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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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44 並行世界《パラレル・ワールド》

 聖堂は既に氷獄の支配者の力で氷漬けにされていた。

 祭壇も柱も、参列していた者たちの息すら白く凍りついている。

 壁一面に広がった氷の棘は、まるでこの場から逃げる道を封じるかのようだ。


 なかなかえぐいことをする。


 祭壇で宙に浮いているヴィオラは、俺の知っている彼女じゃない。

 支配者の魔力は完全に開放され、クラウスの呪具に縛られた操り人形だ。

 こちらを見下ろす冷たい瞳に、俺を俺だと認識している様子はない。


 支配者の背後に浮かぶ氷の羽が羽ばたくと、冷気が聖堂全体を軋ませる。

 冷たい風が皮膚を切り裂き、肺に入る空気さえ氷刃のように鋭い。


「見ろ、シュヴァルツ。これが完全な氷獄の支配者だ。ボクの手によって、ようやく世界に真の姿を現したんだ」


 クラウスは支配者の背後で勝ち誇ったように笑みを浮かべている。


「そしてコレを従えるのはこのボクだけ。その意味がわかるか?」


「知らねえよ。お前は後で殺す。覚えてろ」


 こいつを相手にしている暇はない。

 まずは支配者をどうにかするしかない。


「っち、雑魚が……。氷獄の支配者よ!この広間を凍てつかせろ!」


 その命令に従うように支配者から冷気が溢れ出て、氷翼で吹雪を作り上げる。


「劫火ノ咆哮・灼域」


 真紅の熱波と氷獄の白い冷気が衝突した瞬間。


 ギィィィィン――!と甲高い音を響かせる。


 氷と炎の力がぶつかり合い、聖堂の中央で激しい蒸気が噴き上がる。

 砕け散る氷片、爆ぜる炎の火花、耳を裂く衝撃音。


「炎帝・閻魔ノ配下」


 大理石の床に描かれた魔法陣から8本の炎柱が伸びる。

 轟々と唸る火柱は聖堂全体を包み込むように灼熱を吐き続ける。


「っちい!支配者!こいつをすぐに破壊しろ!」


「劫火ノ咆哮・焔蒸発」


 すかさす魔法を唱え――激しい爆音と共に支配者が弾け、炎に包まれる。


「やったか!」


「陛下ですか?それやめてください」


「な、なんで?」


 きょとんとこちらを見る老人に説明する暇はない。


「だけど埒が明かないな」


 こんなところで全力を出せば死人が出過ぎる。

 王や貴族たちを守りながら戦うのも骨が折れる。

 炎柱で聖堂の温度は保たれているが、大量の魔力が消費され続けているのを感じる。


 何か手はないかと、聖堂の窓辺。複数の鴉が見えた。

 じっとこちらを見つめ、それはまるでなにかを訴えているかのような目をしている。


 ――そうか、あれは。


「陛下。約束してください」


「な、なんだね急に」


「俺が氷獄の支配者をどうにかします。その代わりに、彼女……。ヴィオラが正気を取り戻した時、罪をなかったことにしてください」


「それはどういうことだ?あれは支配者だろ?ヴィオラというのはクラウスの婚約者だろ?なぜ彼女の名前が出てくるのだ」


 だ、ダメだ。この老人、状況を全く理解出来ていない。

 だが、そんなことを説明している余裕はない。

 早く話を付けないと――。


「いい。私が保証する」


「あなたは」


「第二王女。リノア・ザルヴァインが保証すると言った。これでいい?」


 第二王女の発言ならありがたい。十分すぎる保証だ。


「だがよ。どうすんだ?お前はあいつに勝てるのか?」


 隣に座る、大柄な男が問いかけてきた。


「勝てますよ」


「大した自身だ。だが、さすがにここで戦ったらただじゃ済まねえだろ?嬢ちゃんの保証をした妹まで余裕で死ぬと思うが」


 第二王女を妹扱い……。ということは、こいつは第一王子か。


「第一王子も一緒に保証してくれるなら俺が全力で守ります」


 野性的な目つきがこちらを射抜き――それが解かれる。


「おもしれえ。やれるもんならやってみろよ。俺が死ななかった保証してやる」


 よし、これで準備は整った。


「な、なら。なんだかわからんが私も保証するぞ!」


