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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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40 邪魔者の排除《ヴァニッシュ・オブ・インターラプター》

 ヴィオラが実家へ戻ってから数日が経った。

 朝活中、闘技場で訓練していると、ふとした拍子に彼女達の姿を探してしまう自分に苦笑いが漏れる。

 当たり前にひとりで過ごしていた日々に、こんなにも入り込んでいたのかと。


 自分でも不思議な気持ちだ。

 暇潰しにヒルデと適当に話すかと学園長室に向かったが、まだ出張から帰ってきていないようだ。

 こんなに長期間いなくなることはなかったので心配ではあるが。

 ヒルデのことだ、無事であることは間違いない。


 結局、俺はぽつりと取り残されたように王都で時間を潰すしかなかった。

 ヴィオラと偽装恋人になるまえは当たり前だったひとりの時間。

 それが今では手持ち無沙汰と感じてしまっている。


「不思議なもんだな」


 胸に穴が開いたような初めての感覚に戸惑う。

 俺は今後、なにをして生きていけばよいのか?と。


 そんな時。


「な、なあ。ちょっといいか?」


 声をかけてきたのは、誰だったか。見覚えがある男子生徒。

 暫く無言で睨みつけたが一向に思い出せない。

 見覚えはあるんだけど。


「そんなに睨まないでくれ。お礼を言いたくて来たんだ」


「そんな覚えはないが」


「ダークウルフに襲われた時、助けてもらっただろ?」


 少し前にシオリにも同じことを言われたけど、さっぱり覚えてない。

 あの時はヴィオラを助けるためにダークウルフを倒してただけだし。


「ああもう!オレだよオレ!露出狂だよ!」


 ピンとこない俺に痺れを切らしたのか、まさかの変態宣言をする男。

 いきなりのカミングアウトにさすがの俺もこれにはドン引き。

 騎士養成学園って意外とヤバいやつ多いのか?


 よりにもよってなんで俺にそんなこと言ってくるんだよ。

 しかも露出狂って。こいつは俺に何を望んでるんだ。


「引くな引くな!変な奴が言ってきたんだろうが!」


 慌てて訂正しようとする露出狂に侮蔑の視線を向けると。


「ロッカーで嫌がらせしたら服を脱がされたオレだよ!」


 その言葉でようやくピンときた。


露出狂(ジ・リベレイター)か。だったら初めからそう言え。危うく世界の終焉(ワールド・エンド)が貴様の視界を埋め尽くすところだったぞ」


「だから早めの段階で言っただろうが……」


 なるほど、それで露出狂って自称したのか。

 うっかりうっかり。俺が命名した呼び方だったわ


「要件はそれだけか?封印機構殲滅戦(コード・ブレイカー)の風を感じる。狂人の運命ルナティックス・フェイトの責務を全うする俺に、こんなところで時間を浪費する暇はないんだが」


 本当はただの暇人なんだけど。


「ちょっと待ってくれ!前に言ってたよな?『もしまた取引を持ちかけられたり命令を受けたら俺に一言くれ』って」


 言ったっけ?あんまり覚えてないんだけど。


「実はあれ以降も同じ奴にお願いされてたんだ。お前に嫌がらせしてることにして、金だけ貰ってたんだけど」


 急にえぐいこと言うじゃんこいつ。

 得体も知れない相手に虚偽報告して金だけ貰ってたの?

 怖いもの知らず過ぎんだろ……。

 普通に殺されててもおかしくないよ?


 まあそのお陰か知らんが、クラウスの嫌がらせが殆どなかったからいいけどさ。


「今回はちょっと事情が違ってよ。中身を見ずにこれを絶対に渡せって。今までにない剣幕で言われたから。……手紙ぐらいもらってくれるよな?」


 性癖が露出狂の詐欺師から差し出された手紙。

 絶対に受け取りたくない字面だが、恐らくクラウスからのもの。

 手紙を受け取ると、「まいどあり」と悪い笑みを浮かべながら言われる。


 シオリといいこいつといい、ヤバいやつ多くない?

 王都騎士団の未来が心配になるわ。


「中身は確認してねえからよ。じゃ、ありがとな」


 手を振って去っていく露出狂(ジ・リベレイター)

