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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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45 封印機構殲滅戦《コード・ブレイカー》

 氷に閉ざされた世界でヴィオラと向かい合う。

 その瞳は何の感情も宿さぬ氷結の黄色。


 俺の知る彼女のものではない。


「ここに来てもクラウスには捕らわれたままか」


 ここはヒルデの魔力で作られた並行世界であり、別次元。

 呪具と言えどその力は届かないと思ったが、そうはなからかったらしい。


 彼女が振りかざした腕から幾千もの氷刃が生み出された。

 大量にして強靭の氷刃。

 無詠唱。そのうえ魔力量は少しも減っていない。


 それが強さの証明だ。


「炎帝・閻魔槍々」


 対抗するように炎を纏う槍を空間に生み出す。

 合図はない。


 その場を埋め尽くする炎槍と氷刃と衝突する。

 世界が震えるほどの轟音と共に、蒸気の奔流が視界を覆い尽くす。

 目の前の氷霧を振り払うと、視界を覆い尽くしたのは無数の氷刃。


 加減はどない。最初から全力で殺しに来ている。


「劫火ノ咆哮・焔蒸発」


 炎を生み出す爆発が連続し、氷刃を次々と砕き溶かす。

 地面から数十本の氷柱が一斉に突き上がり、鋭い牙のように俺を貫こうと迫る。


「劫火ノ咆哮・灼域」


 全身から熱波を発して周囲の温度を上昇させつつ氷柱を溶かす。


「炎帝・閻魔ノ配下」


 続けてこの地に這えた火柱が上昇した温度を保つ。

 背筋に悪寒。


 いつの間にか迫っていた氷獄の支配者が振るう氷剣を寸前で避ける。

 冷気に触れた前髪が即座に凍り、砕け散る。

 体制を立て直しながら剣に手を掛けて、引き抜かずに腰を落とした。


 氷翼を羽ばたかせて後退する支配者の姿を捉える。


「居合・閃光ノ一筋」


 斬撃に光の魔力を乗せて光を筋を放つ。

 目にも映らぬ速さのそれは、羽ばたく片翼を貫く。

 通過した穴から魔力が広がると、氷翼が音を鳴らして弾け飛んだ。


 すぐさま氷翼を再生せる――その前に、剣に炎纏わせ斬りかかった。

 氷剣で受け止められるも、それは想定済みだ。


「燃え盛れ」


 声に反応するように炎剣が唸りを挙げて支配者を炎で包み込む。

 徐々に氷の鎧を溶かすそれを嫌う彼女を逃がさぬよう、炎剣を強く押し付ける。


 ――横腹に衝撃が走った。


 片翼が刺客から腹部を抉り、吹き飛ばされる。

 筋肉が潰され、骨が砕ける。口の中に血が広がる。

 地を滑りながら、それでも彼女を視界から外さない。


 氷獄の支配者が舞い上がる。

 氷翼を広げ、冷気を撒き散らしながら両手を掲げた。


氷の隕石(グレイシャル・メテオ)


