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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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34 暗闇の侵入者《ミッドナイトストーカー》

 深夜の王城。

 庭である園芸場は背の高い草木も多く、月明かりを遮り薄暗い。

 先を歩くヴィオラは足元に集中しながら慎重に進んでいる。


 が、花壇の根に足を取られたり、木の枝を踏んで音を鳴らしたり。

 王城に侵入しておいてさすがにその潜伏具合はまずいか。


「ヴィオラ。俺が先を歩くから後ろから指示をくれ」


「なにか問題でもあった?」


 自分の危うさに気付いていないのか。

 セレナの尾行も大概下手だが、ヴィオラの潜伏技術も同じだな。


「俺は暗視魔法が使えるから見張りにすぐ気付ける。ヴィオラは物音を立てないように足元を気をつけてくれ」


「そう?わかったわ」


 素直に応じてヴィオラは頷き後ろに回る。

 薄暗いとはいえl闇視の魔法シャドウビジョンで視界は良好。

 遠くからではこの園芸場は暗闇にしか映らないはず。


 であれば物音を立てないことを優先して足場が整った場所を進もう。

 と判断したところで、服の裾が摘ままれる感触がした。


 振り返ると。


「は、離れたら、困るから」

 

 声は小さいが、夜の静けさの中でははっきり聞こえた。

 闇に紛れているとはいえ、俯き加減の顔が熱を帯びているのがわかる。


「気付いた事があったらすぐに言えよ。その方が俺も助かる」


 返事はこないが静かに頷かれる。

 息を潜めて園芸場を進み抜けると、石造りの城に辿り着く。

 多くの灯りがともり、壁灯が石畳を照らしている。

 見つかりやすくはなるが、これなら足元に気を付ける必要はない。


 ヴィオラが横並ぶ。


「あっちよ」


「待て。見回りだ」


 カツ、カツと地面を叩く音が暗闇に響く。

 ヴィオラの肩を押して近くの柱の陰に引き寄せた。


「呼吸を抑えろ」


 耳元で囁くと、彼女は小さく頷いた。

 すぐ目の前を槍を持った兵士が2人が歩いていく。

 無駄口はないが周りに気を配っている様子はない。

 侵入者が少なすぎて危機感が薄れているように見える。

 これなら城内の移動はそこまで難しくなさそうだ。


「よし。行くか」


 兵士が角を曲がった後、俺たちは物陰から飛び出す。

 ヴィオラは相変わらず俺の服の裾を掴んだまま付いてくる。

 角を曲がったところで足を止め。


「もう裾は放していいんじゃないか?」


 城の廊下は十分に明るく、はぐれる心配はない。

 するとヴィオラは耳まで赤く染めて慌てて手を放す。


「ち、ちがっ……。ただ、まだ暗くて!」


「静かに。しっかりしてくれよ、禁書庫の場所はヴィオラしか知らないんだから」


 その慌て具合が子供のようで、落ち着けよと、頭を軽く叩く。


「なによ、さっきから。余裕ぶっちゃって……」


 ヴィオラはむくれたように小声で何か言ったが、聞き取れなかった。

 ここのところ彼女の弱気な部分を多く見ていたせいか、保護欲のような生まれている気がする。


 初めは貴族でしっかりしてると思っていたが、接し続けていると変わるものだ。

 なんて考えながら、見回りの気配を感じるたびに柱や彫像の陰に身を潜め、足を進める。


 特に問題もなく城内をしばらく進むと、ヴィオラが扉の前で足を止める。


「ここか?」


 厳重な警備と聞いていたが周りに見張りがいない。

 扉は罠も仕掛けられていない、ただの扉にしか見えないが。


「ここは書庫よ。奥に禁書庫につながる隠し通路があるの」


 扉の中を窺い、2人で書庫に入る。


 書庫は静まり返っていた。

 高い天井までそびえる本棚が並び、その間には人ひとりがやっと通れるほどの通路。

 灯りは控えめな魔具を使った光のみで、外よりも暗く視界が悪い。


「こっちよ」


 ヴィオラは慣れた様子で棚と棚の間をすり抜け奥へと進んでいく。

 音をできるだけ殺しながら背の高い本棚の間を縫うように歩く。


 それにしても本の量が多い。

 目的の本はここにもあるかも知れないが、進む足が速すぎて目を配る余裕はない。

 禁書庫で見つからなかったら、帰りに少し探してみるのもありか。


 やがて書庫の最奥に辿り着いた。

 ヴィオラが見る先には普通の本棚。

 そこに一箇所だけ妙に大きく無機質な本があった。

 彼女は周囲を見回し、その本を抜いた後、いつの間にか手に取っていたもう1冊をそこに戻す。


 魔法陣が音もなく光を放ち、霧散した。

 本棚と本棚の間の壁。

 ひと1人がぎりぎり収まる隙間にヴィオラが目を向ける。


「この奥に禁書庫がある」


 石壁かと思われたそこに、ヴィオラは吸い込まれるように入り込んだ。

 どうやらここを通過出来るようになる魔法がかけられたようだ。


 ヴィオラが嵌めた本は魔法を起動させる魔具。

 なかなか手が込んでいる、俺一人では辿り着けなかった仕組み。

 追いかけて壁を通過するとすぐに階段になっていた。


「足元、気をつけてね」


 頷いてから暗闇の階段を下りる。


 下りれば下りるほど空気が冷たくなり、空気が重く感じるようになった。

