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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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23 火ノ息吹・抱擁

 ヴィオラが静かにこちらを見上げている。

 その瞳に悔しさの色はない。

 感じられるのは強い意志か。


「私を鍛えてほしいの。あなたみたいに強くなりたい。いえ、強くならなきゃならないの」


「その役目は俺じゃない。教官がいる」


「それじゃダメなの……。いえ、ダメだった」


「貴族の生まれだ。指南役ぐらい付けてもらえるだろ?」


「それもダメ」


「セレナと夜な夜な訓練してると思うが」


 俺は知っている。

 ヴィオラとセレナが毎日、夜遅くまで訓練していることを。

 貴族のお嬢様がなにをそこまで強くなろうとしているのか。

 頑張る姿は見ていたが、理由がわからなかった。


「それでもダメなの。全然、私は成長出来ていない」


「成長はしてるだろ?」


 生徒の割にはかなり強い。その証明として、実技の成績はトップクラスだ。

 いま騎士団に入っても通用する程度には実力はある。

 それは、さっきの手合わせでハッキリわかった。

 ヴィオラは弱くない。成績通り優秀な騎士だ。


「……そうよね。こんなお願いのしかたじゃダメよね」


 ヴィオラは一歩下がって、バッと腕をクロスさせて顔を手で隠す。


「私の真の姿に気付かないなんて愚かな生き物ね。それでも狂人の(ルナティックス)運命(・フェイト)を背負う闇に生(ウォーカー・)きる存在(イン・シャドウ)なのかしら?」


 なにやらいきなり始まった。

 いきなりやられると凄い驚くから止めて欲しい。

 あとそのお願いの仕方しても別に絶対に受けるわけじゃないって前に言ったよな?


 むしろちょっと不快。これが同族嫌悪ってやつね。


「あなたの強さに免じて教えてあげる。私……。私こそが氷獄の支配者の呪われた血統(カースト・ブラッド)を受け継ぎし子孫。冷徹(エンプレス・オブ)(・ザ・)女帝サイレント・グレイシャよ!」


 目を見開いてこちらを睨むヴィオラ。その瞳の色は、淡い水色。

 威勢はいいが、肩が震えている。

 顔を俯かせ、指を隙間から見えた唇を噛み締めているのが見えた。


「シュヴァが図書館で『王の起源』を読んでいたことはセレナから聞いた。あなたも見たはずよ。闘技場で魔法壁を破る冷気を発した私を。ダークウルフを氷漬けにしている姿を。それでも疑うかしら?」


 やはりセレナも知っていたようだ。

 それに、伝承『王の起源』に出て来た氷獄の支配者。


 身体から流れ出る冷気は魔法とは性質が違い、防ぐことは困難であること。

 大量の魔力と黄色い瞳。

 合致する点は確かに多くある。


 伝承だろ?と言えばそれまでだが、それでも。

 彼女自身がそう言うのなら、そうなのかも知れない。


「であるなら、なぜ力を解放しない?俺を相手に手加減したとでも?」


「あなたも読んだはずよ。氷獄の支配者は王によって封印された。呪われた血統(カースト・ブラッド)と言えど全ての力を使えるわけではないの。……ただ、ここ最近、封印の力が弱まっているのを感じる」


「そうした時に力が抑制出来なくなると?」


「ご明察。随分と物分かりがいいのね」


「話しを聞いて汲んでいるだけだ」


 別にその手の話しが好きと言うわけではない。

 俺は決して封印された力とか、右腕に宿る邪心の力を包帯で抑えているとか。

 そういうのが好きなわけじゃない。


 年頃の男の子として好きな程度なだけだ。


「この力を抑制するために、小さい頃からセレナとふたりで訓練したわ。でも、全然ダメ。封印が弱くなるのを感じると血が騒ぐの。理性も、感情も、意識も。全部が冷気に氷漬けにされていく」


