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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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31 騒がしい少女《ラッシュヴァルキリー》

 ヴィオラの訓練は1日おきに行うことにした。

 あれを毎日やるのは身体への負担が大きい。

 訓練した日は魔力の殆どを消費してしまい、学園の訓練がまともに出来なくなる。


 それは良くない。と思ったが、彼女からしたらどうでもいいらしい。

 ここに来たのはクラウスとの婚姻を遅らせることと、支配者の力を制御する術を身に着けるため。

 元から学園の成績はどうでもよかったようだ。


 それでも身体への負担を考えると無理はするべきじゃない。

 それに、このことをクラウスに気づかれるのはよくないのでは?という事になった。

 ヴィオラが所有している支配者の力をどうやって、どのように使おうと考えているかはわからない。


 だが、与える情報は少ないに越したことはない。

 そう判断して2日に1回と制限を付けたんだが。


「なかなかうまく行かないもんだがな」


 朝活の訓練を初めて数日が経ったが進捗はよろしくない。

 魔力どころか意志を奪われ好き放題攻撃してくる。

 ギリギリ意識は残っているので経験にはなっているが、ヴィオラも手応えは微妙らしい。


 それに、俺とセレナを攻撃しているというのも精神衛生上よくないようだ。


「この学園にいられるのはあと2年。クラウスの動きを見ると、そこまで時間はないかも知れないな」


 クラウスは定期的に学園に来てはヴィオラの様子を窺っている。

 その度に俺の批判をしつつ、結婚を迫っているようだ。

 相手は第三王子。痺れを切らして強引に式を挙げると言えばそこまで。

 むしろなぜ強引に行わないのか?そこも不思議ではある。


「なにがなんだかわからんな」


 とにかく今は、ヴィオラが支配者の力を使いこなせるようにするしかない。


「へぇー。シュヴァルツくんて近くで見ると意外に大きいんだねー」


 いきなり目の前から声が聞こえて来た。

 訓練場の端。木に寄りかかって目を閉じながら考え方をしていたせいで誰かの接近に気付かなかったようだ。


 目を開けると、大きな瞳がこちらを覗き込んでいる。

 えっと、確かこいつは。知ってる顔だ。

 ヴィオラと偽装恋愛を始めてからクラスメイトのことは一通り調べた。

 特によく見る顔だから……。


「あっ!うちのこと知らないって顔だ!ひっどーい!ヴィオラちゃんと友達なのに!」


 そうそうヴィオラとよく一緒にいる奴。

 ヴィオラの貴族という地位を気にせずよく連れまわしてる子ね。

 はいはい、知ってます知ってます。知ってますとも。


「ぜんっぜん思い出せないって顔してるよ!っていうか思い出そうとしてる?シオリだよ!シオリ!」


 そんな名前だったっけ?

 聞いてもピンとこないってことは覚えてなかったってことだな。


「それで。この俺。|狂人の運命≪ルナティックス・フェイト≫を背負いし孤高の常闇・闇に生(ウォーカー・)きる存在(イン・シャドウ)になにか用か?用がないならすぐに立ち去れ。さもなければ命はないぞ?蝕の(エクリプス)聖戦(・クルセイド)は参加者を相手を選ばん」


「おぉ!これが噂に聞く"変な節"ってやつだね!近くで初めて聞いたかも!」


 変な節?

 なにその呼び方、やめて欲しいんだけど。

 めちゃくちゃださくてバカにされてるみたいじゃん。

 俺の喋り方ってそんな扱いになってるの?もっと恐れろよ、俺を。


 我、闇に生(ウォーカー・)きる存在(イン・シャドウ)ぞ?


「くだらん話になら付き合わん」


 この学園で喋るのはヴィオラとセレナで十分だ。

 これ以上余計な人間関係を構築したくない。

 その場を離れようとする――俺の手を掴もうとした、彼女の手を咄嗟に払う。


「あっ」


「容易く触れるなよ?奈落の深淵(アビス・オブ・ゲヘナ)に引き摺り込まれても知らんぜ?」


 払われた事に驚いているのか、こちらをジッと見つめてくる。

 暫く無言のまま見合った後。


「すっごーい!背後からこっそり掴もうとしたのに完全に払われた!やっぱりシュヴァルツくんて強いんだね!」


 距離を詰めてこうと身を乗り出した、彼女に手を向けてそれを遮る。


「何が目的だ?」


 こいつ、かなりのパワータイプとみた。

 無視しても気が済むまで突っかかって来るタイプ。

 逃げ回ると逆に周りの注目を集めかねない。

 ヴィオラに助けて欲しいところだが、彼女はいま模擬戦中。


 少し相手にするしかないか。接近を許した俺が不覚だった。


「そんな怖い顔しないでよ!うちはシュヴァルツくんにお礼が言いたかっただけなんだから!」


「そんな謂れは記憶の(メモリアル)回想(・ピルグリム)には記されていない」


「ダークウルフの時だよ!セレナちゃん助けてくれたでしょ?セレナちゃん、うちらを助けるためにひとりで戦ってたんだけど、そのセレナちゃんを助けてくれたのがシュヴァルツくんだったの!」


 そうなの?