 明かりの魔具が壁に埋め込まれているが、光は弱く影が不気味に揺れている。

 階段が終わり通路を進んだ突き当たりに重厚な扉が現れた。

 今まで城に使われていた素材とは違う黒光りした異様な壁。

 表面には古い文字や紋章が刻まれており不気味さを感じる。


「明らかに他のところとは作りが異質だな」


 扉の両脇には2体の石像が鎮座していた。


 高さは俺の倍近く。

 全身を覆う石は鎧の様な形をしており、手には大剣を構えていた。

 彫りは細かく傷跡まで再現されていて、まるで今にも動き出しそうな迫力だ。


「ここが禁書庫の入り口よ」


 ヴィオラの声が薄暗い空間に響く。


「詳しいんだな」


「お父様が読書家なのよ。もともと王城に勤めていたことがあったらしくて、その時にこっそりきてたみたいなの」


「貴族なの随分とにやんちゃな性格してる」


「没落貴族になった理由が禁書庫への不法侵入じゃないことを祈るわ」


「笑えないな」


 とんでもない情報だが、仮に不法侵入だったら没落どころじゃ済まないか。


 禁書庫と呼ばれるぐらいだ。

 侵入することの難しさから見て、最悪死刑でもおかしくない。


 扉を観察していると、なにかをはめ込む凹みがあることに気づいた。

 俺は近づいて胸ポケットから学園長室から借りたヒルデの銀プレートをはめ込む。


「ちょ、ちょっとなにやってるの!開けるには手順が必要」


 ヴィオラが言っている途中、ゴゴッと石が擦れるような重低音が周囲に響いた。

 空気が重くなり、背筋を冷たいものを感じる。

 息を呑む音が聞こえた直後、脇の石像の眼が赤く光った。


「ヴィ、ヴィオラ?こういう時はどうすればいいんだ?」


 石像が大剣を引き抜き、重い足取りでこちらへ一歩踏み出した。


 ――ドスン!


 石でできた脚が床を叩くたびに低く響く。


「倒すしかないわ!音は表まで届かないから全力でやって!相当強いって聞いてるから!」


 ヴィオラの焦り方からしてよほど強いと噂されているのか。

 どうやら警備が厳重っていうのはこのことだったらしい。

 石像の大剣が振り下ろされ――即座に後ろへ跳び、ドゴォン!と轟音と共に地面が砕け散る。


 直撃を喰らえばひとたまりもない威力。叩き潰されてお終いだ。

 足元に魔法陣を展開する。

 無詠唱。威力は下がるがそんなことは言っていられない。

 黒い影が床から噴き上がり、大剣の動きを止めるように絡みつく。


「下がってろヴィオラ!」


 背後に気配を感じつつ、俺は剣が影に絡まった石像に距離を詰める。

 拳に魔力を込めてそのまま石像の腹部へ叩き込む。

 鈍い衝撃音と共に鎧の一部が粉々に砕けた。


 しかし、怯まない。


 砕けた鎧など気にもせずに石像が大剣を横薙ぎに振るう。

 低く身を沈めて避け、影を伸ばし石像の足を絡め取る。


「動かねえか」


 かなりの力。影に魔力を込めて強度を高めても石像の足は引っ張れない。


 が、十分な足止めにはなっている。


 息を整える暇もなく、もう1つの石像が振り下ろしてきた剣を寸前で躱す。

 地面を叩く石像。その隙を逃さず拳を腹部に打ち込むと鎧が砕ける。

 揺れる身体に。


衝撃の肘鉄(インパクト・エルボー)!」


 肘鉄を腰元にお見舞いすると、石像は吹き飛び壁に叩きつけられた。

 腕を上げようと動くが、そのまま眼の光が消灯して力なく横たわる。

 ふざけた命名をしたもんだが威力はそれなり。


 意外としっくりくるもんだ。


 動きを封じていたもう1体の懐へ潜り込み、拳を心臓部を貫くように突き上げた。

 砕ける身体。だが、眼の光は消えていない。

 続けざまに何度も拳を打ち込み続けて身体を砕き続ける。

 最後に顔面に拳を決めると目の光が消え、石像は膝から崩れ落ち動かなくなった。


「こんなもんか?」


 粉塵が漂う中、拳を下ろして振り返る。

 驚いているのか、ヴィオラが目を大きく開いてこちらを見ていた。


「どうした?」


「い、いえ……。あなたの強さが本当にわからないって再認識したわ」


「それはどうも。外にはバレてないんだよな?」


「そのはずよ。でも、急ぎましょう。時間が経つとその石像は復活はずよ」


「まじかよ」


「認証に失敗したときだけ襲ってくると聞いているから、大丈夫だと思うけど」


 ヴィオラは急いで扉に近づく。


「解放には特定の魔力と正確な手順が必要なの」


「わ、悪かったよ」


「別に怒ってないわ。むしろいいものが見れたから」


 両手を扉へかざし、指先から淡い光が溢る、

 それは先ほど俺がプレートをかざした凹みをゆっくりと埋めていく。


「もう少し」


 小さく呟き、額にうっすら汗をにじませながら魔力を送り込み続けるヴィオラ。

 やがてガチリと音を立て、扉の中央に集まっていた光が消える。


「開いたわ」


 ヴィオラが振り返り、小さく笑った。


「さすがヴィオラだ。偉いぞー」


 自分が早とちりした罪悪感からヴィオラを褒めると。


「これぐらいさせてよ。シュヴァにはずっと助けてもらってるんだから……。ほら、行くわよ」


 気恥ずかしい気持ちを振り払うように、ヴィオラは禁書庫への扉に手をかけた。

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