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中二病を演じる最強騎士は、氷令嬢と偽りの恋人になる  作者: すなぎも


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17 究極≪アルティメット≫

 クラウスと別れた後、その足で学園長室へと向かう。

 重厚感のある扉をノックすると、手を掛けることなく勝手に開いた。

 薄暗い部屋の奥。


  カーテン越しの光の下で椅子に腰掛けているのは学園長のヒルデ。

 青紫色の長い髪を丁寧にまとめ、黒を基調としたクラシカルなドレス。

 膝にブランケットを掛け、小さな指でティーカップをつまんでいた。


「おやおや。前に私はこう言ったはずだよ?次からはちゃんと連絡してから来てほしいとね。シュヴァルツ・クリーガーくん」


「貴方への連絡手段なんて知りませんよ」


「あっはっは!そういえばそうだったかな?いやはや、遠くにいる人と簡単に連絡を取り合えれば便利なのだが……。いつかそんな時代が来ると嬉しいものだね」


 カップに入った紅茶の香りを楽しんだ後。


「それで。今日の要件はなにかな?」


「実戦訓練の相手が刺客だったことを報告しに来たんですけど。気付いてなかったんですか?」


「気付いてはいたさ。ここを誰の学園だと思っている。他でもない私の学園。私のアトリエ。私の許可なく入れる者など存在しないよ?」


「じゃあなんで刺客が潜り込んでるんですか?」


「私が見逃したからじゃないかな?」


「当たり前のように言わないでくださいよ」


 相手は俺の命を狙っていた。

 大した強さじゃなかったからよかったが、下手したら死んでたぞ。


「なあに、圧勝したではないか。見ていたよ、キミの雄姿を。それで、ひとつ聞きたいのだが、圧力(プレッシャ)領域(ー・ドーム)の最大出力。究極(アルティメット)って具体的にどれぐらいの強さなんだい?途中までは数字で表しているのに最大だけ究極(アルティメット)だとわかりにくくて」


「いいですよそういう細かい話はしなくても!」


 そんなに真面目に考えないでくれ。

 あれはただ挑発してるだけなんだから、意味なんてあるわけないだろ。


「いやでもやっぱりわかりにくくないかい?せめて十段階にするとか」


「じゃあ次からそうします!」


 まさかこんなところで突っかかられるとは思わなかった。

 生徒達はなにも言わずに「スゲー」程度にしか思ってなかったのに。

 っていうか生徒達も反応しろよ、絶対におかしいんだから。

 いつも通り変な奴呼びして盛り上がれ。


 あとヒルデは絶対にわかりにくいとか思ってない。

 ただ俺をおちょくってるだけ。


「それで。刺客の出所はわかってるんですか?」


「私の口から言うまでもないだろう?」


「そうなると、クラウス・ザルヴァインですか」


 ヒルデは何食わぬ顔で頷く。


「視察という名目で闘技場にわざわざ来ていたからねえ。キミの強さに驚いている顔は傑作だったよ?送り込んできたのは裏の仕事をよく出している犬。私も何度か見た事はある」


