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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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35 『統一世界戦線 ―呪われし力の再臨―』

 扉が鈍い音を響かせなが開き、中が見えた瞬間、空気が変わった。

 ひやりと肌を刺す冷気


 それだけじゃない。背筋を伝う得体の知れない圧だを感じる。

 壁際にある魔具のランプも何十年も前の灯りのようで心許ない。

 その光が作る影が不自然に揺れ続け、なにかの存在を匂わせているようだ。

 本棚は書庫よりもずっと背が高く、ぎっしり詰まった古書のどれも黒ずんでいる。

 中にはひび割れ、触れれば粉になって崩れそうなものまであった。


「長居はしたくない場所だな」


「そうね。シュヴァはなにを探しに来たの?」


「故郷の伝承がここにあるって聞いてな」


「そう……」


 俺の過去は詮索しない、という約束になっている。

 それを気にしてか、ヴィオラは少し迷いを見せた後。


「時間もないし、別々で探しましょう。私はこっちの本棚から探してみるわ。それらしいものがあったら教えてね」


「ああ。何かあったらローブの魔具に魔力を込めてくれ。すぐに行く」


 短く視線を交わして別々の本棚へと向かう。

 奥に消えるヴィオラの背中が妙に遠くに感じるのは気のせいか。

 禁書庫というぐらいだ。なにかあるのかも知れない。

 気を引き締めて進んだ方がいいだろう。


 懐から『神が統べる島 ―孤島の神域―』を取り出して。


魔力探索サーチ


 『王の起源』と『神が統べる島』からは同じ魔力を感じた。


 よほど思い入れがある作品なのか、或いは著者が魔力を込めて書いたのか。

 どちらにしろ二作品目にも同じ魔力が込められている可能性が高い。


 暫くすると魔力の球が禁書の奥へと進みだした。

 あとを追いかけ球が1冊の本に衝突して霧散する。


「あった」


 他の本と変わらない。それは何気なく本棚に置かれていた。


 『統一世界戦線 ―呪われし力の再臨―』


 指先を近づけると、肌にぴりっと走る感覚。


「罠か」


 本になにか仕掛けられている。

 いや、なにか潜んでいると言った方が正しいか。

 その"なにか"は俺に気付いたのか、すぐに気配を消していなくなる。


「生きてる?移動するのか?……ヴィオラ!」


 嫌な予感が背筋に走る。


 魔具による変化はない。だが、ヴィオラの魔力が微かに弱まっている。

 棚を回り込み、彼女のいた通路へ駆け込んだ。


 そこにあったのは――開いた本から伸びる黒い腕。

 それがヴィオラの身体を絡め取り、ゆっくりと背後の本へ引きずり込もうとしていた。

「――っ!――――っん!」


 彼女の指先は必死に藻掻いているが、魔力を吸われて動きが鈍い。


「しっかり目を閉じてろ!天照!」


 魔法で眩い光を放つと、黒腕が薄れるように動きを止めた。


「クリエイト。ライト・ソード」


 光の剣を作り、ヴィオラに絡みつく黒腕と切り捨てる。

 鈍い手応えとともに魔力の腕が裂け、黒煙となって弾け飛ぶ。

 倒れる彼女の身体を抱き寄せながら宙に舞っていた本を蹴り飛ばす。


 その瞬間、本の紋が黒く輝き呻くような音を発した。


「シュヴァ」


「安心しろ、すぐに片付ける」


 ヴィオラの身体を片腕で抱きかかえたまま、空いた片手を本に向ける。


「劫火ノ咆哮・焔蒸発」


 火花のような小さな塵が本に集結し――爆散する。

 激しい音が禁書庫に響く。


 影は苦鳴のような音を立て霧のように散って消えた。

 焦げた魔力の匂いが漂う中、ゆっくり腕を下ろす。

 本は無傷。まるで何事もなかったかのように床に転がっている。

 それなりの爆風があったにも関わらず、周りの本棚もぴくりとも動いていない。


「禁書庫。やっぱり普通の場所じゃないな」


 黒腕から感じた魔力。あれは普通の人間が使うものと質が違った。

 言うならヴィオラが持つ支配者の魔力に近いか。


 しかしそのどちらとも違う

 まだ世界には俺の知らないことが多いようだ。


