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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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32 『神が統べる島 ―孤島の神域―』

 昼にヴィオラの友達から聞いたダークウルフの件。

 居酒屋で騎士の話題になるぐらいなら、ヒルデが情報を得ているはずだ。

 話しを聞こうと学園長室の扉をノックをする。


 が、返事はない。

 いつもならすぐに返事が来るか、勝手に扉が開くんだけど。


「不在か?それとも研究に熱中してるのか?」


 と思いきや、扉に紙切れがぺたりと貼られていた。


『しばらく出張。急用の者は書置きを残すこと』


 筆跡はヒルデのものだ。

 どこに出張しているのかも書かれていないところが彼女らしい。

 いつも通り研究材料を取りに行ってるんだろうけど。

 そうなると暫く帰ってこないか。

 そもそもいつからいなかったのかもわからない。


「しょうがない。自分で調べるか」


 踵を返そうとしたそのとき――ギィ……と扉がゆっくりと開いた。

 人気はない。扉の隙間から室内を覗くが、やはり気配はない。

 出張時にはいつも鍵が掛けられているはず。


「……別にいいか」


 部屋に入ったことぐらい、後で謝れば許してくれるだろう。


 ということで中に入る。中央には大きな机。

 その上には開かれたままの本と未処理の書類の山。

 散らかっているように見えるが、ヒルデに言わせれば整理されている机の上。

 壁一面に並ぶ本棚には分厚い魔導書や古文書がぎっしりと詰まっている。

 なんで扉が空いたのか、注意深く部屋の中を見渡していると、1冊の本が目に入る。


『神が統べる島 ―孤島の神域―』


「こんな本あったか?」


 言いながら本棚に近付いてそれを取り出す。

 この表題、視界に入れば間違いなく気にはなっていたはず。

 学園長室を注意深く見たことがなかったから今まで気付かなかったのか。

 念のため、もう一度辺りの気配を確認してから、本を開く。


 そこに記されていたものは、俺が教わった歴史と同じもの。

 この伝承は俺の故郷を書いたものだ。


 神が統べる島――神ノ島。それが正式名称。

 しかし、なぜ神ノ島の伝承がこんなところに?


「神ノ島の存在は大陸の人間には知られていないってヒルデが言ってたけど」


 それに、神ノ島のことは他言無用だと約束した。

 だから俺は自分の過去を隠し、名前はビオラがくれたものに変えてる。


 であればこの伝承は誰がいつ書いたものなのか?

 そしてなぜこんなところにあるのか?


 少しの懐かしさを感じながら読み進める。

 そのすべてが俺が教わった歴史と一致しており――出て来たその名に心が騒めく。


「氷獄の支配者が関係してるのか?」


 俺の知らない神ノ島の歴史。

 神ノ島と支配者が接触していたなんて聞いたことがない。

 伝承にはこう書かれていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『神が統べる島 ―孤島の神域―』


 その島は、古より神を祀り、外界との交わりを絶ってきた。


 人々は神託を仰ぎ、海と森とに守られて、静謐なる日々を紡いできたという。


 あるとき、大陸の王が「氷獄の支配者」を従え、島を侵さんと兵を進めた。


 海原を越え、鋼の軍勢は波濤のごとく押し寄せ。


 王は降伏を勧める勅書を携えていた。


 だが、島の長は応えず――ただ、神の御力を解き放った。


 蒼天を裂く光とともに、氷獄の支配者は深く傷つき、王の軍は退いた。


 島の者は、去りゆく船影を見届け、こう告げたと伝えられる。


「われらは干渉せぬ。されど、そなたらが再び干渉するならば――神罰は免れぬ」


 それより後、この島に外つ国の影が差すことは、久しくなかったという。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 大陸の王が氷獄の支配者を率いて神ノ島に攻め込んでいた?

 神ノ島は神の力を使い王を退け、支配者を倒した?

 俺の知る歴史では神ノ島が大陸と関わったという事は一切なかった。

 そう教えこまれただけなのか、或いはこの伝承が作り話なのか。


「にしても、この話だと王が支配者を率いてるんだな」


 前に読んだ伝承。


『王の起源 ―氷獄の支配者からの解放―』では氷獄の支配者が世界を統べていた内容だった。


 その支配者を民が倒し、倒した民が王になった。

 その後の話しでは、支配者が封印され、王の子孫が封印を解き、王都を離れたと書いてあったが。


 時系列がどうなっているかはわからない。

 伝承を読み終える。


『神が統べる島 ―孤島の神域―』


 表題の通り、これは神ノ島についての伝承だ。

 王と支配者のことはあれ以降、なにも書かれていなかった。

 あくまでも神ノ島を舞台とした伝承。

 氷獄の支配者についての新情報は特にない。


「ん?これは」


 最後のページにこれを書いた作者の作品一覧が記されていた。


『王の起源 ―氷獄の支配者からの解放―』


『統一世界戦線 ―呪われし力の再臨―』


『神が統べる島 ―孤島の神域―』


 三作品ある。そのうちの1作品を俺は知らない。

 学園の図書室にあった『王の起源 ―氷獄の支配者からの解放―』。

 そして、今読んだ『神が統べる島 ―孤島の神域―』。

 間には『統一世界戦線 ―呪われし力の再臨―』が挟まれている。


 並び的に王の起源と神が統べる島の間の話しになるのか?

 表題では予想が付かないが、そこに支配者が出てくるかどうか。


「引っかかるな」


 一作品目と三作目に氷獄の支配者の名前が出てきているとなると、二作品目にも出てきてもおかしくない。


 三作品目では王が氷獄の支配者を統率していたと表現していた。

 もしそれが本当なら――。

 伝承に魔力を送り込むと、魔法陣が浮かび上がり俺の魔力を無効化した。


 見覚えがある。

 昔、ヒルデが読んでいた本にいたずらで魔法を掛けた時に出てきたものと同じ。

 確かあの時ヒルデが言っていたのは。


『これは禁書庫から借りているものでね。キミ程度の魔法ではどうにもできないよ』


 そう言っていた。

 となればこれは禁書庫に保管されていたものだ。


「統一世界戦線 ―呪われし力の再臨―。学園にないとなると、禁書庫にあるのか?」


 禁書庫は王城にある。

 厳重な警備と複雑な術式で入場制限が掛けられているはずだ。


「っ!」


 微かに窓が震えた。

 本を閉じてカーテンを動かし外を覗くが、広がっているのは暗闇。


 なにも見えないし、気配もない。

 風が窓を叩いたのを過剰に反応しすぎたか。


「禁書庫か」


 入れるものなら行きたいところだが――と、本を戻そうとした時。

 散らかった机の上に無造作に置かれた銀プレートが目に入る。

 そこには『ヒルデガルド・ヴァイスハイト』と書かれていた。


「なんでこんなところに置いてあるんだよ」


 俺は禁書庫に入ったことがないし、場所も警備の厳重度も知らない。

 ただ、無造作に置かれた銀プレートは魔力を込めると作動する魔具であることはわかる。


「行ってみるか、暇だし。借りるぞ、ヒルデ」


 俺は銀プレートを胸ポケットに入れて、学園長室を足早に出た。

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