 冷気が渦巻き空に吸い込まれていくと、巨大な氷塊が生み出される。

 その影で支配者を見失うほど巨大な氷塊が、ゆっくりと放たれた。


「劫火ノ咆哮・怒号ノ双牙!」


 両腕の炎を纏わせ氷塊に向けてそれを撃つ。

 火炎と氷塊が衝突――轟音と共に砕け散る氷塊。

 それは炎に飲み込まれて蒸発していく。


「貫け!」


 そのまま火炎を支配者へと向ける。

 逆巻く炎の奔流に人影が飲み込まれ――地面から飛び出す氷柱を割けるために魔法を中断した。


 避けた俺に支配者が振るう氷剣が迫り、それを炎剣で受け止める。

 連続して放たれた幾つもの斬撃を受け流し、剣を捨てて炎を纏う手で氷剣を掴む。

 支配者にとて予想外の行動だったのか、そこに生まれた微かな隙。


 拳に炎を収束させ、支配者の腹部にそれを叩きこむ。

 衝撃で空間が震え冷気が弾けた。

 氷の鎧を貫き身体を捉えた確かな感触。


 氷獄の支配者は膝をつき、俺を真っ直ぐに見上げた。

 その瞳。黄色に輝くその瞳には意志があった。


「ふふっ。やはり強いか。底が知れぬな」


 その声に感じたものは確かな意志。


「お前。まさか」


 その瞳と声に、意識を取られた。

 向けられた手から放たれた強力な冷気に吹き飛ばされる。

 氷塊に身体が叩きつけられ、衝撃に意識が揺らぐ。


「身心浄化・霊ノ施シ」


 自治癒魔法を掛けながら、身体の痛みを確認しながら立ち上がり支配者を見据える。


「懐かしい。全てが。この空間も。貴様の魔力も」


 吐血しながら、支配者は微かに笑った。

 苦悶に歪むはずの顔に、そこには歓喜のが浮かんでいた。


「終わろうか。私はお前が思っているほど強くない」


「初めから意識があったな」


「我々の関係に多くは無粋。存在を示すのは強さのみ。そうだろう?」


 支配者は両手を広げ、周囲の冷気を取り込み始めた。

 氷獄の世界に充満していた魔力が全て支配者に集められる。

 飲み込まれそうになりながら、俺も魔力を開放していく。


絶対零度フロスト・終極世界(アポカリプス)!」


 凍てつく奔流が渦を巻き、あらゆる存在を冷気で停止させる波が迫る。

 これが支配者の全力であるということは知れていた。

 答えて見せろと、支配者はこちらを見据えて微笑んでいる。


 全身の魔力を絞り出す。

 宿る神の魔力が脈を打ち、一気に全身が熱くなる。


「劫火ノ咆哮・終焉灼界!」


 炎と氷がぶつかり合った瞬間、光と音が消えた。

 世界を裂くような衝撃だけが身体を震わせる。

 白銀の空が割れ、地が砕け、無数の欠片が吹き飛ぶ。


 炎と氷が拮抗し、互いを喰らい合う。


「やはり。遠く及ばぬか」


 轟音。


 最後に炎が氷を打ち砕き、燃え盛る奔流が支配者を呑み込んだ。


 視界が真白に染まり、やがて光が収まった。

 支配者は膝をつき、全身が傷だらけになりながらもこちらを見上げている。

 氷の装甲は砕け落ち、吐血しながらも、その瞳は強い意志を宿していた。


「認めよう。その強さ」


 掠れた声で、それでも誇らしげに笑う。


「お前は氷獄の支配者か?」


 俺は息を荒げながらも拳を下ろし、彼女を見据える。


「その名で呼ばれたことはない。そう記されていることは知っているがな」


 はっきりとした言葉には、確かな意志が感じられる。

 瞳が黄色いところを見ると、支配者と考えてよさそうだ。


「この空間に来た時からお前の意志で動いていたな?なんで操られた振りをして攻撃してきた?」


「貴様の内にある存在との約束を果たしたまで。また会うことがあれば、一戦交えるとな」


 俺の内にある存在。

 となれば神の事を言っているのか。


「聞きたいことが溢れるのはわかる。が、それほど時間はないぞ」


 支配者が空を見上げると、空間の至るとろこがひび割れていた。

 ここはヒルデが作り上げた異次元世界。

 維持するだけでも大量の魔力を消費する上に、俺と支配者の戦いにより世界が崩壊し始めている。


 支配者の言う通り、聞きたいことはたくさんある。

 が、昔話をしている余裕はなさそうだ。


「元いた世界に戻ったらお前はどうなる?」


「我の魔力では呪具には抗えん。再び奴の支配下に置かれるだろう」


「どうにかならないのか?」


「ならんな」


 あまりにもあっさりとした答え。

 だが、支配者がそう言うのなら、そうなのだろう。


 好き好んで誰かの支配下に置かれようとは思うはずがない。

 そうなれば、元の世界に戻ってまた戦うのか?

