誠を誓うと誓約申し上げる。我が命、我が魂、我が体、我が全てを貴方の為に。」

唐突なことに、私は頭が真っ白になった。悠…今何て言った?などと聞く思考回路さえ吹っ飛んでしまったようだ。

けれど体は正直で、キスされた場所から段々と体中に広がる火照りが心臓を早くするエネルギーのように暴れ回る。私は口をパクパクと金魚のように動かしながら顔を真っ赤にした。

「許すって言ってくれない?」

フリーズしている私の手を悠が引っ張り現実に引き戻した。苦笑いの悠の言葉に私はやっと我に返る。じっと見つめる悠を直視出来ずに、私はそっぽを向いたまま言った。

「ゆ…許す。」

そうなんとか言い終えるとまた何とも言えない羞恥が私を襲った。今だ握られる手が恥ずかしくて離そうと引っ張ったのに悠は離してくれなかった。

「は…悠!!」

「逃げるだろ?離したら」

そう悠は言うと立ち上がり私の手を引っ張り引き寄せると膝の裏に手を回した。そのまま軽々と抱き上げられてしまう。私はまたお姫様抱っこに戻ったのだ。

「っな…歩けるって!!」

私はいたたまれなくなって手を振り回したが悠を直視出来ないので結局大人しくするしか無い。悠はそれを満足げに見ると走り出した。

「だいぶ時間食ったからな。早く行かないと遅れちゃうんだよ。それに魅月走るの遅いから」

ニヤと笑う悠は普段のふざけた口調に戻っていた。私はさっきの悠が信じられなくて多分困惑した顔になっているだろう。悠はまた走り出しながら"あれ軍人のときに天皇に誓わされた言葉の受け売り"と言った。多分あの誓いの言葉だろう。思い出すとまた柔らかく暖かった唇の感触を思い出してしまう。

「っく…」

悠の笑いをこらえる声に私はバッと上を向いた。バチっと目が会えば即座に私が真っ赤になりながら目を反らす。これの繰り返すこと数回。

「わ…笑わないでよ…」

やっと落ち着いて来た私は俯きながら抗議した。

「悪い悪い。あんまり…さ」

悠はそこから先を言わずに曖昧にごまかしただけだった。ただそんな瞳で見つめられてると…照れるんだけど。

「っ…だから私をからかわないでよ!!」

見つめられるのが恥ずかしくてまた睨むと悠が寂しげに笑うのが見えた。

それが見たくなくて何か元気づけれる言葉を探した。

そんなことを考えているうちに今なら強がらずに素直に言える言葉を思いつく。

私は静かに息を吸って笑いかけた。「ありがとう…」

悠の着物に顔を埋めながら呟く。悠はピクと体を一瞬揺らすとすぐに嬉しげに柔らかく笑い、無言で私の体を少し強く抱きしめた。きゅっと胸が締め付けられ、体の奥が燻るように熱い。

でも悠が喜んでくれたことが嬉しかった。

私自身何故こんな気持ちになるのか不思議でならなかった。前はこんなこと無かったのに、多分私はきっと血の契約のせいで変に意識してるだけだと自分に言い聞かせた。

悠も私を助けた恩人と雇い主としてしか見てないだろう。だからこんな気持ちおかしいのだ。

でももう少しだけ…もう少しだけこのままでもいいよね?この心地好い感覚に身を任せていたいから。

私は顔を綻ばしながら緩い振動に揺られていたのだった。




「巫女様のおなーりぃー」

封印の間。普段絶対に開かぬ神聖な場所のドアが開き、私はその中に無言で進んで行く。

十二単並に重い着物を引きずりながら歩くだけで一苦労だ。だからといって顔をしかめるわけにもいかず、ただ無表情で平伏す鬼達の前を歩いていた。



悠にお姫様抱っこされて帰ってくるとすぐに烏魏たちに引きはがされて、自分の部屋に連行された。

そして侍女らに捕まり重たい飾りなどをつけられてゆくのを不機嫌顔で堪えていたのだった。

1時間弱かけて着終えた私は重たい体を引きずるように悠の所へ移動することにした。

「誰?」

悠が私を見て言った第一声がこれだ。

「……。無礼な。我こそはこの誇り高き鬼を統べる巫女であるぞ。頭を垂れるがよい。」

気がつかない当たりにイラッとしたので腹いせに飾りの扇子を悠に向けて睨んでやった。

「なんだよ魅月か。」

キョトンと目を丸くしながらそんなことを言う悠。気がつかない以前にもっとなんか言うことないのかな。

「服装変わったくらいで主人のことわからなくならないでくれる?でも…ま…悠も服が変わると…」





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