「なかなかどうして難しい。さしずめ禁書庫(ヘル・ライブラリー)と言ったところか。そう思わないか?冷徹(エンプレス・オブ)(・ザ・)女帝サイレント・グレイシャ


 腕の中で小刻みに震えているヴィオラ。

 少しでも不安が無くなればと思って言ったが、そんな場合ではなかったようだ。

 怯えた瞳でこちらを見上げ、まだ視線が揺れている。


「大丈夫だ。俺がいる」


 がらじゃない。と思いながらも、ヴィオラ頭を軽く撫で呼吸を整えるのを待つ。

 その間、ヴィオラは俺の胸に押し当てるように顔を埋めた。

 やがて震えが収まるのを確認してから。


「そろそろ大丈夫か?」


「ええ。ごめんなさい。あと、ありがとう」


 ふらふらと立ち上がるヴィオラをすぐに支える。

 まだ恐怖が残っているのか、どこか不安そうに視界を彷徨わせている。


「帰るか?」


「ダメよ。ここまで来たんだもの。成果を得ないと」


 強がりを言ってはいるが、膝が震えて歩ける状況ですらない。

 無理をしているというのはすぐにわかった。


「……でも、怖いから」


 そう小声で呟きながら、彼女は俺の腕にしがみついてきた。

 薄い袖越しに指先の力がはっきりと伝わってくる。

 顔を見れば頬がわずかに赤い。恐怖か、それとも別の理由かはわからない。


 動きずらいが俺としても目的の本を見つけている。

 ここで引くのはもったいないか。


 しがみつかれたまま本を拾い、ヴィオラに渡す。

 そのまま最初に俺が見つけた本を取りに戻る。


 さっき感じた違和感はない。

 あの黒腕が1匹だけだったのか、或いは逃げてどこかへ行ったのか。

 どちらにしろ周りは常に警戒しておいた方がよさそうだ。


 禁書庫の本は持ち出せない。

 ヒルデは持ち出していたが……あれは別格なので例外だ。


 こんなところに長居はしたくないが、2人並んで壁を背に腰を下ろす。

 少し開けていたの距離は、ヴィオラがもぞもぞと動いてなくなった。

 肩に触れる暖かい感触。

 目が合うのもあれなので、気付かぬ振りをして伝承を読むことにする。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『統一世界戦線 ―呪われし力の再臨―』


 長い歳月が流れた。


 かつて世界を覆いし氷獄の支配者の名はもはや昔語り。


 その悪名は囁かれるものとなった。


 だが、支配者の肉体には時の刻みは及ばず。


 彼女はひとりの魔女として、人里離れた田舎で王の末裔らと交わり。


 血を分け、穏やかなる日々を送っていたという。


 そのころ、大陸は1つの王国から6つの王国に分かれた。


 互いに領土を奪い、権を競う乱世の時代。


 なかでも初の王が生まれし地を治める王は野心深くして狡猾。


 かつて支配者を封じた神器の所在を探し求めた。


 やがて彼は、その神器を見出す。


 だが、それはもはや封印のためにではなく、支配のために。


 王は神器を歪め、呪具へと変じ。


 その力をもって「氷獄の支配者」を己が手中に縛りつけた。


 操られし支配者はかつての威をもって5王国を次々と屈服させ。


 大地をひとつの旗のもとに集わせた。


 その進軍は疾く、抵抗は凍土に沈み、やがて人々はこの戦乱をこう呼んだ。


 「統一世界戦線」 と。


 しかし、その背後で鎖につながれし支配者の瞳は。


 なお氷のごとく冷えきり、王の覇業をただ静かに見つめていたという。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 読み終えた伝承を閉じる。

 氷獄の支配者の復活。だが、それは呪具により操られた状態だった。

 その力を使って王は再び世界を征服した。

 もしかしたら神ノ島は残された最後の島だったのかも知れない。


 恐らくそこで支配者が敗れたことで、そのまま王権は崩れた。

 何年前の伝承かはわからないが、今は王国が8つある。

 少なくとも「統一世界戦線」で作られた1国家だけではないということだ。


 興味深いが、いま目を向けるべきはそこじゃない。

 

『王は神器を歪め、呪具へと変じ。その力をもって「氷獄の支配者」を己が手中に縛りつけた』


 これが答えだ。


 クラウス・ザルヴァイン。お前はこの呪具を持っているのか?