 子悪党とはあいつに最も似合う言葉かも知れない。


「にしても手紙か」


 封を切ると、達筆な文字で書かれていたのは一行。


『王都近郊にある古代遺跡。今宵、月が天に登る時。そこで待つ。クラウス』


 古代遺跡は王都から歩いて数分で行ける封鎖された場所だ。

 まだ完全に解き明かせていない、謎が多い立ち入り禁止区域。

 人目を避けるには最適な場所か。

 なにかを仕掛けていても不思議じゃないな。


「いよいよってことか」


 ヴィオラが不在の今、こいつが俺を呼び出す理由は多くない。

 本気で邪魔者を排除しに来るか。

 まさか名前を出して呼び出してくるとは思わなかったが、それは覚悟の証か。


「なんにしても」


 行かない理由はない。

 クラウスの本心を知るいい機会だ。

 場合によっては、全力で相手をしてやろう。

 封を握りつぶすと、紙はパリリと音を立てて砕けた。


――――――――――――――――――――――――


 深夜の古代遺跡は静まり返っていた。

 風化している柱や石床がそこら中に転がり、遺跡とは名ばかりの廃墟。


 そこにあるのは先が暗闇に包まれている地下へと進む階段のみ。

 足を踏み入れると砕けるような音が鳴る。

 湿った空気で満ちており、あまり長いしたい場所ではない。


 足早に階段を下り、光が不気味に揺れる廊下を駆け抜ける。

 少し進むと地下をそのままくり抜いたような、石に囲われた広い空間に出た。

 置かれているのも光を放つ幾つかの魔具だけ。


 ただただ広く、地面に古びた魔法陣が刻まれている空間だ。


「久し振りだね。シュヴァルツ・クリーガー君」


 暗闇の奥から姿を現したのはクラウス・ザルヴァイン。

 相変わらずの偽りの笑み(グリニエ・マスク)を浮かべ、丁寧に挨拶をしてきた。


「どうした?こんなところに呼び出して」


「少しお話がしたくてね。ボクの立場上、人目があるところでキミのような問題児と話すわけにはいかないんだよ」


 棘のある言葉選び。

 どうやら楽しく談笑するために呼び出されたわけじゃないいようだ。


「要件を言え。第六感(イクスサイト)が告げている。無駄話は神の選択(ヘヴンズ・チョイス)すら惑わせるとな」


「ああ。そうするよ」


 クラウスはこちらを向けて、ゆっくりと手を差し伸べた。


「シュヴァルツ君。ボクの元に来い」


 不意を突かれるような誘い。

 だが、その目に迷いはない。


「どういうつもりだ?」


「前にも伝えたはずだよ?ボクはキミの実力を買っている。恐らくだけど、王都にいる騎士の中でもっとも強いのはキミだ」


 クラウスの眼差しは真剣だった。虚言ではなく、本気で口にしている。


「今までの非礼は全て許そう。ボクは力ある者が好きでね……。キミを迎え入れる準備は出来ている。さあ、ボクの元に来い。シュヴァルツ・クリーガー」


「ふん。この俺、狂人の運命≪ルナティックス・フェイト≫を背負いし孤高の常闇・闇に生(ウォーカー・)きる存在(イン・シャドウ)も随分と甘く見られてものだな。俺が誰かの下に付く?なかなか面白くない冗談を言うじゃないか。完璧な(パーフェクト)第三王子(・サード)


 その「迎え入れる」という言葉には、支配と独占の色が混じっている。

 そうやって支配し、独占するつもりか?

 ヴィオラの事も。


「その口調だと本気かどうか区別が付かない。キミの本心を聞かせてくれないか?」


「わからねえかよ?本心(リアル・エゴ)すら感じられない赤子(ベイビー)がよ。(カルマ)を背負う覚悟すらない奴に、明かされる(リヴェール・)真実(トゥルース)は微笑まない」


「なるほど……。それがキミなりの拒絶と言うことか。おしいな。キミが入れば心強いと思ったのに」


「狙いはなんだ?|氷獄(ルーラー・オブ)(・ジ・ア)支配者(イス・プリズン・クイ)の真名(ーン・リージェント)の力を手に入れてなにをしようとしている?」


 問いかけに、クラウスの笑みが消える。

 細められた目から覗き込む瞳が、こちらを値踏みするように全身を這う。


「キミは気付くか、氷獄の支配者の存在に。あれだけ彼女の傍にいたのだから当然の事かも知れないね」


 言いながら、クラウスは肩をすくめる。


「どこまで知ってる?」


「全てと言ったら?」


「生かしておけなくなるけど。それが返答と捉えていいかな?」


最後の(ファイナル・)質問(フェーズ)。この先に何を見る?完璧な(パーフェクト)第三王子(・サード)


