閑話No.004 ガブリエルの憂鬱
「もう!レリエルはいっつもどこに行ってるのさ!」
ある日の天界のことである。天使ガブリエルの独り言は誰に届くわけでもなく空に吸われた。
最近のガブリエルは退屈していた。幼馴染のレリエルが本来の天使としての職務である胎児の案内に加え、新しい仕事をするようになったからだ。同じく子供にかかわる天使としてガブリエルはレリエルと古くから仲良くしていたのだが、その仕事が始まってからはめっきりガブリエルにかまってくれなくなった。
「僕を放っておいてまでしたい仕事なんて何があるのさ!」
大体、世界仕様決定部なんて何をやっているかすらもよくわからない。新設されたお堅そうな部署だということだけなんとなく聞いている。天使の仕事とは本来、自由・適当・気まぐれがモットーなはずだ。レリエルなんてその極みにいるような天使だというのに。オフィスがある組織なんて聞いたこともない。
―――しょうがない、レリエルを連れ戻しに行こう。
一人で愚痴を叫ぶのに飽きたガブリエルはそう決めて、その大きな翼で飛び立った。
***
「レリエルさんですか?あれ、さっきまでいたんですけどね……。」
意を決してやってきた世界仕様決定部のオフィスに肝心のレリエルはいなかった。いたのは見たことのあるようなないような、どこにでもいそうな若い天使だけ。
「ねえ、ここって何してるの?君は何でレリエルと仕事してるの?っていうか君誰?」
次々とぶつけられる質問に若い天使は面食らったような顔をする。
「え……、っと、僕はハニエルです。ここ……世界仕様決定部は世界の仕様?を決めていて、なんでここにいるかと言われたら……、神がそうおっしゃられたから……、ですかね……、ごめんなさい、僕もまだよくわかってないんです。」
なんとも歯切れの悪い答えをしたハニエルはとても申し訳なさそうな顔をしていたので、さすがのガブリエルも文句を言う気になれなかった。あと、ハニエルという名前を聞いて、この天使と昔一緒に仕事をしたことがあることを思い出したので少々ばつが悪くなったということもある。
「しばらくすれば戻ってくると思いますけど、ここでお待ちになりますか?」
「君がレリエルの何を知ってるっていうのさ!待つけど!」
「はあ……、じゃあその辺のソファに座っててください。いまお茶をお出しするので。」
ガブリエルは依然としてぷりぷりしたまま応接間のようなスペースのソファに座る。そしてオフィスをまじまじと観察する。レリエルがこんなお堅そうな場所にいつまでもいられるわけがない。まったくここは何なんだ。
そんなことを考えていると、ハニエルが一杯のコップを持ってきた。
「あの、ここが何してるかお聞きになってましたよね。待っている間レリエルさんが書いた仕様書とか読みますか?我々が書いた仕様書って一応天使ならだれでも読んでいいことになっているので。」
「何それ!読む!」
「と言っても、レリエルさんの一枚しかないんですけど……、」
そう渡された、No.007と書かれた仕様書を受け取って読む。レリエルがこんな真面目な文章書けるわけがない。そして書いている内容も意味が分からない。
意味が分からないのでその仕様書を隅から隅まで読んでいると、ガチャリとオフィスの扉が開いて、レリエルが戻ってきた。
「あら、ガブリエルじゃない。ここまで来るなんてどうしたの?」
「レリエルー!どうしたもこうしたもないよ!レリエルここから戻ってこないんだもん!こんなとこの何がいいのさ!」
「しょうがないじゃない、神に言われたんだもの。」
「それにしたって帰ってこなさすぎだよ!意味わかんない書類書いて何がいいのさ!」
「あら、読んだの?結構楽しいわよ。それに意味が分かったらおもしろくないじゃない。ここ、好きなだけお菓子持ち込めるし、いつでも食べていいの。居心地良いのよ。」
「なにそれー!レリエルはいっつもよくわかんないこと言う!とにかくレリエルは僕と一緒に遊ぶの!」
「だってあなた、私がなんか食べてると怒るじゃない。話聞けーって」
「もう怒んないから!レリエルいないとつまんないんだもん!」
「あー、あなた私以外に友達いないものね。仕事はできるのに。」
「うるさい!」
そんな問答を繰り広げながら二人はオフィスから出て行ってしまった。
そんな二人を見て嵐に巻き込まれたような気分になりながら、お二人は仲がいいんだなあとハニエルは思うなどしていた。
それ以降、レリエルが世界仕様決定部のオフィスにいる時間はほんの少し短くなった。らしい。