 その力で何をしようとしている?


 「統一世界戦線」 を再び起こそうとでも言うのか?


「わからないな」


 考えたところで答えは出ない。

 そもそもクラウスがこの本の存在を知っているかもわからない。


 答えを知るのは本人のみだ。

 本を閉じると。


「読み終わった?そろそろ行く?」


 ヴィオラがこちらを窺いみてくる。


「ヴィオラは大丈夫か?」


「少しは読めたけど、気が散って頭に入ってこないから。これ以上は無理そう」


 震えを抑えていたのか、力を抜くと肩の震えが伝わってきた。

 隣に俺がいるとはいえ、先ほどの恐怖は抜けきらないか。


「行くか」


 用は済んだ。早々に退散するのがいいだろう。


 立ち上がると、再び腕にしがみついてくるヴィオラ。

 本を戻して禁書庫を出た時には、石像は何事もなかったかのように元に戻っていた。

 動き出さないかと顔を覗き込むが、ヴィオラに腕を引っ張られ上にあがる。

 書庫を出る前。さすがに腕にしがみつかまれた状態では動きにくいと思い。


 俺はヴィオラの前にしゃがみ込む。


「乗れ、おんぶしてやる」


「で、でも」


「こうした方が動きやすい。見つからないようにするためだ」


 数秒のためらいのあと、そっと腕が俺の首に回され、体温が背中に乗った。


 軽い。思っていたよりずっと。

 背中越しに感じる震えと、服越しに伝わる心音はまだ落ち着いていない。


「落ちないように、しっかり掴まってろ」


「……うん」


 小さく返った声は、耳元で少しだけ熱を帯びていた。

 そのまま俺は足音を殺して走り出し、まだ暗い王城を素早く駆け抜けた。

 ぐっと、背中の温もりと腕にかかる重みが強くなった。

 だが、それでも、あまりにも弱い力。

 彼女は華奢で、軽くて、力も心もまだ未熟。年頃の、普通の女の子だ。


 氷獄の支配者。

 こんな少女に背負わせていい力じゃない。

 せめて。せめて俺が。


「シュヴァ」


「どうした?」


「ごめんね」


 何に対してか、問うのも無粋か。


「いつもありがとう」


「気にするな。俺たちは誓約(ギアス)により結ばれた恋人(セイント・パートナー)だろ?」


 しばしの沈黙。間違えたか?と思ったが。


「ふふっ。そうね」


 笑ってくれたなら及第点か。

 城内を通過して園芸場へ。城壁が見えたとこで。


「ヴィオラ、飛ぶぞ!しっかりつかまってろよ!」


「えっ?」


 城に侵入し、禁書庫につくまでに城壁に設置された魔具は見極めた。

 魔力に反応して警報を鳴らす魔具。

 であれば俺は、その魔具を反応させずに魔法を使える。


 足に特殊な魔力を込めて一気に加速する。


「飛ぶぞヴィオラ!」


「ちょ、ちょっとシュヴァ!」


 城壁の手前。地面を強く蹴って高く跳躍した。

 地面が遠ざかる。

 風が顔を切り裂くように吹き抜け、重力から解き放たれたように宙を舞う。


「――っ!」


 背中で小さな悲鳴。首に回された腕がきゅっと強くなる。


「気持ちいだろ!」


 城壁の屋根に着地する。辺りに見張りがいない位置だ。

 であれば。


「続けていくぞ!」


「ちょ、ちょっと待って!心の準備が!」


「星空でも見てろ!奇麗だぞ!」


 ヴィオラの言葉を無視して俺は再び地を蹴る。

 魔力の反動とともに、足元の城がみるみる小さくなっていく。

 ふわりとした浮遊感――落ちる寸前の夢の中みたいな感覚が全身を包む。


 怖かったのか、ヴィオラが抱き着いてくる力が更に強くなる。

 彼女の心音が身体に伝わり、髪が靡いて頬を撫でる。


「暖かい……」


 吐息が耳を擽る。

 彼女の体重が更にかかった気がした。

 掠れるような囁きは、切り裂く風の轟音にかき消され、俺の耳には届かなかった。

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