 なんか頼りないけど陛下のお墨付きまでもらった。


「セレナ」


「はい」


「俺は支配者を連れてここを離れる。この場は任せられるか?」


 一瞬、彼女は強張った表情を見せた。

 だがすぐに、鋭い眼差しでクラウスを睨みつけ、わずかに口元を引き締める。


「……時間稼ぎぐらいなら、やってみせます」


 その声には震えも迷いもなかった。

 彼女の決意を確認した瞬間、俺はわずかに口角を上げる。


「十分だ」


「その代わり……」


 セレナは真っ直ぐな瞳をこちらに向け。


「ヴィオラ様を頼みます。……シュヴァルツさん」


 一瞬、鼓動が跳ねた。

 俺の名を――セレナが、初めて口にした。

 剣を握りしめて立つ彼女からは、不思議な強さを帯びた眼差しを感じる。


「ああ。任せろ」


 冷風が炎柱によって温められ、生暖かい風が吹く。

 支配者は氷翼で爆炎を吹き飛ばし、傷一つない姿を見せた。

 まるで効いてないと言うかのような無表情。


「準備は整った。もういいだろ、ヒルデ!」


 呼びかけに応じるように、複数の鴉が羽ばたく。

 それは俺の頭上で旋回し、まるで溶け合うように形を変える。

 そこから現れるのは滑らかな青紫髪、冷ややかな瞳、そして漆黒の衣を纏った姿。


 大魔導士。ヒルデガルド・ヴァイスハイト。


「あーっはっはっは!随分と長らく待たせてしまったのではないか?シュヴァルツ・クリーガーくん!」


 鴉から変じたヒルデが、冷気と炎の境界に降り立つ。


「ヒルデ」


「我々の間に言葉はいらない。そうだろう?」


 ヒルデは、すべてを見透かすように俺をじっと見据える。


「お、お前はヒルデガルド・ヴァイスハイト!貴様はボクの邪魔を散々してくれたな!すぐにこいつを殺せ!」


 一斉に襲い掛かってきた騎士たちに、ヒルデは彼らに視線すら向けない。


「やれやれ。ここでの出しゃばりは少々無粋だとは思わないかい?」


 ただ手に持った杖を歩きながら振っただけ。

 それだけで騎士たちは音を立てて床に伏せる。


「申し訳ないが今の私に無駄な魔力を使わせないで欲しいものだ。これから大仕事があるのでね。久々に本気を出さなければいけないものだから、身体ならしに時間がかかってしまったが」


「なにをするつもりだ!」


「キミには関係のないことさ」


「っち。氷獄の支配者!奴を殺せ!」


 呪具で命令する。


 だが、支配者は身動きを取らなかった。

 感情のない瞳で、まるでヒルデを見極めるように見つめている。


「なっ!どういうことだ!なぜ言うことを聞かない!」


「わからないこともあるものだね。だが、それだからこそ人生は面白い」


 そう言って、ヒルデは空間から大きい杖を取り出した。


「準備はいいね?」


「ああ。問題ない」


「ならば全力で行ってくるといい。シュヴァルツ・クリーガーくん。見せてくれ、キミが綴る物語を」


 ヒルデの言葉にうなずいて、俺は剣を引き抜き一気に跳躍する。


 支配者に斬りかかり、それは氷の刃に受け止められた。


 火花が散り、お互いに睨みあう。


「さあて。始めようか」


 ヒルデは黒衣の裾を翻し、手を掲げる。

 瞬間、俺と支配者を取り囲むように魔法陣が展開する。

 幾重もの輪が回転し、光の奔流が俺と氷獄の支配者を包み込む。


「世界は一つにあらず。影と光の狭間に、我が身を持って次元を創造する――並行世界(パラレルワールド)!」


 視界が白く弾け、身体が宙を裂かれる感覚に襲われる。


「支配者よ!必ずそいつを殺せ!これは命令だ!わかったな!」


 その声が彼女に届いたのかはわからない。


 だが、剣を受け止める眼つきが鋭くなる。


 強い重力に身体が引っ張られる感覚。


 暫くするとそれは収まり、足が地を踏む感触が伝わってきた。


 目を開く。白銀に包まれた世界。


 辺りは氷に覆われ、遠くの山脈や森はすべて凍結していた。


 地面は凍りつき、空はには厚い雲も広がる。


 ここはまるで伝承で読んだ氷獄の支配者が統べていた世界。


 その中心に立っているのはヴィオラの姿をした氷獄の支配者。


 氷の装備に身を包み、懐かしむように氷獄の世界を見渡していた。

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