 こんな戦いをしたら王国は滅びる。


 それだけは避けなければならない。


「戻った瞬間クラウスを殺せばなんとかなるか?」


「既に心は呪具により縛られている。我の攻撃を掻い潜り、被害を出さずにそれが出来るか?」


「じゃあどうすんだよ!」


 苛立ちで言葉が強くなってしまう。

 だが、支配者は至って冷静だった。


「呪具が縛れるのは私の魔力だけだ。だとすれば、簡単な話だろう?」


「どういう意味だ?」


「ふっ。察しが悪いな。……身体を返すぞ、小娘」


 低く響くその声とともに、支配者の瞳がゆっくりと閉じられた。

 次に見開かれたのは――淡い水色の瞳。ヴィオラの瞳だった。


「……っ!」


 大きく息を吸い込み、ヴィオラは震える肩で呼吸を繰り返す。

 そして目尻から堪えていたものが零れ落ちた。


「シュヴァ!」


 涙に濡れた声とともに、彼女は迷いもなく飛び込んできた。


「お、おい……」


 不意を突かれて、思わず声が裏返る。

 ぐしゃぐしゃに泣きながら縋ってくる彼女の温かみを感じる。

 何度も耳元で名前を囁く彼女。


「……よく戻ったな」


 そっと手を伸ばし、震える肩を支え、頭に手を置く。

 泣きじゃくる彼女の髪を、優しく撫でながら、心の底から安堵の息をついた。


 瞬間――冷たい気配が背後に立ち昇った。


 振り返れば、氷の粒子が集まりゆらりと人影を形作る。

 現れたのは魔力によって具現化した氷獄の支配者。

 姿はヴィオラそのままに、瞳の色だけ黄色く輝いている。


「甘い感傷に浸っている暇はない」


「そう、よね」


 ヴィオラは身体を離して涙を拭う。

 そこに、先ほどまでの弱さはない。


「どうすればいいの。クリュノス」


 呼ばれ、支配者の瞳が微かに揺れた。

 だが、彼女は淡々と言葉を並べる。


「呪具で縛れるのは我の魔力のみ。であれば簡単なこと。我の魔力を無くせばよい」


「無くすって、お前の魔力はヴィオラの魔力だ。そんなことしたらヴィオラは」


 人は、魔力が尽き、枯れれば死ぬ。

 身体が動かなくなり、すべての機能が働かなくなり、時期に腐敗し朽ち果てる。


「その案はない。ヴィオラは絶対に俺が守る」


 決意をはっきりと示す。


「シュヴァ……」


 感嘆の声が聞こえてくるが、それが恥ずかしくなる。

 感情的になりすぎてヴィオラが隣にいることを忘れていた。


「青いぞ小僧、話しをよく聞け。我の魔力は無くなる。が、それを全て小娘の魔力とする。そうすれば問題はなかろう?」


「そんなこと出来るのか?」


「我が大陸で生きていた時、子孫にそうして来た。そうしなければ、あまりにも危険な力。それは、お主らも十分に存じておるだろう?」


 長年、支配者の魔力に悩まされ続けたヴィオラと、直接対決を果たした俺。

 確かに普通の人が持つには危険すぎる魔力だ。


「でも、そんなことをしたらクリュノスは」


 ヴィオラの瞳が大きく見開かれ、震える声が響く。


「そんなことをしたら、あなたは消えてしまう」


 心配そうな声を掛けるヴィオラ、に支配者は嘲笑う。


「世界を苦しめた存在を心配するか?」


「確かにあなたは世界を苦しめた。でも、何度も世界を救ってる。それを私は見た」


「ふっ。致し方ないとは言え、自分の過去が知られるのはつまらんな」


 ヴィオラは、支配者の過去を見たようだ。


 前にヒルデが言っていた。


 血には記憶と意志が宿っており、魔力の根源であり源泉。


 支配者の血を受け継いでいるヴィオラが、その過去を見られたのは当然とも言える。

 そして、魔力が消えるということは、意志や記憶も消える。

 存在は完全になくなるということだ。


 ――だからヴィオラは。


「いいか小娘。犯した罪が消えることはない。例え何度世界を救い、何千もの人を救おうと、我が苦しめて人の想いは消えはしない。なかったことになどしてはあってはならない。我が殺したモノが蘇ったことは1度たりともない。それが罪だ。許されることなどあってはならない」