 ヴィオラはふざけたポーズを解いて胸元をぎゅっと抑える。

 その時の魔力を抑えるように。


「そして私に囁いてくるの。『全てを凍らせてしまえ』。『銀世界を取り戻せ』って。自分の身体なのに、自分のものじゃないみたいに。力が勝手に膨れ上がって、息をするのも苦しくて……。気付いたら目の前が白く染まってる」


 声がかすれる。

 気づけばヴィオラの両手はぶるぶると震えていた。

 それは恐怖によるものか、或いはいま溢れ出ている冷気によるものか。


「いつもはセレナが止めてくれてた。でも、森でダークウルフに襲われた時。あの時はセレナは他のダークウルフと戦っていて、それでも友達を助けるために、頭に響く声に身を任せたの」


「その結果があれか」


 森の中に出来上がった銀世界。

 魔法耐性の高いダークウルフを氷漬けにした冷気。

 そして、ヴィオラの黄色い瞳。


「あなたの声を聴いた瞬間、霧が晴れたように意識が覚醒したの。いつもならセレナに気絶させられて、気付いた時はベッドの上だった。だから、凄い不思議な感覚だった」


 そこでヴィオラはこちらを見た。


「本当に不思議な感覚だった。呪われた血が浄化されていくように暖かくて、支配者の声が聞こえなくなっていく。あなたの腕の中にいることはわかってた。薄っすら意識はあったけど、あまりにも居心地がよくて、気絶した振りしちゃったけど」


「人の心配も知らないで。暢気なもんだ」


 ふふっ。と小さく笑うヴィオラ。


「ねえシュヴァ。気付いている。今も冷気が出ているの」


「ああ」


「封印が弱まってる時にこういうこともあるの。この程度だったら抑えられるんだけどね」


 瞳を閉じて、意識を集中させるヴィオラ。

 すると、冷気の放出が収まる。


「小さい頃はこんなことも出来なかった。セレナと何回も練習して抑えられるようにはなったんだけど、酷い時は全くダメ。実戦訓練の時みたいにね」


 深く息を吐く。すると、冷気が再び漏れ出した。

 足元に白い霜が薄く広がる。

 周囲の温度が微かに下がり、肌寒い風が肌を撫でた。

 それは、普通の魔法とは明らかに質が違う。

 魔力があまり感じられない、自然に発生した寒さに近い。


「シュヴァ。私、冷たくて。震えが止まらないの」


 ぽつりとつぶやいた。一歩近づき、服の袖を引っ張られる。


「だから、その……。あの時みたいに、暖めてもらえないかしら?」


 月明かりに照らされるその瞳は、どこか怯えるようにも揺れていた。


 なんと答えたらいいかわからない。

 何も言えず、困りきった思考の中で、視線を逸らし、頭を掻くことしかできない。

 ヴィオラの細い腕が、そっと俺の背中に回された。


「……ん。あったかい」


 小さくこぼれたその声は、安心と暖かさが含まれている。


「これは少し。寒いかも知れないな」


 自分の手の平を見て、置いたのはヴィオラの肩。


「火ノ息吹・抱擁」


 森で彼女の身体を暖めた魔法をかける。

 次第にヴィオラの身体が暖かみを帯び、それが俺に伝わった。


「そう……。これが気持ちよかったの」


 身体の力が緩んだはずなのに、抱きしめる力は強くなった。

 胸元にヴィオラの顔が押し付けられると、自然と鼓動が速くなる。


「こういう時、どうしていいか、わからん」


「なにも言わなくていいのよ。けど、もう少しだけこのままでいさせて」


 その声を聴くに、暫くこの状況は続きそうだ。

 慣れない状況、慣れない暖かさ、慣れない感触に慣れない香り。

 胸の中がむずむずして、どこを見ていたらいいのかわからない。

 体重をかけてくる彼女の暖かみを感じながら、夜空に浮かぶ星を数えることにした。

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