 問いに、答えが返ることはなかった。


 クラウスが――パチン!を指を鳴らす。


 床に刻まれていた魔法陣から淡い光が放たれると、3つの巨大な影が浮かび上がる。

 魔法陣から姿を現したのは全身を黒鉄のような鱗で覆った魔獣。

 四足で立ち上がりながら、人を容易に踏み潰せるほどの巨体。

 赤く爛々と光る眼が、広間に入った俺を射抜く。


「ダーク・ドラゴン。それも特殊変異種か」


 喉を低く鳴らすその咆哮で地下が震え、天井から砂埃が舞い落ちる。

 クラウスは腕を組み、ただこちらを見下ろしていた。


「惜しいなぁ。キミがいれば、もっと簡単に世界と統一できると思ってたのに」


「それが狙いか?」


「おっと、余計なことを言ってしまったかな?けど、いいよね?どうせキミはここで死ぬんだから!」


 クラウスの叫びに呼応するかのように、魔獣が踏み込んだ。

 その瞬間、ズドン!と石床が砕け衝撃波が広間を走る。

 紙一重で横に跳び、爪を避けつつ氷の槍を生成し投げる。

 空を裂いて足に衝突するが、鱗に弾かれ霧散する。


「魔力耐性が高いな」


 続けざまに尾が唸りを上げ、寸前でそれを避ける。

 飛んで避けた先にあったのは大きく開かれた魔獣の口。

 その奥。暗闇から淡く光を放つ魔法陣が強大な魔力を放ち始める。


「反鏡防壁・拒絶」


 視界が光に包まれる。脳を震わせるほど振動。

 放たれた魔力が身体を捉える――が、それは全て俺を拒絶するように反射する。

 光が消えた後に見えるのは、大きく開かれた魔獣の口。


 そこに手を向け詠唱する。


「劫火ノ咆哮・焔蒸発」


 耳を劈く爆音が響き渡る。

 魔獣の頭部が爆発し、灼熱に包まれた。

 脳から眼球、牙まで全てを弾き飛ばしたが、ゆっくりとそれらが修復されていく。


「この固さで特殊変異種。厄介な相手だな」


 地面に着地して剣に手を添える。

 瞳を閉じて、頭部が爆散し身動きを止めた魔獣に集中する。


 呼吸を整え――蠢く内臓(コア)を感じ取る。


「居合・閃光ノ一筋」


 高速で剣を振りぬき、その斬撃に光の魔力を乗せる。

 目にも映らぬほどの細い光は魔獣の分厚い腹部を貫通し――天井を貫く。


 瞬間、魔獣は耳障りな悲鳴を上げ、全身から黒い光を噴き出す。

 肉体は形を保てず、ひび割れたガラスのように崩れていき、やがて霧散した。

 最後まで残っていた内臓(コア)は、地面を転がり砕け散る。


「まず1匹。今のでわかった。もういいか?」


 背後から振り下ろされた巨躯な腕を――剣で切断する。

 更に頭上から放たれた強い魔力の放射を反鏡防壁・拒絶で生み出した壁ですべて受け流す。


 腕が切られて呻く魔獣に手を向ける。


「劫火ノ咆哮・灼域」


 魔獣の全身が赤く染まる。

 体温の上昇を感じることが出来るのか、魔獣は藻掻き苦しむ。

 燃え盛らない。だが、熱が魔獣の身体を蝕み続ける。


 ――パリィン!と甲高い音が聞こえると、魔獣は霧散した。


「さあ。最後の1匹だが」


 言いながら迫る尻尾を切り落とす。

 魔獣が怒号をあげて突進してくる。

 その陰にクラウス、本心からの笑みを見た。


「早いうちに知れてよかったよ!キミが危険人物だとね!感謝の言葉を述べるよ!ありがとう、ヴィオラの近くにいてくれて!とねえ!」


 地面に刻まれた魔法陣から赤い光が強く輝く。


「っち!」


 飛び引こうとする寸前、魔獣の爪がこちらに迫る。

 咄嗟に剣を振りぬいて攻撃を防ぐ。


 そのせいで動きが一瞬遅れた。

 全身が赤い光に包まれ、浮遊感に襲われる。


「さよならだ。シュヴァルツ・クリーガー!もう会うことはないだろう!あの世で祝福するといい!ボクとヴィオラの結婚を!」


 視界が白に染まる。空間がねじれる感覚。

 風の音、炎の匂い、魔獣の死骸。

 すべてが遠ざかり、重力を引き裂くような浮遊感。


 暫くすると、足が地に着く感覚。

 眼を開く。そこは、薄暗い空間。


「l闇視の魔法シャドウビジョン


 辺りを注意深く見渡す。

 足元は見たこともない生物の骨で埋め尽くされている。

 湿った空気に鼻を刺激する嫌な臭い。

 腐った木の陰からこちらを見るのは気味が悪い触手の魔物。

 奥から地面を揺らして走って来るのは強靭な身体付きをしている複数の頭部を生やした不気味な魔獣。


 気配を探ると……至るところから殺意を持った魔物特融の魔力を感じる。


「やってくれたな。クラウス・ザルヴァイン」


 憎たらしい偽りの笑み(グリニエ・マスク)を思い出しながら。

 そして、転移魔法で飛ばされる前に見た彼の本当の表情を思い出し。

 俺は剣を引き抜き、神の魔力を開放した。

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