 毅然と言葉を告げる支配者。

 自らが犯した罪の重さを理解している。

 多くの人々を助けてもなお、自分の罪を許していない。


 だが、ヴィオラの瞳にも強い意志が宿っていた。


「あなたの罪は消えない。けれど、あなたがした功績も消えない。だから私はあなたを許す。だからあなたも自分を許して。私と一緒に」


 ゆっくりと差し出された手を――支配者は掴まない。

 黄色い瞳はヴィオラをしっかりと映している。


「小娘。手を差し伸べることが優しさだと思うな。時にそれは侮辱と同罪だ」


「……っ」


「他者に許されるのは構わない。だが、犯した罪を自分で許すことなどあってはならない。それが大罪を犯した者の背負い続ける罰なのだ」


 ヴィオラは、その言葉に視線を落として俯く。


 そんな彼女を支配者は優しく見ていた。


「そう下を向くな。お前は既に、我の魔力を一部とはいえ身体に馴染ませ使い熟していたではないか」


「だからって」


「変換された魔力を扱い続ければ、いずれ再び我を呼び戻す道も無いわけではない。或いは」


 そう言って、支配者の唇にわずかな皮肉めいた笑みが浮かぶ。

 ヴィオラの瞳が潤みながらも揺れ動き、やがて静かに決意を宿した。


「わかった。あなたから受け継いだ魔力を必ず使い熟してみせます」


 支配者は満足そうにうなずき、淡く光る氷の気配をヴィオラへと送り込む。


「小娘。迷惑を掛けた。我の力のせいで。困難な道のりであっただろう」


「……大変だった。でも、それ以上に素敵なことがあったから」


 ヴィオラの真っ直ぐな言葉に、息を呑む支配者。


 頷いた後、支配者はこちらを見る。

 そこにはヴィオラに向けていた優しさが混じる色はない。


「小僧。我の魔力は変換され、弱まる。だが、それでも膨大だ。もしもの時は小娘を」


 白銀の空間が、震えるほどの光で満ち始める。

 ヴィオラの身体に支配者の魔力が流れ込み、その存在が薄れていく。


 その瞬間。


「クリュノス」


 俺の胸奥で眠るはずの神の声が、低く、しかし確かに響いた。


「大儀であった」


 その言葉に、支配者の瞳が驚愕に揺れる。


「お前は……」


「また会うことがあれば、その時は一戦交えようぞ」


 空間に広がる神の声はどこか楽しげで、温かみに満ちていた。

 支配者の肩が震え、頬を一筋の涙が伝う。


「楽しみに待つ」


「ああ……。願おう、その時を」


 淡い光に包まれながら、氷獄の支配者は静かに微笑む。

 そして、涙を残したまま、その存在は霧散し――魔力はすべて、ヴィオラへと注がれていった。


 白銀の空間に、凍りつくような静寂が訪れる。

 彼女の睫毛が震え、ゆっくりと瞳が開かれた。

 静かな涙を流しながらも、どこか覚悟を秘めた眼差し。


「……大丈夫」


 ヴィオラは小さく息を吐き、胸に手を当てる。

 圧倒的な魔力が彼女の中で脈打ち、周囲の空間さえ震わせていた。

 その魔力の量は、支配者ほどではないにせよ、かなりの膨大さを感じる。


「一部とは言えクリュノスの魔力を制御していたんだから。これぐらい」


 涙を拭うことなく、ヴィオラはこちらを振り向く。


「自分の魔力くらい制御できて当然よ」


 言葉に呼応するように、彼女の周囲で淡い氷と光が舞い散る。

 暴走するどころか、一片の乱れもない。

 完全に制御され、ヴィオラの魔力として制御されている。


「驚いたな」


 思わず、声に出していた。


「並みの人間なら魔力に耐え切れなくなってもおかしくなさそうだけど」


 ヴィオラは俺を見つめ、静かに首を横に振った。


「これぐらい何ともないわ。なんせ、私はセレナと。あなたと一緒に訓練してきたんだから」


 その声は揺るぎなく、涙を流しているのに、不思議と凛として見えた。

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