「裏の仕事?」


「庶民にはわからない仕事さ。権利を持つ者というのは、裏の顔があるものだよ。まさにキミが今日狙われたようにね」


 というと、クラウスは日常的にこういう事を行っているということになるが。

 権利を持つ者、と言っているのでクラウスだけじゃない。

 もしかしたら貴族や王族からしたら刺客を送ることなんて当たり前の日常なのかもしれない。


 庶民の俺からしたら物騒過ぎて嫌になるけど。


「想像では最初の一撃でキミが死ぬ予定だったのではないか?」


「よく平然とそんなこと言えますね」


「私はキミを信じているのさ。あの程度の奴に負けないとね。もうちょっと手こずってくれると見ている側としては楽しめたのだが。あっさり倒し過ぎだよ、キミは」


「腐っても相手は刺客ですから。手加減はしませんよ」


「レベル・究極(アルティメット)とか言っていたのにかい?」


「あれは調子に乗っただけですから。もう言わないでください」


「あっはっは!まあいい。話しを進めようか」


 満足そうに笑った後。


「実は先ほどまでクラウス王子と話していたのさ」


「なんの話しを」


「もちろんキミの話しだよ。『彼に付いて知っていることを教えて欲しい』と言っていたものだから『嫌ですぅ!』と断っておいた」


 なんだよその断り方……。しかも第三王子に。

 でも、この人なら本当にその言い方をしていてもおかしくないと思える不思議。


「彼の苦笑いもそろそろ見慣れて来たものさ。キミがよくさせているからねえ」


 俺もこの人と同類だった。

 確かに変な言動であいつを苦笑させてるか。


「でも、今回は俺のことなにも言わなかったんですね」


「今回もなにも。私は誰にもキミの情報を売っていないよ?もしヴィオラ嬢の事を言っているのであれば、あれは彼女が勝手に見た夢であってだね」


「あーはいはい。そうですね」


 そこは相変わらずとぼけるのか。


「真面目な話し。キミの情報を知られると面白くないのは私も同じなのだよ。真相に迫ることは誰にも言わないさ。ましては国の人間には決してね」


「それは、そうですね。俺もそうです」


 ここに関しては考え方は一致している。

 だからヴィオラにも呼び名すら教えて欲しくなかったんだけど。


「だから彼女は夢で見ただけだと言っているだろう?」


「なにも言ってませんけど」


「顔に出ていたのだよ。全く、疑い深くて困る。最近の若い子は」


 疑い深いっていうかヴィオラの件は間違いなくヒルデだろ。

 納得いかねえ……。


「それと。今回のような危険は暫くなくなると思っていい」


「といいますと?」


「遠回しに釘を刺しておいたからねえ。今回は初回サービスのようなもの。次なにかやったら私も相応の対応をするとね」


「第三王子にそんな上からなこと言って大丈夫ですか?」


「私は王に顔が利く。学園長としてではなく、研究者としてだが」


 学園長室の棚には国からもらったであろう数々の勲章が並んでいる。

 ヒルデガルド・ヴァイスハイト。

 今は学園長をやっているが、元々は大魔導士であり研究者だった。

 魔力を熱や光のエネルギーに変換することが出来る『魔具』を作り出した人というのはあまりにも有名だ。


 ただ、魔具以外にも様々なモノを作り過ぎて国に目を付けられた。

 学園長になったのは国の監視がない学園で、好き勝手研究をやれるからではないか?ともっぱらの噂である。


 だからこそヒルデは王に顔が利くし、強い発言力を持っている。

 彼女からしたら王子など、気にするほどでもないのかも知れない。


「ちょっとした嫌がらせは仕掛けてくるかも知れないが。それは個人の対応を任せるよ?シュヴァルツ・クリーガーくん」


「その程度だったらいいですけど」


 嫌がらせされたら仕返してやればいいこと。

 面倒ではあるが、ヴィオラとの契約がある以上、それぐらいは受け入れよう。

 さすがに刺客だなんだはこうしてヒルデに報告しにこないといけなくなるから勘弁して欲しいけど。


「さあ。報告は以上かな?であればそろそろ私は本業である研究……。じゃない。お眠の時間だから帰って欲しいのだが」


 なるほど、これから研究するのか。

 であればそれを邪魔するのは悪いか。


「あともうひとつ。ヴィオラの魔力について、知っていますか?」


「闘技場で見せた魔力であれば、優秀な生徒なら発せられると思うが。なにか引っかかったのかな?」


「そんなわけないでしょう。あの力は異常でしたよ」


 魔法耐性が高い魔法壁を超えて観客席まで冷気が充満していた。

 普通の魔力で作られた冷気であれば壁は超えられない。

 それを超えたということは、あの冷気は魔法が含まれていない。

 或いは魔法壁を貫通するほどの魔力が込められていたということだ。

 そんな魔法は生徒どころか騎士ですら使える人は限られている。


「なにか知ってるんじゃないですか?」


「ふむ」


 ヒルデは考えるように瞳を閉じて、椅子に深く腰掛けなおす。


「もちろん知ってはいる。何故なら私は学園長。生徒達のことで知らないことなどなにもない。キミに嫌がらせをしてきた露出狂の本当の性癖も知っているし、体脂肪率80%ある生徒がなぜそこまで太ってしまったか、なぜハゲの毛根がこの歳で死滅してしまっているのか。本来の訓練相手だったボブ・ザ・ヘッジがどこで刺客と入れ替わったかも知っているし、セレナ・ノクスがヴィオラ嬢にキスされて倒れたことも知っている。だから当然、ヴィオラ嬢の魔力の正体も知っている」


 ……なんか情報量が多すぎでよくわからないけど、つまりなんでも知っているらしい。


 その中で一番、教えて欲しい情報はやっぱり。


「セレナがヴィオラにキスされたって本当ですか?」


「あっはっは!そこに喰いつくとはキミもなかなかいい眼をしている!だが、それは秘密にしておこう。彼女達も彼女達なりに距離を測っているのだから、部外者が立ち入る問題ではない。特に女の子と女の子に間に入る男というのは、世界での一番邪魔な存在になり得るからねえ」


 っち、教えてくれないか。

 世界で一番の邪魔な存在っていうのはよくわからないけど。


「じゃあヴィオラの魔力について教えてください」


「妥協点としてする質問ではない気もするが」


 さすがのヒルデもあきれ顔である。


「教えない。教えてあげない」


「だと思いましたよ」


「あっはっは!キミはヴィオラ嬢の恋人なのだから、それぐらい自分の力で気付いて欲しいという私なりの老婆心というやつさ。愛する彼女を想いを馳せながら色々調べる。素晴らしいことじゃないか」


「そもそも偽装恋人なんで、そんな感情はないです」


「子供だね、キミという生き物は。愛というのは万物に芽生えているもの。それに自身が気付いていないだけでね。形を成せば気付くだけ。扉は開きかけているよ?」


「意味がわかりません」


「ふっ。やはり子供か。まあいい。時期がすれば気付くだろうさ。それに、その方がお互いに燃えるだろうからね」


「なにが燃えるんですか?」


「それを女性である私の口から聞こうと言うのかね?意外にキミもやり手なのだね?」


 なにを言っているんだこの人は……。

 全く意味が分からん。

 この人が素直に教えてくれるなんて最初から思ってなかったけど。


「キミたちの物語を見るのは私の楽しみになってきている。甘酸っぱい青春とやらを存分に見せつけて欲しい」


「行動を監視されるのは普通に不愉快です」


「あっはっは!そーれーはーそう!」


「じゃあ止めてくださいよ」


「残念ながら、世界はそんなに甘くない。なぜなら観測者たちは常に我々の動向を窺っている。それは逃れられない世の規律。それを乱すとなれば罪人として忌み嫌われるよ?その呪いは枷となり、その身を滅ぼすのに十分すぎる苛烈となる。烈日が身を焦がす日も近いのかも知れないねえ、シュヴァルツ・クリーガーくん」


「わかりました。もういいです」


「あっはっは!楽しみにしているよ!キミたちの物語が花咲く時を!」


 笑い声を背に受けながら部屋を出る。

 ヒルデは相変わらずだが、それぞれの事情はだいたい見えて来た。


 さて、ヴィオラ・グレイシャはどう出るか。


 クラウス・ザルヴァインはどう動かくか。


 そして、俺はそれにどう対応するか。


 俺は俺に出来ることをするしかないな。

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