 まあでもお礼を言われるぐらいなら放っておいて欲しいっていうのが本音。

 と言うとまた面倒なことになりそうだな。


「あの時はありがとね!」


「ああ。気にするな」


 短く返事をして逃げるように歩き出す。

 が、なぜか彼女が後ろを付いて来る。


「知ってる?ダークウルフの件」


 なんか聞いてないのに喋り出した。

 これだからパワータイプは苦手だ。

 こっちの言うことなんて聞きやしない。


「まだ落ち着いてないらしいよ?特殊変異種がいっぱい出てきちゃってるって」


 相手にしたくない。が、それは気になる情報。

 てっきりダークウルフはクラウスが俺を殺すために放って来たと予想していたが。


「噂だと王都騎士団の特別部隊が対応してるらしいね」


 王都騎士団の特別部隊と言えばクラウスが隊長を務めている部隊だ。

 となれば、やはりクラウスが関与している可能性が高いか。


「もしかしたらクラウス様が調査してるかも知れないね」


「随分と詳しいんだな」


 足を止めて振り返る。

 そんな情報、ここの生徒が掴めるとは思えない。

 なにかあるのか。


「街ブラが趣味だからね!今度シュヴァルツくんも一緒に行く?なんて、そんなことしたらヴィオラちゃんに怒られちゃうかな?」


 たかが街ブラでそんな情報が手に入るのか怪しいところだが。

 彼女からしたら狙い通り。うまい具合に俺の足止めに成功したのかも知れない。

 が、ここは乗っておこう。その情報は知りたかったことだ。


完璧な(パーフェクト)第三王子(・サード)が調査しているというのは本当か?」


「居酒屋で聞いた話だけどね。騎士の人達が不思議がってたよ。なんでクラウス様があんな雑務を!ってね!」


 魔物調査なんて本来クラウスがやるような任務ではないのか。

 となるとクラウス自ら手を挙げて行っていることになる。

 第三王子にそんな雑務任務をやれと指示できる奴はいないだろう。


「シュヴァルツくんてクラウス様と因縁があるんだよね?なにか知ってたりしないの?


「知らんな。一方的に因縁を付けられているだけで眼中にない。俺からしたらあいつもまた迷える子羊(ベイビードールシープ)。赤子だよ」


「おぉ~。さすがはヴィオラちゃんの彼氏さんだ。態度がデカい!」


 こいつこそ、王子相手に失礼な事を言う俺によくそんな態度でいられる。

 普通だったら、不敬罪だ!って騒いだり、周りに聞かれてないか不安がったりするもんだけど。


「王子からお姫様を寝取った男は違うね!」


「そっ…。そんな事実はない。冷徹(エンプレス・オブ)(・ザ・)女帝サイレント・グレイシャに告白されただけだ」


「ありゃ。あっさり事実で返されちゃった。さすがは恋人だ」


 残念そうにこっちを見ているシオリ。俺にどんな反応を期待していたのか。

 にしてもこいつ、本当に騎士学園の生徒か?


 第三王子に随分なことを言う。俺ぐらい失礼なんじゃないか?

 寝取られたって、クラウスが聞いたらさすがに怒るだろ。


「他になにか情報はないのか?知ってたら聞いてやるが」


「聞いてる側なのに上から目線だ!」


観測者(ザ・ウォッチャー)がどこから見ているかわからんからな。弱気と知られれば寝首を取られるぜ?ここで蝕の(エクリプス)聖戦(・クルセイド)を始めさせるわけにはいかんよ」


「なるほどなるほど。ならしょうがないか」


 腕を組んて「うんうん」と納得しているシオリ。

 言ってる俺ですら意味わからんのに、なにを納得してるんだこいつは。


「あとね……。最近、ヴィオラちゃんが元気ない気がするんだけどな」


 問いに対しての答えではない。

 こちらを上目遣いで窺う様子を見るに、こっちが本命の話題だったか。

 ダークウルフの話題を餌に、ヴィオラのことを聞きたかったってところか。


「彼氏さんだったら気付いてるんじゃないの?」


「どうだかな」


 接している感じではいつものヴィオラそのものだ。

 礼儀正しく、ちょっとお茶目で騒がしい。

 なにも変わったところはない。


「いつも疲れてる気がするし、なんか焦ってるように見えるんだけど。なにか知らないかな?」


「さあな。気に掛けるようにはしておく」


 思い当たるところは、支配者の力をうまく制御出来ていないこと。


 だが、必ずしもそうとは断言できない。

 ヴィオラとずっと一緒にいるわけでもなければ、相談もされていない。

 勝手に悩みを決めつけるのは主義じゃない。


「んー……。反応悪いなぁ、大丈夫?」


「不安だったら貴様が聞けばいい」


「何回も聞いてはぐらかされたからシュヴァルツくんに言ってるの!」


「それが彼女の本心(リアル・エゴ)とは考えないのか?」


「考えない!だってうちがそう感じたんだから!」


 なんの根拠もなさそうだが、まあこいつがお節介だということはわかった。

 本心から心配してるみたいだし、悪い奴ではなさそうか。


「頼んだよ!ヴィオラちゃんの彼氏さんなんだから!」


真実の愛(アモル・ヴェリタス)が実っていたとしても、そこに手が届くかどうかはわからない延々の(ザ・セレスティアル)討論会(・コントラクト)でも答えはでんよ?であれば、運命(ザ・フェイテッド)共同体(・フェローシップ)に昇華されるか或いは蝕の(エクリプス)|聖戦・クルセイド》で勝ち抜くか……。どちらにしても容易ではないか」


「容易ではなくてもどうにかするの!お願いしたからね!」


 適当に誤魔化そうとしても押し付けてくる、なんというパワータイプ。

 だがまあ、気にしておくに越したことはないか。

 メンタルが整わなければ朝活も捗らないからな。

 一方的に伝えたいことを伝えた後、少女は元気に友達の輪に戻っていった。

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