無色は何色にも染まる
初投稿です。よろしくお願いします
効率厨
──物事における効率を過剰に信仰し、無駄という概念そのものに嫌悪感を抱く気性のこと。
◇
世界の不幸の大半は、“無駄”から生まれる。
無駄遣いをしたせいで、必要なものが足りなくなる。
無駄な一言で、人間関係が壊れる。
無駄な選択をして、取り返しのつかない何かを失う。
……実に馬鹿らしい。
無駄さえなければ、人生はもっと楽で、もっと幸福だ。
朝、目覚める。コーヒーを淹れ、優雅に朝食を取り、歯を磨き、服を整え、家を出る。
学校や職場では、仲間と談笑し、ほどほどに成果を出す。
軽い達成感を胸に、定時で帰路につく。
風呂でキレイに汚れを落とし、清潔な身体で布団に入る。そして翌朝、快適に目覚める。
完璧だ。
無駄が一切存在しない、理想的な人生。
──なのに。
なぜか人間は、それができないらしい。
朝起きて、まずスマホ。気づけば遅刻。
授業では居眠りし、叱られる。
帰宅後もスマホとテレビに時間を吸われ、気づけば深夜。
当然、翌朝は起きられない。
「本当に馬鹿らしいと思わないかい?」
『名前を教えてください』
……どうやら、僕の崇高な演説も、機械相手には通じなかったらしい。僕は肩をすくめてみせる。
「やれやれ。何も感じないのかい?君たちみたいな“機械”こそ、無駄を嫌うべき存在だろうに」
『名前を教えてください』
「……」
仕方ない。
僕は「あ」と入力した。
これ以上ないほど無駄のない名前だ。
『──“あ”様。ようこそ、Astral Link Onlineへ』
機械の声とともに、派手なエフェクトが走った。
豪勢なオープニングが始まる。
『この世界はかつて─』
「スキップで」
『─はい?』
「スキップで」
僕は当然のように言い切った。
僕はゲームをしに来たのであって、世界を救いに来たわけでも、お姫様を助けに来たわけでもない。
それは“無駄”だ。
ゲームの世界は人間が作ったものだ。
つまり危機も悲劇も、すべて“演出”。
それをまた人間が必死に救う?
実に“無駄”だ。
僕は僕のやりたいようにプレイする。
「というわけで、スキップだ」
『……オープニングをスキップしました』
ふふん。いい判断だ。
この小さな機械にも、僕の思想が理解できたらしい。
もし理解できていなければ、さっきの長話が完全に“無駄”になるところだった。危ない危ない。
「次に進んでくれるかな?」
『……かしこまりました。次に、種族をお選びください』
半透明のウィンドウが浮かび上がる。
人間、エルフ、オーガ、ドワーフ……。
「説明をお願いしてもいいかな?」
『かしこまりました。まず人間が──』
「あ、いいや。読むほうが早い」
『……』
無駄な説明は未然に遮断する。効率は命だ。
ふむ。種族ごとに得意不得意がある、と。
オーガは耐久と攻撃が高い代わりに魔法が苦手。
エルフはその逆。
どれも一長一短──。
……いや、それはない。
ゲームには必ず“環境”というものがある。必然的に、選ぶべき種族が存在するはずだ。
知らないけど。
説明書、無駄だと思って捨てたし。
……。
「……いや、問題ない」
僕は機械に向かって、チッチッチと指を振ってみせる。
『?』
制限は後から外せない。
だが、強みは後から足せる。
ならば──
「『人間』だ」
『次は職業を──』
「読むほうが早い」
『……』
しー、と指を立てる。
ていうかさっきからうるさいな。
僕は音声設定を0にした。効率は命だ。
「職業か……」
スクロールする指が止まる。
……多すぎない?
『メイド』?
誰がやるんだそんなもの。
あ、職業は後から変更可能……。
ふーん。
ならば答えは一つ。
「『無職』で」
ニートではない。
“無色”だ。
どんな色にも染まれる、最も効率的な状態。
続くステータス設定も、全て均等に振る。
偏りは、すなわちリスクだ。リスクは非効率を生む。
「よし、終わりだ」
僕は機械を見る。
「お世話になったね」
『 』
「……ん?」
音がしない。
ああ、そうか。
僕は音量を戻した。
「まったく、ちゃんと喋ってくれ。なんだい?」
『……申し訳ございません。最後に“初期スキル”の選択を行います』
「初期スキル?」
『各プレイヤーにはスキルポイントが100付与されます』
『既存スキルの取得、または独自スキルの作成が可能です』
『初期に取得したスキルは成長速度が上昇します』
なるほど。
「じゃあ、呼吸するだけで半径2km以内の生命体が即死するスキルで」
『そのようなスキルは作成できません』
却下された。
『強力すぎるもの、または想定外のシナジーを持つものは制限されます』
期待させておいて酷いやつだ。
僕は設定を開き、音声のピッチを最大まで上げた。
『マタ、スキルガキョウリョクニナレバ──』
甲高い声が響く。
……まずい、面白すぎる。
僕はすぐに元に戻した。
「なるほどね。ありがとう」
さて、スキルか。
既存のものを選ぶのは面白くない。
なら作成するしかないが、何が強いか分からない。
「こういう時は──ネットだ」
検索。
【お前らのスキルを教えてくれ!Astral Link Online】
一番上をタップ。
◇
1:風吹けば名無し
ワイのスキルが最強や
【ゴッドドラゴンブレス】最強のドラゴンを召喚して全てを焼却する
必要ポイント25000000
2:風吹けば名無し
作れねえ定期
3:風吹けば名無し
ワイのも見てくれ
【舞踊会の神】超綺麗に踊れる
必要ポイント65
4:風吹けば名無し
ゴミで草
5:風吹けば名無し
戦闘中に踊り出すおっさん想像したらオモロい
6:風吹けば名無し
利敵やんけ
7:風吹けば名無し
【絶対遅刻回避】どんな状況でも遅刻しない
ポイント40
8:風吹けば名無し
社会人専用スキルやめろ
9︰風吹けば名無し
80ポイント払うから使わせてくれ……
10:風吹けば名無し
【全知】なんでも分かる
ポイント9999999
11:風吹けば名無し
なんで【ゴッドドラゴンブレス】より安いんだよ
12︰風吹けば名無し
ドラゴン最強!ドラゴン最強!
…
◇
僕は無言でサイトを閉じた。
……参考にならない。
が、考えはまとまった。
「じゃあ、作成するよ」
『かしこまりました。どのようなスキルにしますか?』
「そうだね、スキル名は─【再構築】だ」




